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※カーセックス
しおりを挟む「・・・で、免許取り立てで外車のディーラーで見積もりをもらってきたのか、お前は」
「・・・美喜ちゃんも乗るかなーって・・・」
「お前、こういうところ坊ちゃんだよな。こういう金銭感覚のズレが世の中の夫婦やカップルの離婚や別れの大半の原因だと思うぞ」
手にあった見積書が突然引き抜かれた。
千蔵は真顔でビリビリと破き始め、ゴミ箱に捨てた。
千蔵が免許を取ったのはつい一昨日の話だ。
以前から免許を取ると豪語して、結局取らないでいた。
気が小さいのでいつも直前で踏みとどまってしまうのだ。
だが今回は突然申し込みをしてきて、予定を詰め込み、キャンセル待ちまでして取得した。
ここだけの話だが仮免で1度、筆記で1度落ちている。
だがようやく免許が取れたので、行動範囲も広がるなと話していた矢先に、勝手に車を決めてきた。
まだ運転もしたことないくせに。
「はー・・・もうすく梅雨時期って時にオープンカーを買うバカが目の前にいるとは・・・」
「ちゃんと屋根あるもん」
「オープンカーって意味分かってるか?」
「も、もう!買わない!買わないもん!その顔やめてよ!」
白い目で見ているのが自分でもよく分かった。
唇を突き出して、欲しかったんだもん、乗って欲しかったんだもん、と呟く姿に呆れしか出てこない。
「おれが車を欲しいと言ったことがあるか?」
「ない、けど・・・でも、運転する姿かっこいいし、一緒に乗りたいなーって」
「・・・」
「・・・これは買わないから、許して?」
「次は馬鹿でかい車でも見に行くのか?」
「な、何でわかるの?」
何年一緒にいると思ってる。
乗れもしないのに大きな乗り物が好きなのだ、こいつは。
ため息を何度もついて頭の中で言わなければならないことをまとめる。
納得させなければならないのですごく疲れる。
「まずは軽にしろ」
「えー!嫌よ!足が窮屈じゃない!天井も低いし!」
「オープンカーだって閉めりゃ低いだろ」
「でも、足元は、」
「今時の軽自動車だって足元も天井も広い」
「でも、でも・・・」
「まずは車間とスピード感覚と交通ルールを覚えろ。それから普段の使い方、燃費、車の状態を見てから買い換えればいいだろう」
「・・・でも、」
「なんだ」
「・・・軽に初心者マークって・・・なんか嫌!」
「外車の新車に初心者マークだって周りは嫌だと思うが?」
「でも、でも!かっこいいのがいいの!」
「あーそーかい。じゃぁ勝手にしろ。言っておくがおれは乗らん。絶対にな」
「ど、どうしてそこまで嫌がるのよ!」
「金の無駄」
「無駄じゃないもん!」
あー、腹立ってきた。
金銭感覚の違いは仕方ないと思っていたが、一緒に暮らすとなるとまた別だな。
まぁ自分の金でやりくりして買うんだからそこまでめくじら立てることじゃないが、こいつ湯水のように金を使うことがあるからな・・・。
しかも、定期的に乗るかもわからないものに300万近く出すなんて。道楽にも程がある。
「好きにしろ、もう」
「・・・一緒に乗りたいのに」
「まず1人で乗ってから言え。おれはごめんだぞ。死にたくないからな」
「・・・ふんっ」
あ、臍曲げた。
知るか。
車のパンフレットをテーブルに置いたままダイニングを出る。
このまま一緒にいると喧嘩になりそうだったので、自室に籠ることにした。
ベッドに腰掛けて本を読む。
なんだかこういう時間も久々だな。
しばらく物語に没頭していると、コツコツと扉を叩く音がした。
無視するが、勝手に扉が開く。
千蔵がむすっとした顔で部屋に入ってきた。
「当店は閉店いたしました」
「・・・」
「またのお越しをお待ちしておりません」
「・・・」
「・・・なんだ」
「・・・車、見に行きたい」
「だから、」
「言われた通りにするから」
強く言われて顔を上げると、諦めた顔があった。
そういう顔をさせたいんじゃないんだがな。
本を置いて立ち上がる。
