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和栗

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「・・・」
「んふふっ。今日はこれにしよっかな。どうかな」
「・・・似合うよ」
「えー?本当?嘘じゃない?なんか、間があったよ?」
「・・・嘘はつかないよ」
「本当に本当?じゃあこれ、着ようかなぁ。この色かっこよくて好き。Tシャツはこれにして・・・今日は暑いから本当はハーフパンツがいいけどー・・・日が当たるともっと暑いよねぇ」
「・・・うん」


は??

は????


ねぇ。
見て??
今の状況分かる?


涼くんがね、クローゼットを漁って、おれの、チノパンを出して、履いてんの。
しかも、当たり前のように。
「んしょ。お待たせ。行こう?」
「・・・うん、」
「・・・あの、どうかしたの?・・・瞬きしてる?」
「してる」
「・・・あ、これ履きたかった?」
「ううん。似合ってる」
あんっなに。
あんっっっなに遠慮しまくりでいつも小さいことを気にしてばっかりで自信なさげにしていて何をするにも声をかけてくれてた涼くんがね??
好き勝手におれのスペースに入ってきておれの服を身につけてるんだよ。
信じられる?
何、この、可愛さ。
「大丈夫?」
「うん。いつでも着てね」
「ありがとう。これ好きなんだー。行こー?」
きゅうっと指先を握って引っ張ってくる。
これから、そう、本屋に行って、えと、どこ、行くんだっけ?えっと、えっと。
え?????
可愛すぎて頭バグってんだけど??
「和多流くん・・・どうしたの?出かける気分じゃない?」
「・・・あの、ごめん、今パニック」
「へ?仕事?」
「いやいやいやいや、あなたが可愛すぎるんですよ」
「あ、あなた??」
「待って待って。可愛すぎる。だってさ、だって、は??何?自覚ないの?彼パン履いてんだよ?」
「か、彼パン・・・??あの、ごめん。着替えるね?」
「なんで?え?ベッド行っていいってこと?」
「ねぇお願いだから、落ち着いてよ。あのさ、んと、おれ運転しようか。和多流くん、少し外に出て落ち着こうよ。コンビニでね、スムージー売ってるんだって。それ飲んでみよ?ね?落ち着くかも」
「スムージー・・・はい、飲みます。絶対可愛い。絶対似合う」
「に、似合うって・・・あの、とりあえず外行こ?ほら、ね」
背中を押されて外に出る。
車に乗り込んで涼くんがハンドルを握った。おれのチノパンを履いて・・・運転してくれる・・・可愛いのにかっこいいし超絶可愛い!!
「あの、見過ぎ!!なんなの!?」
「可愛い!!大好き!!」
「分かったから落ち着いてよ!」
「分かってない!!ちっとも分かってない!!もっと自覚して!!おれに愛されてる自覚をして!!」
「な、何言ってんの、もぉ・・・」
て、れ、て、る・・・!!
可愛いよー・・・!!
と思っていたら。
ちょん、と指先が触れた。隣を見ると、ん、と手を差し出された。指を絡めると、唇を突き出す。
「自覚、してますよ」
おいおい・・・。
自覚してて、これ?はい?あざと・・・。
ずるずると体が落ちていく。
可愛い・・・おれ、原型留めてられてるかな・・・。



