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距離無し友人 ★真木
しおりを挟む親友と距離を取ると決めた翌日、俺は親友の部屋の前にいた。
普段、俺は朝に弱いルイを起こして一緒に通学をしている。今朝も条件反射みたいにルイの部屋の前に立ち玄関のチャイムを押してしまった。
押してからハッとして、もう一緒に通学もしない方がいいんだろうなって思い至った。
思い至ったものの押してしまったものは仕方ないから、モーニングコールだけして先に大学へ向かおうかと思った。
でも、いつもなら眠そうな顔で出てくるルイがいつまでたっても部屋から出てこないから何度かドアを叩いてみた。
それでも一向に返事が無くて、体調を崩したんだろうかと心配になって、もしもの為にって互いに交換してた合鍵を持ち出して玄関のドアを開けた。
でも鍵は掛かって無くて、ロフト付きの1Kの、どこにもルイは居なかった。
体調を崩して寝込んでいた訳ではないことにホッとしつつも、ルイが俺に何にも言わずに一人で先に出掛けたことに何とも言えない気持ちになった。
割り切りが早い友人に少しの寂しさを覚えながらも、大学に着いたがルイは見当たらなかった。専攻が同じだから講義も同じものを取っているけど教室にも居ない。
不思議に思ったけど明日から夏休みだし、どこかへ行ったんだろうと結論付けた。
ルイは人見知りだけど俺以外に友人がいないわけじゃないし、高校の時の友達(それは俺の友達でもある)だっている。ソイツ等と、遊びに行ったのかもな、って。
ひょっとして昨日のことがショックで、家出とかしてないよな?って一瞬だけ思ったけど、そんな風に自分勝手に想像すんのが俺の距離感がおかしいトコなんだろうな、って反省した。
昨日の俺は酷かった。
友達の女関係に口出しして怒って、うるさい小姑みたいだった。
本人同士がいいんなら、セフレでもワンナイトでも別に犯罪じゃないんだからいいのに、変な理想押し付けてルイを責めた。
ルイも俺も童貞で、アイドルに夢中なルイよりは俺の方が先に彼女が出来て脱童貞すんだろうなって思ってたから、先を越された悔しさも少しあった。
けど、なんかそれ以外にも無性に気に入らないというか、よくわかんない感情のままルイを怒ってしまった。
ルイに佳奈子ちゃんを取られた、なんてことは思ってない。
綺麗だって思ってたけど、別に好きだったわけじゃない。
ルイに告白したのを知った時も別にショックじゃなかった。
確かに面白くない気持ちはあったけど、佳奈子ちゃんがどうのっていうより、またかよ?モテ過ぎじゃねーの?って驚きと、高校までは俺と一緒で非モテだったくせにって、多少の僻みがあっただけだった。
男子校で、出会い?ナニソレ?だった俺も大学生になったら恋をするんだろうな、って漠然とした気持ちもあって、こんなこと言ったら本当に女の子に失礼だけど、ぶっちゃけ誰でも良くて、目につく女の子を可愛いだの綺麗だのってルイに言って、その会話を楽しんでただけだった。
だから、俺がルイに向けた怒りは自分でも説明の出来ない感情だった。
そんなあやふやなモノでルイを詰って自分の思い通りにさせようなんて、距離無しもいいとこで、もっと嫌な言い方をすれば依存してるって言われても仕方ない。
それに気付いた俺はルイから離れた方がいいんだろうな、って思った。
ルイは「このままでいい。そんな悲しいことを言わないでほしい」って言ってくれた。
でも、今の状況はお互いにとって良くないってことを説明したら納得はしたようだった。
このまま距離無し友人を続けてたら、いつかまた同じ様なことになって喧嘩して友人でいられなくなるかもしれない。
それはマジで嫌だから。
距離無し友人を脱し、ルイとずっと友達でいる為の一歩を踏み出すことが出来たんだって思ってた、
でも、そんな新たな関係を築く暇もなく、ルイに大変なことが起こってしまった。
夏休み前の最後の講義が終わって、俺はアパートの部屋で夕方からのバイトの準備をしてた。
その時スマホが鳴って、画面みたら大学からだった。
学生課の事務員は「木崎類君が入院しているから○×総合病院へ電話をかけてほしい」と俺に言った。
どうして、どんな症状でと聞いたが詳しいことはわからないらしく直接病院に聞いてほしいと言われた。
急いで教えられた番号へと電話して、担当の看護師さんと話した。そこでルイに何があったのかと今の症状を聞いた。
ルイは昨晩、陸橋の階段から足を滑らせて頭を打ち意識が無い状態で病院に運ばれてきたのだという。
今朝目を覚ましたが、記憶障害の症状が見られ検査をした所、過去何年か分の記憶を喪失していることが判明したそうだ。
それ以外は、今のところ命に別状などはなく、外傷もほとんど無いらしい。
家族でもない俺に連絡をしたのは本人が俺に会いたいと言っているから。
ルイは精神的に少し不安定な状況らしくて「真木君に会いたい」「家族(母親)とは会いたくない」と繰り返し言っているようだ。
ルイからは俺のことは名字と名前と同い年くらいしか情報が得られなかったけど、ルイの母親に問い合わせたら同じ大学の友人かもしれないと言われて大学に電話をして俺に辿り着いたようだ。
すぐにそちらに向かいますと返事をしてタクシーに乗って病院へと向かった。バイト先にはタクシーの中で電話して事情を話し休みにしてもらった。
ルイのことを思うと、記憶障害とはどのくらいの障害なのかと恐怖で手が震えてくる。
でも、こんな時だからこそ気をしっかり持たなければいけない。
転んで頭を打てば、打ち所が悪ければ死んでいてもおかしくなかった。最悪の事態だけは免れている。
ルイは大丈夫だ、そう自分を鼓舞した。
病院に着き、急いで脳神経外科のナースステーションへ行くと、担当看護師に挨拶をされた。
ルイがいる病室へと案内される前に、医師と話してほしいと言われ診察室のような場所へと通された。
そこで、ルイの症状の説明を受けた。言葉は難しかったが、看護師が電話で話してくれた内容とほとんど同じだった。
命に別状はないこと。
頭の外傷も大したことはないこと。
今から遡り8年ほどの記憶が抜け落ちていること。
ルイは10歳頃までのことしか覚えていないらしい。
しかも記憶を失くしただけでなく、精神まで子供に戻っている状況。
それを踏まえ、あまり本人を刺激しないように面会してほしいとのことだった。
案内されたのは個室の病室で、ICUなどではないことに心からホッとした。
「木崎さん、入りますね」
ドアは開いていたが医師は、声を掛け、中から女性の「はーい」という返事が返ってきてから中に入った。
医師の説明の後に俺は病室に入ることになっていたから、ドアの外で待機していた。
中の会話は丸聞こえだ。
「木崎さん、真木さんがね、来てくれましたよ」
医師は、まるで幼稚園児でも相手にしているかのように、ゆっくりと優しく話し掛けた。
続けて、ルイの声がした。
「……ほんと!? っ、ま、真木君にっ、会いたいっ…で、す」
声が聞けてホッとする。
良かったと泣きそうになった。
けど、話し方が最近のクールなルイのものでないことに同時にショックも受けた。
おどおどと大人を警戒しているような話し方。
子供の頃のルイは確かにこんな感じだったと思い起こせば、記憶障害は紛れもない事実なのだと実感させられた。
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