「コンパクトカーでも、背の高い車種もある。いろんなもの、見てみたらいいだろ」
「・・・」
「せん、」
手を握られ、腰を抱き寄せられた。
顔が近づく。
「なんだよ、」
「美喜ちゃんとドライブしたかった」
「・・・あのな、嬉しいけど、」
「一緒に乗ってくれる?」
グレーの瞳が揺れている。
不安そうな、定まらない視線。まったく、おれも大概甘い。
「お互いの意見を擦り合わせていい車が見つかったらな」
「うん」
「・・・擦り付けるんじゃねぇ」
下半身を寄せてきたので、頬を思い切りつねる。
千蔵は悲鳴をあげた。
******************
「これがいい」
「まぁ、いいんじゃないか」
千蔵が見つけたのは軽ではなくコンパクトカーだった。
天井も高いし、スライドドアの車なので、荷物を乗せるのが便利そうだった。
ただ、なぜそこまで新車にこだわるのかは分からなかった。
散々、中古で十分だと言ったが、そこだけは譲らなかった。
「もう一回乗りたい」
「はいはい」
助手席に座る。うん、まぁ、そこそこ。
運転席を見ると、千蔵は嬉しそうに笑っていた。
「これでどこでも行けちゃうね」
「そうだな」
「シート倒してお布団敷いたら車中泊もできるし」
「季節によるけどな」
「海とか行って黄昏ちゃおうよ」
「くだらん」
2人でくすくす笑いながら契約を進めた。と言ってもおれは契約しないのでぼんやりとコーヒーを飲んでいたが。
保険関係の手続きだけはしっかりと口を出し、契約を済ませて店を出た。
たまの外出なので、公園を少し散歩して帰ることにした。
犬の散歩やウォーキング、子供が走り回ったり、賑やかだ。
「もうすぐ梅雨入りだなんて信じられないね。こんなに晴れてるのに」
「納車の日、雨じゃないといいな」
「やめて。もうやだ美喜ちゃん性格悪い。雨の日運転したことないの、知ってるくせに」
「雨の日にキャンセルしてたのも知ってる」
「もー!だって怖いんだもん!」
「雪も降るし雷も落ちるし風も強いし、悪天候の時どうすんだお前は」
「乗らないもん!」
「車の1番の利便性をダメにしてるな」
「・・・!美喜ちゃんがいるもん!」
「はいはいご主人様。運転手が運転させていただきますよ」
「・・・ご主人様・・」
隣を見ると、なぜかキラキラした目でおれを見て、もじもじと指をこねていた。
つい、あからさまに嫌そうな顔をしてしまう。
「えー・・・美喜ちゃんがセバスチャンならいろいろお願いしたりできるってことだよねー・・・やだもう・・・」
「お前、そこの池に落としてやろうか?」
「ごめんなさい」
「いつか絶対に落としてやるからな」
バシッと頭を叩いて千蔵を置いて歩き出す。
待ってー!と叫びながら走ってきたが、無視した。
******************
「・・・ははっ。ざまーみろ」
「最低!ほんっっとうに最低!」
朝から激しい雨が降り、町を濡らしていた。
笑ってしまうくらいの大雨に、千蔵は悔しそうに歯を食いしばる。
「うぅー!」
「お前、この雨の中1人で運転できるのか?」
「無理!嫌!」
「じゃぁ日を改め、」
「それは嫌!ずっと楽しみにしてたんだから!」
「・・・はぁ」
面倒くさい。
今日は実家に車を借りに行ってディーラーに行き、帰りは2台連なって実家に戻る予定だった。
これじゃ実家に行くまでに濡れ鼠だ。
「あっはっは!本当に運がないよね、シロくんは」
「和多流くん、笑すぎだよ」
急遽連絡したというのに、出かけるついでだと言ってわざわざ迎えにきてくれた藤堂さんにも大笑いされ、千蔵は悔しそうに言う。
「雨予報じゃなかったもん」
「いきなり土砂降りだったから、おれたちもびっくりしましたよ」
助手席に座る春日部がフォローを入れるが、藤堂さんの笑いは止まらず、ついつられて鼻で笑うと、ものすごい勢いで睨まれた。
「ほんとやだ!この2人!」
「あーおかしい。別の日にすればいいのに」
「おれも言ったんだが譲らなくてな」
「で、この大雨の中行くんだ。運転大丈夫?ほら、ワイパー見てよ」
