Evergreen

和栗

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「涼くん涼くん」
「ん?」
「言葉縛りセックス、しない?」
濡れた髪の毛を拭きながら、和多流くんはいそいそとカードを持ってやってきた。
なにこれ。
同じように髪を拭きながらカードを見ようとすると、パッと隠された。
「見ちゃだめ。ねぇ、やろうよ」
「和多流くんは内容、知ってるの?」
「うん。作ったのおれだし」
「へぇー。ズルくない?」
「えっ!?」
「和多流くんの好きな言葉しか書いてないんでしょ?」
図星のようだ。少し目が泳いだもん。
「でもどれが当たるかわからないもん。ランダムだし」
「ふーん」
「・・・あ、乗り気じゃない?ほら、たまには思考を変えて・・・」
「マンネリ?」
「ちっがう!!!」
「じゃあなんで?」
「だから、思考を変え、」
「具体的に」
「・・・・・・涼くんを征服したいです」
「ん?」
「だから、その、・・・ちょっと、あの、そういう気分なんです。意地悪したい、みたいな・・・」
「・・・あー、うん、そ、そう・・・」
「いや、あの、しないけど!しないです!・・・でもこういうのは一回してみたくて・・・ダメ、かな」
シーツの上に真っ白なカードが並べられる。
和多流くんは少し寂しそうに、ねだるようにこちらを見つめてきた。
「・・・意地悪、したいの?」
「いや、あの、んと、・・・そういう気分ではあります」
「なのにこれを使うの?」
「・・・嫌ならいいです」
ささっと片付けてカードを持って部屋から出て行った。と思ったら、一枚だけ床に落ちた。
拾い上げて見てみる。敬語縛り、と書かれていた。敬語、かぁ・・・。最初の頃は敬語だったな。藤堂さんって呼んでた。懐かしいな。
今敬語を使ったら、どんな反応をするのかな。
寝室から出て自室のクローゼットを漁る。あった。まさかこれを着る日が来るなんて。
そっと足を通し、腕も通す。なんとなーくとっておいて、すっかり忘れていた物。
うわぁ・・・まだ着られる・・・地味にショックだ。
寝室に戻ると和多流くんは不貞腐れて壁ににじり寄って目を閉じていた。
「和多流くん・・・」
「もう寝る」
ツンっとした返事。そりゃそうだよね。したいって言って拒まれて、寝室戻ったらおれがいないわけだし。
「藤堂さん」
名字で呼ぶと、カッと目を開いた。怒ったように起き上がったかと思ったら、素っ頓狂な顔になる。
「へ??」
「あ、・・・しまってあったの、思い出して、着てみました。どう、かな」
高校の頃の制服・・・。
こんなこというのもあれだけど、もしかしたらお金に困った時に高く売れないかなーって思って、取っておいたんだった。
全身を舐めるように見つめた後、ノロノロと立ち上がって寝室から出て行った。そして一眼レフカメラと三脚を持って戻ってきた。
「・・・あの、」
「こっち見て」
「あ、はい」
手を後ろで組んでカメラを見つめる。何枚もシャッターを切って、和多流くんは真剣に写真を撮った。
ひとしきり撮って満足げに確認した後、三脚にスマホを固定した。
近づいてきて、そっと腰を抱かれる。
「急にどうしたの」
「え?あー、」
「ご機嫌取り?」
「ううん。・・・これ取ったから」
ピラっとカードを差し出す。
受け取って文字を読むと、またおれを見た。
「敬語だから、制服?」
「出会って最初のころって敬語で話してたでしょ。あと、見たかったって言ってたから」
「・・・」
「制服の方が敬語、しっくりこない?」
複雑そうな顔。
あれ?逆効果だったかな?
脱いだ方がいいかな。普通に敬語だけの方がいいかな。
「・・・前、みたいに」
「え?」
「・・・前みたいに、先輩って、呼んでみて」
「・・・藤堂先輩?」
「・・・春日部、」
へ!?
あ、ぅあっ・・・!!
足先から頭までビリビリっと痺れる。
この格好で春日部って呼ばれるの、何でだろう、すごく嬉しい。
和多流くんが本当に同じ学校の先輩で、おれのことを春日部って呼んで、それで、それで・・・。
「顔真っ赤」
「あ、あの、」
「はい」
「和多流くんも、敬語縛りなの・・・?」
「藤堂先輩でしょ」
「あ、ごめんなさい・・・」
「おれは普通にするよ。年上だもん。春日部は、ちゃんと敬語使いなさい」
「あっ、・・・は、はいっ、」
「・・・キスの時は目を閉じるものだよ」
慌てて目を閉じる。
ふにゅ、と唇が触れて、そのまま動かなかった。あ、あれ?いつもならすぐ、舌が・・・。
でも、これ、気持ちいい・・・。
サラサラと髪を撫でて、腰をキュッと抱き寄せてくれる。思い出したのは和多流くんとこの部屋で初めてしたキスだった。あの時はすぐに離れてしまった。でもまた重なって、少しだけぎこちなく手を握ってキスをした。
この人が全部初めての相手だったらよかったって、思った。
中学の頃は当時付き合ってた人と下手くそなキスをした。高校の頃は寂しくて、人肌恋しくて憧れていた先輩とキスをした(付き合ったりとかはなかったけど)。大人になってからはキスよりもセックスが多かった。キスは拒まれることもたくさんあったし、嫌いって言う人もいた。
和多流くんはたくさんしてくれる。優しいのも、可愛いのも、激しいのも、全部。おれがキス、大好きだから。それに気づいてくれたのも和多流くんだけだった。
制服の裾を握ったまま目を閉じて熱を感じていると、そっと離れた。何故か目元を拭われた。
「え?」
「涙」
「・・・え?あ、えぇ?なんで?」
あ、あれ?本当だ。涙が出てる。止まらない。ぽとぽとと落ちていく。制服で拭く。
誰かに甘えたくて、寂しくて、泣いたこと、あったな。
こうやって涙、拭いたな。
この制服を着たら、色んなことを思い出した。
「ん、ぅっ、」
「・・・ねぇ」
「あ、ごめ、」
「第二ボタンあるんだね」
「え・・・あ、あぁ、あははっ、おれ、モテなかったし、」
「欲しいな」
ちょん、と突かれた。
「え、」
「おれにちょーだい」
「・・・えと、」
「ちぎっていい?」
頷くと、ブチっと音を立てて引きちぎった。
ニコッと笑って、ボタンにキスをする。
「あの頃の涼くん、もーらい」
「・・・っ」
「現役の頃制服エッチってしたことある?」
「ないっ・・・したことない、」
これは本当。中学の時は部活着とか、服が邪魔ですぐ裸になっていた。高校の頃はこんなことなかった。
この前コスプレをして学ランでしたのが初めてだ。
和多流くんは舌を出すと、べろ、と頬を舐めてきた。
「初めて、もらっちゃお。抱かれたい?」
「は、はい・・・」
「なんて言うの?」
「・・・藤堂先輩、おれ、あ・・・」
言う前に唇を塞がれた。舌が優しく入ってくる。これだけでいけそうだった。


