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しおりを挟む涼くんはよく「待って」と言う。
待たないでいると泣いて連呼して、待つと少し寂しそう。
「ま、待って!待って、待って、まってよぉ・・・!」
コリコリと前立腺を刺激しながら、顔を覗き込む。中がきゅーっと締まってきた。今止めちゃうのはもったいない。
多分止めなくていいやつだ。気持ち良すぎてパニックなだけだろう。
「待って待って!お願いだから待って!いや、待ってーー!!」
「えっ、」
しょろろ、と漏れてきたのは潮でも精液でもなくて、涼くんは顔を隠しながら嗚咽を漏らした。
「・・・涼く、」
「バカ!!大っ嫌い!!」
可愛い・・・と思ったのも束の間で、思いっきり突き飛ばされた。
そして我に返る。
「あ!ごめん!ごめんね!?」
「待ってって、言ったじゃん!!バカ、バカ!!」
「片付ける!あの、可愛か、」
「最っ低!!悪趣味!!おれは、こんなの、嫌なのに・・・!!もうしたくない!もうしないから!!どーしてもしたいならお店でも行けばいいよ!」
「え?!な、なんで?何でそうなるの?あの、落ち着こうよ。話し、聞かなくてごめん・・・いつも言うから、」
「う、うぁ、あ、・・・!こんなのやだぁあ・・・!」
シーツを剥いで、泣きながら寝室から出て行った。慌てて追いかけたけど、洗面所のドアを思い切り閉められた。
「涼く、」
「あっち行って!バカ!!」
「・・・ごめんね」
はぁ、とため息をつく。
寝室に戻って念のために敷いておいた防水シーツを外して、そっと洗面所のドアを開ける。泣きながらシャワーを浴びていた。
洗濯機を回して寝室で待っていたけど、涼くんは戻ってこなかった。そりゃ、そうだよね・・・。
さっきまですごく幸せだったのに・・・。
美味しいご飯を食べて、少しお酒を飲んで、一緒にお風呂に入って、何も着ないでベッドに飛び込んで・・・。
たくさんたくさん肌に触れて、涼くんと繋がるって時だったのになぁ・・・。
大嫌いって、言われちゃったよ。
多分勢いで言っちゃっただけ。そう、それだけ。それだけだよ。でも、落ち込むなぁ・・・。
もうしないって言われたし、したいならお店に行けって言われちゃったし・・・。ショック・・・。悪いのは、おれだけど・・・。
明日から険悪だなぁ・・・。
******************************
お迎えに、来たはいいものの。
中々涼くんが来ません。メッセージも既読になりません。
しかも、朝は起きたらすでにいませんでした。ちなみに朝に送ったメッセージも未読です。
ヤバいです。これは本格的に、ヤバいです。
返事が来ないから動けない。もしかしたらもう電車で帰ってるかもしれない。
心配だ。何もないといいんだけど・・・。
電話をかけてみると、つながった。
まさか繋がるとは思わなくてホッとする。
「涼くん?今どこ、」
『玲ちゃんのところ』
「・・・へ!?え!?お、お姉さんのところ、」
『帰りたくない』
「・・・え、え、えぇ!?迎えに行くから、あの、ちゃんと話をしよう!?」
『・・・黙って出て行ったのは、謝るけど・・・帰りたくない』
「謝らなくていい!だから、帰ってき、」
『帰らない!』
「帰って来てよ!迎えに行くから、」
『嫌だ!!』
はっきりとした拒絶。通話が切れて呆然とする。本格的にヤバいとか、そんな話じゃない。
帰ってこなかったら、どーしよ・・・!!
誰にも相談できなかった。内容が内容だし、相談せずともおれが悪いのは明白。
八方塞がりだ。
ちゃんと玲さんの住所、聞いておくんだった・・・。
職場のそばまで、迎えに行けばよかったー・・・!!
泣きたいのを堪えて家に帰る。
やってはいけないと分かっているけど、速攻で帰宅して涼くんの部屋を調べてしまう。
位置情報は切られているだろうし、もう何も術がないんだ。
でも何も見つからないし、結局自分の部屋で突っ伏すしかなくなった。
何度も何度もため息をついてしまう。何もやる気が起きない。
待てばよかった・・・。まじで、待てば、よかった・・・!