1番のスピードで動くワイパーを指差し、また笑う。
春日部もとうとう肩を震わせ始め、おれは笑いを誤魔化すのに咳き込んだ。
ぎゃーぎゃー喚く千蔵を宥め、ディーラーに向かう。
春日部と藤堂さんは本屋に行くとの話だった。
お互い仕事で必要な本は大きな本屋に行かないと手に入らないので、のんびりと行くそうだ。
ディーラーに着きあらためてお礼をして、店舗に入る。
鍵を渡され傘を差しながら一通り説明されたが、千蔵は顔をこわばらせて緊張していた。
いざ出発、というところでカチコチに固まる。
「おい、これフットブレーキだぞ」
「・・・無理」
「は?」
「やっぱり無理・・・怖くてアクセル踏めない・・・」
「・・・いや、言われてもな・・・。お前の車だし・・・」
「お願い、代わって」
「だからやめろっつったろ・・・」
「お願い!美喜ちゃん運転して!」
今にも泣きそうな顔で言うものだから、断りきれなくて結局ハンドルを掴んだ。
「ありがとう・・・ごめんね・・・」
「いい。おれも死にたくはないからな」
「ちゃんと運転してるところ見て、復習するわ」
「・・・オートマ車で、何を復習するんだ」
アクセルを踏むだけだろうが。
仕方ないので時折説明しながら車線変更や、右左折をしてやる。
千蔵は何度も頷きながら、コンビニに行こうと指を差した。
駐車場に停めると、傘を差して店内に入っていく。
ワイパーを止めると、すぐに前が見えなくなった。
「はい、ミルクティーが売ってたよ」
「どーも」
「これ、したかったんだよね。車の中でゆっくりコーヒー」
なぜか乾杯をして、その場でミルクティーを飲む。
平日の中途半端な時間。大通りを忙しなく走る車たち。
ぼんやりと見ながら、久々に聴くラジオに耳を傾けた。
どこもかしこも大雨洪水警報。
少し笑ってしまう。
「あ、ねぇ美喜ちゃん。わたくんから、今度乗せてってメッセージがきたよ」
「んんっ・・・」
携帯を差し出されたので、肘掛けにもたれて覗き込む。
こつ、と頭にぶつかったのは、千蔵の頭。
「あ、ごめん。やっぱ、車内狭かったかな」
「そうか?この距離の方が落ち着く」
「えっ」
「藤堂さんの車に乗った時、お前が遠く感じたからな」
「・・・」
「近い方がいい。お前は嫌だったか?」
「まさか・・・ねぇ、他は我慢するから手を、繋いでてもいい・・・?」
他、は聞かない方がよさそうだ。
黙って手を出して手を繋ぐ。
指を絡めてしっかり握ってやれば、千蔵は地団駄を踏んだ。
こいつ、ベタなこと好きだよな。
「雨の片手運転は、危ないからな。お前はやめろよ」
「うん」
「あと、慣れるまで1人で運転はするな」
「ん」
「聞いてんのか?んっ、」
信号待ち。顎を掴まれキスを一つ落とされた。車一台一台のことなんて誰も気にしてないだろう。だが、人の目があるところでするのは嫌いだった。
つい頭を叩くと、千蔵は痛がりながらも笑っていた。
調子が狂う。
怒る気にもならない。
アクセルを踏んで適当に町を流していく。
手は、ずっと握ったままだった。
******************
「どう?慣れた?」
個室の飲み屋は静かだった。
多分、ゲイ御用達なのだろう。
なんとなく、雰囲気が少し違う。
藤堂さんはにこやかにジョッキを持って千蔵に訪ねた。
千蔵は得意げに、まぁね!と返事をする。
「成瀬さんが隣乗ってあげてるんでしょ?」
「あぁ」
「どう?」
「普段ホラーや恐怖映像や絶叫系、もちろんお化け屋敷なんかも内心大笑いしながら楽しめるんだが、人生で初めて恐怖を感じてる」
答えると、春日部と藤堂さんは顔を見合わせてからまたおれを見て、吹き出した。
千蔵は恨めしげにおれを睨みつける。
「や、やばっ、やばいっ!先輩、そゆこと言うんだ!」
「事実だからな」
「あっはっはっはっは!も、やっべー!腹筋、死ぬ!」
「みんないつかまとめて車で轢いてやるわ」
「そんな度胸もないくせに」
「あるもん」
「あ、でも、隣に乗るんですね。優しいですよね」
春日部がおれを見た。
