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自分らしさ
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私は今、ヒカルの部屋で、彼の準備(洗浄)が終わるのを待っている。
ヒカルが今日は自分の部屋でしたいと指定してきたのだ。理由を訊ねてみるとそれに対する返事は無しに『俺の部屋じゃだめな理由があるのか?』と逆に聞かれてしまい、駄目な理由などなかったので今ここにいる。
ヒカルのベッドはセミダブルで、私のベッドの半分以下のサイズしかない。これでは窮屈に体を寄せ合わせなくてはいけないな、とシーツの表面を手で均しながら思い、絡み合う自分達を想像しペニスをピクリと反応させてしまった。
熱を持ち始めたペニスと相反し、頭の中では葛藤している。
こんなことをして、良いのだろうか。激情のままここに来てしまったけれど、もう一度身体を合わせてしまったら、ヒカルの恋路を穏やかに見守ることなど出来なくなってしまうかもしれない。一度だけなら思い出に出来ても、二度、三度そういうことがあったなら、ヒカルをどんな手を使ってでも縛り付けたくなるのではないか。
どんな手?
――たとえば、私なしでないられない身体にしてしまう、とか?
なんて馬鹿なことを。
その手の官能小説の読み過ぎだ。
性欲に引きずられ気味の思考をどうにかした方がいいと思い、窓を開けようとした。新鮮な空気を取り入れようとしたのだけれど、窓際に立つと、シュゼの墓が目に入った。
ここから見える位置にあるとは知らなかった。だからクローバーに去勢剤を打ったあの日、ふらふらと歩いていたらしい私を発見できたのか。
窓を開け深呼吸をしていると、ヒカルが部屋に戻ってきた。風呂に行ってきたようでバスローブを着ている。
「悪い、待たせて。」
ヒカルは私の元へやって来て、チラリと窓の外に視線を移した。そして僅かに眉を下げ、私に暑かったのかと聞いてきた。ええ、少しと私が答えると、もう一つの窓もヒカルは開けてくれた。風の通り道に立つヒカルの髪の毛がさらさらと揺れている。
「いつまで、そこに立ってんだよ?」
ヒカルは私の手を引きベッドまで導いた。そして私を座らせるとベッド脇の床に跪き、足に触れようとした。それを『ちょっと待って』と制すると、なぜ?と不服そうな顔で見上げられた。
「あの、…やっぱり、止めない?」
このままでは良くない。
「……アンタを待たせたから、そんな気、なくなったのか?」
そうかもしれない。たった10分前まではヒカルを組み敷いて、私を刻み付けたくて仕方がなかった。でも、ヒカルと離れて少しだけ冷静になれて怖じ気づいた。何に?私がヒカルを手放したくないと思ってしまえば、ヒカルの意思に関係なくそう出来てしまう力があることに、怖じ気づいた。
戻れるのなら戻った方がいいのだろう。
「…うん。まずいんしゃないかと思うの。あのね、例えばの話なんだけど、もし、ヒカルに好きな人がいたとし…っ、ま、待って、話をっ。」
ヒカルは途中までしか話を聞かず、私の足を持ち上げ、ふくらはぎに唇を這わせた。私は咄嗟に足を引こうとしたが力強く持たれていてびくとも動かせない。魔力を使い腕で振り払えば簡単に解けるだろうが、私は極力オスの前で力を使いたくない。
待ってと声で制止するも聞き入れてもらえず、ふくらはぎへの愛撫は続いている。温かい舌がぬるねると、少しずつ上へ上へと移動している。否応なしに期待が高まってしまうが、自分を律する。
