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枕
しおりを挟む春日部の部屋でセックスした後、テントの中でもう一回した。
ちゃんと敷布団を敷いて、正常位で。
そして、今、テントで一緒に寝ている。
以前、キャンプに行った時にも一緒には寝たが、事後に、というのは初めてで、何だか非常に気まずい。
春日部は布団、僕は寝袋と寝具こそ別れているが、さっきまでの行為の甘ったるい余韻のようなものが漂っていて、落ち着かない。
これが恋人であれば、抱き合ったりして寝るのだろうが僕たちは親友で、僕に背を向けて横になっている春日部の対応こそが正解なのだろう。
少し寂しいが仕方ない。
でもそこでふと思い付いた。
春日部は女の子とした後、腕枕をしているのだろうか?
何の感情もない(らしい)女の子達にそんなサービスをしているとしたら、僕とだってしてもいいんじゃないか、と。
なんでだよ?と言われてしまったら、悲しげに「人恋しくて眠れない」とでも答えておけばいいだろう。
「ねぇ、春日部。」
「あ?」
春日部は、寝返りを打ち仰向けになって返事をしてくれた。
暗いから表情までは見えなかったが、声だけを聞く限り眠くはなさそうなので、話を続けることにした。
「春日部は腕枕、する派?」
「は?しねぇよ、腕痺れんじゃん。つーか、泊まる理由もなきゃ、ヤることヤったら解散だし。」
「うわぁ。」
春日部はこういう人間だった。
堀田いわく女の敵、いや、人類の敵、だったか。
あっさりと腕枕の夢は潰えたが、事後一緒に寝ている、ということだけでも春日部的には破格の待遇なのだろう。
親友特典スゴい。
ドン引きしたり、ちょっとした優越感に浸ったりしていると、春日部からガサガサと布が擦れる音がした。仰向けから横向きに――僕の方へ――体勢を変えたようだ。
「で、お前は?腕枕。」
「……まぁ、されたい人にはしてた、かな。」
「は?お前がする方なのかよ。」
「なんでそこで驚くの?僕、オトコノコなんだけど。」
「相手だって男だろーが。」
「あははー、確かに。」
話が途切れて、そろそろ寝るかと寝袋の中に深く潜り込もうとゴソゴソしていたら春日部の声が聞こえた。
「あ、ごめん、聞こえなかった。もう一回言って。」
「……俺は、腕枕されんのは、嫌だからな。」
「えー、それは残念。」
そりゃそうだろうな、と思いつつもハッキリ断られて残念に思った。
「……お前は?」
「え?」
「だから、腕枕、されんの嫌じゃねーのかよ。」
「……んー、嫌かどうかは、されてみたことないから、ちょっと分かんないや。」
「いや。俺だってされたことなんてねーよ!」
「そっか。そうだよね。……あ、だったら、春日部だって嫌かどうかは分かんないよね?」
じゃあ試してみるか、となるのは話の流れ上必然、……なのだろうか。とにかく僕は春日部の布団に入らせてもらった。
触れ合うほどに近付けば暗くても春日部のことが見えた。
「狭いな。」
「うん。男二人でシングルサイズはキツいね。もうちょっとそっち寄ってもいい?」
「ああ。……やっぱりお前の体、温けぇな。」
僕にも部屋着越しに春日部の体温が伝わってくる。裸で抱き合うよりも、クルものがあるのは、これが性欲に直接関係のない触れ合いだからなのだと思う。ただのスキンシップ。それが僕をドキドキさせる。
「えっと、腕枕、僕からで、いいのかな?」
「あー、うん、そうだな。」
春日部が頭を浮かせたので腕を下に滑り込ませたるど、頭の重みが腕にかかった。
つい癖のようなもので、枕にした方の手で春日部の髪の毛を撫でてしまう。黙って撫でられている春日部は目を瞑っている。
このまま寝ちゃえ!と念を送ってみるが、暫くすると春日部は目を開けた。
「……。」
「どうだった?」
「うん……まぁ、こんなもんか。じゃ、交代だな。」
「あ、うん。」
こんなもんか、に多少ガッカリしたものの、さっきまでは嫌と言っていたのだから、それよりはマシかと気を取り直した。
春日部の頭の下から腕を抜いて、今度は僕が頭を上げて春日部の腕を待った。
すぐに頭の下に回された腕。
服越しだが、筋肉を感じた。
「どうだ?」
「うん。悪くないかも。」
寝心地だったら枕の方が断然いいけど、腕枕は人肌のぬくもりが安心感を与えてくれる。
される方もいいな、と思っていたら、僕を真似してなのか春日部が頭を撫でてきた。
「髪の毛、サラサラで、気持ちいーな。」
「そう?ありがと。撫でられると僕も気持ちいいよ。」
「そうか。…じゃ、寝るぞ。」
「あ、うん。」
寝るぞ、と言われたのに春日部は僕の頭を撫でるのを止めなかった。顔を見ると目は閉じられている。
「かっ、春日部っ?」
「んあ?今度は何だよ?」
「このまま寝るの?」
「……やっぱり、"する方"がいいのか? でもお前、さっき"悪くない"って言ったじゃねーかよ。」
「言ったけど……ウン、言ったね。確かに言った。じゃ、おやすみ、春日部。」
「ったく、何なんだよ。……今度こそ寝ろよ。」
「うん。」
今度こそ寝ろ、と言われても、ニヤニヤが治まらず眠れそうにない。
僕が「残念」なんて言ったから?
そんなに物欲しそうだったのだろうか。
何にせよ、嬉しい。
自然と眠気がやってくるまで僕は春日部の顔を見て過ごすことにした。
暫くすると春日部から寝息が聞こえてきて、僕はそっと頭を上げて春日部の頬に『おやすみ』のキスをした。
唇や性的な場所には数えられないくらいしてきたキスだけど頬は初めて。
頬へのキスは腕枕と同じ、性的な意味を為さない行為。
それらは僕の心を温めて、上昇気流を作って、ふわふわと浮き上がらせる。
雲の上にいるような幸せを噛み締めながら、やっとやってきた微睡みに僕は身を任せた。
この日から、どちらかが言い出したワケじゃなく自然と、休みの前の日は一緒に寝る、ということが僕たちの習慣になっていった。
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