チラチラと目配せしてくるので、渋々返事をする。
「そりゃぁな。一応心配だからな」
「え、そうなの?ありが、」
「人を跳ねたり自損事故起こしたり、見張ってないとな」
「あーもーやだぁー!意地悪ばっかり!もういいもん!1人で頑張るもん!しばらく乗せないんだから!」
本気で怒ったようで、臍を曲げに曲げた。
それは飲み会がお開きになった後も直らず、家に帰ってもずっと不機嫌だった。まぁ、おれも言いすぎたので反省の意を込めて自分の部屋で寝た。
だが、更に機嫌が悪くなったので、もう面倒臭いので放っておくことにした。
今日は晴れ予報だったので傘を持たず、仕事に向かう。
授業をしていると、バタバタっと激しい音がした。
窓の外を見ると、大粒の雨が降っていた。
しまった、置き傘もない。
失敗したなと思いながら帰り支度をする。
春日部がこっそり声をかけてきた。
「あの、機嫌治りました?」
「ん?あぁ、ちっとも。更に悪くなった。まぁそれはいいんだ、別に」
いつものことだからな。
時計を見る。スーパーに寄りたいがこの雨じゃな・・・。
考えていることが分かったのか、車乗りますか、と聞かれた。
「和多流くん、来てくれるんで」
「あー・・・いや、いい。遠慮する」
「え、でも・・・」
確か、春日部は明日、授業がなかったはずだ。
つまり休みだ。
休みの前の日、わざわざ迎えに来るんだから、藤堂さんの中では予定が出来上がっているのだろう。
邪魔するわけにはいかなかった。春日部はなにも分かってなさそうだが。
「じゃぁ、おれ、これで。お疲れ様でした」
「お疲れ様。気をつけろよ」
色んな意味で。
言いたいのを堪えて咳払いをする。
ふぅ、と小さくため息をついて缶コーヒーを買う。
学生が親の送迎を待っていた。
傘を差して頑張って帰る生徒もいる。
裏口から出るか。
少し遠回りをして非常口の扉を開けると、ハザードを出した車が停まっていた。
「あれ・・・?」
目を細めてナンバーを確認しようとした時、携帯が震えた。
千蔵の名前が表示されていた。
「もしもし」
『あ・・・終わった?』
少し様子を伺うようなトーンで、小さく言った。
声の後ろからカチ、カチ、と規則正しい音がする。ハザードと同じリズムだ。
「終わった。どうした」
『・・・あの、・・・こ、こ、怖かったー・・・!美喜ちゃんー・・・!』
「はぁ?おい、」
「美喜ちゃーん!も、やだ、怖すぎたー!」
車のドアが開き、千蔵が傘を差して飛び出してきた。
水が跳ねるのも気にせず、バシャバシャと音を立てて走ってくる。
「車・・・」
「雨が・・・でも、傘、置きっぱなしで、お迎え、したくて・・・!」
「・・・はぁ、どうも・・」
「が、が、頑張ったの・・・!でも、表が車でいっぱいだし、裏口探してたら迷っちゃって変なところに出ちゃって・・・!雨はひどいし・・・どーしよーって思ってたら明かりがついたのがバックミラー越しに見えて、美喜ちゃんかなーって思って・・・」
「わ、分かった分かった・・・。ありがとう」
「・・・乗ってくれる?」
「乗っていいのか?昨日、」
「嘘よ。ちょっと、意地になっちゃって・・・あの、乗って。ね?」
傘に2人で入り、車に向かう。
助手席に促されたので素直に滑り込む。
スーツが濡れていた。
「ハンガー持ってきたよ。あと、寒いかなって思って、上着・・・あ、こっちが先。タオル」
「あぁ・・・ありがとう。悪いな」
タオルを受け取って頭を拭く。
千蔵がしどろもどろ話し出した。
「・・・あのね、ほら・・・同棲、ね?早めてくれたでしょ?」
「ん・・・?あぁ、そうだな。本当は今くらいの時期にと思ってたんだった。何だ、急に」
「・・・いつも、雨が降ると大変だなって思ってて・・・一緒に暮らし始めてから、迎えに行けるようになりたいなって、思うようになったの・・・」
「・・・あー・・・だからお前、車欲しがってたのか」
「・・・結果、めちゃくちゃかっこ悪いんだけどね・・・。道に迷うし雨の運転怖いし・・・あはは・・・」
照れたような、情けない笑顔で笑う。