************************


「あ、せんぱい、せんぱい・・・!」
「ん、」
「も、もぉ、そこは、」
「ここ?」
とんとんっと叩かれる。
腰が反って快楽が駆け上ってきた。
「あぁっ!」
「ここ、前立腺ね?覚えてね?」
「は、はいっ、・・・」
「気持ちいい時は気持ちいいって言うんだよ。セックスの時は恥ずかしいとか、考えちゃダメ。ね?」
「は、い・・・。うんっ、ん、ん、」
優しく頬を撫でてくれる。すり寄せると、親指が口の中に押し込まれた。
「舐めてごらん」
「ふぁい・・・」
舐めると、舌を撫でられた。あ、き、気持ちいい・・・。
お尻もトロトロにほぐされていく。いつもより長く愛撫してくれる。優しくて、気持ちよくて、ねだってしまう。
「せんぱ、・・・キスが、したいです・・・」
「うん。しよっか?ブレザー暑くない?」
「はい、暑くないです・・・あ!あぁっ!あ!あ!あ!」
「上手。可愛い声。初めてなのに、もうとろんとろんだね」
はじ、めて、・・・。
本当に初めての相手が和多流くんだったら、すごく幸せだっただろうな。たくさん優しくしてくれたんだろうな。そしたらおれももっと素直に、生きられたかな。
「春日部」
耳元で囁かれた。ゾクゾクした。
「指、増やすね」
「は、はいっ・・・あ、入っちゃ、入って、」
「偉いね。わかるんだ?顔が近づいてきたら首に腕を回すんだよ。やってごらん」
そっと首に手をまわす。額が重なった。キスがしたい。
「・・・涼くん、少し休憩。どう?敬語縛り」
「・・・初めてが、和多流くんだったら良かったなーって、思った・・・」
「ん?んー・・・ふふっ。そっかぁ。・・・ね?元彼の顔、思い出せる?」
「へ??」
予想しない一言にびっくりして、凝視する。
ニコッと微笑んで思い出せる?とまた聞かれた。
・・・あ、あれ??
そういえば・・・こーしたな、あーしたな、は思い出せたけど、おかしいな。1人も顔が、出てこない。曇りガラスみたいに、もやもやしてて・・・シルエットも、曖昧だ。
「・・・お、思い出せない・・・」
「うん。ね?そうでしょ?」
「え?え?」
「色んな初めてをさ、おれと経験しちゃってるもんね?思い出せるわけないんだよ」
「・・・あ、」
「たかが初体験一つに、おれが負けるわけないの。分かった?だから、さっさとおれに集中しなさい」
あ、あ、そっか。そうか。
目の前がパーッと明るくなる。
そうだ。
そうだよ。
和多流くんだけだった。おれをこんなに楽しませてくれて、甘やかしてくれて、大事にしてくれて、大好きって伝えてくれるの。
幸せに、してくれるのも、和多流くんだ。
過去を思い出してウジウジしてる暇なんてなかった。和多流くんに大好きってしないと、もったいない。
「っ・・・!!えへへっ!!うん!和多流くん、大好き!!」
「バーカ。おれの方が大好きだよ」
「おれだもん」
「おれでーす。バカ。さっさと集中しろっつの。お尻叩くよ?」
「やだぁー。意地悪のはやだ」
「まったく。困ったもんだ。すーぐ殻に閉じこもる。まぁそれも可愛いからいいけど」
「え?面倒じゃない?」
「面倒?なんで?こじ開けてべちゃべちゃに甘やかすの、大好きだもん。こうやって、さ?」
「あんっ!?」
ぎゅーっと前立腺を押された。
変な声が出て慌てて口を塞ぐ。
パッと手を取られてシーツに押さえつけられた。
「さ、続き、しようか?ほら、気持ちいいね?」
お尻の中を揺さぶられる。必死に枕を掴んで、快楽に耐える。
「あ!あ!あぁっ!」
「慣れてきたかな?だいぶ慣らしたから入るかな?」
「とーどーせんぱ、」
「ブレザー脱いで?」
体を起こしてもたもたとブレザーを脱ぐ。その間もお尻に入った指が動いて、刺激してくる。腰が跳ねて、汗が止まらない。