後悔ばかりが広がっていく。
またため息をつくと、携帯が震えた。
確認すると、玲さんだった。
「あ、は、はいっ」
『あぁ、藤堂さんですか?ふふ、喧嘩なさったって聞きました』
「あー・・・いや、おれが悪いので・・・」
『そうなんですか?・・・あれ?おかしいな・・・じゃあ自分の言った言葉で落ち込んでるんだ』
あれ?の言い方が涼くんにそっくりすぎて、なぜか和んでしまう。
「あの、落ち込んでますか?」
『そりゃーもう。怒り半分落ち込み半分かしら。中々1人になれなくて、連絡が遅れてすみませんでした』
「いえ・・・なんか、その、すみません・・・」
『今お風呂なんです。まったく、ぐずぐずして中々入らなくて。子供みたいですね。それで、ですね』
「あ、は、はい」
叱られるのかと思って身構える。
大事な弟を傷つけたんだもん。叱られて当然だ。
『お迎えは何時頃になりますか?そんなに遠くないですよね?』
「え??」
『あら?多分どんな手を使っても来ると思うって、言ってましたけど。違うなら、泊めますよ。部屋も余ってますし』
「いやいやいやいや!行きます!!」
『じゃあ、お待ちしてます』
ではでは、と通話が切れてしまった。
あ、しまった!住所聞いてねぇ!!
でも、でも、涼くんが、どんな手を使っても来るって、言ってくれたから!!絶対に行ってやる!!
でも住所・・・。
肩を落としてダメ元で位置情報を確認してみると、ポツッとアイコンが表示された。ついつい立ち上がる。うそ、切ってない!?もしかして、ずっと、このまま・・・!?
慌てて住所を控えてからメッセージ画面を開くと、さっきおれが送ったメッセージに既読がついた。あ、今、みてくれたんだ・・・!ストーカーみたいに送ってしまったけど、ようやく見てくれた・・・!!
車に飛び乗ってアクセルを踏み込む。
早く、早く行かなきゃ!
何度も確認しながら小さなアパートの前に車を停める。
ここ、かな?
どの部屋かな。
メッセージ、見てくれるかな・・・。返してくれるかな・・・。
恐る恐る車を降りて、少しウロウロして、電話をかけようとした時。こんばんは、と声をかけられた。
顔を上げるとアパートの入り口に玲さんが立っていた。
「まったく、すみません。弟が・・・」
「あ、い、いえ、すみません・・・」
「藤堂さんは絶対にくると言ってた割には中々こなくて、臍を曲げてます」
「へ!?え!?」
「臍を曲げていると言うか、なんですかね?ふふ。あんな涼、見たことがないから」
「あの、部屋に、いますか?」
「もちろん。車が来たことを伝えても猫を抱っこして意地になってます」
ゔっ・・・見たい、かも・・・。
絶対に可愛い・・・。いやいや、そんなことお姉さんには言えませんけども・・・。
「あの、女性の部屋に入るのは気が引けるので、玄関先で説得しても差し支えないでしょうか・・・」
「え?あぁ、お気になさらず。どうぞ」
階段を登って2階の1番奥の部屋のドアを開ける。中に入ると猫が出迎えてくれた。廊下の奥のドアの影に、涼くんが見えた。目が合うと慌てて隠れる。
「りょーくーん・・・帰ろー・・・」
無反応。
玲さんは吹き出すと、肩を震わせた。
廊下を歩いて行き、ドアを開けて涼くんの腕を引っ張る。
「涼、帰りなさい」
「や、やだ!帰らない!」
「何よ、藤堂さんはお迎えに来ないってってカマかけたら慌ててたくせに」
「慌ててないよ!!」
「慌てて携帯確認してたじゃない。メソメソして」
「してないよ!玲ちゃんのバカ!!」
「はいはい。早く行きなさいって。あ!猫は離しなさい!」
「やだ!連れていくもん!」
「馬鹿なこと言ってないで、帰りなさいって。意地張ってると嫌われるわよ。それに、猫は私のよ」
「嫌われないもん!」
あ、今のは、結構嬉しい。
ていうか、玲さんの前だとこんなに子供みたいなんだ・・・。可愛いなぁ。
顔がデレデレするのを堪え、咳払いをする。すると、ぴょこっと顔を出した。つい真面目な顔をする。
また隠れると、猫がするりと抜け出して玲さんに擦り寄った。
根気強く待っていると、大きな紙袋を持ってリュックを背負った涼くんが現れた。玲さんの服かな?花の絵が描かれたTシャツが似合っていた。素足で廊下を歩いて、俯いたままおれの前で立ち止まる。
「・・・帰ろ?」
「・・・やだ」
「涼、いいかげんにしなさい。子供みたいね」
「・・・」
「あの、夜分にお騒がせしました。一緒に帰ります」
「そうしてください。自分の家に帰るのが1番ですから」
「涼くん、帰ろ。荷物、持つよ」
手を出したけど無視をされた。そりゃそうだ。
階段を降りて車に乗り込み、ベランダで手を振る玲さんに会釈をして発進させる。
今何か声をかけても無視されて、最悪もっと怒らせるかもしれない。黙って運転することにした。
もうそろそろ家に着くというところで信号につかまり、停止させる。その時、ポツリと呟いた。
