111 / 227
二人の小話
しおりを挟む「涼くん、携帯の機種変してくるわ」
「え?どうしたの?」
「反応が悪くなっちゃって。ほら」
タップしても反応しない画面を見せると、涼くんは本当だ、と目を丸くした。
「修理だと時間かかるし、変えてきちゃう。支払い終わってるし」
「そうだね。じゃあおれもしないとな」
え?涼くんも機種変するの?
深く聞くこともなくとりあえず車に乗り込んでショップへ向かう。
奮発して最新のにしようかなと言ったら、じゃあおれも、と同じ機種、同じ色を選んだ。
各々機種変を行い受け取ると、涼くんはカメラを起動した。
「わぁ、前より画面が大きいし画質が綺麗だね」
「うん。・・・涼くんのも調子悪かったの?」
「え?おれの?ううん」
じゃあなんで機種変したんだろう?
あ!ケース買おう!とニコニコしながら車に乗り、別のお店へ向かった。
ケースを選んでいると、それがいいの?と聞かれた。シンプルな耐衝撃のケース。
「うん」
「あ、でもそれ1つしかないよ?」
「そうだね」
「こっちにしようよ」
ほら、と出されたのはおれが持っているのとは色違いのケース、2つ。
お揃いが、いいのかな?
受け取った瞬間に思い出した。
付き合い始めた時に同じ機種にしたこと。次もお揃いにしようねって、押し付けるような約束をした。
あの頃は必死で、お揃いのものを身につけていれば繋がれている気がしたんだ。
そっか、覚えててくれたんだ。この子のこういうところが、可愛くて愛おしくて大好きだな。
「涼くん」
「ん?」
「おれ、こっちの色がいいな」
「でしょー?絶対こっちの方が好きだと思ったもん。おれもこれ、好き」
「でも涼くん、手帳型の方が便利じゃない?定期入れるのに」
「うーん、定期入れは別であるし・・・桃うさの、買ってもらったやつ。へへっ」
「じゃあこれにする?」
「うんっ。ねー、あとで写真撮ろう?記念に」
「うん」
2人で顔を綻ばせながらお会計を済ませる。
帰り道、公園に寄って散歩をしてたくさん写真を撮った。
********************
「和多流くんってプリクラ撮ったことある?」
「んー?・・・あぁ、昔撮ったな。男だらけで」
「えー。いいなぁ。見せて」
「いや、ないよ?」
「何で?」
「ノリとおふざけで撮っただけだし・・・誰かがどこかにベタベタ貼って無くなった気がする。涼くんは撮ったことないの?」
「うん。・・・お、大人でも撮っていいのかな」
「ん?」
「・・・男同士でも、いいのかな。・・・ダメかな」
チラ、チラ、とおれを見る。
つまり。
おれとプリクラを撮りたいんだね?分かったよ。
「わぁ!すごい!すごーい!」
プリクラ機の中に入ってはしゃぐ涼くんが可愛すぎる。
使い方は分からないし今のプリクラって原型留めてないらしいけど、この笑顔が見れたならどーだっていい。
涼くんは小銭を入れると、こう?こう?とニコニコしながら画面をスライドさせた。
「ナチュラルってのでいいんじゃないの?よく分かんないけど」
「ナチュラルでも目が大きくなるね」
「顎も小さいしね」
「・・・なんか和多流くんじゃなくなるね」
「涼くんでもなくなるよ。誰?って感じ」
「・・・やっぱやめる」
返金して、涼くんはそっと機械から出た。
黙ってついていく。想像していたものと違ったのかもしれない。おれだってあんな、自分が誰かわからなくなるほど進化してるなんて思わなかったよ。
「和多流くん、あれやろ」
「へ?」
駐車場に戻る途中、証明写真機があった。
おれを中に押し込んで座らせるとお金を入れて、おれの膝に腰掛けた。
首に手を回して顔を寄せてくれる。わ、わ、何これ、すげーいいじゃん!
