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第1部・序章/出会い編
14.出勤初日2
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重厚な黒い扉を力強く叩く。
「……どうぞ。」
聞き馴染みのある声が、向こうから聞こえる。
「失礼します。」
扉を開け、由貴は一礼をして中に入る。
執務室の中は、リアの書斎とは正反対の白を基調とした、爽やかな印象の部屋だ。
大きめな茶色い執務机の向こうに彼は座っていた。
見慣れた顔が、見慣れない冷たい瞳を携えている。
「どうだ?……仕事、出来そうか?」
「はい。この位なら問題なく。」
昨日の件が、尾を引いているのだろうか、それとも仕事中はいつもこの感じなんだろうか。
無表情のリアは、淡々と台詞を喋っているようだ。
ぎこちなくその前に立った。
「それより、なんでしょう?」
「ああ、そろそろ昼食の時間だろう。ここの食堂は人で溢れる。落ち着かないだろうから、私が専用で使っている部屋で取ってはどうかと思ってね。」
「い、いいんですか……?」
「もちろんだよ。」
やっぱり……リアは、リアだ。
昨日あんな事があって……今朝からも気まづくて……どう話せばいいのか分からなくて……。
でも、それでも……こんなにも優しくしてくれる……。
由貴の曇り空の様だった心が、少しずつ晴れていく。
「部屋はこちらだ。」
立ち上がり、入って来たドアとは違うドアを案内される。
リアに促されるまま部屋に入ると、後ろから優しく抱き締められた。
「……!?……り、リア……」
「……ごめん。」
「えっ、あの……」
「昨日のこと……ユキの気持ちも考えずに……すまなかった。謝って済む話ではないと思うが……」
腰の辺りに緩く宛てがわれたリアの手は……震えていた。
「……この部屋は好きに使ってくれて構わない。……それじゃ……」
「……なんで、謝るんだよ。」
由貴から身体を離して、部屋から出ていこうとするリアの上着の裾をぎゅっと引っ張った。
「ユキ……嫌だったろ……昨日。いきなりキスなんてされて……。嫌悪されて当然…」
「……嫌じゃ、なかった。」
由貴の強い声が、彼の聞いた事のない弱々しい言葉を遮る。
「……えっ……」
困惑した顔でリアが固まっている。
「だから……嫌じゃなかったって……分かれよ、バカ!!!」
なんで、謝るんだよ。
なんで、俺が嫌だったって決めるんだよ。
そんな思いが爆発した。
1度本音を口にしてしまえば、そこからもう言葉が止まらない。
「……昨日お前が、女の子と抱き合ってて……それが凄く嫌で……見たくなくて……自分の気持ちに気付いた。でも、お前と俺は釣り合わないから、だから忘れようとしたのに……それなのに……何でかお前にキスされて……」
いつの間にか涙が溢れ出した。
「キスとか……初めてで…なんで俺にって……わからなくて………でも……でも。全然嫌じゃなかった…むしろうれし……ッッ」
言い終わる前に、唇が柔らかい何かに塞がれた。
……リアの唇が、自分の唇に重なっている。
ゆっくりそれが離れると、とてつもなく悪い笑顔の男がいた。
その顔を見て、由貴の本能が……あぁこれは不味いかも知れないという警告を出した。
「それは、またして欲しいって事……?」
それまでの弱気なリアは何処へ行ったのか……。
いつの間にか腰に手を回され、空いている手で顎を掴まれそのままもう一度唇を奪われた。
「んっ……んん……!」
胸を押して抵抗しても、由貴の顎に回された手がそこから逃げることを許してくれない。
あれだ。
やばい男に捕まったかもしれない。
「……ふはっ……くるしっ……」
苦しそうに息を乱す由貴を、リアは心底愛おしそうに見つめ、再びその唇に軽く口付けた。
「好きだよ、ユキ。……君はもう、私のものだ。」
「……ただいま…」
「おかえりなさーい!ユキさん!!お昼食べられました?」
休憩時間の終わるギリギリに、リアは急ぎ足で事務所に戻ってきた。
