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かき氷

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    僕は夢中になってキスをした。

    舌を絡めて、歯列をなぞって唾液を交換して。
    春日部も僕の頭の後ろを手で支えながら、深いキスを返してくる。体の芯がジンジン痺れるような気持ち良さ。

    どれくらい時間が経ったか分からない。互いのチンポがすっかり反応してしまうくらい長いキスだった。

    それが止まったのは春日部のスマホが何度か震えたから。
    少しだけ現実に戻った僕はここがどこだったかを思い出した。

    途端に、川遊びではしゃぐ子どもの声が近付いて来た気がして、名残惜しかったけど春日部の胸を手で突いて離れた。
    春日部も名残惜しそうにして唇を追いかけてきてくれたけど、さすかに子どもに見られるのはマズイと思い至ったのか、数歩僕から遠ざかると周囲を見回した。

    子どもの声はしたものの、やはり死角になっており見えていない。
    ホッと胸を撫で下ろして、気付いた。

    Aも居ない。

    春日部がスマホをポケットから出し、確認するとさっきの通知はAからのようだった。
    メッセージアプリの画面までは見せてはもらえなかったが、Aは僕たちのキスシーンを見て諦めがついたらしいと春日部が教えてくれた。

    良かった。

    自分が今幸せな分、Aにも幸せになって欲しいと心から思う。


「あと、お前に"サヨナラ"って伝えてくれって。」
「うん。」

    ――サヨナラ。

    これで僕もちゃんと区切りをつけられた気がした。

    人を信じられず、裏切られるのを前提で相手と接していた臆病な僕。
    そんな過去の自分とサヨナラ。

    これも春日部のお陰だ。


「ありがと、春日部。」

    僕の顔を探るようにじっと見ていた春日部は、僕のスッキリした顔を見てホッと息を吐き、優しい笑顔になった

「ああ。じゃ、次、カフェ行こうぜ。」

    もうAは見てないし、いいんじゃないの?とは言わない。
    まだデートを終わらせたくないから、せめてプランは最後まで遂行させたい。
    きっと春日部も僕と同じ気持ちだから。

「うん。でも、テラス席じゃなくて室内がいいな。暑すぎてヤバイもん。」
「だな。」

    カフェに行く前に汗拭きシートを買って、体を拭いた。
    僕の匂い(春日部いわくフェロモン)は体を密着させるくらいしないと分からないらしいけど、汗でベタベタだったし念のため。



    ふわふわのかき氷を売りにしているカフェは女の子だらけだった。
    店内に入るだけでアウェイ感が凄いが、涼しいのと、まだ帰りたくないという想いからゆっくりとアイスコーヒーを飲んで、かき氷を半分ずつ食べた。

    スプーンは二本。
    食べさせ合う勇気はさすがに無かった。それでも男同士で半分こはそれなりに目立ってはいたが、それくらいの好奇の目は気にならなくなった。

    見られていても、春日部と一緒ならちょっと誇らしい。


    甘いものが苦手な僕の為に春日部は甘くない紅茶のかき氷を選んでくれた。写真付きメニュー表の『数量限定・果実たっぷりピーチミルクかき氷』に目を奪われてたのに。
    心遣いと、食べ物を分け合う楽しさに、甘味とは別の甘さを感じた。

    いくらゆっくり食べても氷は溶けていく。ただの紅茶になってしまったそれを飲み干して、デートの終わりがやってきた。

「……じゃ、行こっか。」
「えっと、ちょっと待て。」
「どうかした?」

    春日部は「あー」と言って頭を掻いている。
    これから話してくれるのは言いづらいことらしい。キチンと座り直して、話してくれるのを待っていると、若干頬を赤くした春日部がさっき平らげたかき氷の器を指差した。

「あのさ、かき氷、旨かったよな?」
「え、あ、うん。美味しかった。」
「好きか?」
「うん。僕でも食べやすかったし。」

    食べている最中にも何度となく言い合ったことを、帰り際にわざわざ引き留めて聞いてくる春日部。意図が分からなかったけど、次に言われ言葉で僕はピンときた。

「じゃあ、俺、甘くねぇかき氷あるとこ探しとくから。」
「うん。」
「……また、こんな風に出掛けちゃ、…駄目か?」


    次のデートの約束。

    普段の外出よりちょっと距離の近いこのデートを春日部が気に入ってくれて、またしたい、と思ってくれたのがとても嬉しい。

    Aに見せつけるなんて口実がなくても僕達は両想いだから、またいつでもしたくなったらデートが出来る。

    それにデートの終わりに次のデートの約束をするのは普通のカップルみたいで、青臭いと言うか甘酢っぱいと言うか、青春っぽくて顔がニヤけてしまう。

「もちろんいいよ。すごく楽しみ。」

    春日部は僕の返事を聞いて、小さく「やった!」と呟いていて可愛かった。


    こうして、初デートは終わって、僕たちはさらに絆を深めることができた。大好きな春日部と幸せな夏休みを過ごしてるのだが……ちょっとだけ気になることがある。
    春日部の様子がおかしいのだ。

    「話がある」と僕に言っては「やっぱなんでもねぇ」を繰り返している。
    その時の様子はイケメンで元ヤリチンらしからぬモジモジとした可愛らしい態度だ。なので嫌な予感は全くしない。

    多分、春日部は僕に面と向かって「好き」と言ってくれようとしてるんじゃないかって思う。

    僕の「大好き」に対して「俺も」と応えてくれたことはあるけど、まだ「好き」とは言われたことがないから。

    早く聞きたいけど、急かすのは可哀想だ。
    多分ずっとくそヤリチンだったから、言い慣れてない……もしかしたら人生初の告白なのかもしれないから。僕はワクワクしながら春日部が伝えてくれるその日を待つことにした。
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