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和栗

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二人の小話

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「・・・かっこいい」
ぽつ、と呟いた一言に首が折れるんじゃないかって勢いで振り返ってしまった。
今、かっこいいって、言った?
「え、」
「え?・・・あ、んと、かっこいいなぁって」
「本当?」
「うん。襟曲がってる」
ちょんちょんとポロシャツの襟を直してくれる。
たまには着るか、と思って引っ張り出した、ネイビーのポロシャツ。ジーンズを合わせていたら涼くんが部屋に入ってきて、照れたようにおれを見ていた。
「似合う?」
「すごく似合うよ。・・・えへへ、えへへへへ!照れちゃう」
「えー?ふふふ。似合う?かっこいい?」
「袖がピチってしてるの、羨ましいなぁ。筋肉がよく分かるし。おれが着ても、幼くなっちゃうからさ」
二の腕を触って、ニコニコ笑う。
この、やらしさのかけらもない触り方に興奮するのって、おれだけじゃないはず・・・。
くっと力を入れると、ぱっと笑顔が大きくなって更に力を入れて触ってくれた。
これから出かけるのに、我慢できない。一回くらい、してもいいよね・・・??
「涼くん、」
「おれも久々にポロシャツ着ようかなぁ?ボーダーの・・・これこれ」
パッと手を離してベッド下の引き出しを漁り、ネイビーとクリーム色の太めのボーダーのポロシャツを出した。
あぁ、お預けだ・・・。
「似合うよね、それ」
「え?和多流くんの前で着たことあったっけ?」
「うん。付き合う前に1回見たよ」
「・・・よく覚えてるね」
覚えてますよ。久々に服を買ったって、ニコニコしながら教えてくれたね。
安いんだよって、セールで990円だったって、おれに話してくれたよね。元値が1990円で1000円も値下がりしてたんだって、嬉しそうに。
いつかこれでもかってくらい服を買ってあげたいって、あの時も思ったんだよ。
「可愛いね」
「かっこよくなりたいなぁ」
「可愛いの中にかっこいいが入ってるんだよ。それを着たら行こうか」
「うん!展望台って初めてだ」
「展望台の下の階のレストランでお昼食べよう」
「えー?高くない?大丈夫かな」
「たまのことだし」
「でもおれ、高いところよりファミレスの方が好きだよ」
「知ってまーす。でもたまにはさ?デートなんだし」
「・・・デートだから?」
「そう、デートです」
「くふっ」
「ふふっ。行こ?」
手を繋ぐ。
その日かっこいいと言われたおれは浮かれっぱなしでした。



******************************



夜中、ぎゅむ、と腕に抱きつかれた。
あまりの強さに目を覚ますと、歯を食いしばって眉間に皺を寄せる涼くんがしがみついていた。
「涼くん?」
ふーふーと呼吸が荒く乱れて、そっと額に手を置く。汗をかいていた。
「涼、起きて。涼」
「ぐ、」
更に力が強くなる。肩をゆすって大きな声で名前を呼ぶ。
「涼!!」
「あぁっ!!は、はぁっ!!え?!え?」
バチっと目を開けて、涼くんは肩で息をしながらおれを見た。
腕に爪が食い込んで、少し血が滲んでいた。
「大丈夫?」
「・・・よ、よかった、」
「え?」
「出ら、れた・・・やっと、出られた・・・」
「涼くん?」
「ありがと・・・和多流くん・・・」
安心したように息を吐き、少し涙をこぼしてまた目を閉じた。寝かせてはいけない気がして、もう一度体を揺らす。
涼くんはぼんやり目を開けると、瞬きをした。
「大丈夫?うなされてたよ」
「・・・あ、うん・・・怖いところ、に、いた・・・」
「そうなの?」
「・・・ロッカーに、閉じ込められたこと、あって・・・玲ちゃんが宿直の先生と、見つけてくれたんだけど・・・怖かったな・・・」
「もう誰もそんなことしないよ。閉じ込めるとしたら、おれが涼くんを閉じ込めるだけかな」
「・・・え?どうやって?」
「こうやって」
抱きしめて頭を撫でる。
涼くんは嗚咽を漏らしながらしがみついた。
「もう大丈夫だよ。おれがいるからね」
「うん、うんっ。夢で、誰かの手が、そこにあって、掴んでないと落ちちゃいそうで、怖くて、」
「よかった、見つけてくれて。おれの手って分かった?」
「離れないように、必死に、だって、優しくて、」
「いつでもそばにいるからね。安心してね。大好きだよ」
怖い夢を見ないように、何度もキスをする。
泣き疲れて眠った涼くんを抱きしめて、頭を撫でる。大丈夫、大丈夫。おれが護るから。だから、ゆっくりおやすみ。