「んんー?何か顔赤くないですか?」
「え?い、いや、き、気の所為ですよ!!!」
小さな顔にやや大きめの眼鏡の顔が、下から覗き込んで来たので、慌ててブンブンと大袈裟に手を振った。
あの後、時間が許す限り、リアに唇を貪られた。
何度も、何度も執拗に。
ドンドンドンと、書類を整える由貴のて手には力が入る。
「……さん……さーん……ユキさーーーん!!!」
アルマの大きな声で、はっと意識を現実に戻した。
「は、はい!すいません!!」
「そろそろ館内案内ツアーに行きたいと思いますが……大丈夫ですか???」
「いきまーす!!」
書類を机に置いて、アルマの後を追った。
「私たちが行く場所はあまり多くないので、すぐ覚えられると思います。」
「あー、それは助かります。」
もうリアの邸内で由貴の頭は許容オーバーだ。
「ここが食堂、は……さっき行きましたかね?」
「いや、食事は執務室を使っていいって、リアが……」
「ふーーーーーん??」
にやにやしながらこっちを見るアルマの視線が由貴に刺さる。
「まぁ、それは大正解かと思います。食事時は、人がもっさもっさいますからね!」
「もっさもっさ……」
アルマさんって、結構独特な表現をするよな。
「ここが鍛錬場なんですが……誰か居ますね。」
レンガ作りの室内は、色々な大きさの剣や盾、甲冑などが乱雑に置かれ、そこから外の広場に繋がっている。片方の壁に木人椿やサンドバック、切り刻まれた木などが並べられており、真ん中辺りで2人の男が鍛錬中だった。
あれは……
太陽の光で輝く銀髪。
「リア……」
相手は……先程リアの伝言を伝えに来たゴリラ…じゃなかった、えっと
「おぉー、リアさんとハンさんが戦ってますねぇ」
2人の持つ木刀が、パァンッといい音で鳴っている。
真剣な面持ちで剣を振るうリア。額には汗が光っている。
……美しいな…
初めて見た時から思ってた。
リアの動きは一つ一つにキレがあって、無駄が無くて、静と動がハッキリしているというのだろうか……とにかく美しい。
ついリアに見入ってしまって、後ろに人が来ている事に気付かなかった。
「はぁ?なんで第2がここにいんの?」
「……どうぞ。」
聞き馴染みのある声が、向こうから聞こえる。
「失礼します。」
扉を開け、由貴は一礼をして中に入る。
執務室の中は、リアの書斎とは正反対の白を基調とした、爽やかな印象の部屋だ。
大きめな茶色い執務机の向こうに彼は座っていた。
見慣れた顔が、見慣れない冷たい瞳を携えている。
「どうだ?……仕事、出来そうか?」
「はい。この位なら問題なく。」
昨日の件が、尾を引いているのだろうか、それとも仕事中はいつもこの感じなんだろうか。
無表情のリアは、淡々と台詞を喋っているようだ。
ぎこちなくその前に立った。
「それより、なんでしょう?」
「ああ、そろそろ昼食の時間だろう。ここの食堂は人で溢れる。落ち着かないだろうから、私が専用で使っている部屋で取ってはどうかと思ってね。」
「い、いいんですか……?」
「もちろんだよ。」
やっぱり……リアは、リアだ。
昨日あんな事があって……今朝からも気まづくて……どう話せばいいのか分からなくて……。
でも、それでも……こんなにも優しくしてくれる……。
由貴の曇り空の様だった心が、少しずつ晴れていく。
「部屋はこちらだ。」
立ち上がり、入って来たドアとは違うドアを案内される。
リアに促されるまま部屋に入ると、後ろから優しく抱き締められた。
「……!?……り、リア……」
「……ごめん。」
「えっ、あの……」
「昨日のこと……ユキの気持ちも考えずに……すまなかった。謝って済む話ではないと思うが……」
腰の辺りに緩く宛てがわれたリアの手は……震えていた。
「……この部屋は好きに使ってくれて構わない。……それじゃ……」
「……なんで、謝るんだよ。」
由貴から身体を離して、部屋から出ていこうとするリアの上着の裾をぎゅっと引っ張った。
「ユキ……嫌だったろ……昨日。いきなりキスなんてされて……。嫌悪されて当然…」
「……嫌じゃ、なかった。」
