Evergreen

和栗

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「んー、こっちかな・・・あ、こっちかも!でもそうするとこれが合わなくて・・・でも、うーん・・・」
ねぇ、可愛くない?おれの可愛い涼くんが、一生懸命おれに合う服を選んでるんだけど。
さっきからあーでもないこーでもないとブツクサ言いながら、ハンガーを手に取って鏡の前で合わせている。おれの服なのにね?涼くんの体に合わせてんの。なんで?めっちゃ可愛いんだけど?
「こっちのセーターさ、和多流くんにすごく似合うよね」
「そうかな」
「でもねー、サイズが・・・大きいのしかなくて」
「大きくてもいいよ」
「えー・・・んー、・・・でもそうすると、おれが着られないっていうか・・・」
はいはいはいはいはいはいはいはい。今のいただきました。動画、いただきました。ありがとうございます。
涼くんも着る前提なんだね?おれの服を、着る、つもりなんだね!?だから体に合わせてんのね!?満点です!
「・・・大きいけど、これにしよう!」
「涼くんが着られなくなっちゃうから、こっちの色は?」
「それは和多流くんのイメージと違う。絶対にこっち。譲れない」
「うん、じゃあそれがいい」
うん。涼くんの好きにして。涼くんの色に染めて。好みで埋め尽くして。満足そうに頷くと、レジへ向かった。
今日はおれに服を買ってくれるんだって。いつもお迎えに来てくれるからお礼なんだって。買う気満々で言ってくれるし、お出かけできるし、選んでくれるというのでどこにも断る理由がなかった。おれは涼くんについてまわって鼻の下を伸ばしてデレデレして、こっそり動画を撮るだけ。最高です。こんな休日楽しいに決まってるじゃん。
涼くんはニコニコして戻ってくると、少し照れたように上目遣いでおれを見た。
「あの、着てね」
「もちろん着るよ。明日着る」
「・・・おれも、今度貸してほしい」
「うん。涼くんも絶対に似合うもん。でもね、」
「ハイネックのインナーはちゃんと着るよ。いつも約束守ってるでしょ」
おれの言いつけを守ってくれる涼くん。好き。
手を繋ぎたいけど必死で堪え、店内をうろうろする。
「駅ビルって楽しいね」
「うん。あ、最上階に喫茶店があるみたいだよ。ほら」
壁に貼ってある案内図を見る。涼くんは携帯で調べると、目を輝かせた。
「わぁ、見て。おしゃれ。アフタヌーンティーがある」
「・・・えっと、貴族とかが食べるやつだっけ?」
「え?・・・んふ、ふふふっ!そう、そうだね。んふっ!」
「ちょっと、バカにしてるでしょ」
「してないよ。ふふっ。これ、食べてみたいなぁ・・・男2人じゃ変かな」
「変じゃないよ。窓際の席、空いてるといいね。景色見て、食べよう」
男2人で可愛いものを食べることに、最近抵抗がなくなってきた。結構男だけで食べてる人も増えてきてるし、カップルなんだし可愛いもの食べてもいいじゃん?と開き直ってきたし、何より必死に可愛いものを食べる涼くんが可愛くて周りのこととかどうでもいいんだよね。
エスカレーターに乗ろうとした時だった。聞き慣れない声で、わたくんじゃん、と言われた。
振り返ると知ってる顔。昔よくクラブで一緒に遊んだ人だ。
「あぁ、久しぶり」
「最近顔見なくなったけど、忙しいの?」
「まぁ、ありがたいことにね」
涼くんがこっそりおれのコートを指で摘んだ。人見知りするんだよね。さっさと撤退するに限る。
「あれ?彼氏?」
涼くんは話しかけられると、じっと相手を見つめてこんにちは、と挨拶をした。
こいつ、絶対に涼くんのことタイプなんだよな。ノンケッぽくて小動物みたいな子が好きなんだよ。舐めるように見てんじゃねぇ。
「彼氏っていうか、嫁だね。おれの嫁」
ニコニコしながら答えてやる。付け入る隙なんてねーからな。おれのだってこと、今の言葉で理解しろよ?牽制は非常に大事なこと。肩を抱き寄せて自慢してやる。
涼くんには後で説明するとして、今は引こいつをき離すことが最善の行動だ。
「うわ、惚気じゃん」
「そうだよ。惚気たくてたまんねぇの。でもこれから食事だから、またね」
じゃーね、と手を振って別れる。
また、があるか知らないけどさ。
ふう。これで一安心。あいつ絶対に複数プレイしようとか言ってくるだろうな。細身な子を組み敷くのが好きっつってたの、覚えてる。涼くんを見られたのはちょっと悔しいな。おれのいないところで絡まれたら心配どころじゃ済まない。
「涼くん、今の人なんだけどね、」
「・・・」
「涼くん?」
顔を覗き込む。ぽやっとした顔。少し恥ずかしそうに俯くと、チラッとおれを見た。
「・・・うん。元カレとかじゃないのは、分かる」
「え?うん。そうじゃなくてさ、」
「晩ごはんね、チキンステーキにしてあげる」
突拍子もなくて少し戸惑う。くりくりの瞳がおれを見つめた。
「へ?あ、あぁ、うん、ありがとう」
「トマトソースと玉ねぎと、醤油、どれがいい?」
「んと・・・トマト?あ、でもなぁ、」
「全部作ろうか?」
「え?いいの?」
「・・・できるもん。あと、スープも作ってあげる」
「え!じゃあジャガイモのがいいな!」
「いいよ」
なんか、なんか、すごく嬉しそうなんだけど、何で?
