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    嘘をついたことを赦してもらい、愛してるという言葉までもらってしまった僕は、腰に縋り付いた体勢のまま春日部に甘えていた。

    愛してる、大好き、目に入れても痛くない、僕の運命、太陽、天使、春日部がいなきゃ生きていけない、春日部しか好きになれない、僕の全て……と、春日部の硬い腹に顔をぐりぐりと擦り付けながら勝手に口から溢れだす愛の言葉をぶつけた。

    初めは「ああ」とか「天使はやめろ」とか言って、穏やかに頭を撫でてくれていた春日部だったが、段々と返事が小さくなっていった。
    代わりに「ふ」と短い吐息を漏らし、手が妖しく動き出した。
    僕の耳の縁を指でなぞったり、うなじから背中の辺りをゆっくりと撫でたり。
    何かをねだるような、誘うような意思が春日部の指先には含まれてる。

    それに、春日部のチンポが勃ってきているのにも気が付いた。
    僕はソファーに座る春日部の足の間に入って腰にしがみついているから、そこが僕の体と触れ合っていて丸わかりだった。

    そうなってしまったら僕にもスイッチが入って、春日部のチンポを可愛がりたい欲が出てくる。
    服の上からチンポをまさぐる。
    春日部からは「あっ」と声が出ただけで抵抗は無かった。
    しばらく弄っているとチンポはガン勃ちになって、直に触りたくなった。服を脱がせにかかるとそこでストップをかけられてしまう。
    「もうダメだって」と。

    明らかにとろんと潤んだ瞳をしているくせに、恥ずかしそうに目を逸らしながらそんなことを言ってくる。

    誘ってきたのはそっちの方なのに、というか今も大いに僕を煽ってきているのに、チンポしゃぶらせてよ!という気持ちはある。が、春日部は潔癖気味で、風呂に入る前のチンポはあまり舐められたくないのだということも僕は分かっている。

    それに、今日は春日部がプロポーズしてくれた記念すべき日だ。
    断腸の思いで春日部の意思を尊重した。

    「準備、してくる」とソファーから立ち上がる春日部を僕は素直に解放した。

    先にシャワーを浴びてベッドルームで待ってるようにも言われていたので、一人でバスルームに入る。

    僕のチンポはガチガチに勃っている。さっき、春日部のチンポを服の上から撫でただけで、すっかりその気だ。

    仕方ない。
    今日の春日部はいつにも増して格好良かった。プロポーズも愛してるの言葉も、僕を甘やかす優しい瞳にも、ずっとドキドキさせられていた。
    そんな春日部が、もうちょっとすれば僕の腕の中で色っぽい声を出し縋ってきてくれるのかと想像すれば、どうしようもなく興奮してしまう。

    一発抜けば冷静になれるかもしれないが、春日部の中に出したかったから、なんとか心を無にした。機械的にシャワーを浴びて髪の毛をさっと乾かし、ベッドルームで春日部を待った。
    ベッドに座っていると、またムラムラが高まってきてしまう。

    早く春日部が欲しい。
    いっぱいキスして、舐めてしゃぶって、飲み込んで、一番奥を突き上げて、真っ白なモノを出したい。

    いっそ準備を手伝おうか?
    ……いや、間違いなく怒られるから止めておいた方がいいか。


    悶々としながら深爪に更に丹念にヤスリをかけ、ローションのボトルを置く位置を無駄に確認し、一応濡れタオルの準備もしたが春日部はまだ来ない。
    あとは他に何もすることが無く、性欲、というか春日部欲を紛らわせる為に体を動かすことにした。

    ベッドルームの隅でシンプルに腕立て伏せと腹筋をする。


    しばらくすると、体が熱くなり始めたので着ていたTシャツを脱いで、上半身裸になった。

    腕立て、腹筋50回/セットを4回繰り返したところでやっと待ち人は現れた。

    春日部は部屋の隅にいる僕を認めると一瞬息を詰まらせた。
    視線は僕の裸の上半身の輪郭をなぞるように滑っている。
    その後ゆっくり息を吐き、口元を緩ませた。

「待たせて悪ぃ。筋トレしてたのか。」

    緩んだ口元を鼻の頭を掻くようにして隠し、微妙に視線を彷徨わせながら春日部は話しかけてきた。

    一連の動作には、僕への好意しかない。自惚れではなく。

    春日部は僕の筋肉の付き方が好き、らしい。

    脇腹の辺りを撫でられることが結構あるし、体が格好良いと言われたこともある。

    だから今も僕の体を見て、そういったことを思ったのだろう。

    単純に嬉しい。

    もともと春日部は、僕の『オトコ』の部分、――特に性的な部分――を強く感じると少し可愛くなる傾向にある。今もそうだ。
    愛しすぎて、僕はすぐさま立ち上がり春日部を抱き締めた。

「うん。春日部を抱きた過ぎて堪らなかったから、取り敢えず筋トレで発散してた。待ってたよ、春日部。」
「っ。」

    わざと『抱く』という言葉選びをしてみると、春日部は言葉を詰まらせた。意地悪だったかと、謝罪の意味も込めて抱き締めたままゆっくりと背中を撫でた。すると、春日部も僕を抱き締め返してくれた。