「んはっ、はぁ、ぅんん~・・・」
「ベストも。ワイシャツ一枚になって。あーあ、乳首がよく目立つね」
「さ、さっき藤堂先輩がたくさん触ったから、」
「先輩のせいにするんだ?悪い子だね」
ワイシャツの上から乳首をつねられた。
ペニスが跳ねて、とろ、とカウパーが溢れる。
「んくぅうっ・・・」
「乳首好きなんだ?」
「う、は、」
「教えて?」
「か、かゆい、です、」
「かゆいの?かいてあげる」
カリカリと引っ掻かれた。ビクンと体が跳ねる。
「あひっ!あ、あぁ!あーーっ!」
「まだかゆいよね?」
「うはぁっ、はぁ!あ、あ、ぁ!きもちい!きもちーです!もぉや、」
「気持ちいいならもっとしよう?」
「あー!あぁあー!もぉだめ!もぉだめ!」
「おれのこと見てごらん」
「んぁっ、あぁ!やぁ~!」
「どうして?」
「あ、ふ、ふぅっ、恥ずかしい、」
「可愛い。お尻でいこうか?」
「え、え、う、」
「いけるかな?」
額が重なる。優しいキスが降ってきて、頭がくらくらした。そういえば、和多流くんとしてから、初めてお尻でいけるようになった時・・・すごく、気持ちよかった・・・。抜け出せなくて、どこまでも果てて行きそうで、溶けて、消えてしまいそうだった。
首に腕を絡めると、いい子、と頭を撫でてくれる。いき、たい。
「藤堂、先輩・・・」
「ん?」
「き、気持ちいいです・・・いきたい、です。気持ちいいこと、したいです」
「・・・うん」
「し、してくれますか・・・?おれ、こんな、はしたない・・・」
「大好きだよ」
ペニスが押し付けられた。
あ、入っちゃ、・・・!
体がギュッと強張った。
「あ、あぅっ、入らないっ、」
「大丈夫・・・息吸って、吐いて」
「ふ、は、・・・怖い、」
「ん・・・吸って、吐いて」
「ふー・・・はふ、ふ、」
「可愛い・・・もっとおれのこと見て?」
「ご、ごめ、緊張してる・・・」
「うん。大丈夫。待つよ」
「ど、どうしよう・・・!ごめんなさい、」
「焦らなくていいよ。こっちも感じて?」
「ひんっ、」
耳を撫でられたあと、舐められた。
きゅっと手を握って指先を撫でてくれる。
どうしよ、どうやって力、抜くんだっけ?
和多流くんのペニス、すごく、跳ねてる。ヌルヌルって押し付けられる。入りたくてうずうずしてるのかな。
「涼くん」
「んぁっ?!む、んむっ、」
「かーいい・・・キス、集中して・・・」
「は、はふっ、あ、あ、」
「ふふ、舌、じょーず・・・」
舌を吸って、飲み込んで、絡めて、吸ってもらう。歯を立てて引っ掻いて、撫でて、唇を押し付けあった。
キス、好き。
大好き。
ペニスが、押し込まれた。
「あ゛っっ!?」
「かわい・・・トロトロ・・・」
「は!あぁっ!んぐぅ、」
「・・・どうしたの?緊張してるね。怖い?」
「は、はひっ、ひ、ごめんなさ、」
「・・・大好きだよ」
「あ!」
「世界で1番可愛い。大好き・・・受け入れて?」
「ん、うっ、おれも、好きです、」
「うれしー・・・ふふっ、」
「あ、好き、好きっ・・・」
ず、ず、と入ってくる。何度もキスをして、肌に触れ合って、ようやく奥まで入った。
トンっと当たった時、腰が大きく跳ねた。
「あ゛んっ!」
「うっ・・・はぁ・・・きっつ・・・。かわい・・・ごめん、動くね?」
「は、はい!きもちく、してください・・・」
「うん。たくさんしてあげる。だから、おれのこともたくさん気持ちよくしてね」
「はいっ、はい・・・う、きもちー、ですぅ・・・」
「おれもー・・・だーい好き」
トン、トン、と奥を突かれる。
溶けちゃう。気持ちいい。
もっとして。
何度もねだって、甘えて、果てた。
和多流くんも嬉しそうだった。