「っ、だめよ。口を離して、ヒカル。」
「なんで?俺はアンタを慰めたいんだ。」
ヒカルは情欲に濡れた瞳で私を見上げた。色気にクラクラとし引き寄せられそうになるが、きちんとしなければ。私は今日シュウに性教育をした先生なのだ。
「私は今、慰めてもらわなくても大丈夫だから。取り敢えず、話をしましょう。」
「っ、俺はッ……。頼むよ、俺にも、性教育してくれよ。アンタは俺に"本当のセックス"教えてくれたけど、あれじゃ、まだ足んねぇんだ。」
そんなにも私とのセックスが忘れられなかったのだろうか。ヒカルはおそらく客ではない人間に抱かれたのは私が初めてで、思っていたよりも気持ちが良くて嵌ってしまったのだろうか。
いや、そんなのは一時的なものかもしれない。欲望に流されては、後悔する日が来るだろう。
魔力を使ってでもヒカルを引き剥がすべきか。
そうまで考えた時、強い風が部屋に入ってきた。肌を撫でていく風が、大きくてゴツゴツしたシワのある手の感触と何故か重なった。
懐かしい気持ちと共に"当時"の自分を思い出し、なんだか今の私は自分らしくないなと、思った。
考え過ぎてぐるぐると同じようなことを違う言葉で並べ立て、ウジウジふらふらと悩む。そんなのミツコ・マイカトールらしくない。
風上にある窓へと視線を移して、シュゼをこの屋敷に拉致まがいに連れてきた時の会話を思い出す。
『私はあなたの為に寝る間も惜しんでがむしゃらに働いたの。だから私のものになって』
『……私は、頼んでないが』
『なんて贅沢者なのかしら!あなたの為に大き過ぎる家も買ったのよ?私にはあなたを幸せにしてあげる自信があるの。だから今日から私と一緒に住みましょう』
メチャクチャだけど、意味無く自信満々で、その時の自分が一番自分らしかったように思う。
当時の自分ならこの状況で何を思うだろうか。
ヒカルが幸せになることが大事。これは揺るぎない。
ならば、彼のやりたいようにやらせればいいじゃないか。
その中で、私の身体に嵌って抜け出せなくなるのなら、それは願ってもないことではないか。エンリのことが好きだったとしても、私はエンリよりもヒカルを大事にしてあげられる自信がある。ヒカルが後悔する日が来ないくらいに身体を躾けてあげよう。私の下で啼かされることこそが無上の幸せだと言わせるように。
「私はエンリよりも8歳も若いし、お金だってあるんだから。」
「……何の話だよ?今は俺とアンタの――」
「いいよ。ヒカル、セックスしよう。」
「は、え……!?いいのかよッ。」
「うん。」
私は呆気に取られ跪いたままのヒカルに手を伸ばし引き寄せた。そしてベッドの上で組み敷く。
我ながら切り替えの早さに呆れてしまうが、悩んでいる時間など私には無かった。前世での私は、あまり長くなかった人生を平凡に終わらせた。高校を卒業し、大学へ行き就職し何人かの人と付き合い、おそらく30歳過ぎくらいの時に病気で生涯を終えた。
人はいつ死ぬか分からない。前世よりもやることが沢山ある私は、一つ一つの決断に迷ってはいけない。
我に返り何かを喋り出しそうなヒカルの口に、唇を押し当てた。
「ヒカル、口開けて。」
そう囁くとヒカルはすぐに言われた通りにした。彼はキスが大好きだから。
狭いベッドの上でぴったり重なり合って、深く唇を合わせていると、ヒカルはすぐに子犬のような啼き声を漏らした。ペニスも固く勃起している。それは私もだが。
