Evergreen

和栗

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星の下で

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「はー・・・」
「どうしたの?」
「んー?うーん・・・苦手なお客さんと会うからさー」
って、2週間くらい前に言ってた。
担当の女性が結構積極的らしい。
和多流くん、女性に興味がないからなのか分け隔てなく優しくできるしやらしい目で見ないから、モテるんだよなぁ。しかも、年上にモテる。相手のプライドを傷つけずにやり過ごすの、大変そう。
「涼くーん・・・いっぱいキスしてー・・・」
おれの仕事が終わって家に帰ると、疲れ果てた和多流くんは即座に甘えて来た。
断りきれずにランチに行ったらしい。コース料理は食べた気がしないと、迎えの車の中で愚痴っていた。確かに和多流くんとご飯に行く時、コース料理とか行ったことないなぁ。マナーとか知らないし。
仕事でいろんな人に会うのって大変だな。
おれは決まった人にしか会わないから、想像しかできないんだけど。
「涼くん!明日は休みだよね?」
「うん。休みだよ」
クリスマスに休みなんて初めてだった。
まだ非常勤の頃はクリスマスに講義がないとケーキ売りの臨時バイトに入っていたし、去年は普通に仕事だったし。
和多流くんはパーっと顔を明るくすると、ニコニコしながら車を出した。
「ケーキも明日だったよね?」
「うん。タルト、楽しみだね」
「チキンはクマのところに頼んだし。夜はのんびりさ、部屋で過ごしたいな」
「お昼は?どこか行きたいところある?」
「んー・・・んふっ。行き当たりばったりが一番楽しいよね。楽しみ過ぎて色々考えてたんだけど、計画すると空回りそうでさ」
「へへへ。じゃあさ、夕方にイルミネーション見て、それまでは行き当たりばったりの旅、しよっか」
帰宅して着替えて寝室に入ると、クリスマスツリーが光っていた。驚いて飛び跳ねる。
ツリーだ!すごい!
「買って来ちゃった。安くなっててさ」
「すごーーい!おれ、初めてだよ!家にクリスマスツリーって!しゃ、写真撮って、ほしいかも・・・」
「もちろん!ていうか言われなくても撮るつもりだったしていうかもう撮ってるけどね」
あ、すでに携帯構えてるし。
動画撮ってるんだろうな。すぐ撮るんだから。
でも嬉しくて、何枚も写真を撮る。
「あの、ちょっと早いんだけど早く渡したくて、これ」
ソファに置いてあった大きな紙袋を渡される。全然気づかなかった。中を覗き込むと、やっぱり大きなラッピング袋が見えた。引っ張り出して中身を取り出す。
クリスマスバージョンの桃うさぎのぬいぐるみが出て来た。
嘘!これ、予約しないと買えないやつ!しかもお高め!
「え、あ、え!?ぅあ、」
「・・・か、わいい~・・・。ほら、よくタブレットで見てたからさ・・・」
「か、か、可愛い・・・!ふわふわで、モチモチの・・・!ありがとう!本当にありがとう!買うか迷って、でもちょっと予算的に苦しいかなと思って、諦めたんだ」
「・・・写真撮っていい?」
「え?うん」
なんか、瞳孔開いてない?大丈夫??
「おれは、明日渡すね」
「え!?そんな、い、いいの?」
「おれだって渡したいから用意したの。大したものじゃないけど・・・」
「嬉しい!!」
ガバッと抱きしめられた。しばらくイチャイチャした。
去年もらった桃うさのぬいぐるみを持って来て、ツリーの前に並べて写真を撮る。へへ。可愛い。
明日も楽しみだな。


