Black and White

和栗

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※甘やかしたいの

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インターホンを押しても誰も出ない。
留守なわけではないのは知っている。
居留守か、と言われると少し違う。
渋々合鍵を使って中に入る。
人がいる気配がしないのは、生活感が薄いせいだろうか。
廊下を歩いて曇りガラスがはめ込まれたドアを開けると、きれいに整頓されたリビングダイニングが現れた。キッチンもシンクも綺麗だ。
ため息をついて後ろに下がり、廊下に並ぶもう2つのうちの1つのドアを開けると、異世界に飛び込んだように汚い部屋があった。
本当はドアのすぐ横に壁があったのにぶち抜いて、大きな1部屋にしたここは、やつのアトリエだった。
絵の具やキャンバスの香りが濃く渦巻くそこは、本来なら足を踏み入れていいはずの場所ではないのに、こいつはよく、入れ入れと促してくる。
こいつ、目の前にいるこいつは、高校からの友人で、ここの家主。場垣内千蔵。
スケッチブックが散らばる床の上で死んだように眠っていた。
「千蔵」
足先を蹴飛ばす。無反応。
ふと目線を開けると、部屋のソファで裸で寝転がるおれがいた。
高校の頃に千蔵がでかでかと描いた絵だ。
懇願されてモデルをした、最初の絵。
「・・・なんでこんなもん引っ張り出してんだ」
「だって、美喜ちゃんなかなか来てくれないから」
返事が返ってきて目線を下に戻すと、眠そうにあくびをする千蔵が仰向けになっていた。
「・・・悪かった」
「・・・やだぁ、素直。可愛い」
「帰る」
「や、も、ほんと、ごめんなさい。ごめんなさい帰らないで」
「お前、また飯忘れたな」
「食べてたよ。だいぶ適当だったけど」
「そうか。じゃぁ作らなくていいな」
「やだ。なんでいきなり意地悪するのよ。我慢してたんだから甘やかしてよ。で、甘やかしていい?美喜ちゃんのこと」
よいしょ、と言いながら起き上がると、同じ目線の高さになった。
綺麗な白い髪と肌だった。
汚れが目立たないようにと着ている黒い服のせいで、一層白が際立つ。
まぁ汚れが目立たないように、といいながら、いろんな色の絵の具やらスプレーをつけているから、派手なんだけども。
細くて白い腕が首に回る。
千蔵のグレーの瞳が、なぜか赤く燃えて見えた。
「ね、甘やかしたいのよ」
「・・・風呂」
「全身洗わせて」
「飯は」
「一緒に作りましょうよ」
「まぁいい」
「あ!あとトイレも一緒にいきましょ?ね!」
「・・・もう済んでる」
小さく答えると、千蔵の頬が真っ赤に染まり、目を大きく見開いた。と思ったら、唇を噛んで目を細め、体を震わせた。
「・・・お前な・・・」
「は、反則よぉ・・・いっちゃったぁ・・・。もうー・・・どうしてそんな、可愛いの・・・」
少し呼吸が乱れていた。
深いため息が漏れて、バシッと頭を叩く。
「お前な、一緒にいて10年だぞ?何をそんな興奮する事があるんだ」
「いや、なんかもう、セクシーさが増し増しで追いつかないのよ!昔は可愛いのとかっこいいだけだったからまだ我慢できてたのに、今はそこにセクシーが追加されてるの!無理じゃん!我慢できっこないじゃん!」
「あー、そう・・・」
「やーん、もう、恥ずかしいー!ね、一緒にシャワー浴びよ!」
抱きつかれた。と思ったら、バッと体が離れた。
まじまじと顔を見てきて、目尻を下げる。
「美喜ちゃんのスケベ」
「嫌いか」
「え、ちょっと、やだ、やだぁ・・・。その聞き方ズルい・・・」
胸ぐらを引っ張って顔を寄せる。
絵の具の匂いがした。