**************************



「・・・ごめん、」
「謝らないでよ。何も悪くないんだから」
雨がしとしと降り続く日々。涼くんは気圧の変化に耐えられなかったのか頭痛を訴えてベッドに寝転んでいた。
薬を飲ませてみたけど、なかなか痛みは引かないみたいだ。
「今日、行ってきて大丈夫だからね・・・」
「え?」
「ほら、飲み会・・・。前から決まってたやつ」
「もう断ったよ」
「え?」
ゆっくりと起き上がり、目をぱちぱちさせる。
そんなに驚くことかな?
「え、なんで?」
「何でって・・・涼くんといたいから」
「でも、」
「ていうか、心配で飲んでる場合じゃないから。飲み会なんていつでも行けるし、今は涼くんのそばにいたい」
「楽しみにしてたのに、」
「そんなものより心配の方が大きいよ。ご飯食べられそう?お昼、食べなかったよね」
涼くんはフラフラしながらまたベッドに倒れた。
肩まで布団をかけて頬を撫でると、きゅっと目を閉じた。
「ごめんなさい」
「涼くんだったらどうした?」
「え?」
「逆の立場だったらどうした?」
尋ねると、目を開けておれを見つめ、行かない、と小さく答えた。
「でしょ?おれもそうなんだよ」
「・・・うん」
「温かい飲み物淹れてくるね。カフェインはやめておこう。ルイボスティーだっけ?入ってないやつって」
「ん・・・」
きゅっと指先を握られた。握り返すと、少し目を潤ませて見つめられた。
覗き込むと、少しだけ微笑んで目を閉じた。
「いてくれて、ありがとぉ・・・キスして、」
「ううん。いさせてくれて、ありがと・・・。気分が良くなったら撮り溜めたドラマ観ようね」
「うん。えへへ・・・独り占め・・・」
「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいな」
「・・・もう一回、キス、」
して、と言われる前に塞いでしまう。
おれだってたくさんしたいもん。


*****************************



「あ!!!分かった!!」
いきなり涼くんが叫んだので、驚いてコーヒーを吹いた。
慌ててテーブルを拭いて服についていないか確認する。涼くんはニコニコしながらやっとしっくりきたよと言う。
「和多流くんて外人さんみたいなんだ!」
「・・・純日本人だけど??」
「行動とかが!」
「どこが」
「とにかくキスをしてくれるし、呼べばすぐにきてくれるし、送り迎えしてくれるし、毎日好きって言ってくれるし、ご飯もいつも大袈裟に褒めてくれるもん」
「・・・え、好きな人にはみんなそうじゃないの?」
「でも、おれ、してないよ?」
「・・・え?」
キス、してくれるじゃん。呼べばニコニコしてくれるし、必ず帰ってきてくれるし、好きって言ってくれるし、毎日ご飯作ってくれるじゃん。
好きじゃないと、しない、よね!?え!?ただのルーティンってだけなの!?
「す、好きじゃないってことっすかね・・・?」
「へ!?だ、大好きだよ?でもおれ、和多流くんみたいに表現してないし・・・たまに伝わりづらいから、申し訳なくて・・・」
「・・・伝わってますけど」
「えっ。本当?よかった・・・」
「て、いう、か・・・んと、」
「和多流くんみたいにスマートにプレゼントを贈ることもできないし・・・甘やかすのもぎこちないだろうし・・・」
「プレゼントなんて毎日もらいすぎてるし、甘やかすのがぎこちないって何?毎日ドロドロに甘やかされてるよ?」
「ほ、ほんと?えへへ・・・でも、プレゼントはしてないよ?」
「してる!してくれてるよ・・・。きっと、分かんないだろうけど・・・」
朝起きて、隣で安心しきって眠る顔を見て、どれだけ満たされてることか。
目が覚めて、驚いたり照れたり唇を突き出したり、呆れて笑ったり。今日はどんな顔を見せてくれるのかなって毎日毎日楽しみなんだ。最高のプレゼントなんだよ。
「和多流くん」
「・・・ん?」
「あの、嫌だった?ごめんね・・・」
ほら、おれの変化にもすぐ気づく。
想ってくれてるから、気づくんでしょ?
「んーん。・・・ちゃんと伝わってるよ、涼くん」
「・・・ほんと?」
「だから毎日好きなんですよ」
「・・・よかった」
安心したように笑って、ベッドに腰掛けてポンポンと隣りを叩く。素直に腰掛けて膝に頭を乗せると、ニコニコしながら頭を撫でてくれた。
優しく撫でるその手から、たくさんの感情が伝わってくる。しっかり受け止めて、手を握った。
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