上 下
62 / 129
獣王国ヴァイス編

鑑定魔法~加護編~

しおりを挟む




「――これは……!」
「どうしました?」
「…………とりあえず、今書くよ」


 俺に与えられた加護を鑑定したジーナが、一度目を見開き、それから困惑した様子で声を上げた。……やがてペンを手に取り、詳細を書き始める。


「あたしはこれまでに、アルベルトを含めて、数名の加護を持つ者を鑑定してきたが――神の言葉を見たのは、これが初めてだね」
「神の言葉……?」
「なになに? 何が書かれてたんだ!」
「お前は後だよ、やんちゃ坊主。……ほら、読んでみな」
「……ありがとうございます」


 鑑定結果が記された紙が、俺の手に渡る。すると、ソファーから立ち上がったアドルフが、俺の肩に腕を乗せて一方的に肩を組み、書面に目を落とした。
 悲しいことだが、近頃は俵担ぎと同様に、こういう接触にも慣れてしまったので、放って置くことにする。


 ――獣神の加護。……獣神デファンスより与えられた加護。獣神の目に留まった、ごく一部の者に与えられる。

 この加護を与えられた者は獣神に守護され、獣神の祝福によって身体能力が大幅に強化される。獣神の眷属からは歓迎され、敬意を払われるだろう。

 ――お前達の友を想う尊い心に感服し、加護とギフトを与えた。

 今後、お前達は様々な困難に遭遇するだろう。だが、互いに友を大切にしていれば、それを乗り越えることができるはずだ。例え何があろうとも――その尊い心を忘れないでくれ。


 ……そう書かれた紙の、後半の文章を凝視した。思わずアドルフと顔を見合わせる。


「……どういうことだよ」
「俺に聞かれても分からないぞ。……これ、お前の方にも同じことが書かれているのか?」
「お前達って書かれてるし、多分そうだろ」


 その後。念のためにジーナに調べてもらったところ、アドルフに与えられた加護の内容も、俺と同じ物だった。後半の神の言葉も同じだ。これは間違いなく、獣神デファンスの言葉だろう。

 神がわざわざ、俺達に宛てたメッセージを残した。……それだけ注目されているということか?


「それで? 何て書いてあった?」


 そう聞いてきた獣王様だけでなく、ヴェーラ達も興味津々といった様子で俺を見つめる。そんな彼らに、神の言葉の内容を教えた。


「へー……なるほど。確か、レイモンドは処刑される直前にアドルフのために祈りを捧げて、アドルフはレイモンドを助けるために、力が欲しいと願ったんだよな? で、その2人の祈りと願いが、獣神様に届いたどころか気に入られた、と」
「友を想う尊い心、か。素晴らしいな。お前達の友情は、獣神様の目に留まる程の強い絆で成り立っているのだろう」
「……それは、さすがに大げさだ」


 ヴェーラの言葉を聞き、目を逸らした。そんな大層なものじゃない。
 確かに、アドルフは自慢の心友だが、絆の強さは獣王様や第一旅団の幹部達には敵わないと思っている。俺はまだ付き合いが短いしな。

 しかし、アドルフはそう思わなかったらしい。子供のように笑い、俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。


「そう! 俺とレイの絆は強い! 分かってるなぁ、ボス!」
「鬱陶しい。やめろ」


 決して照れ隠しではないが、アドルフの手を強めに払う。すると、アドルフは軽く仰け反った。目を丸くしている。……何だ、その反応は。


「お前、前より力が強くなったな」
「……おそらく加護が原因だろうな。身体能力が大幅に強化されると書いてあった」


 イルミナルでの戦いの最中、俺は拳だけで大の男をぶっ飛ばした。加護が無かったら、相手を少し怯ませるだけで終わっていただろう。
 それに、アドルフが処刑台から屋根の上に跳べたことも、圧倒的な力で敵を倒していたことも、きっと加護の効果だ。

 アドルフは、ただでさえ化け物レベルだったのに、さらに強くなってどうするんだか……


「……ところで、ここに書かれている獣神の眷属というのは?」
「獣神様にお仕えしている、神獣のことですよ。神話の中でも何度か登場しています」
「どうやら、この世界の何処かに存在しているようなのじゃが……実際に会ったことは無いのう」


 ほう……それは是非とも会ってみたい。どんな存在だ? 何処にいるのだろう? フェンリルか? ペガサスか? ドラゴンだったりするのか? 夢が広がるな!


「さーてと。前置きが随分長くなっちまったが、これでようやく本題に入れる!」


 ……そういえば、まだ仕事の話が残っていたな。神獣について聞きたかったのだが、それはまた今度にしよう。


「レイモンドに頼みたい仕事は、海に住む魚人族と山に住む鳥人族との交渉だ」
「魚人族と、鳥人族……?」


 初耳だ。この世界にそんな種族がいたなんて、アドルフ達からも聞いたことがない。魚人と鳥人……魚や鳥が人型になっているのだろうか?


「説明は……フィデルに任せた!」
「丸投げですか。……仕方ありませんね。私がご説明いたします」
「お願いします、フィデルさん」


 苦労人の宰相殿は、俺にも分かりやすいように説明してくれた。


 まず、魚人の見た目は俺の予想通り、魚が人型を取っているらしい。地上では肺呼吸、水中ではエラ呼吸に切り替えることができる、特殊な種族だそうだ。

 彼らが住んでいるのは、ラルゴ島という島だった。その島に最も近いのは……水上都市ヒュドール。パーヴェルが小舟に乗せて連れて行ってくれた、あの美しい海の何処かに、その島があるという。

 次に、鳥人。彼らも魚人と同様、鳥が人型を取っているそうだ。背中に翼が生えていて、頭は鳥の頭。手足は人間とほとんど同じだとか。

 鳥人は、アネモス山という大きな山に住んでおり、その山はプラシノスにあるカルム森林を越えた先にそびえ立っているという。
 そういえば、カルム森林の近くでトロールと戦った時、遠くに山が見えたな。あれがアネモス山か?

 獣人族は、獣王国という国を建国する程に発展したのだが、残りの二つの種族は保守的で、自分達が住んでいる場所から、あまり離れないようにしているらしい。
 今までその存在を人間に知られずに済んだのは、その保守的な考えのおかげだろう。


「今回の外交の目的は――新たな戦力の確保だ」


 フィデルの説明が終わった後、獣王様が真剣な表情でそう言った。




しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

処理中です...