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しおりを挟む「犬飼さんと映画観てくるね」
「軍司くんとお茶してくるね」
「玲ちゃんが仕事でこっちきてるから、お昼一緒に食べてくるね」
「和泉ちゃんのレポートの手伝いしてくるね。そのあと直哉と3人で少し、」
「あっそ」
ぷんっとそっぽを向いてしまった。
あれ?怒ってる?
何で?
「午後からだから、午前中は、」
「いってらっしゃい」
冷たい。
別にやましいことはしてないのになぁ。
ここ最近立て続けに出かけてるから?でも、休みのうち片方は和多流くんといるし・・・。
「来週、一緒に、」
「もう遅い」
「え?」
「・・・別に約束してたわけじゃないし?いいよ」
「約束?しなくたって一緒に出かけたりのんびりしたり、」
「おれだってそう思ってたけど、約束しないと涼くん、最近出かけちゃうもん。別にいいけどさ。束縛とかしたくないし」
「・・・あの、何が遅かった?」
「・・・別に、いいって。おれも出かける。戸締りよろしくね」
お財布と携帯をポケットに突っ込んで、車の鍵を持って外に出てしまった。
追いかけたけど、玄関が閉まる。
どこ行ったのかな。
仕事の休みが連休になってから、明日も休みだしって思ってほいほい誘いに乗ってしまっていたけど・・・。
和多流くんは嫌だったのかな。でもどっちかは必ず和多流くんと過ごしてるし、デートも、してるけど・・・。
一日は一緒にいるんだからいいじゃんって、思っちゃってたのかな。
顔に出てたのかな。
「藤堂さんに意見を求めないとダメなんじゃない?」
ズバッと言われて目を丸くする。
カフェのカウンター席でちらっと話をしてみると、和泉ちゃんはキーボードを叩く手を止めておれを見た。
「涼くん、結構1人で決めちゃうこと多いし」
「・・・そ、そう?」
「うん。変なところで遠慮するのに、自分の予定は自分で決めちゃうもん」
「た、たとえば?」
「分かんない。たまに話を聞く感じだとそういう印象。でも仕方ないんだよ。涼くんはずっと自分で決めて、自分の責任で行動していた人だもん」
「それは和多流くんもだよ」
「えっとー、若干違うかも?」
「えぇっ?」
「お待たせー。涼くん久々。元気?」
直哉がやってきた。
随分と大人っぽくなって、少し痩せたみたいだ。というか、引き締まった?
和泉ちゃんの隣に座ると、和泉ちゃんのピンキーリングに触れて眉を寄せた。
「んー、やっぱこの色、和泉っぽくなかったな」
「え?そう?可愛いってみんな褒めてくれるけど」
「ピンクゴールドにすれば良かった」
「え、あ、直哉がプレゼントしたの?」
「ていうか、課題かな。おれが作ったんだ」
ギョッとして手元を見つめる。キラキラ光るゴールドの指輪はシンプルでとても似合っていた。
「す、すげー・・・」
「習えば大体できるよ。あれ?涼くん珍しくネックレス着けてんのね」
「私も思った。モチーフついてる?」
「え?あ、う、」
つい狼狽えると、2人はニヤッと笑った。
パタン、とパソコンを閉じていきなり細い指でネックレスを引っ張った。
「うわっ!?」
「やーん、指輪付いてる!これ、ペアリング?」
「もしかしてプラチナ?すげーなぁ、藤堂さん」
「も、もういいだろ!」
「着けないの?んー?指輪焼けはないから、普段からネックレスなの?」
「いや、かなりうっすらだけど指輪の跡、あるぜ。休みの日だけつけてんの?仕事中は無理か」
「いいから!ったくもう!大人を揶揄うなよ」
「大人のくせに恋愛相談してきたじゃん」
「え?和泉に?なになに、喧嘩したの?」
「違うっ」
「涼くんが友達やらお姉さんやらと出かけまくって藤堂さん、拗ねちゃったんだって」
「へぇー・・・え??玲ちゃんと会ったの?!」
驚いたように目を剥く。和泉ちゃんはムッとすると、直哉の頬をつねった。
「いでででで、」