「いつも僕の為に準備してくれて、ありがとう。」

    背中から尻へと手を下ろし、ガウンの上からさわさわとそこを撫でる。春日部は僅かに体を跳ねさせた。

「べ、別にお前の為じゃねぇよ。俺が、そのまんまのお前が欲しっ――」
「あ、ごめん、もう限界みたい。」

    ベッドに押し倒して上になって、何かを言いかけている春日部の唇をふさいだ。
    春日部の唇は薄目だが柔らかい。食むようにして味わう。

「はぁ、好き。春日部が大好きだよ。」

    キスの合間に囁いて、ガウンの紐を解くと春日部も僕の履いていたスエットパンツを下着ごと下ろしてくれた。
    二人で全裸になって密着する。
    互いの勃起したチンポを合わせて緩く腰を振る。
    キスと兜合わせ。
    それだけで脳みそがチリチリするほど気持ちいい。
    春日部も気持ちよさそうだ。密やかに漏れ出していた吐息が、湿気を纏って甘ったるくなっている。
    色っぽい春日部の姿は、僕のオトコの部分を内側からも刺激してくる。


「ふ、俺も、好きだ、っ、……好きすぎて、おかしくなっちまう、あ、……っん、くらい。」

    ――堪んない。

「……ねぇ、今日って初夜、ってことになるの? だったら僕は春日部をどんな風に抱いたらいい?」
「……っ、好きに、しろよ。……それが、一番、いいっ、から。」

    僕が獣に変身してしまうような返事をくれた春日部。

    もう、メチャクチャにしてしまいたかった。

    でも、痛くさせたいわけじゃないから、敢えていつも通りの手順を踏む。
    春日部の感じるところを愛撫していく――と、いっても全身を僕に開発されてしまっているから、どこを舐めてもいい反応が返ってくるが――その中でも特に感じる乳首は丹念に愛撫してあげる。
    舐めて、擦って、吸い上げて、齧って。

    春日部が僕に縋ることしか出来ないほど快感に溺れ蕩けたら次の場所に移る。

    左の太ももの内側、いつもの場所に強めに吸い付く。
    キスマークの上書き。
    春日部は、はぁはぁと荒い息を吐き胸を上下させながら、その様子を見ていた。

「春日部は僕の、だよ。」

    独り言のように呟いて赤い痕を指でなぞると、春日部もそこに指を這わせた。

    陶酔したような顔で頷く春日部。


    ――ほんと、ヤバイ。

    僕を煽るのが目的じゃなくて、素でこれなんだから手に負えない。

    早く繋がりたくて、太ももを持ち上げると、春日部は素直に自分でも腰を浮かせた。

    ゆっくり見せつけるように舌で自分の唇を舐めると、春日部は期待と羞恥が入り交じった顔で見つめ返してくる。

    見つめ合ったまま、アナルに舌を這わせる。ぴちゃぴちゃと音をたてて、しわの一本一本丁寧に舐める。突付いて柔らかくなったら、舌を尖らせ内部にも侵入する。
    春日部は眉も目尻も下げて泣きそうな顔で快感に身を委ね喘いでいる。
    舐めながら気持ちいい?と尋ねるとコクコクと頷き、息を弾ませながら返事をしてくれた。

「ん、……ん、…あッん、町屋、すっげ、きもち、いいっ、ん、ん、アアっ、……町屋ァ。」

    切なく名前を呼ばれると、僕のチンポがぴくんと返事をした。


    『町屋』という名字になってから約四年。

    好きでも嫌いでも無かったなんの思い入れもない遠い遠い親戚の名字。
    今は春日部が何度も優しい声で呼んでくれているから、好きになれた。

    前の名字は、実家のある場所の地名とその名字だけで僕がどこの誰なのかが結び付けられてしまうような名字だった。

    絶縁が決まった後、父の隠し妻と腹違いのきょうだい達は、「やっとこの名字を手に入れることが出来た」と僕を嘲笑った。

    僕はそんなものいらなかった。

    ずっと僕は愛に飢えていたのだと思う。
    

    家族愛なんて貰った覚えが無いのに外では仲の良い家族を演じなくてはいけないプレッシャー。人の顔色を窺うことばかりが上手くなっていくのにつれ、自分の本音を覆い隠すことも上手くなって、皺寄せでいつも心は疲弊していた。
    健全に異性を恋愛の対象に出来ず、かといって同性も心から愛することができなくなった僕。

    そんな僕を丸ごと包み込んでくれるような深い愛を心の奥底では望んでいた。
   
    でも愛が欲しいと叫んでしまえば自分の足元さえ危うくなる。それまで培ってきた『愛されない僕』という存在を否定するのも、逆に肯定するのも難しいことだった。だから満たされた人間のふりをしていた。
    なんの不自由も無い、そう思い込み自分さえも騙していた。

    そんな空っぽの自分を満たしてくれたのは春日部。

    あの名字のままでは、きっと出会うことさえ無かった。


    今の『町屋』という名字は、ただの僕、だけを現している。

    春日部の恋人の町屋 朝晴(大学四年、21歳)。

    僕の肩書きはそれだけ。

    でも、それが唯一欲しかったもの。


    愛する春日部。

    僕の大事な生涯のパートナー。
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