*******************



朝起きて、ドキドキしながらまた目を閉じる。和多流くんはまだ起きない。
寒くてくっつくと、素肌が重なって気持ちよかった。
昨日もたくさんしちゃった。トロトロに溶かされた。和多流くんはいつもおれのことを甘やかしてくれる。
まぶたにキスをしてから、そっと唇にキスをする。
ふわふわ。気持ちいい。夢中になってキスをしていると、ガシッと腰を掴まれた。
「わっ」
「おはよ、王子様」
「お、王子様?」
「だってキスで目が覚めたもん。王子様でしょ」
「・・・おはよ、和多流姫」
「・・・あははは!ムキムキの姫?」
「ふふふっ!ドレスはち切れちゃうね」
「着てる最中に破けるって」
少し布団に潜ってイチャイチャ。楽しい。なんか、もう、楽しい。
「寒いね。エアコンつけようか・・・え?」
手探りでリモコンを探して、ピタッと止まった。布団から頭を出したので同じように頭を出す。
和多流くんの手には小さな箱が握られていた。白い箱に、赤いリボンが映えている。
ポカンとしてしばらく固まったあと、おれを見た。
「・・・え?あの、」
「サ、サンタさんが、来たんだよ」
急に恥ずかしくなって目を逸らす。
和多流くんは箱を見つめたまま動かなかった。あれ?なんか、想像してた様子と違うかも。
すぐ開けるかと思ったんだけど・・・。
「・・・あ、開けないの?」
「・・・あの、これってさ、」
「サンタさんが持って来たから、おれは知らないよ?」
「ちょ、っと、待って。待って、あの、」
和多流くんは深呼吸をした。
エアコンをつけて起き上がり、和多流くんの手から箱を取る。
そっとリボンを解いて箱から出すと、また箱が現れた。おれの手の動きをじっと見つめる。
「あの、・・・サイズ、合ってると思う。良かったら、つけてね」
パカっと開けると、リングが出て来た。普通のリングじゃつまらないかなと思って、ウッドリングにした。
和多流くんのイメージ。いつも穏やかで、優しくて、そばにいてくれる安心感。
これをみた時に絶対に和多流くんに似合うって思ったんだ。
「あのね、水に濡れても大丈夫なようにちゃんと加工されてるんだよ。だから、」
「待って、これ、本当におれが受け取っていいの?」
ガバッと起き上がり、肩を掴まれる。
頷くと、ぐしゃぐしゃと頭をかいた。
「待って待って、だってこんなのさ、」
「こういうのがあった方が都合がいいお客さんもいるでしょ。和多流くん、いつも憂鬱そうな顔してたし・・・。これがあれば断りやすいし、あと、・・・お、おれのですよーって・・・その、ね?」
言ってて恥ずかしくなってきた。
ていうか、2人で素っ裸だし・・・。かっこ悪い・・・。
「・・・涼くん・・・」
「わ、和多流くんにもさ、安心してほしいし!嫌なお客さんがいてもおれがそばにいますよっていうか、そのー、えっと、」
「涼くん・・・!」
「ごめん!重かったかも!やっぱなし!」
「涼くん!!」
強く、強く、抱きしめられた。
肩が濡れる。泣いてる・・・?
背中を撫でると、さらに強く抱きしめられた。
「んく、くるし、」
「涼くん・・・おれ、おれさ、」
「うん?」
「・・・サンタさん、来たの、初めてなんだよ・・・!」
「え?」
「こんなふうに、愛の形を貰ったのも、初めて・・・」
カーッと顔が熱くなる。
声が出なくて、何度も何度も頷く。
指輪を見た時、これがあれば伝えられるかなって思った。憧れたことも、欲しいと思ったこともなかったけど、贈りたいって思うことがあるんだね。知らなかったよ。
「・・・嬉しい・・・。涼くん」
体が離れる。目が真っ赤だった。おれまで泣きそうになる。
「・・・幸せです。本当に、幸せ・・・。ありがとう・・・」
「・・・おれも・・・」
「・・・つけてくれる?」
右手を出したので、そっと左手を取って薬指にリングを通す。うわ、手が、震える・・・。
「・・・嬉しい・・・。一生大事にする・・・」
「・・・あ、あの、これからさ!どこ行く?」
恥ずかしくなって大きな声で問いかける。
和多流くんはふふ、と笑うと、照れてる?と聞いてきた。恥ずかしくてたまらない。
2人でシャワーを浴びて、おしゃれをして出かけた。おれは和多流くんが前に着ていた黒のセーターを借りた。ふわふわで暖かい。
和多流くんは去年も来ていた白のセーター。おれのリクエスト。これを着た和多流くんがすごくかっこいいんだ。
ショッピングモールに行って服やキッチングッズ、靴なんかを買った。