なぜか、ぐーっと心臓が鷲掴みにされた。
こいつ、ときどき格好いいんだよな。
いつもは泣き虫で情けないのに、変なやつ。
だから面白いし、一緒にいて飽きないのだけど。
ジャケットを脱ぎ、ハンガーにかける。
ついでにベルトを外し、スラックスも脱ぐ。
ワイシャツと下着だけの姿になると、千蔵は肩を揺らして窓の外に顔を向けた。
「靴もびしょ濡れだ」
「着替え、あの、一応、一式持ってきてるよ」
「ありがとう」
「・・・あの、職場だけど、大丈夫・・・?あ、後部座席行く?」
「・・・確かに。車出せ」
「う、うんっ。あ、お腹空いたよね?」
「じゃぁ、言う通りに進めろ」
後部座席には行かず、助手席に座ったまま道を案内する。
実家の前を通り、小高い山へ向かった。
千蔵の口数は減り、雨の音とエンジン音がよく響いていた。
無言のまま登り、開けたところが見えてきたところで声をかける。
「ここだ」
「・・・あの、ここって・・・」
「東側の展望台だ」
「・・・えーっと、着替えないの?」
「・・・着ていいのか」
「・・・や、えーっと・・・期待しちゃうよ?」
「おれは期待してる」
「えー!!えー!!本当に!?いいの!?車でしていいの!?」
ぐるんっと勢いよく顔がこちらに向く。
後頭部を押さえつけて引き寄せ、無理やりキスをした。
舌をねじ込んで、口内を引っ掻き回す。
千蔵はすぐにおれに馬乗りになると、シートを倒した。
「お前の口の中、甘いな」
「エロすぎ・・・美喜ちゃん・・・本当にいいの?」
「お前だってその気だろうが」
「・・・えへへ、バレた?」
「おれが気づかないと思ったか?シートの下に置いてあんだろ」
「んー・・・やっぱ美喜ちゃんにサプライズ仕掛けるの、難しいなぁ・・・」
「単純すぎるんだよ。でかい車が良かったのも、カーセックスしたいからだろ」
「そうだよ。そうですよ。だって小さいと窮屈かなって・・・あ、でもね、オープンカーは、本当に純粋に、美喜ちゃんと乗りたかったから欲しかったの。それは分かってね」
「・・・まぁ、いつか機会があったらな」
「嬉しい。じゃぁ、おじいちゃんになったら乗ろうよ。かっこいいよきっと」
「手を繋いでか?」
「そうだよ、もちろん」
2人で少し笑い、もう一度キスをする。
千蔵は少し屈んでシートの下を漁ると、コンドームとローションを取り出した。2つとも新品だった。
ビニールを外しながら言う。
「このさ、新品のやつを開ける時って、興奮しない?」
「別に。なんで?」
「もう何個使ったんだろうって、しかも、ずーっと同じ人とさ・・・。ずーっとずーっと愛し合えるんだ、愛し合ってるんだって思うと、たまらない気持ちになるの」
「・・・そうか。考えたこと、なかったな。そう考えると少し興奮する」
「あ、今少し動いたね」
指の腹で下着越しに撫でられる。腰を揺らすと、窮屈そうに体勢を変えておれの顔の横に手を置いた。
「後ろ、行くか?」
「ここでしたいの」
「・・・足広げらんねぇ」
「んもぉ・・・うつ伏せになろ」
手を添えられ、ぐるりとうつ伏せになる。
パンツを少しだけずり下ろすと、ローションを垂らした。
「うわ、」
「パンツ履いたままね。シート汚れちゃうから・・・。ま、すぐ拭けるけど」
「・・・わざわざ革張りにしたの、このためか?」
「そーだよ?だってシミになると怒るかと思ったし」
「お前な・・・」
だから新車にこだわったのか。
煩悩の塊だな、こいつ。
「お尻だけ出してするってすっごく興奮する!青姦の醍醐味ってこれだよね!厳密に言うと車の中だけど!でも興奮する!」
「この、ど変態が・・・ううっ!?」
「丁寧にできないのも、背徳感があってゾクゾクする・・・」
こじ開けるように指が入ってくる。
前戯もなかったし、心の準備というものが整ってなかった。
息を詰めてしまう。
「美喜ちゃん、息して?」
「ふ、はっ・・・あー・・・」
「いい?」
「ん・・・」
撫でるように指で遊ぶ。
たった一点の小さな快楽の粒を押しつぶされたり、引っ掻かれたりするだけで、前は苦しくなり背筋は震えた。