よく分かんないけど機嫌がいいなら、いっか!しかもチキンステーキ!皮がパリパリで美味しいんだよね。しかも大きいし。
モモ肉一枚使って出してくれるんだもん。最高!
さっきのことなんてすぐに忘れて、こっそり手を繋いで最上階まで登る。
喫茶店に入り無事窓際に腰掛けると、涼くんはこれがいい、と一番高いものを指差した。
嬉しいなぁ。昔だったら絶対にお店すら入らなかったのに。自分の欲しいものをきちんと伝えてくれるなんて。
「へぇー。おかずみたいなのもあるんだ。これいいね。おれお腹空いててさ」
「・・・スコーン、さ、」
「うん?」
「好き?」
「スコーンって食べたことないな」
「そうなの?」
「パンなの?クッキーなの?」
「その中間くらいのお菓子だよ」
「へぇー」
「頼むね?」
「うん」
涼くんは注文を終えると、少しソワソワし始めた。
何だろ。なんか言いたいことでもあるのかな。
さっきのやつのこと、気にしてる?
「涼くん。さっきの人なんだけど、どこかで会っても気を許しちゃダメだよ」
「え?うん?許さないよ?大丈夫」
「おれの友達って言って近づいてきても無視ね、無視」
「うん。・・・あの、」
「ん?」
「・・・指輪、していい?」
今日、涼くんは指輪をつけていなかった。万が一生徒に見られたら困る、と首に下げていた。涼くんの気持ちを汲んで、そりゃつけて欲しかったけど我慢してそうしなよって、出かけ際に話していた。
「し、して?してして!もちろん!」
「・・・んと、うん」
ゆっくりとチェーンをはずし、指輪を手のひらに乗せる。キョロキョロと辺りを見渡すと、テーブルの下でさっとおれに渡した。戸惑いながら受け取ると、目立たないようにテーブルの上に左手を出した。
「あの、ここに・・・」
「・・・待って、動画撮らして」
素早く携帯をセットする。嘘だろ。何だよ、可愛すぎる。おれがつけていいのかよ。そっと指輪をつけると、涼くんは照れたように笑った。
くぁっ・・・!その顔、好き・・・!