「嫌いになった?」
ギョッとして左を見ると、鞄を抱いたまま俯いた姿。
「大好きだよ。お店使えって言われたのは、悲しかったけど」
素直な気持ちを伝えると、顔を上げた。
「・・・つ、」
「ん?」
信号が青になる。急いで家に帰ると、玄関先でポツンと佇み、下を向く涼くん。荷物を受け取ろうとすると、プルプルと首を横に振った。
「涼くん・・・ごめんね。待たなくて、ごめんね」
「・・・つ、」
「ん?なぁに?」
「・・・使わないで、お店・・・」
「・・・何、言ってんの?」
「・・・らいしゅき、・・・らいしゅきだから、いかないれ、」
ぐずぐずと鼻を鳴らして、泣き始めた。
本当は泣きたいのはおれだったし、ショックだったのもおれなんだけどな。
「行くわけないじゃんー・・・バカ・・・」
「ゔ、ゔ、」
「・・・涼くんしか抱きたくないよ。涼くんだけに、触って欲しいよ。昨日は話を聞かなくてごめんね。言えなかったんだよね。言ったら、見せてって言われると思ったんだよね?」
「も、やだ、やだったから、恥ずかしいから、」
「うん、うん。ごめんね。あのね、おれ、怒ってないし、ぶっちゃけ嬉しいから・・・泣かないで」
「う、嬉しいの、意味、わかんな、」
「嬉しいよ・・・。どんな手を使ってでもおれが迎えにくるって思ってたんでしょ?おれには嫌われないって思ってたんでしょ?こんなに嬉しいこと、ないよ。嬉しくてたまんないよ。大好きだよ。お迎え、遅くなってごめん・・・。住所、中々わからなくて・・・」
「っ、ん、ごめ、勝手に、玲ちゃんのとこ、」
「いいんだよ。いいよ。帰ってきてくれたもん。・・・昨日はごめんね。嫌だったよねぇ・・・」
慰めるように、なだめるように、抱きしめて背中を撫でる。
しばらく鼻を啜っていたけど、落ち着いたのかそっと離れた。すんすんっと鼻を鳴らして、ちらっと見上げてからまた目を伏せた。
何も言わないので様子を伺っただけなのだろうか。
「あの、さ?セーフワード、言ってくれればよかったのに、なんで言わなかったの?」
少し疑問に思っていたことを聞いてみる。涼くんは少しもじもじしたあと、口を開いた。
「・・・だって、」
「うん」
「・・・・・・萎えちゃったら、やだもん」
「・・・お、おぉっ・・・」
あまりの可愛さについ、声が漏れた。
萎えてほしくなかったんだ。おれと、してたかったんだ?
嫌いと言われたことも、お店使えって言われたことも、全部どうでも良くなって、感極まってしまった。でも、でも、萎えないと止まれないわけだし、やっぱり必要だったのでは、と思う。
「一瞬萎えるかもしれないけど、事情が分かればすぐまた、できたと思う、けど・・・」
「・・・」
「・・・責めてるんじゃなくて、」
「一瞬でも、やなのっ」
「えっっっ」
「したかったんだよ・・・昨日、たくさん、したかった。なんで言わないと分かんないのっ、」
た、た、たくさん、したかった、の、か・・・!
可愛い・・・可愛い・・・!!
言われてみれば昨日はずっとご機嫌だった。ペタペタくっついてきてくれたし、普段ならおれがお酒を誘う方なのに涼くんから飲もうよって言ってくれたし、珍しくロング缶を買っておいてくれたし・・・。
おれのこと甘やかしてくれてたんだって、今さら実感する。
「・・・おれもしたい・・・今、していい?」
「やだ」
「意地悪しないで。おれのこと、慰めてよ。びっくりしたんだから・・・」
「・・・」
「・・・あ、お腹すいた?ご飯食べてない?何か、」
食べる?と聞こうとしたら、おれのお腹が鳴った。盛大に鳴った。
そういやソワソワしすぎて今日はあまり食事をしてなかった。
すっかり忘れていた。
涼くんは目を丸くしておれを見つめると、くしゃくしゃーっと顔全体で笑って目元を拭った。
「もぉっ、おれが作っといたやつ、食べてないの?」
「え!?」
「ごはん作っておいたけど」
「え!?うそ!?」
涼くんの手を引いてキッチンに走る。
冷蔵庫を開けると、1番上にお皿が置いてあった。
引っ張り出すと目玉焼きとウィンナーと、トマトがのっていた。
さらにその奥におにぎりまで置いてあった。
「気づかなかった・・・朝起きたらもういないし、連絡取れないし、落ち込んでてなんもしなかったんだよね・・・」
「・・・食べる?」
「食べる、けど・・・寝ないで待っててね」
「やだよ。待たないもん」
「お願いお願い!!お願いします!」
「やだ」
「すぐ!すぐ食べるから!お風呂もすぐ済ませ、」
「一緒にしよ。昨日、酷いこと言ってごめんね。仲直りしよ」
涙目でにこーっと笑って、そっと抱きしめてくれた。どうしようもなく愛しくて声も出なかった。
黙って抱きしめ返して何度も頷く。帰ってきてくれて、よかったー・・・。
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