薄目を開けてヒカルを盗み見ると、口の端から、どちらのものと分からない唾液を垂らし、一生懸命私の舌を吸う姿が目に入った。その姿はまるで赤子が母乳を求めているかのように一生懸命だ。そこでふと思う。ヒカルは胸に触って来ないな、と。前回も一度も触れられていない。男とは『おっぱい』が好きな生き物という認識がある私には不思議でならない。
キスを止め、服を脱いでヒカルの顔の前に胸がいくように移動してみた。目の前にある釣り鐘型の乳房を見てヒカルは、息を呑んだ。しかし、触れようとも舐めようともしてこない。
焦れた私は更にヒカルへと乳房を揺らしながら近づけたが、彼はどうしたらいいのかと不安げに視線をさ迷わせただけだった。
「どうして触ってくれないの?」
ペニスも足も躊躇無く舐めるのに、何故胸は嫌なのか。
「っ、だってよ、俺がそんなことしたら、アンタの、ヤル気無くなっちまうかも、しれねぇだろ!」
意味が分からず、もう少し話を聞いてみた。
要するに、オスの子どもを産んでしまうことを本能的に恐れているフタナリにとって、大人であろうとオスに胸を吸われる授乳行為など、興ざめではないのか、ということらしかった。
そういった理由から娼館では、要望があっても胸には触るなと主人からも言われていたようだ。
「……私はしてもらえたら嬉しいけどな。……もし子どもを自分が産むとしでも、オスでもメスでもフタナリでも私は構わないから。」
「……は…?それ、マジで言ってんのか!?」
ヒカルは、驚愕といった感じで目を見開いている。
「うん。さすがに今は色々忙しいから、子どもは作れないけどね。」
将来、子どもを作るとしたら相手は?それはもちろんヒカルであれば嬉しいが、タイミングもあるし、勿論、勝手に作っていいものでもないだろう。それに、今からしようとしている行為の逆をしなくてはいけないことを考えるとハードルが高い。私はバージンである。前世では経験があるものの、記憶はおぼろげなのでリードする自信もない。
そんなことを考えていると、胸に何かが触れた。ヒカルのガチガチに固まった手によってぷに、と触られたのだった。初めは恐る恐るだったが、自分の指が胸に沈む感覚に夢中になり、やがて両手を使い優しく包み込むようにして揉み始めた。私が嬌声を漏らすと、少し強く揉まれた。
「っ、アンタの胸ッ、風呂場で初めて見た時からずっと、触りたかった。服の上からでも分かるつんと尖った乳首に吸い付いてみたかったッ。」
「そうだったのね。じゃあ、いっぱい吸って……あんっ。」
私の許可を得たヒカルはすぐさまパクリと乳頭を口に含み、ちゅくちゅくと吸い上げた。乳房を揉む手も止まらない。ヒカルは熱に浮かされたように、うっとりとした顔をしながら夢中になって私の胸を貪った。
胸への刺激は、ペニスよりもヴァギナの方がより強く快感を拾う。中は何かを欲するように蠢いているが、そこに"何か"を埋めてもらうのは、本当に心を通わせてからでないといけない気がする。避妊具はあるので妊娠の心配ではなくて、全てを捧げるという行為を、捧げられる方にも覚悟を持ってしてもらいたいからだ。
今はまだその時ではない。
ヒカルが私なしではいられなくなって、誰にバレたとしても同じ朝を迎えてもいいと思ってくれた時に、私の初めてを捧げたい。
それまでは――。
私は胸を吸わせたまま、ヒカルのバスローブの前を開いた。そして足を開かせて肛門に触れた。ローションを使い、ヒクヒクと動くそこに指を入れ、一本二本と増やしていった。