************************



「・・・かなり良かった」
「いつまで見てるのさ」
一眼レフで撮った写真を確認しながら、和多流くんは満足そうに目を閉じた。
ハンガーにかかった制服は明日の朝、天日干しの予定。
・・・欲しいんだって。
何に使うのか聞いたら、また制服エッチがしたいと言われた。
別に、いいけどさ・・・和多流くんも楽しそうだったし。
「第二ボタンまでもらえて超幸せ」
「・・・和多流くんは?学ラン・・・」
「ないない。あっても着られないよ」
「違うよ。ボタン」
「ぜーんぶ揃ってたよ。ねねね、敬語縛りどうだった?おれはね、かなり燃えました」
だろうね。
何回もしたもんね。そりゃもう驚くくらいしたもん。
「またしたいの?」
「次は残りのカードを・・・」
「内容くらい教えてよ」
「・・・好き縛りと、ごめんなさいと、フリーワードっていうのを作りました」
「・・・ごめんなさいって何?」
「え?よく言うから・・・なんか、すげー興奮するようになっちゃって・・・ふふっ」
「もー・・・」
「たまに、ね?たまにはどう?プレイ的な・・・」
「・・・無理強いしないなら、」
「しないしない!今日はありがと。楽しかったし嬉しかったしすごく興奮しちゃった。へへ」
「・・・おれも嬉しかった」
「ほんと?」
「学生のころに和多流くんと会ってたら、あんな感じだったのかな。おれ・・・きっとベタ惚れだっただろうな。一回でいいから抱かれたいって、絶対に思ったよ」
「一回なんてもったいないよ。何度でもしようよ。いくらでもしたいんだから」
「・・・おれのさ、もっともっとたくさんの、色んな初めて、貰ってくれるかな」
「おれだけに寄越しなさい。わかった?」
「えへへっ。はぁい」
「今の可愛い。ねー、もう一回」
「だめー。眠いもん。和多流くんも目がとろんってしてるよ?一緒に寝ようよ」
「ん。じゃあ、はい」
ベッドに寝転んで、腕を伸ばした。そっと頭を乗せるときゅっと抱きしめてくれる。背中に手を回すと、くすぐったそうに笑った。
明日は何をしようかな。いい天気だと、いいな・・・。


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