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しおりを挟むあー、やばい。めちゃくちゃ気持ちいい。
もう何回したんだっけ。えっと、1、2、3、4、・・・。
落ちているコンドームを数える。多分今つけてるので、5個目?
腰を動かしていると、きゅうっと中が締まった。あ、やばい。いく、いく・・・。
「ん゛ぁあっ、」
自分の声と腰を打つ音が響いた。
涼くんから離れると、動かなくなった。
我に返ってそっと腰を撫でるとブルブルっと痙攣した。
顔を覗き込む。いろんな体液でぐしゃぐしゃ。目が虚ろ。
やめてって、止めてって、ずっと叫んでいた気がする。もっとって意味かと思って容赦なく腰を打った。慌てて声をかける。
「・・・涼くん?涼くん・・・」
体を揺すっても、返事がなかった。瞼がうっすら閉じて、白目を剥いた。ゾワっと腰が冷たくなる。
「涼くん!涼くん!?」
抱き起こして頬を軽く叩く。
口から涎がこぼれた。顔をタオルで拭いて、耳を寄せる。息、か細い。
心臓も、脈も動いていた。ホッとしたけど、目を開けない。
失神の仕方がいつもと違う。
「起きて、起きて。涼くん!」
このまま死んじゃったら、どうしよう。
グッタリと力の抜けた体が怖かった。
お湯を持ってきてタオルを濡らし、全身を拭く。できることをやるしかない。瞼を閉じ、せっせと体を清める。
赤くなった箇所、キスマーク、引っ掻き傷。必死に拭いて、クリームを塗って、服を着せて、そっとベッドに寝かせる。静かな呼吸が聞こえてくる。
怖くて眠れなかった。呼吸が止まったら、どうしよう。
床に座って、涼くんの手を握る。少し冷たい。
どうしよう、どうしよう・・・。起きなかったら、どうしよう。
強く手を握る。握り返されることはなかった。
*******************
「うー・・・いたいぃ・・・!」
腰、いったぁ・・・!
目を開けて寝返りを打つ。部屋が明るかった。時計を見ると11時。あ、まだ、早い方だ。
休みの前の日は激しいんだよなー。
昨日は後半の方、覚えてないや。手探りで和多流くんを探す。いなかった。
こんな時間だし、ご飯とか食べてるかな。でも、おれが起きる時は必ずそばにいてくれるのに、おかしいな。
左手に暖かさを感じた。和多流くんの手だった。あれ?でも、おれ、左側に寄って寝てるのに・・・?
体を起こして下を見ると、和多流くんがカーペットでうずくまっていた。驚いて体を動かす。
「和多流くん!?大丈夫!?」
「う・・・あ、涼くん・・・。涼くん!」
ガバッと起き上がっておれの顔を掴んだ。
じーっと見つめて、なぜか目を潤ませた。
「ごめん、おれ、押しちゃったかな・・・」
「・・・違う。怖くて、一緒に寝れなかった・・・」
「え?どうかしたの?」
「・・・起きて、安心した・・・。体、辛いよね・・・。ごめん、」
「・・・和多流くん?ねぇ、どうしたの?」
抱きしめられた。体が震えていた。
布団を被せて、抱きかかえてベッドに倒れ込む。ギューっと抱きしめると、すんっと鼻を啜った。
******************
「おれ、失神してたの?」
「うん」
ベッドでコーヒーを飲む。涼くんは困ったように顔を擦ると、首を傾げた。
「結構失神してるけど・・・」
「いや、昨日のはちょっと、違っていて・・・。だから、その、おれが無理矢理して、涼くんに無理をさせてるんだって痛感して・・・。ごめん。少し、控えようと思うんだ」
「控える?」
「うん。セックス、控えたい。ごめん。おれのせいで涼くんに辛い思いをさせて・・・」
触れていいのか迷って、ぐっと拳を作る。
何も言わなかった。反応が、返事が怖くておれも黙りこくる。
あまりにも無言が続いたのでちらっと様子を伺うと、俯いたまま唇を突き出していた。
「・・・涼くん?」
「・・・」
「・・・体痛い?もう少し寝る?」
「・・・お尻も腰も痛いよ」
「ごめん。本当にごめんなさい」