「っ、ア゛、ア゛ッ。」
「ヒカル、入れてほしい?」
「ふ、ンッ、入れて、ほしいッ。」
強い快感に支配されたヒカルは、胸から口を離し私の身体にしがみついた。
「何を入れてほしいの?」
私は意地悪く微笑み、わざと音をたてるようにして、指を抜き差しする。
「ンッ、何、って…?…アーッ。」
「誰の何を、どんな風に入れてほしいのか、言って。」
「っ、…クッ、……み、ミツコの、ペニスでッ。ぐちゃぐちゃに濡れたケツ穴をッ、奥まで犯して、ほしいッ。アアッ、それと、せい、…精液もッ、ほしいッ。」
羞恥か興奮か、ヒカルは涙を滲ませながら私に懇願した。
エンリではなく私が求められている。
この言葉がもし、娼館にいた頃の習慣で出たものだと言うのならそれでも構わない。『私を求めている』と、何回も何回も言わせれば、いつかそれは真実になる。
ゾクゾクとした暗い愉悦が全身を駆け巡り、私はペニスから透明な液を垂らした。
私の形にしか開かなくなってしまえ、という思いで何度も何度も突く。前から後ろから。横になり背後から片足を持ち上げて…。色々な体位で交わりながらヒカルのいいところを探していく。
一度吐精しても抜くこと無く奥を抉ると、そこに性感帯などないはずなのに、ヒカルはとてもいい声で啼いた。
気づけば私はヒカルの中で三回ほど果てていた。ヒカルも何度も達したようだった。一切触っていないにも関わらずペニスからは白濁が飛び散っていたが、何度目かの絶頂の時からは、何も出てこなくなった。イかなくなったのではなくて、精液が出ない状態でも絶頂に達していたのだ。ペニスと括約筋を震わせながらヒカルは『イクッ!』と叫んでいた。
まだまだしたかったが、もう夕飯が届く時間だ。シュウも起こしてあげなくては夜寝れなくなる。
私は余韻で動けない状態のヒカルにキスをしてからベッドを降りた。床に落ちている服を拾い身につける。そして、扉の前まで行くとヒカルの方を振り返った。彼はまだ呆けたような顔をしているが、こちらを見ていた。
「また、したくなったら言ってね。」
言葉の意味を理解したヒカルは、反射的にこちらに来ようとしたが、それを手で制した。
足に力が入らずふらつく可能性があるからだ。結構無茶な体位をしてしまった自覚があった。ヒカルは消耗している。私もそうだが、やはり受け入れる方が身体的にキツイはずだ。
「私は、いつでもヒカルを待ってるから。」
そう言い残し、私は部屋を出たのだった。
ヒカルが今日は自分の部屋でしたいと指定してきたのだ。理由を訊ねてみるとそれに対する返事は無しに『俺の部屋じゃだめな理由があるのか?』と逆に聞かれてしまい、駄目な理由などなかったので今ここにいる。
ヒカルのベッドはセミダブルで、私のベッドの半分以下のサイズしかない。これでは窮屈に体を寄せ合わせなくてはいけないな、とシーツの表面を手で均しながら思い、絡み合う自分達を想像しペニスをピクリと反応させてしまった。
熱を持ち始めたペニスと相反し、頭の中では葛藤している。
こんなことをして、良いのだろうか。激情のままここに来てしまったけれど、もう一度身体を合わせてしまったら、ヒカルの恋路を穏やかに見守ることなど出来なくなってしまうかもしれない。一度だけなら思い出に出来ても、二度、三度そういうことがあったなら、ヒカルをどんな手を使ってでも縛り付けたくなるのではないか。
どんな手?
――たとえば、私なしでないられない身体にしてしまう、とか?