「玲ちゃんって誰?」
「おれの姉だよ。ずっと音信不通だったんだ」
「あぁ、じゃあお兄ちゃんの従姉?」
「そうそう。今度4人で会おうよ。和泉ちゃんの話も、したことがあるんだ。妹みたいで可愛いって」
「あー痛かった。和泉の存在は知ってるけど、会ったことないもんな。冠婚葬祭とかもなかったし」
「ふーん。どんな人?」
「涼くんと瓜二つ。年子だけど双子みたい」
「へぇー。会ってみたいかも」
「で、涼くんは藤堂さんが拗ねちゃって悩んでるの?」
「違うよ」
「拗ねる意味がわからないんだよね?私は分かるけど」
「え!?何で分かるの!?」
「涼くんはさー、バカだよね。自分勝手」
「はい!?」
和泉ちゃんの言葉に、直哉が目を逸らす。どこか居心地が悪そうだった。
「男って結局自分のことしか考えてないんだから」
「え、えぇ?」
「藤堂さんはさ、一日一緒にいたんだから次の日は別の人と、って考え方に不満があるんだよ」
「でも毎日一緒にいるよ?」
「だーかーら!それがそもそも失礼って話」
「え、あ?失礼、かな・・・」
「どーせ藤堂さんがいきなり1人で出かけたら、寂しくなるくせに」
朝のことを思い出す。
ポツンと取り残されて、一緒にスーパーに行きたかったのに、とは思った。
「2人は夫婦じゃないんだから、思いやりを持って大事にしないといなくなっちゃうよ」
「・・・はい、」
「毎日一緒にいるから満足って思ってるのは涼くんだけじゃないの?」
「・・・す、すごく、怒ってる?」
「まぁね」
チラッと直哉を見ると、気まずそうに窓の外を見ていた。喧嘩でもしたのかな。
仲直りはしたけど色々思い出したらイラついたのかも。
・・・和多流くん、どこに行ったのかな。
携帯を出してどこにいる?ってメッセージを送る。すぐにポケットにしまってパソコンを片付け、残った抹茶ラテを飲み干した。
「和泉ちゃん、もう一杯飲む?」
「うーん、少しお腹空いたかも」
「直哉は?」
「おれ?んー・・・おれはいいや。コーヒーあるし。和泉は何食べたいの」
「シフォンケーキ。イチゴの」
「買ってくるわ」
当たり前のように直哉が立ち上がった。
和泉ちゃんがポツリと言う。
「ずっとそばにいると思ったら大間違いなんだからね」
「何かあったの?」
「・・・何もないから怒ってんの」
「あ、あぁ、なるほど・・・」
「ちゃんと藤堂さんのこと構ってあげないと、パッと消えちゃうよ」
そんなことはないと、言いたかったけど。
そんなことはないって確証はどこにもないんだよね。
思えば、連休になって、舞い上がってたかもしれない。
最近人付き合いも増えてきて楽しくなってきて、和多流くんと出かけるのも近所ばかりだったかも。
旅行に行きたいねって言ってたな。遠出しようよって言ってくれてたな。
しばらくこのシフトだし、いつか行けたらいいなって、どこかで思ってた。
いつかじゃなくて、和多流くんはすぐにでも行きたかったのかもしれないのに。
連絡は返ってこない。怒ってるのかな。
それとも、誰かといるのかな。
「うん、ありがと。ちゃんと謝る」
「許してもらえないかもよ?」
「その時は、・・・うーん、その時だよ」
2人と別れて家に帰る。まだ和多流くんはいなかった。もう一度外に出て電車に乗り、しばらくしてから公園と直結している駅で降りた。
キョロキョロしながら時折携帯を確認し、歩く。
バラが咲き誇るトンネルの下にいた。
一眼レフで写真を撮っていた。
撮った写真を確認しながらまたカメラを構えた。
そっと近づいて肩をつつくと、振り返ってすぐに目を丸くした。
「えっ、何、してんの?」
「・・・位置情報見て、追いかけてきた」
「・・・あ、そう・・・」
素っ気なくまたカメラを構える。
怒ってるんだろうなぁ。
「・・・綺麗だね」
「・・・そうだね」
「・・・あの、連絡、したんだ」
「見てない」
「・・・ぅん」
「・・・」
「・・・」
