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春日部 28

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    デートの心得。

    よく分かんねぇからスマホで検索してみても、全く参考にならねぇアドバイスばっか。
話題に困ったらとか、どうやって次の約束を取り付けるかとか、俺たちにはそんな心配は無縁だし、服装だって町屋が決めたから迷う必要なんてねぇ。

『男性は車道側を歩きましょう』

    結局、ネットで漁った成果はこれだけ。

    デート相手も男なんだけどな、ってスマホにツッコミ入れて、ぜってー当日は車道側を歩いてやることに決めた。



    当日、俺の運転で目的地に着いて、バック駐車を一発で決めて気分良く車から降りたら、町屋がつつつ、って俺に近寄ってきた。

    どうした?って聞こうとしたけど、もしかしてこれが恋人の距離感なのかって思い至って、町屋の顔を見た。笑ってるし、多分そういうことなんだって理解したらニヤけそうになった。

    町屋が積極的に動いてくれたのが嬉しくて。

    あの男にデートを見せつけることに躊躇がねぇってこと、デートの初っ端から行動で示してもらえて、安心した。
    なんも相談しねぇで、あの男への対抗心で「デートする」なんて言っちまったから、いくら町屋が乗り気に見えても悪趣味なことしちまってんじゃねぇか、って不安があったから。


    おまけに、なんか胸がぞわぞわして擽ってぇ。

    こんな距離、家に居る時は普通だけど、人がいっぱい居てしかも雲一つねぇ青空の下だから、特別感もある。

    町屋は俺のだ、って言って回ってるみてぇで更に気分が良かった。

    あんま他人にジロジロ見られんの嫌なんだけど、今日は見てもらって構わねぇ。

    前に町屋が俺のことを、トイレでやった時も青姦したときも乱れてたから人に見られたい願望があるんじゃねぇのか、みたいなこと言ってきたことがあった。

    マジでそうかもしれねぇ。

    今も最高に気分がいいから。

    もっと正確に言えば、見られてるのが快感ってワケじゃねぇ。見られても構わねぇって町屋の態度が、俺を満たしてくれてる。

    だから人前で町屋と仲良くすんのは気持ちいい。



    でも、途中で急に女達に話しかけられて、気分は急降下した。
    ヘラヘラ対応してる町屋見てたらイライラしちまって。

    町屋は女のことは好きにはなんねぇ、って分かってんのに目の前で女に愛想良くされるとムカムカが止まんねぇ。
    かっこいい、って言われて「ありがとー」って笑顔振り撒く町屋が俺の知ってる町屋じゃねぇみてぇで嫌だ。
    町屋は俺がカッコいい、って褒めるとちょっと恥ずかしそうにはにかんで喜ぶんだってこと、この女達に教えてやりてぇ。

    イライラが募って、気が付いたら話に割り込んでた。デート中だから邪魔すんな、って言っちまった。

    ポカンとする町屋と女達見て、やっちまったって思ったけど、言っちまったもんは仕方がねぇ。
    自分達は今日は偽物とはいえ恋人同士で、俺は「邪魔すんな」って言える立場にあるハズだって頭ん中で屁理屈捏ねた。

    とは言え、やっぱ気まずくてその場からさっさと逃げ出した。


    また、嫉妬。

    認識したばっかの感情だからなのか、制御の仕方が分かんねぇ。
    この感情はやたらめったら俺をイラつかせて傷付ける。それに思い余ってあんな独占欲丸出しのことまで言って暴走しちまって。

    いくらなんでも、嫉妬が過ぎるから自分にブレーキかけなきゃ、って反省しようとしたのに町屋は俺を甘やかせる。

    呆れるどころかニコニコ笑って、俺のこと「彼氏」って言ってきて。

    男同士だから、彼氏・彼女じゃなくて、彼氏・彼氏。
    すげぇ違和感あんのに、言葉の響きは魅惑的で頭が混乱した。
    今日だけの、ごっこ遊びみてぇなモンだって分かってんのに、『親友』よりも『彼氏』や『恋人』って言葉が俺を惹き付ける。

    どうしてなのか。

    多分、何が違うのか俺にも分かってきたから。

    親友と恋人の立場の違いは『説得力』。

    町屋のことで、本人や他人にとやかく言える権利があんのが恋人。

    町屋に手出すな。
    邪魔すんな。
    他の奴、見んな。
    一生俺だけだと誓え。

    親友の立場じゃそれを言っても、あの男に笑われたみてぇに「何言っちゃってんの?」って説得力がねぇ。

    俺が望む形で町屋の傍にいるには、親友じゃダメなのかもしれねぇ。
    町屋に対して何の権利も主張できねぇから。


    そこまで分かったけど、どうしたらいいのかが分かんねぇ。


『春日部、誰も見ないで僕だけを見てよ。……僕たちは恋人同士、なんだから』

    俺と同じじような想いをぶつけてきた町屋。

    こんなこと言われるなんて微塵も思ってなくてびっくりしたけど、ジワジワと嬉しくなって、でも同時に、こんなこと今日だけなのか、って思ったら寂しくもなって。
    俺達をまだ見つけられてねぇらしいあの男を巻いちまって、デートをずっと続けてたくなった。



    人気の洋食屋のオムライス。
    40分も並んでやっとありつけたのに、テーブルの下で絡ませた小指が気になって味がよく分かんねぇ。
    左手にスプーン持って、食いづらそうなのに俺の指を離さねぇ町屋がいじらしくて、やべぇ。

「美味しいけど、春日部のオムライスの方が好き」って言ってくる町屋が、もう、すげぇ、愛しい。


「町屋、ソース付いてるぞ。」
「え、どこ?」

    ソースなんて付いてねぇ唇に指を滑らせながら思った。

    俺は町屋のホンモノの恋人になりてぇ。

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