なんて馬鹿なことを。
その手の官能小説の読み過ぎだ。
性欲に引きずられ気味の思考をどうにかした方がいいと思い、窓を開けようとした。新鮮な空気を取り入れようとしたのだけれど、窓際に立つと、シュゼの墓が目に入った。
ここから見える位置にあるとは知らなかった。だからクローバーに去勢剤を打ったあの日、ふらふらと歩いていたらしい私を発見できたのか。
窓を開け深呼吸をしていると、ヒカルが部屋に戻ってきた。風呂に行ってきたようでバスローブを着ている。
「悪い、待たせて。」
ヒカルは私の元へやって来て、チラリと窓の外に視線を移した。そして僅かに眉を下げ、私に暑かったのかと聞いてきた。ええ、少しと私が答えると、もう一つの窓もヒカルは開けてくれた。風の通り道に立つヒカルの髪の毛がさらさらと揺れている。
「いつまで、そこに立ってんだよ?」
ヒカルは私の手を引きベッドまで導いた。そして私を座らせるとベッド脇の床に跪き、足に触れようとした。それを『ちょっと待って』と制すると、なぜ?と不服そうな顔で見上げられた。
「あの、…やっぱり、止めない?」
このままでは良くない。
「……アンタを待たせたから、そんな気、なくなったのか?」
そうかもしれない。たった10分前まではヒカルを組み敷いて、私を刻み付けたくて仕方がなかった。でも、ヒカルと離れて少しだけ冷静になれて怖じ気づいた。何に?私がヒカルを手放したくないと思ってしまえば、ヒカルの意思に関係なくそう出来てしまう力があることに、怖じ気づいた。
戻れるのなら戻った方がいいのだろう。
「…うん。まずいんしゃないかと思うの。あのね、例えばの話なんだけど、もし、ヒカルに好きな人がいたとし…っ、ま、待って、話をっ。」
ヒカルは途中までしか話を聞かず、私の足を持ち上げ、ふくらはぎに唇を這わせた。私は咄嗟に足を引こうとしたが力強く持たれていてびくとも動かせない。魔力を使い腕で振り払えば簡単に解けるだろうが、私は極力オスの前で力を使いたくない。
待ってと声で制止するも聞き入れてもらえず、ふくらはぎへの愛撫は続いている。温かい舌がぬるねると、少しずつ上へ上へと移動している。否応なしに期待が高まってしまうが、自分を律する。
「っ、だめよ。口を離して、ヒカル。」
「なんで?俺はアンタを慰めたいんだ。」
ヒカルは情欲に濡れた瞳で私を見上げた。色気にクラクラとし引き寄せられそうになるが、きちんとしなければ。私は今日シュウに性教育をした先生なのだ。
「私は今、慰めてもらわなくても大丈夫だから。取り敢えず、話をしましょう。」
「っ、俺はッ……。頼むよ、俺にも、性教育してくれよ。アンタは俺に"本当のセックス"教えてくれたけど、あれじゃ、まだ足んねぇんだ。」
そんなにも私とのセックスが忘れられなかったのだろうか。ヒカルはおそらく客ではない人間に抱かれたのは私が初めてで、思っていたよりも気持ちが良くて嵌ってしまったのだろうか。
いや、そんなのは一時的なものかもしれない。欲望に流されては、後悔する日が来るだろう。
魔力を使ってでもヒカルを引き剥がすべきか。
そうまで考えた時、強い風が部屋に入ってきた。肌を撫でていく風が、大きくてゴツゴツしたシワのある手の感触と何故か重なった。
懐かしい気持ちと共に"当時"の自分を思い出し、なんだか今の私は自分らしくないなと、思った。
考え過ぎてぐるぐると同じようなことを違う言葉で並べ立て、ウジウジふらふらと悩む。そんなのミツコ・マイカトールらしくない。
風上にある窓へと視線を移して、シュゼをこの屋敷に拉致まがいに連れてきた時の会話を思い出す。
『私はあなたの為に寝る間も惜しんでがむしゃらに働いたの。だから私のものになって』
『……私は、頼んでないが』
『なんて贅沢者なのかしら!あなたの為に大き過ぎる家も買ったのよ?私にはあなたを幸せにしてあげる自信があるの。だから今日から私と一緒に住みましょう』