「うそ!見たよ。バカ」
「・・・どこにいたの?」
「ずっと、ここ」
「・・・誰と?」
「言わない」
誰かといたのかな・・・。
綺麗な花、見て、回ったのかな。
手を伸ばして服を掴もうとしたけど、そっと下ろす。
許してくれないかもよって和泉ちゃんの言葉が、頭の中で反響した。
その時はその時だって答えたけど、あれは強がり。
「和多流くん」
「何?」
「おれ、連休になって浮かれてた。それと、友達とか、玲ちゃんとか、最近、人と会おうって、出かけようって、思うことが増えたんだ。和多流くんとは、連休のうちらどちらかで出かけようって、勝手に決めつけて・・・」
「自分勝手すぎない?」
「ごめんなさい。許してもらえないかもしれないけど、謝りたくて来たんだ」
「・・・」
「・・・バラ、綺麗だね。少しだけど一緒に見られて良かった。今が一番綺麗かな」
「そうだよ。だから、来週じゃ間に合わなかった」
「え?」
「・・・バーカ。許さないから」
カメラを肩にかけて、歩いて行ってしまう。
背中が小さくなっていくのを見つめることしかできなかった。
ぼんやりしていたら、携帯が震えた。
和多流くんからだった。
耳に当てる。
「あ、あの、」
『許して欲しかったら追いかけておいでよ。・・・ていうか、涼くん以外の人と来るわけないじゃん。分かるでしょ、そのくらい』
「・・・いいの?嫌じゃない?」
そっと、遠くにいる背中を見る。背中じゃなかった。こっちを向いて、手招きしてくれる。
『早く』
「・・・うんっ」
全速力で走る。
息を切らして前に立つと、くしゃくしゃと頭を撫でられた。
「ちゃんと甘やかしなさい」
「う、うん。それだけでいいの?」
「んー?なんかしてくれるの?」
「・・・ん」
左手を持ち上げ、薬指に唇を押し付ける。和多流くんは目を大きくすると、ため息をついた。
「あーあ。許しちゃうじゃんか」
「・・・朝言ってた遅いって、バラのこと?」
「うん」
「・・・え!?おれが見たいって言ったの、覚えてたの!?」
「変?」
「いや、変じゃないけど・・・」
一昨年の、冬、じゃなかったかな?ここに来たのって・・・。
アーチを見て、バラが咲いたら綺麗だねって話をしてて、去年はなんだかんだ来れなくて、だから今年こそはって思ってくれてたの?おれが忘れてたから拗ねてたの?
言ってくれれば・・・と思ったけど、最近のおれは自分のしたいことばかりだったかも。
和多流くんに提案する隙を与えてなかったなぁなんて、今頃反省する。
「来週でも良かったけど、雨予報だったから。一番綺麗な時に来たかったし・・・だから、念のため写真を・・・」
「あとで見せてほしい」
「・・・もう一回見にいく?」
「うん!行こう?」
くんっと袖を引っ張ると、隣に並んでくれた。アーチをくぐってバラを見上げる。
「白と黄色、混ざってて綺麗だね」
「ん」
「・・・来週は、さ?和多流くんが行きたいとこ、行こうよ。最近おれ、連れ回してばっかだったよね」
「そうだね。主にスーパーかホームセンターにね」
ゔ・・・。だって、特売、逃したくないんだもん・・・。
でも、色気無さすぎ・・・。
反省していると、きゅっと手を握られた。
「まぁ、買い物も楽しいからいいんだけどさ」
「でも、日用品ばっか・・・」
「楽しいよ。消臭剤とか柔軟剤の新しい香り、一生懸命テスターで試したり、これは?って何度も聞いて来てくれたり。楽しいけどさ、やっぱデートもしたいよ」
「う、うん」
「来週、おれのわがまま聞いてね」
「うんっ」
「たくさん甘やかしてね」
「もちろん」
「いっぱいおれの上で、腰振ってね」
「えっ!?」
「約束」
「あ、わ、わ、」
手を引っ張られて、歩き出す。
和多流くんは絶対だからね、と笑う。
断る理由がないから、小さく頷いた。
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