由貴の強い声が、彼の聞いた事のない弱々しい言葉を遮る。
「……えっ……」
困惑した顔でリアが固まっている。
「だから……嫌じゃなかったって……分かれよ、バカ!!!」
なんで、謝るんだよ。
なんで、俺が嫌だったって決めるんだよ。
そんな思いが爆発した。
1度本音を口にしてしまえば、そこからもう言葉が止まらない。
「……昨日お前が、女の子と抱き合ってて……それが凄く嫌で……見たくなくて……自分の気持ちに気付いた。でも、お前と俺は釣り合わないから、だから忘れようとしたのに……それなのに……何でかお前にキスされて……」
いつの間にか涙が溢れ出した。
「キスとか……初めてで…なんで俺にって……わからなくて………でも……でも。全然嫌じゃなかった…むしろうれし……ッッ」
言い終わる前に、唇が柔らかい何かに塞がれた。
……リアの唇が、自分の唇に重なっている。
ゆっくりそれが離れると、とてつもなく悪い笑顔の男がいた。
その顔を見て、由貴の本能が……あぁこれは不味いかも知れないという警告を出した。
「それは、またして欲しいって事……?」
それまでの弱気なリアは何処へ行ったのか……。
いつの間にか腰に手を回され、空いている手で顎を掴まれそのままもう一度唇を奪われた。
「んっ……んん……!」
胸を押して抵抗しても、由貴の顎に回された手がそこから逃げることを許してくれない。
あれだ。
やばい男に捕まったかもしれない。
「……ふはっ……くるしっ……」
苦しそうに息を乱す由貴を、リアは心底愛おしそうに見つめ、再びその唇に軽く口付けた。
「好きだよ、ユキ。……君はもう、私のものだ。」
「……ただいま…」
「おかえりなさーい!ユキさん!!お昼食べられました?」
休憩時間の終わるギリギリに、リアは急ぎ足で事務所に戻ってきた。
「んんー?何か顔赤くないですか?」
「え?い、いや、き、気の所為ですよ!!!」
小さな顔にやや大きめの眼鏡の顔が、下から覗き込んで来たので、慌ててブンブンと大袈裟に手を振った。
あの後、時間が許す限り、リアに唇を貪られた。
何度も、何度も執拗に。
ドンドンドンと、書類を整える由貴のて手には力が入る。
「……さん……さーん……ユキさーーーん!!!」
アルマの大きな声で、はっと意識を現実に戻した。
「は、はい!すいません!!」
「そろそろ館内案内ツアーに行きたいと思いますが……大丈夫ですか???」
「いきまーす!!」
書類を机に置いて、アルマの後を追った。
「私たちが行く場所はあまり多くないので、すぐ覚えられると思います。」
「あー、それは助かります。」
もうリアの邸内で由貴の頭は許容オーバーだ。
「ここが食堂、は……さっき行きましたかね?」
「いや、食事は執務室を使っていいって、リアが……」
「ふーーーーーん??」
にやにやしながらこっちを見るアルマの視線が由貴に刺さる。
「まぁ、それは大正解かと思います。食事時は、人がもっさもっさいますからね!」
「もっさもっさ……」
アルマさんって、結構独特な表現をするよな。
「ここが鍛錬場なんですが……誰か居ますね。」
レンガ作りの室内は、色々な大きさの剣や盾、甲冑などが乱雑に置かれ、そこから外の広場に繋がっている。片方の壁に木人椿やサンドバック、切り刻まれた木などが並べられており、真ん中辺りで2人の男が鍛錬中だった。
あれは……
太陽の光で輝く銀髪。
「リア……」
相手は……先程リアの伝言を伝えに来たゴリラ…じゃなかった、えっと
「おぉー、リアさんとハンさんが戦ってますねぇ」
2人の持つ木刀が、パァンッといい音で鳴っている。
真剣な面持ちで剣を振るうリア。額には汗が光っている。
……美しいな…
初めて見た時から思ってた。
リアの動きは一つ一つにキレがあって、無駄が無くて、静と動がハッキリしているというのだろうか……とにかく美しい。
ついリアに見入ってしまって、後ろに人が来ている事に気付かなかった。
「はぁ?なんで第2がここにいんの?」
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