車にたくさんの荷物を積んで、遊園地にも行った。前にも行った遊園地。ポップコーンを買って、乗り物にも乗った。昼間の観覧車も楽しかった。
「和多流くん、クリスマス限定の味だって。買おうよ」
チュロスを指さすと、頷いてくれる。はい、と渡すと左手で受け取った。リングが見えて嬉しくなった。
「涼くん、ネックウォーマー、つけてくれて嬉しい」
「和多流くんと一緒なら、怖くないんだ。暖かくて気持ちいいよ」
「ちょっとへたってきた?新しいの買ってこようかな・・・」
「やだ。これがいいもん」
「うーん、でもさっきセーター買ったお店に売ってたんだよなー。あれ、よかったなぁ。スヌードだったけどさ」
「あぁ、あれ生徒がつけてるよ。もこもこで可愛いよね」
「・・・やっぱり買う。今度買ってくるね」
「だから、これがいいって言ってるのにー」
「さらに可愛くなった涼くんが見たいんですー」
ぎゅっと手を握られる。
いい、よね?クリスマスだもん。握り返して園内を散歩する。
歩くだけで楽しい。指先で指輪を撫でると、和多流くんは泣きそうな顔で笑った。
少し暗くなって来たので遊園地を出た。
車で揺られながら知らない街へ来た。
コインパーキングに車を停めて街に出ると、イルミネーションが綺麗だった。
「わぁ!街中がイルミネーションだらけだ!綺麗だね・・・」
「うん」
「すごーい・・・」
駅から続く大通りが全部キラキラ輝いている。
カフェでコーヒーを買って並んで歩く。
キョロキョロしながら歩いていると、和多流くんが笑った。
「え?」
「そ、そこ歩いてる、子供と、同じ動きしてる・・・!」
「え!?そ、そんなことないでしょ!」
「ずっと上見てて、おれが、引っ張ったの、気づいてないでしょっ、ふふふっ、ふ、」
「うそ!?ごめん、ありがとう・・・」
は、恥ずかしい・・・。
気をつけなくちゃ・・・。
歩いていると、広場に着いた。
大きなクリスマスツリー。みんな写真を撮ったり、はしゃいでる。
綺麗・・・。
すごく、綺麗。
見上げて、ツリーのてっぺんにある星を見つめる。大きな星だった。子供が、欲しい!と強請っている。
「涼くん、こっちおいで」
そっと手を引かれて、木に寄りかかる。
「おれ、サンタさんが来たの本当に初めてだったんだ」
「・・・うん」
「じいさんからプレゼントを貰うだけで幸せだった」
「うん、」
「・・・去年は、涼くんが考えて選んでくれたものが、すごく幸せで・・・これ以上のことはないって思った」
「・・・」
「・・・今年はサンタさんが来て・・・指輪まで・・・。涼くん・・・幸せだよ・・・」
「・・・おれも」
「おれを見て」
おれの前に立ち、イルミネーションもツリーも見えなくなる。和多流くんだけ。
「目を閉じて」
「うん・・・」
目を閉じると、両手を握られた。少し震えていた。目を開けようとすると、額に唇が触れた。
「わぁっ、」
目を開ける。
和多流くんの真剣な顔があった。
「涼くん、世界で一番、愛してます」
「・・・あ、ありが、とう・・・おれも・・・あの、」
「受け取ってください」
パッと視線を下げる。目に飛び込んできたのはケースに入った指輪だった。和多流くんの大きな手に包まれていた。
「・・・え!?」
「これからも、一緒にいてください」
「・・・へ、あ、ぅ、・・・!あの、」
もう一度顔を見る。視線はおれに注がれていた。
かっこよくて、優しい目。まさかこんなに、一心におれに注がれるなんて。
震える指先で指輪に触れようとすると、きゅっと握られた。右手にケースを持たされ、和多流くんの指が指輪をさらう。
そっと左の薬指に指輪が通された。
細い、シンプルなデザイン。綺麗。ツリーの星よりも、何倍も、何十倍も。
「綺麗・・・」
「涼くんが綺麗だよ」
「・・・う、嬉しい・・・。嬉しいぃ・・・!和多流く、嬉しいよぉ・・・!」
どんな気持ちで選んでくれたんだろう。どんな気持ちで、ずっと持ち歩いてたんだろう。
厚い胸板に抱きつく。
必死に声を殺して泣くのを堪える。
優しく抱きしめてくれた。
「涼くん、これからも、よろしくお願いします」
「あ、ぅうっ・・・!和多流く、だ、だいしゅき、おれ、おれ、こんな、こんなだけど、おれも、」
「このままの涼くんじゃなきゃ、ダメなんだよ。おれ」
堪えきれなくて静かに泣きじゃくった。
人目なんか、どうでもよかった。
和多流くんが隠してくれたし、どうせみんな自分の世界に夢中なんだ。
おれたちだって、自分の世界に夢中になりたいんだ。