「へへっ。照れちゃうね」
「うん」
パシャッとシャッターが押される。2回撮影すると、涼くんはこっちにする、と写真を選んだ。おれの顔はデレデレの情けない笑顔。
出てくるまで待っていると、初めて撮った、と笑った。
「プリクラよりこっちの方がいいね」
「ね」
「あ、出てきた。あははっ、おれの顔だらしないね。照れちゃった」
「涼くんは可愛いけど・・・おれヤバいでしょ」
「デレデレだね」
「やべーって。誰にも見せないでね」
「どーしよっかな」
「ちょっと、本当に勘弁して」
「・・・半分あげるね」
「え、マジ?やった!また今度、撮ろっか」
「うん。・・・へへっ」
「ふふっ」
「・・・和多流くんのこの顔、可愛い」
「しまっといて」
「やだー」
ピラピラと振って、小走りで逃げていく。走って追いかけると、楽しそうにはしゃいだ。
********************
「涼くん、今日の運勢最高だよ」
「・・・おれ、和多流くんに血液型の話、したっけ?」
した覚えがないんだけどなぁ。
テレビの血液型と星座の組み合わせ占いを観て、和多流くんはコーヒーを飲む。
「あ、おれ最下位じゃん」
「本当だ」
「げー。大事なものを無くさないように注意、だって。占いなんて見るもんじゃねぇや」
「一応気をつけてね」
「涼くんはどんなピンチに陥っても大丈夫って言ってたよ」
「へぇー。本当かなぁ」
「忘れ物とかあったらおれが届けに行くよ」
うん、と頷いて家を出る。
仕事は順調。
順調、だったのに。
なんでおれ、仕事終わりの喫茶店で、別の教科の先生とコーヒーを飲んでるんだろう・・・。しかも女性・・・。
さっきから元カレの愚痴を延々聞かされているんだけど、どうしたらいいの。
頭の中がぐるぐるする。
今日は和多流くんが食べたがっていたキムチ鍋を作る日なのに、おれ、なんで、こんなところにいるの。
この先生は何が目的なの。今まであんまり、喋ったこともないのに。
携帯が震える。電話だ。
出ようとしたけど話が止まらなくて出られない。
メッセージ画面を開いて、素早く「たすけて」と打って目の前の講師の顔を盗み見る。確かおれより何個か年上だったはず。おれみたいな年下の男に結婚の愚痴とか男女の関係の愚痴とか言われても分かんないよ。
ここで無理やり帰っても明日職場で変なこと言われたら困るし、本当にどうしよう・・・!
ていうか、女性が、あまり得意じゃない。苦手な方。汗が出てきた。
・・・和多流くん・・・。
「やぁ、待たせてごめんね」
「え!」
顔を上げると、和多流くんが他所行きの笑顔で立っていた。え?は、早くない??
女性の講師は驚いた顔で和多流くんを見上げた。
にこやかに微笑み、彼と約束していたんです、と言った。
伝票をさらうように手に持ち、支払っておきますのでごゆっくり、と声をかけておれに立つように促した。慌てて立ち上がり追いかける。
和多流くんは会計を済ませると黙って店を出た。怒ってるかな。どーしよう・・・せっかく早く上がれたのに、こんなこと・・・。
「涼くん」
人気のない路地裏に入った瞬間、前を歩いていた和多流くんがぐんっと勢いよく振り返りおれに顔を近づけた。
「大丈夫だった?」
心配した顔。一気に力が抜ける。
「・・・わ、和多流くん~・・・」
「怖かったね。もう大丈夫だからね」
「きてくれて安心した・・・!」
「いや、その、実は心配で」
「え?何が?」
「・・・大事なものを無くさないように注意って、書いてあったから・・・」
ゴニョゴニョと、言いづらそうに口にした。
今朝の占いを思い出した。
「え?」
「・・・涼くんに何かあったら嫌だなと思って、駅で待ってたの。駅にいるねって電話しても出ないから、どこにいるんだろうと思って位置情報見てたら喫茶店にいるし、たすけてってメッセージがくるし・・・」
「・・・ありがとう。本当にありがとう。好き・・・」
「え!?あ、う、うん・・・あの、おれも好きですよ・・・」
顔が赤くなる。手を握ると、確かめるように握り返してくれた。
「つーかあの人何?誰?」
「別の教科の講師・・・挨拶しかしたことないんだけど、帰りにくっついてきて引っ張り込まれた」
「絶対涼くん狙いだよ」
「・・・元カレの愚痴、聞かされた」
「ほら!絶対そう!まぁ涼くんはおれのものですけどね!」
「・・・占い、当たってたね」
「え?」
「ピンチに陥っても大丈夫って。和多流くんが助けてくれるってことでしょ?」