「ありがと」
「いつでもつけるよ。言ってね」
「ん。へへ・・・ほら、あの、・・・よ、よ、・・・め、・・・ですので、」
「え?」
聞き取れなかった。顔が真っ赤になる。涼くんは何でもないと言うと、タイミングよく運ばれてきたアフタヌーンティーセットを見て大喜びした。
動画、回しっぱなしにしよう。
スコーンというものを食べてみる。あ、本当だ。パンとクッキーの間だ。
「オレンジの香りだね」
「おれのは紅茶だった。こっちがオレンジかな。あとプレーン。この小さいバゲット、チーズが載ってて美味しそうだね」
「これなに?ヨーグルト?涼くん食べる?いちごジャム乗ってるよ」
「え!いいの?じゃあこっちのゼリー、あげるよ」
結構ボリュームのあるセットだな。
涼くんはニコニコしながら食べている。うん、いい顔。本当に、いい顔だ。
この顔が見てみたくて、ずーっと食事に誘って、友達のまま過ごしていたんだよな。
それが今じゃ、こうやってほっぺたを丸くして笑ってくれるんだもん。指輪もつけてくれさ。こんなに幸せでいいのかなぁ。
「紅茶美味しいね」
「涼くんは紅茶の方が好きだよね」
「うん。コーヒーも飲むけど、こっちが好き」
「おれ昔、カッコつけてブラックばっかり飲んでたなー」
「カッコつけてたの?」
「うん。高校生の頃とか?あははっ。今考えるとダサいけどね。精一杯の背伸びだったな」
「そうかな。無理に背伸びするのも大事だと思うよ。だってさ、背伸びしたから飲めるようになったんでしょ?おれ、和多流くんかブラックコーヒー飲んでてかっこいいなって思ったことたくさんあるよ」
この子は、本当に、おれを溺れさせるのが上手いな。
本心なんだろうし、嘘なんて一つもないだろう。だから余計にタチが悪い。離れられなくなっちゃうじゃん。離れる気なんてさらっさらありませんけどね?
「おれ、いまだに苦手だもん」
「無理してもいい事ないから、美味しく飲めるものを飲めばいいんだよ」
「・・・ふふっ。じゃあ砂糖入れちゃお」
カップに角砂糖を入れた。溶けるところをゆっくり観察して、へへ、と照れたように笑う。あーもう、楽しいし可愛いなぁ。



********************



「やっぱり似合う!かっこいいね!」
涼くんが食事の用意をしている間に、買ってくれたセーターを着てみた。チノパンと靴下まで入っていた。靴下は明日からはこう。
部屋から出ると嬉しそうに飛びついてくれたので、今日は運が良すぎて明日死ぬんじゃないかな?と変な不安に陥った。
「涼くんが似合うの選んでくれて嬉しい」
「へへへ!まだまだ寒いからさ、必要だよね。この間1着、穴空いちゃったもん」
「ねー。あれびっくりした。これは大事にするね。チノパンもありがとうね」
「すごく似合っててかっこいいよ」
「今度は涼くんの服を買いに行こうね」
「えー?おれはねぇ、服じゃなくてまたアフタヌーンティーに行きたいよ」
グリグリと顔を擦り付けて、ニコッと笑う。あー、このまま抱きしめて拘束して部屋に閉じ込めたい。
背中に回ってくっついて、料理をする姿を見つめる。顔、本当に整ってるよね。鼻もシュッとしてるし、唇は薄いし、髪はサラサラで肌はツヤツヤ。おれなんかなぁ、少しシワが増えてきたもんなぁ。
「ふふっ」
「ん?」
「ヒゲ、くすぐったい。好き」
「・・・おりゃっ」
「あははっ!」
髭でくすぐって、キスをする。イチャコラしていたら食事が出来上がった。
チキンステーキにじゃがいものポタージュ。ポタージュが家で作れるものだって知ったのは、涼くんが初めて作ってくれたとき。市販のものよりおいしくて、鍋いっぱいに作ってくれたのに1日で飲み切ってしまって、怒られたことがある。
涼くんの料理は魔法だ。おれの過食が止まらなくなる。
「ご飯は大盛り?」
「うん!」
「はい」
「ありがとう。あ、サラダもある」
「もちろんあるよ。バランスよく食べてね」
「はーい」
「ソースね、これが醤油でこっちが玉ねぎね。こっちがトマト」
「最高。へへへ」
「大根おろしもいる?」
「いる!やばい、パーティーじゃん。いただきます」
美味しい。おいしすぎる。
ついつい無言になってしまう。必死に口に入れて味わっていると、涼くんがおれを見ていることに気づいた。お箸を持ったまま、じーっと見ている。料理は減っていなかった。食べないのかな。
「どうしたの?」
「え?あ、ううん。・・・美味しい?」
「うん!美味しい!皮がパリパリなのに中がぷりぷりしてて、たまんない」
「デザートあるよ」
「え?そうなの?」
「プリン作った」
「・・・プリンって作れるものなんだね」
買ったやつじゃなくてわざわざ作ってくれたんだ。なんて手際の良さ。本当に、無自覚なんだろうけどモテ要素が満載だ。
絶対に他の人間に知られてはいけない。
「ねぇ、他の人にも作ったことある?」
「え?プリン?ないよ」
「ご飯も」
「何度かあるけど、ここまで毎日はないよ。食べてもらえないことの方が多かったから、作らなくなったし・・・基本は自分のために作ってた」
「そう」
「和多流くんはたくさん食べてくれるから、作り甲斐がある。えへへ」
「今度ハンバーグ食べたい」
「いいけど、ちゃんと野菜もね。ほら、食べて」
どっさりとサラダが盛られる。美味しい。
満腹になって脱力していると、プリンが出てきた。かしゃかしゃと缶を振ると、プリンの上にホイップクリームを出してくれる。
「わ!いいねぇ!」
「好きかなーって」
「あー、こういうの、子供の頃憧れたよ。へへっ、嬉しい」
「食べて」
「涼くんは?」
「おれは明日にするよ」
頬杖をついて、じーっと見つめてくる。なんか、なんかむず痒い。
「美味しい」
「うん」
「また作って」
「うん」
「これさ、・・・え?」
そっと立ち上がったと思ったら、おれの隣に腰掛けた。
え、え、え?え!?スプーンを取ると、プリンを掬って口元に持ってきてくれる。
天使みたいな笑顔。
「あーん」
「・・・あーん・・・」
パク、と食べる。何!?おれ明日、死ぬの!?なんか今日すごく甘やかしてくれてない!?
