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しおりを挟む「わー、綺麗」
この間来た河川敷にもう一度来てみた。
前よりもピンク色が濃くて、綺麗。
見上げながら歩いていると、和多流くんはスマホを構えたままおれの隣に立った。
「綺麗だね」
「ね。お祭りもやってるんだね」
「何か食べる?」
「えー?花より団子?」
「そりゃーね。お腹すいたし」
言いながら屋台に近づくと、いちご飴を買って戻ってきた。差し出されたので食べてみる。
「んまぃ」
「可愛い」
「撮ってないで和多流くんも食べたら?お腹すいてるんでしょ?」
「たい焼きもあるよ」
「だから、おれはいいよ」
「でも桜あんだよ?」
「えっ」
屋台を見る。春限定の桜あんたい焼きが、売っていた。限定品に弱いのは、もう知られている。
吸い寄せられるように近づくと、和多流くんがたい焼きを買ってくれた。
口に入れる。
ほんのり桜の香り。美味しい。
生地ももちもちだ。
あっという間に食べ終えると、すっとチョコバナナを差し出された。ギョッとしたけどついつい受け取る。
和多流くんはニコニコしたまま、今度はクレープの屋台に近づいてお金を払い、すでに出来上がっているハムチーズクレープを手に持って戻ってきた。
「・・・クレープ?」
「チョコバナナ食べ終わるまで持ってるね」
「いや、いらないよ」
「え?なんで?」
「自分で食べなよ」
「おれはさっきどら焼き買ったよ」
ほら、と袋を見せられる。いつのまに・・・。
ニコニコしながらおれを見て、チョコが溶けちゃうよ、と言う。
また、スイッチが入った。おれにしこたま食べさせたいスイッチ。これが1番厄介なんだよなぁ。
おれがお腹いっぱいになるまで食べさせようとするんだ。もういいって、言ってるのに。
「クレープはいらないからねっ」
「うん?でも買っちゃったし、ハムチーズだよ?好きでしょ?」
「お腹苦しいよ」
「んなわけないよ。まだまだ食べれるでしょ。若いんだからたくさん食べな?」
あー、もうだめだこれ。
仕方なくクレープを受け取って口をつける。美味しい。
桜を見上げながら歩いていると、ちょん、と指先を握られた。
すぐに離れていった。
隣を見ると、微笑む和多流くん。
「春の匂いっていい匂いだね」
「ね」
「・・・涼くんといるようになってからだなー、季節とか気になるようになったの」
「え?そうなの?」
「夏は暑くて不快だし、冬は寒くて億劫になるし、春と秋は季節の変わり目でなんもやる気出ないし、別に楽しいと思ったこと、ないんだよね」
「そうなんだ」
「でもさー、涼くんは・・・春が来れば花が綺麗って言うし、夏が来れば洗濯物が早く乾くって喜ぶし、秋は食べ物が美味しいって言うし、冬は寒いけど空が綺麗って、言うでしょ。考えたことなかったもん」
「言ったかな?でも、そうじゃない?」
「うん。そう。今は春が来れば涼くんが喜ぶし、夏が来れば涼くんと海で遊べるし、秋が来れば涼くんとたくさん美味しいものを食べて罪悪感を感じないし、冬は涼くんとくっつけるし、いいことばっかり」
「全部おれが絡んでるじゃん」
「そうだよ。だから楽しい。全部楽しいよ。涼くんは?」
「・・・楽しいよ」
こんなに甘やかされて、可愛がられて、大好きって言われて、楽しくないわけないじゃん。
ぷいっとそっぽを向くと、首を撫でられた。
「ぅわっ」
「かーわいいの。後で食っちゃお」
「や、ちょっと!」
「ふふっ。照れ屋さん」
「もぉっ」
「ね、ほら、たこ焼きもある。全部食べようね」
嬉しそうに言うから、つい頷いてしまう。
和多流くんはせっせとおれに買い与え、非常に満足そうに帰ってきた。
おれはというと、お腹はパンパンで苦しくて、帰宅してからベッドに寝転んだ。膨らんだお腹を触りながら、可愛いねと目尻を下げたので、守備範囲が広いなぁなんて思ってしまった。
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