メチャクチャだけど、意味無く自信満々で、その時の自分が一番自分らしかったように思う。
当時の自分ならこの状況で何を思うだろうか。
ヒカルが幸せになることが大事。これは揺るぎない。
ならば、彼のやりたいようにやらせればいいじゃないか。
その中で、私の身体に嵌って抜け出せなくなるのなら、それは願ってもないことではないか。エンリのことが好きだったとしても、私はエンリよりもヒカルを大事にしてあげられる自信がある。ヒカルが後悔する日が来ないくらいに身体を躾けてあげよう。私の下で啼かされることこそが無上の幸せだと言わせるように。
「私はエンリよりも8歳も若いし、お金だってあるんだから。」
「……何の話だよ?今は俺とアンタの――」
「いいよ。ヒカル、セックスしよう。」
「は、え……!?いいのかよッ。」
「うん。」
私は呆気に取られ跪いたままのヒカルに手を伸ばし引き寄せた。そしてベッドの上で組み敷く。
我ながら切り替えの早さに呆れてしまうが、悩んでいる時間など私には無かった。前世での私は、あまり長くなかった人生を平凡に終わらせた。高校を卒業し、大学へ行き就職し何人かの人と付き合い、おそらく30歳過ぎくらいの時に病気で生涯を終えた。
人はいつ死ぬか分からない。前世よりもやることが沢山ある私は、一つ一つの決断に迷ってはいけない。
我に返り何かを喋り出しそうなヒカルの口に、唇を押し当てた。
「ヒカル、口開けて。」
そう囁くとヒカルはすぐに言われた通りにした。彼はキスが大好きだから。
狭いベッドの上でぴったり重なり合って、深く唇を合わせていると、ヒカルはすぐに子犬のような啼き声を漏らした。ペニスも固く勃起している。それは私もだが。
薄目を開けてヒカルを盗み見ると、口の端から、どちらのものと分からない唾液を垂らし、一生懸命私の舌を吸う姿が目に入った。その姿はまるで赤子が母乳を求めているかのように一生懸命だ。そこでふと思う。ヒカルは胸に触って来ないな、と。前回も一度も触れられていない。男とは『おっぱい』が好きな生き物という認識がある私には不思議でならない。
キスを止め、服を脱いでヒカルの顔の前に胸がいくように移動してみた。目の前にある釣り鐘型の乳房を見てヒカルは、息を呑んだ。しかし、触れようとも舐めようともしてこない。
焦れた私は更にヒカルへと乳房を揺らしながら近づけたが、彼はどうしたらいいのかと不安げに視線をさ迷わせただけだった。
「どうして触ってくれないの?」
ペニスも足も躊躇無く舐めるのに、何故胸は嫌なのか。
「っ、だってよ、俺がそんなことしたら、アンタの、ヤル気無くなっちまうかも、しれねぇだろ!」
意味が分からず、もう少し話を聞いてみた。
要するに、オスの子どもを産んでしまうことを本能的に恐れているフタナリにとって、大人であろうとオスに胸を吸われる授乳行為など、興ざめではないのか、ということらしかった。
そういった理由から娼館では、要望があっても胸には触るなと主人からも言われていたようだ。
「……私はしてもらえたら嬉しいけどな。……もし子どもを自分が産むとしでも、オスでもメスでもフタナリでも私は構わないから。」
「……は…?それ、マジで言ってんのか!?」
ヒカルは、驚愕といった感じで目を見開いている。
「うん。さすがに今は色々忙しいから、子どもは作れないけどね。」
将来、子どもを作るとしたら相手は?それはもちろんヒカルであれば嬉しいが、タイミングもあるし、勿論、勝手に作っていいものでもないだろう。それに、今からしようとしている行為の逆をしなくてはいけないことを考えるとハードルが高い。私はバージンである。前世では経験があるものの、記憶はおぼろげなのでリードする自信もない。
そんなことを考えていると、胸に何かが触れた。ヒカルのガチガチに固まった手によってぷに、と触られたのだった。初めは恐る恐るだったが、自分の指が胸に沈む感覚に夢中になり、やがて両手を使い優しく包み込むようにして揉み始めた。私が嬌声を漏らすと、少し強く揉まれた。