嬉しい・・・!!
とことん甘えて甘えまくって、お風呂でも全身をじっくり洗ってもらった。
もう大興奮。嬉しすぎてベッドですぐに服を脱がそうとすると、マッサージしてあげるよ、と天使のような笑顔で言われて、思わずパタリと倒れた。ぐ、ぐ、と腰を押される。
「ぅうー・・・気もちぃい・・・」
「肩もやってあげる」
「ふぁー・・・やばいぃ・・・」
「すごい、肩が張ってるね。パンパンだ」
「デスクワークだからねぇ・・・腰もねぇ・・・」
無言でせっせとほぐしてくれる。や、やばい。うとうとしてきた。寝ちゃう・・・!もったいない・・・!
「りょ、涼くん、そろそろ・・・」
「ん?眠い?寝ていいよ」
「いやいや、おれはその、」
「電気消す?」
「違うマッサージがしたいです」
すげーオヤジ。
でも涼くんは照れたように笑って、もぉ、と言った。
飛びかかると、おれがすると言われたけど、無視をして服を脱がす。グーっと胸を押されたのでついムッとすると、何度もキスをされた。
「おれがしたいよ」
「えぇー・・・でも、」
「だってさ、」
「何?」
「・・・よ、嫁、なんでしょ・・・?」
「・・・へ、」
「だから、おれが、その、頑張りたいなーって・・・ダメかな」
とろんとふやけた瞳で、おれを見上げる。
ぺたんっとアヒル座りになったまま、膝を擦り合わせていた。
クラクラする。可愛い。
嫁って、言われて、嬉しかったのかな。そんな、喜んでくれるの?牽制で言っただけだけど、言って、よかったぁ・・・。
あまりの可愛さに返事を忘れていると、了承と取ったのか可愛らしいキスを繰り返しながら押し倒された。
そこからはもう、されるがまま。
全身に優しく舌先で触れ、指先に吸い付いて、一本一本丁寧に舐めてくれた。
あまりにも情熱的すぎて、おれは本当に寝転がってだらしなく喘ぎ、身を委ねているだけだった。口でいかされた後上に跨る涼くんの細い腰を掴み、必死に動く姿を下から見上げてこれ以上はない幸福を噛み締めていた。
大満足で一息つくと、おれの上で息を切らす涼くんがぺたりと倒れて、おれの胸をいじって乳首を口に招き入れた。
「うぅっ・・・」
「気持ちよかった?」
「ん・・・すごくよかった・・・。涼くんは?」
「へへっ。気持ちよかったんだけど、それ以上に楽しかった」
「えー・・・」
「声可愛かったし、おれがキュって締めると嬉しそうだった。んふふっ」
「あーもぉ・・・可愛い・・・」
「・・・も、もう一回、頑張っちゃおうかな・・・」
照れながら言う。ダメ、我慢できない。ガシッと肩を掴んでひっくり返す。今度はおれの番。涼くんは驚いたように目を丸くした。覆い被さって好きなように動く。涼くんは結局日付が変わるまで頑張ってくれました。めちゃくちゃ可愛かったです。
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