「キスマークも湿疹みたいにたくさんついてるし、しつこくくすぐられて体に赤いところ、あるし」
「ごめんなさい。あの、もうしないから、」
「勝手に控えるって決められたの、すごく嫌だった!!」
「え!?」
「なんだよ!まだお昼に間に合うと思って、どこに食べに行こうかなって考えてたのに、そんなこと言われたら・・・!」
「・・・あ、ご、ごめん。そうだよね、涼くんの意見も・・・」
「2人のことなんだから2人で話し合えばいい話じゃん!和多流くんがそう言ったのに、なんで勝手に決めるの!もう、1人で食べてくる!」
カップを押しつけられ、狼狽える。涼くんは怒ったように部屋から出ると、自分の部屋のドアを乱暴に閉めた。
慌てて追いかける。ノックしても返事がなかった。
やっとドアが開いた時、涼くんは大きなカバンを持ってしっかり防寒していた。
「待って、行かないで。行くならおれが出るから・・・」
「もうこれからも、勝手に考えて勝手に決めて勝手におれに押し付ければいいよ。おれの気持ちなんて蔑ろにして、自己満足に浸ってればいいよ」
「行かないで。涼くん、お願い」
「・・・和多流くんが何を思ったのか知らないけど、おれにとっては別に普通のことだった。だからいきなり、控えるって言われてムカついた。理由が何もないんだもん」
引き止められなかった。涼くんが静かにドアを閉めて出て行った。
寝室に戻って倒れ込む。
今のは、ない。おれが悪い。
勝手に決めちゃいけなかった。ちゃんと話をしなきゃいけなかった。怖いからって逃げようとした。涼くんの体も心も傷つけた。
ダメだ、おれは・・・。
目を瞑る。昨日の涼くんが瞼に浮かんだ。泣きたくなった。
*******************
感情的になっちゃった・・・。
トボトボと風の中を歩く。寒い・・・。
リュックに適当に詰め込んで出てきたけど、別に行くところもないし行きたいところもない。
食べたいものもない。
はぁ、とため息をついて自販機でお茶を買う。喉が渇いていたことにようやく気づいて、一気に半分ほど飲み干した。
どこに行こう。
またため息。
和多流くん、部屋で何してるかな。
落ち込んでるかな。
・・・起きた時、なんで泣きそうな顔をしていたんだろう。聞きそびれた。
おれが失神するなんて別に初めてでもないし、様子が違ったって言われてもピンとこない。
別に、おれからしたら普通だし・・・。いや、多分本当は失神なんて普通じゃないんだろうけど・・・。
きゅるっとお腹が鳴った。
少し考えてパン屋に入る。バターのいい香りがした。
自分の好きなパンをトレーに乗せて、手を止める。和多流くん、お腹空いたかな。ここのコロッケパン、好きなんだよね。どうしようかな。
悩みに悩んでトレーに乗せた。あと、ハムたまご。チーズも。結局てんこ盛りになり、エコバッグに詰めてお店を出た。
ふらふらと公園へ向かう。そこで食べようかな。それとも・・・。家に、帰ろうか、な・・・。
*******************
ベッドでぼんやりしていると、玄関が動く音がした。
慌ててダイニングに行くと、涼くんがエコバッグを持って立っていた。
「涼くん・・・」
「ただいま」
「・・・おかえり、」
外に出て1時間ほどたっていた。
エコバッグの中はパンだった。テーブルに並べてホットミルクを作ってくれた。
「さっき、感情的になってごめんね」
「いや、おれが悪いから・・・。帰ってきてくれてありがとう」
「昨日、おれ、変だった?」
「・・・変っていうか、」
「結論から言うと、控えるのは嫌」
きゅっと胸が締まる。
そんなこと言ってくれるんだ。あんなに抱き潰したのに。
制止の声も無視したのに。
「・・・あの、さ。食事中に申し訳ないんだけど」
「はい」
「・・・もしかして、漏らした?」
「・・・えぇ?」
「・・・おれ、失神したとき、もしかして、お、おしっこ、漏らしたり、した?」
「してないよ?」
「・・・ほ、本当?本当に?・・・漏らしたのが嫌で、控えるって言ったのかと・・・」
「は!?違うよ!?」
どうしてそんな話に!