「あぁ、そうだね。・・・じゃあおれの占いも当たってたのか。大事なものを無くさないようにって。おれの大事って、涼くんだからさ」
「絶対なくさないと思うけど・・・」
「なんで?」
「おれが離れないもん」
和多流くんは火を吹いたように赤くなり、おれを壁に押し付けて抱きついた。
「涼くん~・・・!いっぱいいっぱい、抱きたいよー・・・!」
「キムチ鍋、」
「食べるけど・・・!」
「食材買いに行こ。・・・食べたら、いっぱいしよ」
首筋にキスをすると、和多流くんは深呼吸してから早足に歩き出した。
笑いながらついていく。
ご飯を食べてからたくさん抱き合った。安心した。
********************
「和多流くんって、アクセサリー着けなくなったよね」
「んー?うん、そうだね」
カタカタとキーボードを叩いている横で、ベッドに寝転がる。
付き合う前はよく腕や首に着けていたし、もう塞がっているけどピアスの穴の跡もある。おれは着けてない方が好きだけど、和多流くんが好きだったものを着けないのは何でだろうと不思議だった。
ゴロゴロしていると、引き出しを開けた。
「バングルとかはまだあるけどね。あとアンクレット」
「アンクレットって何?」
「足首につけるやつ。これだね」
渡されたので受け取って見てみる。少し太いチェーン。これを足首に巻くの?あ、でも夏とかいいかも。ちょっとしたおしゃれだ。
「つけてみてもいい?」
「いいよ」
右足につける。少し大きいな。おれ、和多流くんと比べたら全体的に細いしなぁ。
「あ!右足はダメ!」
「え??」
「つけるなら左!」
「そうなの?へぇ、決まりとかあるんだね」
「右足は相手がいませんって意味なの」
「あ、そうなの?」
「だから左足!分かった?」
「あ、はい」
そうだね。和多流くんがいるもんね。
左足に着けると、満足そうにした。
「似合わないね」
「ゴツすぎるんだね。ほしいなら買いに行こう」
「夏に買う。今素足になることってないし」
「他のも見る?」
はい、とケースを渡された。
あ、このバングルとかは覚えてる。やけに太くて目についたんだよね。
腕に通すとブカブカだった。なんか、悔しい。
「欲しいのがあったらあげるよ」
「いらないもん。ブカブカだし」
「えー?そっか」
「ねぇ、何でつけなくなっちゃったの?」
「え?」
「前はつけてたよね?おれが着けてない方が好きって言ったから?」
「・・・いや、それより前に涼くんの前でつけるのはやめたよ」
何で?
じーっと見つめていると、仕事切り上げてからね、と笑ってまたパソコンを見た。
ガチャガチャとアクセサリーをいじってネックレスを出す。ていうか、チョーカー?おれには似合わないな。
指輪とかは持ってないんだ。ちょっと優越感。おれがあげたやつとペアのだけなんだ。ふふっ。
「さて、終わった」
「何でつけなくなったの?」
「ん?涼くんにはあんまり関係なかったから?」
「え?何で?」
「怒ってるとか呆れてるとかじゃないからね。あのね、涼くんは一度も褒めなかったよ」
「・・・え?そうだった?」
「うん。こういうのをつけてると話のとっかかりが出来て、触ったり触られたり、誘って誘われて・・・みたいな流れが出来るけど、涼くんはそういうのがなくて、もともとおれが持ってるものをたくさん褒めてくれたから、着けるのやめたの」
「元々持ってるって?」
「髭がかっこいいねとか、目の色が焦茶なんだねとか、手が大きいねとか、優しいねとか、話聞いてくれて嬉しいとか?そりゃ、そう言ってくれる人はたくさんいたけどさ・・・涼くんはジーッと内面を観察して言うでしょ。本心なんだろうなって分かるから、アクセサリーでカッコつけるのやめたの」
「そ、そう?かな?」
「よく人を見てるなーって思ったよ」
「・・・そうかな」
「嬉しいよ。さてと、これどうしようかな。着けないし、処分するかな」
「取っておけばいいのに」
「そう?」
「またつけてよ。似合うもん」
「じゃあ、これから出かけるし、着けようかな」
バングルをはめる。
・・・うーん。
「やっぱしなくていいよ」
「え?どうしたの」
「・・・モテちゃうじゃん」
「・・・涼くんに好かれたいです!!」
がばーっと抱きつかれて押し倒された。
キスの嵐。余計なこと言うんじゃなかった。結局、でかけられなかったし。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる