Evergreen

和栗

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夏に書いたお話です。
和多流くんが結構ぶっ飛んでます。







かっわいいー。
可愛い、可愛い、可愛いーーー。
寝癖が立ってるの、気づいてないんだろうなー。かっわいー。
「あ、タオル落ちた」
ヒョイっと腰を曲げて落ちたタオルを拾う。腰がチラッと見えた。うーん、ほっそいなー。噛みつきたい。
「和多流くん、なんか、パンツ擦り切れてない?」
おれのパンツをちゃんとチェックしてくれるんだ。可愛い。好き。
洗濯物を干してる涼くん、可愛い。好き!
「うん、捨てる」
「今度買いに行こう。おれが帰りに買ってきてもいいけど」
おれのパンツを買ってきてくれる涼くん。いい!好き!!
「じゃぁ、お願いしていい?」
「何でもいい?」
「うん。おれに履かせたいやつ、選んで欲しいな」
「えー?うーん、難しいな。でも、買ってくるね」
なんか、夫婦みたい。夫婦という形に良い印象はないけど、涼くんを見ていると夫婦というものも良いのかなって思う。
「あ、買い物行こう。今日はキャベツが安いから」
「うん、行こう」
毎日スーパーのWEBチラシと睨めっこしてお店を選んでいる姿は、本当に可愛い。ソファで小さくなって必死にお買い得品を見つけて喜んでいる。可愛い。何でも買ってあげたくなる。
最近分かってきたけど、お土産でデザートを買うよりも特売になった日用品や食材を買った方が喜んでくれる。
あと、半額シール。これはもう、本当に喜んでくれる。肉、魚なんか特に。
ちょっと複雑な気持ちになるけど、変な気を張らなくていいので楽と言えば楽。そして喜ぶ顔が本当に可愛いので、最近では半額シールが貼られるタイミングでスーパーに行くようになった。昔のおれが見たら驚くだろう。
「キャベツ、1家族1個だ・・・」
キャベツの前で少ししょんぼりする涼くんは、可愛い。
おれのこと、家族だと思ってくれてるんだって嬉しいし、キャベツ一個でコロコロと表情が変わるのも可愛い。
「おれが1人で並べば2つ買えるじゃん」
「え?いいの?」
「うん。他にもある?」
「卵とか、かな・・・。あとはもしかしたらヨーグルトも」
「じゃあカゴ、もう一個持ってくるよ」
「・・・うん」
あれ?なんだ?どうしたんだ?
元気がなくなってきた。
「どうかした?」
「・・・いや、その、」
「ん?」
カゴをカートの下段に押し込んで隣に並ぶ。本当は顔を両手で包んでムニムニしてご機嫌取って笑って欲しいんだけど、さすがにスーパーじゃできないし。
と思っていたら涼くんはキョトンとした顔でおれを見てから、なぜか首まで真っ赤に染めた。
え?なに?可愛い。
「どうしたの?」
「あ、いや、うん、何でも・・・」
「言わないとキャベツ買わないよ」
「え?!キャベツを盾にするんだ・・・」
「ほら、早く言わないと・・・キャベツがどうなってもいいのか」
「うっ・・・!欲しい・・・!」
はい楽しい。はい可愛い。
あーもう、楽しい可愛い幸せ。
イチャイチャって楽しいー。
土日だと混んでいるから人目が気になるけど、平日って人が少ないからあんまり気にならない。思う存分イチャイチャできる。もちろん節度は守りますけども。
「ほらほら、早く」
「・・・笑わないでよ?」
「うん」
「・・・1人で先に行っちゃうのかと思っただけ」
「・・・は??」
「・・・だから!一緒に見て回らないのかなって思っただけだってば。・・・笑ってんじゃん!!もういい!」
いやいやいやいや。
笑ってるんじゃなくて、ニヤけてんの。
いきなりデレな発言をされて叫びたいのを堪えてたらニヤけちゃったの。
かんわいい~!!!!!おれの彼氏、世界で一番かんわいい~!!!!!
慌てて追いかけて隣を歩く。早く家に帰りたいな。キスして、頭をくしゃくしゃに撫でて、抱きしめて匂いを嗅いでそれから、それから・・・。
あー!早く抱きたい!!
「涼くん」
「・・・何」
「可愛すぎて歩きづらい」
「知らないよ!バカ!」
「ねぇ、お肉買おうよ」
「買わない!野菜炒め!」
「えぇ!?お肉食べたいんだけど」
「だから野菜炒め」
「えー!お願い!チキンステーキ!この通り!」
「やだね!」
あぁ、へそ曲げちゃった。
・・・唇突き出してる。拗ね方が子供みたい。かっわい。うーん、かぶりつきたい。
そんなこと思ってる場合じゃないんだけどね。長期戦になりかねないから、なんとか機嫌を直さないとな。
でも機嫌を取る材料がないんだよなぁ。
ちょっと戦線離脱するか。
声をかけて調味料のコーナーに入る。テレビで取り上げられていたスパイスが売っていた。うーん、涼くん、これ使って唐揚げ作ってくれるかな。
今おねだりしても断られそうだな。うーん、食べたい。
「欲しいの?」
「わっ!」
「テレビでやってたやつ?」
涼くんがおれの手元を見ていた。返事をすると、値段を見てから、いいよと言った。カゴの中には鶏肉が入っていた。買わないって言ったのに。野菜炒めって言ったのに。
「・・・チキンステーキ、食べたいんでしょ。それで作るよ」
「いいの?」
「うん。・・・食べたいなら、作る」
んあぁあぁあぁ!!!!!好き!!!!!
ちゃんと歩み寄ってくれてる!!甘やかしてくれてる!好き!!大好き!!!!!
「お願いします」
「ヨーグルト見に行こ」
「うん。ヨーグルト食べてると調子いいんだよね」
「本当?ね。おれの言った通りだった」
得意げな顔、可愛い。すっげーいい。萌えってこういうことか。
最近お腹の調子が悪かったので、涼くんに勧められたヨーグルトを食べたら調子が戻ってきた。なのでヨーグルトを食べることを日課にした。