******************


「プ、プラチナ!!??」
帰りにケーキとチキンを受け取って家に帰った。
グラタンにサラダ、ポテトを揚げてテーブルに並べて乾杯をした。
指輪のお礼を言うと、照れながらおれの手を握ってサイズを確かめた。
これステンレス?と聞くと、プラチナだよと言われた。
「プラチナって、」
「アレルギー出ないし、一番シンプルだし、よく似合ってる」
「・・・おれ、おれ、和多流くんに安物を・・・」
「値段じゃないし、渡したいものを渡しただけ。涼くんもそうでしょ?おれね、これ・・・すごく、気に入った。温かみがあっていいよね。ウッドリングって初めて見たよ」
「よかった・・・」
「・・・あ、あのさ」
「なに?」
和多流くんは照れたようにポケットを探って、そっと指輪を出した。おれがつけているのと同じもの。ギョッとして目を剥くと、おれの手のひらに乗せた。
「も、もしかして、ペアリングなの!!!???」
「あはは・・・。はい。ペアリングです」
「い、いくらしたの!?」
「あら、野暮」
「だって、だって、」
「ウッドリングはペアじゃないの?」
「ち、違う・・・。だって、和多流くんに渡したかっただけだし、あの、」
「あ、いいのいいの。おれがペアリングにしただけだから。・・・で、あの、つけて欲しいなーって・・・」
「え、えぇっ!!」
「あ!ウッドリングは外さないでよ!?2つつけるんだから!」
「も、もぉー・・・。はい」
「へへ・・・。2回もつけてもらっちゃった・・・。幸せ」
本当に嬉しそう。
渡して、良かった・・・。
喜んでくれて、よかった。
「まさか先を越されるとは思わなかったけどね・・・。もっとかっこよく渡したかった」
「おれもびっくりしたよ。桃うさも貰ったのに・・・。おれももう一つくらいなにか、」
「涼くんが欲しい」
「・・・いや、そんな、もう和多流くんのだし・・・」
「もっと欲しい。ねぇ、ちょうだい?」
指先にキスをされる。
言われなくたって、あげるに決まってるじゃん・・・。
うん、と頷くとやらしく笑った。
クリスマスはこれからだよ、と囁かれ、体が熱くなった。


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