「あぁっ、」
「美喜ちゃん、もっと上にいける?」
ヘッドレストを掴み、体を引きずる。
千蔵がのしかかってきて、腰を押し付けた。
秘部に触れる熱いペニスに、ため息が漏れる。
「足、広げなくていいのか、」
「このまま。すっごく狭いところにねじ込みたいな・・・いい?」
「いいもなに、もっ、くぅっ・・・!あ゛ぁーっ・・・!」
割って入ってくる熱いペニスに、だらしない声が漏れる。
雨の音がする。誰もいない。車の中で、2人きり。
分かっているのに、声を必死に殺してしまう。窓の外に目をやり、カッと顔が熱くなる。
千蔵が呻いた。
「あぁっ・・・あっぶな・・・出ちゃいそうだった・・・どうしたの?」
「な、にがっ・・・く、ぐ、・・・!」
ヘッドレストを強く掴む。
おれは、なぜ、こんなところで。
迎えにきてくれた千蔵が、不覚にも格好良くて。
触れてほしくて、我慢が利かなかった。
家に帰れば良かったのに、わざわざこんなところに来て、車でなんて。
いや、車で、抱かれたかった。
おれと千蔵の場所だと刻みつけたかったのだろうか。
窓の外に目をやって、目が眩むほど恥ずかしくなって、冷静になった時はもう遅くて。
「美喜、ちゃんっ・・・!ねぇ、締めすぎだよ・・・?どうしたの?気持ちいいの?」
「しゃべんな、ばかやろぉ・・・!」
「舌、まわってないよ?ねぇ、どうしたの?気持ち良すぎるの?それとも、」
「うるせぇ!喋んなって、言ってんだろ!」
耳を押さえて顔を隠す。
千蔵が体を離し、背中に指を這わせる。
感じないように意識を逸らそうとすると、腰を強く押し付けられた。
「あぁっ!」
「・・・」
「あ!いぅっ!?」
ガリっと爪を立てられた。
顔だけで振り返ると、無表情の顔がこちらを見ていた。
「はぁっ、はぁっ、」
「・・・」
「・・・なんだ、ゔあっ!」
髪の毛を掴んで無理やり体を持ち上げようとする。
歯を食いしばると、千蔵の頬に汗が伝った。
口角を限界まで上げると、舌で唇を撫でた。
喉の奥で笑い、手を離す。
「はぁっ!くそったれ、なにす、」
「急に冷静になって、恥ずかしくなったんだ?」
「っ!」
「ふふっ、ふ・・・!かっわいぃ~・・・!だーから締まるんだぁ・・・!恥ずかしくて、お尻に力が入って、僕のこと締め付けて、気持ち良くなっちゃうんだ?それでまた、恥ずかしくなるの?最高に可愛いじゃん・・・!ねぇ、大好き!可愛い!もっと声だそ??」
「うぁっ!はぁ、あぁっ!んあ゛ぁあ!」
足を固定され、腰を叩きつけられる。
起き上がれないように背中に手を当て、何度も何度も、叩きつける。
乱暴なセックスなのに、嫌気がささなくて驚いた。
むしろ、これが、本来の千蔵のセックスなのかもしれない。
こちらに気を使うこともなく、がむしゃらに動くこの、欲を吐き出すだけのセックスに、ひどく興奮する。
ヘッドレストに自分の涎が垂れていることに気づいた時、もう、我慢の限界だった。
圧迫されたペニスが苦しみ、もがいている。
腰も、熱くて、苦しくて、気持ちいい。
「あ゛、あ゛、あ゛ぁっ、」
「すーごい・・・締め付けぇ・・・気持ちいいよ・・・大好き、大好き!」
「いく、い、・・・!いく、千蔵、あっ・・・」
「え?もう?やだ、我慢して・・・?まだしてたいの。まだ、したいのっ」
「いき、たいっ・・・いきたい、いきたい、もう、無理、無理っ・・・」
うわ言のように、何度も繰り返した。
もう、多分、何度もいっている。
千蔵のペニスが中で大きく跳ねるたびに、締まり、その度に目の前がチカチカして、体が痺れて甘くなっていく。
ヘッドレストを掴んでいた手はだらしなく垂れて、腰の動きと同じリズムで揺れていた。
「美喜ちゃん、もう飛んだね?」
「うあぁっ・・・も、いく・・・いかせ、」
「いかせてほしい?僕にっ、」
「千蔵、千蔵・・・」
「可愛いー!可愛い!大好き!ねぇ、好き!美喜ちゃんは?ねぇ、教えて?美喜ちゃん、美喜ちゃん・・・!」
「す、き・・・好き、・・・あぁっ・・・いきたい・・・千蔵・・・!」