涼くんと過ごすようになって、健康に気を遣うことが増えた。お酒の量も減ったし、3食しっかり食べるようになったし、タバコもかなり本数が減った。
健康診断をしたら中性脂肪とコレステロール値が下がった。これはかなりびっくりした。
「あ、無糖のがない」
「加糖でいいよ」
「えー。蜂蜜入れて食べた方がおいしいのに」
蜂蜜って、可愛い。涼くんて、シロップとか大好きなんだよね。蜂蜜にメープルシロップ、チョコソース。もちろん果実ソースもジャムも好き。可愛いよね。
でもいつも安いのしか買わないので、もっと高くて美味しいものを買えば良いのに、と思うこともある。
「こっちの無糖ヨーグルトにしてみる?特売だよ」
「・・・うん。食べてみる」
うーん、腑に落ちてない。可愛い。結構こだわりが強いんだよね。絶対これじゃないとダメってわけではないけど、妥協はしたくないみたい。他のお店に売ってるだろうって分かってるから。でもヨーグルト1つのために違うところに行こうとは言わないんだよね。おれに申し訳ないって思うみたい。そんなこと思わなくていいのになぁ。もっともっと気軽に言ってくれていいのに。いつでもどこでも連れて行くのに。
「違うお店、見てみる?どうせ午後、違うとこ行くし」
「え、午後も出かけるの?」
「え?行かないの?」
「どこ行くの?」
「デート」
「だから、どこに?」
「目的はないけど、ドライブとか?行ったことない方面とか」
「いや、でも、いいよこれで」
「ホームセンターとくっついたスーパーができたって言ってたじゃん?そこ行ってみようよ。おれ、ホームセンターですだれが欲しいんだよね」
「すだれ?」
「うん。ベランダにつけたら日除になるから、前から欲しいなと思ってたんだよね。今ならオープニングセールとかやってるかもね」
「オープニングセール・・・」
ふあぁああぁ!!!かっわいいーー!!!!!
オープニングセールって言葉で気持ちが揺らいでる!!好きだよねー、セール!
「食材とかも安いかもね」
「・・・そうかな」
「キャベツと卵だけ買って、そっち行ってみない?」
「・・・うん。行く」
こくん、と頷く。
あぁ、動画で撮りたかったな・・・。
キャベツと卵を2つずつ買って家に戻り、また車に乗り込む。
走らせていると、あ、と前方を指さした。
「あのコーヒーショップ、成瀬さんが行ったって言ってた。すごく大きなカップに淹れてくれるんだって」
「へぇー。おしゃれー。おいしいのかな」
「美味しかったって。成瀬さん、舌が肥えてるから確かだと思うよ」
む。
また成瀬さん。すぐ褒めるんだから。まあ確かに、あの人は舌が肥えてるよ。調味料とかよく知ってるし。悔しいくらい料理ができるし。
大人の余裕を見せつけたいところだけど、ついついハンドルを切ってしまう。おれだって味の違いくらい分かるし。
駐車場に入ると驚いた顔をした。
「え?気になるの?」
「まぁ、気になるよ。どのくらい大きいのかなって」
「えっとね、こんくらいだった。シロさんが撮った写真、見せてもらったんだ」
両手でカップの大きさを表してくれる。うん、可愛い。
店内に入ってカウンターに近寄ると、涼くんは小さく声を上げた。コーヒーが一杯1000円もする。そんなもんだろうと思っていたので驚かなかったけど、涼くんにとっては非常事態なのだろう。
そういうところで驚いちゃうのも可愛い。でもきっと、今、かなりパニックになってるんだろうな。
「どれがいい?」
「え?あ、いや、その、」
「カフェオレにしておく?ブレンド?」
「・・・えと、」
「おれが入りたかったんだから、付き合ってよ。ブレンド2つにしようか」
注文してからカフェテラスに出る。店内だと涼くんが緊張して飲んでくれなさそうだし。
「あの、ごめん。高いって知らなくて・・・」
「え?ううん。入ってみたかったからさ。あ、ほら来たよ」
カップがテーブルに置かれる。本当に大きなカップだった。
丸くて白いカップ。そういやレジで売ってたな。これなら何度も入れ直さなくていいかも。おれ、冷めても飲めるタイプだし。
「わー、本当に大きいや。和多流くん、片手で持てる?」
「うーん。ギリだね。いただきまーす」
「いただきます」
一口飲む。美味しい。うん、美味しい。美味しいけど。
・・・・・・ドリップコーヒーとか、インスタントの方が、個人的には好みかなー。
味が上品すぎてよく分かんなくなってきた。
美味しいんだけどね。
「美味しいねー。香りもいいね」
「うん、そうだね」
2度目はいらないかなって感じだ。結局舌が庶民なんだよ。どんなにカッコつけたって着飾ったってお金かけたって、中身は田舎のクソガキのままなんだ。
「・・・ちょっと、缶コーヒーが飲みたくなるね」
涼くんがポツリとつぶやいた。
その一言でホッとした。
安心する。無理に背伸びしなくていいんだって思う。
「ごめん、せっかくご馳走してくれたのに・・・」
「ねぇ、おれもそう思ってたって言ったらガッカリする?」
「え?」
「ガムシロップ大量に入れて牛乳もたっぷり入れて一気に飲み干してやりてーなって思ったよ、おれは」
「・・・んふふっ、ちょっと分かる」
「でしょ?」
「ジャンクフード食べたくなる、的な」
「そう。あとでハンバーガー食べに行こう」
「あははっ!すごい、食べたくなってきた!コーラとか、飲みたい」
「分かる分かる。ふふっ。カッコつけるもんじゃねぇや。飲んだらすぐ行こう」
「うん。あ、うちのコーヒー切れちゃったんだ」
「スーパーのおつとめ品のワゴンにあるやつが一番美味しいよ」
涼くんは全身で笑うと、分かるー!と言いながらカップに口をつけ、優等生の味がする、と言った。その一言がおかしくて大笑いした。