******************

「あっ・・・!く、そ・・・。てめ、」
「ねぇ、溜まってた?すごいよ・・・」
シャワーに打たれながら、壁についた手に力を込める。
バチャバチャとうるさく床に落ちていく。
ぜーぜーと喉の鳴る音がした。
自分の呼吸だ。
ペニスを握る白い手の動きは、絶頂に昇り詰めようとすると止められる。
「ぐぅ、っ・・・!」
「ごめんね・・・でもね、2ヶ月だよ?触れてないの」
「ねちっこいんだよ・・・!さっさとしろ!馬鹿野郎が!」
「いや。もっと触っていたい」
振り返って千蔵を見る。
一発引っ叩いてやろうと思ったが、すぐにそんな気は失せた。
千蔵の切羽詰まった表情を見たら、どうでもよかった。
「はっ・・・!てめーだって、もう、」
「うん、そろそろ限界なんだけど、我慢してる」
「さっさと、しろって・・・」
「だめ。まだほぐしてないよ」
「・・・はっ・・・!あ、あっ、」
ゆるゆると手が動き出す。
目が眩む。
脳みそがふわふわした。
「せ、ぞ・・・!」
「美喜ちゃん・・・ね、もう少し・・・」
「も、無理だって・・・」
体の芯が熱い。
体内で快感が渦巻いている。
「んぁ、ぁあ・・・!千蔵、あ、あ、シロ、」
「美喜ちゃん、すごい可愛い。腰動いてるよ」
「も、いく・・・!いかせろ、いき、・・・」
「やっと甘えん坊になってくれたね」
耳元で囁かれた。
腰の動きに合わせて手の動きが速くなった。
長く長く喘ぐ。
まるで鉛でも吐き出すように、壁に向かって射精した。
ドロドロと、ゆっくりと滑り落ちていき、排水溝に流れていく。
それと同時に膝から崩れた。

******************

「調子乗りすぎだ馬鹿野郎!」
「なによぉ!殴らなくてもいいじゃなぁい!」
いつの間にやらダイニングに移動していたベッドに寝そべりながら、苛立ちを含んだため息を漏らす。
風呂から出た後、このベッドで散々やり倒した。
どっぷりと日が暮れている。
2ヶ月ぶりに会ったのだ。分からなくもない。分からなくもないが、休む間もなく抱き潰されてさすがに疲れたし、他にもやりたいことがあったのにそれも忘れた。
「責任取れ馬鹿野郎が」
「んもぉ・・・顔が痛いよ・・・」
「こっちは全身がいてーよ」
「・・・ねぇ?あえないとき、寂しかった?」
するっと隣に滑り込んできて、腰に手を回してくる。
嫌ではない。
心地よく感じることの方が多い。
「・・・寂しかねぇ」
「・・・そっかぁ・・・。僕は寂しかった。会いたくて会いたくてたまらなかったよ。ねぇ、まだ帰らないよね?」
「帰れねぇ、これじゃぁ」
頬をつねる。
千蔵は少し寂しげに笑うと、そうだね、と言った。
「次はいつかなぁ・・・会えるの」
「・・・寂しかねぇが・・・」
「え?何?」
「心配はしてる。飯食ってるかとか、生きてるかとか」
「・・・え、あ、」
「帰れねぇ理由は、お前がここにいるからだ」
「・・・へ?・・嘘っ、・・・」
「帰りたくねぇ・・・分かれよ・・・」
「・・・ほ、本当・・・?ねぇ、美喜ちゃん・・・」
「・・・嘘ついてどーすんだ」
腰に手を回してもっと近づく。
千蔵はゆっくりと瞬きした。涙が一筋落ちた。
「嬉しい・・・」
「・・・バーカ」
「寂しかった。会いたくて、家に行っちゃいそうだったよ」
「くんなよ」
「じゃぁ、じゃぁ、美喜ちゃん、もっと来てくれる?」
「・・・もー黙れ、お前は」
唇を押し付ける。
少ししょっぱかった。
悪い気はしない。


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