「せーし、いっぱい出していいよ・・・嬉しいな。大好きよ・・・」
手をねじ込まれ、ペニスを掴まれた。
同時に腰を深く押し付けられる。
普段滅多に入ってこない最奥に触れた時、体が激しく震え、外まで響くほど大きく喘ぎ、ペニスが痛くなるほど射精した。
******************
「はー・・・」
「・・・今日は僕、怒られることしてないよね?!ね!」
「・・・してねぇ」
「・・・お、怒ってない?」
「自分が情けなくてキレてる」
「・・・情けないかなぁ?本能に忠実だっただけでしょ?」
気持ちよくて気絶して、後始末を全部してもらって、山を下っている途中に目が覚めた。服は適当に着せられていた。多分狭い車内で四苦八苦したのだろう。シャツは前後が逆だった。
「腰がだるい」
「多分まだ立てないんじゃない?はい、どうぞ」
渡されたのはドライブスルーで買ったのだろう、ハンバーガーだった。
多分、おれを寝かせておくためにそこら辺をうろうろしていたのだろうか、割と遠い店舗のものだった。
まだ雨は降り続けているのに、頑張ったみたいだ。
「・・・ん、これうまいな」
「食べたそうにCM観てたよね」
「よく分かったな」
「分かるよ。分かりやすいもん」
「お前だけだ、そういうことを言うのは」
「愛の力!ねぇ、またしようね」
「・・・しない」
「んもぉー!本当に素直じゃないなぁ!」
指を絡められ、強く手を握られる。
千蔵は緊張した顔でハンドルを握ると、アクセルを踏んだ。
「おい、」
「ごめん怒られたくないから言わなかったけどずっと練習してたの!」
「・・・んぁ?早口すぎて分からん」
「怒らないでね!」
「何を」
「昼間美喜ちゃんがいない時に、練習してたの・・・あ、近所だけよ?あと晴れの日」
「まぁそうだろうな」
「えぇ!?知ってたの!?」
「ガソリン減ってるし、運転もまぁ、多少は安心できるようになった」
包み紙を丸めながら答えると、驚いた顔がこちらを見た。
前を見ろと言うと、怒らないの?と聞いてくるので、そこまで怒られたいならと握り拳を作って見せてやる。
「やだやだ怒らないで!」
「怒っちゃいない。そもそもお前の車だし、あんだけ乗りたがってたんだから、普通乗るだろ。それに、何かあればすぐ連絡して来るんだから、まぁいいかと思ってな」
「そーなんだ・・・信頼してくれてるんだ。嬉しい」
「まぁ、多少は」
「じゃあ手すりにある手、そろそろ離さない?」
「離さない。死にたくない」
「ひ、ひどい!!安心できるって言ってたじゃない!」
「多少、の少の方だからな」
「~~!で、でもさ!僕が運転してるの見てときめいたから車の中でしてって言ってくれたんでしょ!?我慢できなかったんでしょ!?」
「そうだな。不覚にもときめいたな」
いきなり急ブレーキを踏まれ、がくっと体がつんのめった。
ゴン、と鈍い音もする。
「おいっ!」
「も、やだー!運転できないー!」
後ろからクラクションが鳴らされる。
頭を叩いて発進を促す。
千蔵はハンドルにぶつけた額を撫でながらアクセルを踏んだ。
「何してんだお前は」
「だって、だって、可愛いこと、言うから・・・!もう、無理だもんっ、我慢できないもんっ、エッチしたいよぉ~・・・!」
「アホなこと抜かしてんな。さっさと帰れ」
「帰ったらしていい?いいよね?」
「さっき散々、」
「顔見て、してないもん。お願い」
必死で余裕のない顔が、赤信号の色に照らされる。
ぎゅーっと、また、胸が苦しくなる。
返事をするとまた余計なことが口からこぼれそうだったので、窓の外に目をやり、手を握り返してやると、千蔵も強く握り返してきた。
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航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
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