******************************



「ブックカフェっておしゃれだね。今はどこにでもカフェがあるんだね」
大きな本屋の片隅にカフェが併設されていた。
長ったらしい名前のコーヒーを2つ頼んで席につき、ストローを咥える。
涼くんは本を買ってご満悦。おれはそんな満足げな涼くんを見てご満悦。
「花カフェも今度行こうね」
「うん。前は入れなかったもんね」
「若者の店だから少し気まずいけど」
ぽろっとこぼすと、途端に顔をしかめた。
ギョッとして見つめると、ぷいっとそっぽを向いて頬杖をつく。
そこから無言。無言を貫きあっという間にコーヒーは無くなり、氷だけになった。
「あの、涼くん?」
「・・・」
「おかわりする?」
「・・・」
「ケーキあったよ?食べる?」
「もう和多流くんとどこにも行けないね」
「え!?」
「帰ろ」
「待って、ごめん」
「何が」
「いや、その、・・・だってさ、こんなおっさんが可愛いお店に入ったら浮くじゃん?さっきのは自虐的な・・・冗談といいますか」
「卑下する言い方するなっておれに散々言ったくせに、自分はするんだね」
「事実だし」
「おれのも事実じゃん」
「違うよ、涼くんのは思い込みだよ」
「そんなこと言ったら和多流くんは自意識過剰だよ。みんながみんな、和多流くんを視界に入れると思ったら大間違いだから。みんな自分の世界に浸ってるんだよ。おしゃれなお店でコーヒーを飲む私って」
ぐうの音も出なかった。
可愛いお店におっさんが入ってきたからって、そこにいる全員がおれを見るわけではないのは、確か。
恥ずかしいな・・・。
「ごめんね」
「いいよ、行かないから」
「・・・」
「・・・」
「・・・本当に行かないの?」
「・・・行きたいよ」
「行こう?」
「・・・うん」
「よかった・・・」
「・・・おれだけ見てれば」
「え?」
「お、おれだけ見てれば・・・他の人のことなんて視界に、入らないでしょ。だから、その、周りの目なんか、気にならないでしょ・・・」
ぽぽっと顔を赤くして、目を逸らして小さく言った。
失礼なことを言ったのにまさか、まさかこんなことを言ってくれるなんて。
テーブルの下で足を絡めると、こつんとつま先を蹴ってくれた。
可愛いなぁ・・・全部おれのものにしたい。
「うん、涼くんだけ見てる・・・」
「・・・ら、来週行く?」
「うん」
「・・・やっぱり、ケーキ食べよっか?」
「どれがいい?買ってくる」
「ロールケーキがあったね」
「一口もらっていい?」
「うん」
ロールケーキを買って、2人で食べる。
涼くんを見つめていると、周りのことなんて気にならなかった。


******************************


「・・・さっき、自意識過剰って、言っちゃったけど」
「え?」
晩御飯の最中、涼くんがポツリと呟いた。
首を傾げると、やっぱり何でもない、と言って食事を進める。
気になってじーっと見つめると、そっと視線が合わさった。
「何?気になる」
「・・・自意識過剰、の、ままでいいからね・・・」
「え?何で?」
勘違いおじさんって、気持ち悪くない?
涼くんに言われたから改めなきゃって思ってたんだけどな。
「・・・モテるから、そのくらいで丁度いいよ」
「・・・モテないよ?」
「鈍ちん」
「それは涼くんでしょうが」
「和多流くんだよ!もぉっ」
「怒りんぼ」
「・・・おれのこと不安にさせたいんだ?」
「ん!?」
「そうやってさ、モテませんって顔しておれのこと不安にさせるんだ?和多流くんのことを好きになる人、たくさんいるのに」
「・・・あのさ」
涼くんの肩が跳ねる。
ぱぱっとご飯を口に押し込んで立ち上がり、食器をシンクに置いた。
「ご馳走様」
「涼くん」
「洗濯畳んでくる」
早足にベランダに出てしまう。箸を置いて追いかける。
「涼くん」
「・・・」
「・・・可愛すぎ」
抱きしめて顎を掴み、唇を塞ぐ。あーあ、外だし、丸見え。見てる人なんていないだろうけどさ。
涼くんはジタバタともがき、おれから離れた。
タオル類を素早く取り込んで部屋に戻ろうとする。腕を掴んでもう一度抱きしめる。
「毎度毎度、ヤキモチの妬き方が可愛いよね」
「ちょ、そ、外だからっ」
「うん、外だね」
「離して」
「自意識過剰までとはいかなくても、ちゃんと牽制しますよ」
「・・・優しいからつけこまれるくせに」
「言うねぇ。つけ込んでよ、涼くん」
「・・洗濯物、取り込んで!」
「はーい」
2人分の洗濯物を取り込んで、窓を閉める。がぶ、と首筋に噛み付くと、体が飛び跳ねた。
「ちょ、」
「今日、可愛すぎるよ。どんだけ我慢したことか」
「ご飯、途中でしょ!?」
「すぐ食べます」
「・・・食べたら入浴剤、入れといて」
「うん」
「・・・頭、洗って」
耳まで赤くして、小さく小さく甘えてくる。









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