言葉に詰まっていると、涼くんは困った顔になった。
「じゃあ、なんで・・・?色々考えてみたけど・・・分かんないよ」
そうだよね。
ちゃんと話さないと。
指先を握る。冷たい。温めるように包み込むと、きゅっと握り返された。それがたまらなく嬉しかった。
「・・・死んじゃうかと思ったんだ。息が細くて・・・目が虚だったし・・・白目剥いて、動かなくなって」
「え!?し、白目!?」
「初めてだったから・・・怖くて・・・。寝てる間に息が止まったらとか、考えちゃって・・・」
「そ、そうなんだ・・・。びっくりさせてごめんね。後半の方はあまり記憶がなくて・・・すごくたくさんイッた気がするけど、あんまり覚えてない」
「止めてって、やめてって、ずっと言ってたと思うんだけど・・・おれも理性が飛んでたみたいで・・・。だから、その、怖くなって、控えようって言ったんだ。ごめんね」
「・・・和多流くん、最近謝ってばっかだねぇ」
顔を見る。
子供を見るような目でおれを見ていた。
笑って立ち上がると、おれの隣に立って頭を撫でた。
「そんなに謝らなくていいよ。2人で気持ちよくなるためにしてるんだもん。あと、セーフワードも言ってないでしょ」
「あ、うん・・・。ていうか、言う暇を与えてないよね」
「うーん、そうかも。でも・・・たぶん本当に嫌だったら殴るなりしてるよ」
「・・・うん。殴って。これから嫌なことをしたら顔でも体でも、殴って欲しい」
「わかった。じゃあ、えいっ」
「い゛っ!?」
ベチンッとデコピンをされた。
あまりにも痛くて額を抑えてうずくまる。いってぇ・・・!
「あははっ。おれの、痛いでしょ」
「ビリビリする・・・!」
「次からは勝手に決めないでちゃんと話そうね」
「・・・はい」
「えへへっ」
この笑顔に救われる。腰を抱き寄せてお腹に顔を押し付けると、抱きしめてくれた。
*******************
話し合いの結果、しばらくの間は休みの前の日はゆっくり眠ろうということになった。
明日は休みだ!と思うとタガが外れるらしいから、とりあえずそれを阻止すればいいのでは、と話は落ち着いた。
おれは別に控えなくても良かったけど、お互いの意見を尊重したい。
でもさ、おれも男だからさ。
「和多流くん、おれがしたくなったらしてくれる?」
「・・・」
「和多流くん?」
「・・・非常に、魅力的な、言葉だった・・・!と思って・・・!おれ、ほんっと最低・・・!昨日あんなことしといて、もう勃起してる・・・!」
「げ、元気だね・・・」
「が、我慢はするけど!その、もし涼くんがしたくなったらもちろん・・・!抱きたいよ・・・。ていうかおれだってその、抱きたいし、ていうか、あぁ、うまい言葉が・・・!」
「・・・今日は?」
「ふぁ!!??」
聞いたこともない声。
ソファで飛び跳ねると、和多流くんは髪をぐしゃぐしゃにした。
葛藤してる?
「触りっこしよう。お尻がまだダルイから」
「・・・」
「嫌ならまた今度でもいいけど」
「・・・あの、」
「ん?」
「・・・す、素股、は、ダメですかね・・・」
絞り出したような声。
つい大声で笑うと、和多流くんは顔を真っ赤にして、ガバッと抱きついて首筋に甘噛みした。
身を捩って逃げる。本気じゃないけどさ。和多流くんも笑ってくれたので少しホッとした。
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