「っ、アンタの胸ッ、風呂場で初めて見た時からずっと、触りたかった。服の上からでも分かるつんと尖った乳首に吸い付いてみたかったッ。」
「そうだったのね。じゃあ、いっぱい吸って……あんっ。」
私の許可を得たヒカルはすぐさまパクリと乳頭を口に含み、ちゅくちゅくと吸い上げた。乳房を揉む手も止まらない。ヒカルは熱に浮かされたように、うっとりとした顔をしながら夢中になって私の胸を貪った。
胸への刺激は、ペニスよりもヴァギナの方がより強く快感を拾う。中は何かを欲するように蠢いているが、そこに"何か"を埋めてもらうのは、本当に心を通わせてからでないといけない気がする。避妊具はあるので妊娠の心配ではなくて、全てを捧げるという行為を、捧げられる方にも覚悟を持ってしてもらいたいからだ。
今はまだその時ではない。
ヒカルが私なしではいられなくなって、誰にバレたとしても同じ朝を迎えてもいいと思ってくれた時に、私の初めてを捧げたい。
それまでは――。
私は胸を吸わせたまま、ヒカルのバスローブの前を開いた。そして足を開かせて肛門に触れた。ローションを使い、ヒクヒクと動くそこに指を入れ、一本二本と増やしていった。
「っ、ア゛、ア゛ッ。」
「ヒカル、入れてほしい?」
「ふ、ンッ、入れて、ほしいッ。」
強い快感に支配されたヒカルは、胸から口を離し私の身体にしがみついた。
「何を入れてほしいの?」
私は意地悪く微笑み、わざと音をたてるようにして、指を抜き差しする。
「ンッ、何、って…?…アーッ。」
「誰の何を、どんな風に入れてほしいのか、言って。」
「っ、…クッ、……み、ミツコの、ペニスでッ。ぐちゃぐちゃに濡れたケツ穴をッ、奥まで犯して、ほしいッ。アアッ、それと、せい、…精液もッ、ほしいッ。」
羞恥か興奮か、ヒカルは涙を滲ませながら私に懇願した。
エンリではなく私が求められている。
この言葉がもし、娼館にいた頃の習慣で出たものだと言うのならそれでも構わない。『私を求めている』と、何回も何回も言わせれば、いつかそれは真実になる。
ゾクゾクとした暗い愉悦が全身を駆け巡り、私はペニスから透明な液を垂らした。
私の形にしか開かなくなってしまえ、という思いで何度も何度も突く。前から後ろから。横になり背後から片足を持ち上げて…。色々な体位で交わりながらヒカルのいいところを探していく。
一度吐精しても抜くこと無く奥を抉ると、そこに性感帯などないはずなのに、ヒカルはとてもいい声で啼いた。
気づけば私はヒカルの中で三回ほど果てていた。ヒカルも何度も達したようだった。一切触っていないにも関わらずペニスからは白濁が飛び散っていたが、何度目かの絶頂の時からは、何も出てこなくなった。イかなくなったのではなくて、精液が出ない状態でも絶頂に達していたのだ。ペニスと括約筋を震わせながらヒカルは『イクッ!』と叫んでいた。
まだまだしたかったが、もう夕飯が届く時間だ。シュウも起こしてあげなくては夜寝れなくなる。
私は余韻で動けない状態のヒカルにキスをしてからベッドを降りた。床に落ちている服を拾い身につける。そして、扉の前まで行くとヒカルの方を振り返った。彼はまだ呆けたような顔をしているが、こちらを見ていた。
「また、したくなったら言ってね。」
言葉の意味を理解したヒカルは、反射的にこちらに来ようとしたが、それを手で制した。
足に力が入らずふらつく可能性があるからだ。結構無茶な体位をしてしまった自覚があった。ヒカルは消耗している。私もそうだが、やはり受け入れる方が身体的にキツイはずだ。
「私は、いつでもヒカルを待ってるから。」
そう言い残し、私は部屋を出たのだった。
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