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彼氏と女友達
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「三奈を、助けてあげたいんだけど、……いい?」
男性らしさを感じさせるような端正な顔つきの男が、困ったような顔をして私を見ている。
それは私がするべき表情ではないだろうかとは思ったけれど口には出さない。
私はいかにも庇護欲を掻き立てられるような『三奈ちゃん』の佇まいを思い出し心の中でため息を吐いた。
もう、うんざりかも。
『三奈ちゃん』
彼女は今私の目の前にいる男、――恋人の亮介――の女友達だ。大学で知り合った私よりも付き合いが古く、小学生からの幼なじみで気心が知れた相手なのだと言う。それでも男女の関係になったことは本人達曰く一度もなく、腐れ縁のようなものだと語っていた。
その彼女が亮介に助けを求めた。
『暴力を振るう彼氏と別れたい』
女性に暴力を振るう男は同性には強く出られないらしい。だから背が高くてがっしりした、いかにも喧嘩が強そうな風貌の亮介が、二人の別れ話に立ち会うのは正しい撃退法なのかもしれない。
私だって初めてそう言われた時には彼女に同情した。だから心配だったけれど快く亮介を送り出した。
でもそれが6度目で、いや7度目だっただろうか、もしかしたら亮介が申請していない場合もあるだろうからもっとかもしれない。そんなに数え切れない程何度も、しかも同じ男相手とのいざこざとなれば同情よりも怒りの方が湧いてくる。
亮介が間に入って毎回別れると決めたはずなのに、いつの間にか絆されて元サヤに戻り、また暴力を振るわれて泣き付いてくるのだ。
三奈ちゃんとは知り合い程度の私だけれど、そんな男とは離れた方がいいと話をした時があった。でも『あの人にもいいところがあるの』とお決まりのセリフを返されて辟易した覚えがある。
もう勝手にしたら?と、三奈ちゃんだけではなく都度付き合ってあげる亮介に対しても思うようになってしまっていた。
亮介は立ち会いばかりでなく、昼夜問わず三奈ちゃんから連絡が来ると『ちょっとごめん』と言っては私の前であろうと長電話もする。普通なら『ちょっとごめん』って言われるのは三奈ちゃんの方なんじゃないかと思う。目の前で電話ができるのはやましいことが無いことの証明なのかもしれないけど、気分は決して良くない。
「……いいん、じゃない?三奈ちゃんはカワイソウだもんね。」
諦め半分で言ったのが伝わったのか伝わっていないのか、亮介は申し訳無さそうに『ごめん』と言った。何に対しての謝罪なのかと思っていたらそれはすぐに判明した。
「流石に何度も同じこと繰り返してるし、今回は、俺と付き合う、って嘘を言うことになったから、さすがに別れられると思う。」
言いづらそうに、私の顔色を伺いながら話す亮介の姿に、頭がカッと熱くなった。
信じられない。
友人を救う為の方便だといってもいくらなんでも酷すぎる。
それに、嘘を言うことになった、とは誰の提案で?
二人で話し合って決めたの?
それってほんとに嘘なの?
『いっそほんとに付き合うことにしちゃおっかー』『それ、いいねー』ってなってない?
「アイツとは生活範囲が違うからバレないと思うし。」
私がいつそんな心配をした?
バカじゃないの?
沢山の?マークを抱え、怒りで体が震えている私に亮介は追随の手を緩めなかった。
「それで、明日の夜行ってくることになったから。……真由、ごめんな、後で埋め合わせする。」
私は絶句した。
明日はバレンタインデーだった。
私は言いたいことを全て飲み込み『わかった、頑張って。じゃ、明日早いから』と言って彼の部屋を出た。
男性らしさを感じさせるような端正な顔つきの男が、困ったような顔をして私を見ている。
それは私がするべき表情ではないだろうかとは思ったけれど口には出さない。
私はいかにも庇護欲を掻き立てられるような『三奈ちゃん』の佇まいを思い出し心の中でため息を吐いた。
もう、うんざりかも。
『三奈ちゃん』
彼女は今私の目の前にいる男、――恋人の亮介――の女友達だ。大学で知り合った私よりも付き合いが古く、小学生からの幼なじみで気心が知れた相手なのだと言う。それでも男女の関係になったことは本人達曰く一度もなく、腐れ縁のようなものだと語っていた。
その彼女が亮介に助けを求めた。
『暴力を振るう彼氏と別れたい』
女性に暴力を振るう男は同性には強く出られないらしい。だから背が高くてがっしりした、いかにも喧嘩が強そうな風貌の亮介が、二人の別れ話に立ち会うのは正しい撃退法なのかもしれない。
私だって初めてそう言われた時には彼女に同情した。だから心配だったけれど快く亮介を送り出した。
でもそれが6度目で、いや7度目だっただろうか、もしかしたら亮介が申請していない場合もあるだろうからもっとかもしれない。そんなに数え切れない程何度も、しかも同じ男相手とのいざこざとなれば同情よりも怒りの方が湧いてくる。
亮介が間に入って毎回別れると決めたはずなのに、いつの間にか絆されて元サヤに戻り、また暴力を振るわれて泣き付いてくるのだ。
三奈ちゃんとは知り合い程度の私だけれど、そんな男とは離れた方がいいと話をした時があった。でも『あの人にもいいところがあるの』とお決まりのセリフを返されて辟易した覚えがある。
もう勝手にしたら?と、三奈ちゃんだけではなく都度付き合ってあげる亮介に対しても思うようになってしまっていた。
亮介は立ち会いばかりでなく、昼夜問わず三奈ちゃんから連絡が来ると『ちょっとごめん』と言っては私の前であろうと長電話もする。普通なら『ちょっとごめん』って言われるのは三奈ちゃんの方なんじゃないかと思う。目の前で電話ができるのはやましいことが無いことの証明なのかもしれないけど、気分は決して良くない。
「……いいん、じゃない?三奈ちゃんはカワイソウだもんね。」
諦め半分で言ったのが伝わったのか伝わっていないのか、亮介は申し訳無さそうに『ごめん』と言った。何に対しての謝罪なのかと思っていたらそれはすぐに判明した。
「流石に何度も同じこと繰り返してるし、今回は、俺と付き合う、って嘘を言うことになったから、さすがに別れられると思う。」
言いづらそうに、私の顔色を伺いながら話す亮介の姿に、頭がカッと熱くなった。
信じられない。
友人を救う為の方便だといってもいくらなんでも酷すぎる。
それに、嘘を言うことになった、とは誰の提案で?
二人で話し合って決めたの?
それってほんとに嘘なの?
『いっそほんとに付き合うことにしちゃおっかー』『それ、いいねー』ってなってない?
「アイツとは生活範囲が違うからバレないと思うし。」
私がいつそんな心配をした?
バカじゃないの?
沢山の?マークを抱え、怒りで体が震えている私に亮介は追随の手を緩めなかった。
「それで、明日の夜行ってくることになったから。……真由、ごめんな、後で埋め合わせする。」
私は絶句した。
明日はバレンタインデーだった。
私は言いたいことを全て飲み込み『わかった、頑張って。じゃ、明日早いから』と言って彼の部屋を出た。
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