******************


「わぁ、こうやるんだ」
「そうそう。面白いでしょ」
買ってきたすだれを取り付けて紐を引くと、巻いてあったすだれがシュルシュルと降りてきた。
涼くんは興味津々。初めてなんだろうな。かわいい。
さっきもオープニングセールを堪能してたくさん買って、帰りなんて寝ちゃってたし。
「これさ、和多流くんの実家にもあったよね」
「うん。ボロのやつね。あ!そういえばさ、実家が売れました」
「え?そうなの?」
「うん。どこから聞きつけてきたんだか、ちょうど片付けをしてる時に不動産屋が来てさ。実家から遠くないところに一個大きな会社があって、社宅が欲しかったんだって。近所の空き家をどんどん買い上げてたらしいんだ。あんな家にお金がつくなら売っちゃおうかなって」
「そっかぁ。・・・和多流くん、億万長者だね」
「じゃあまた、あのコーヒー飲みに行こうか」
「あそこはもういい」
2人で顔を見合わせて笑う。
エアコンの効いた部屋に戻ると、ペタ、と寄りかかってきた。
夏の肌ってしっとりしているから、密着して取れなくなりそう。ムラッとしちゃうんだよな。
「和多流くん、よかったねぇ」
「え?」
「このアパートと、朝多流さんがいるから、寂しくないね」
「・・・ん?どうしたの?」
「実家がなくなるって、少し寂しくない?」
「そうかなぁ。あんまり・・・でも、このアパートがなくなったら寂しいなと思うな。だから相続したんだし。朝多流は置いといて、おれは、」
涼くんがいれば寂しくないと、言おうとした時だった。パッと顔が上がり、くんっと胸元を引っ張られた。そのままキスをする。すぐに離れると、おれもいるから寂しくないよ、と笑った。
こんなことを言ってくれるようになったんだ。
嬉しくて、幸せで、愛おしくて、泣きそうになる。
目頭が熱くなった時、涼くんはハッとした顔をしてハンカチを出した。
目元を拭ってから、心配そうに見つめてくる。指を絡めてそっと手の甲にキスをする。
「うん、寂しくない」
「・・・よかった。というかさ、和多流くんっていろんなものが転がり込んでくるよね」
「へ?どいいうこと?」
「まずアパートが転がり込んできたでしょ」
「こ、転がり込んできたで正しいのかな・・・まぁ、でも、そうか。あること知らなかったし」
「で、おれが転がり込んできて」
「ていうか引っ張り込んだっていうか・・・」
「仕事もそうでしょ。いつの間にかいろんな人から紹介されたり、頼られたり。最近、前より忙しいでしょ」
「うーん、まぁ、お金が必要だからねぇ」
いつか涼くんとウェディングフォトとか、撮れたらいいなーって思ってるんだよね。まだまだ先の話だけど。
バケーション撮影ってのがしてみたいから、海外に行くかもしれないし。海とかさ、憧れるよね。
白いタキシードを着た涼くん、絶対に可愛いしかっこいいに決まってる。
そのまま新婚旅行とか行けたらいいなーとかも、考えている。その前に一回どこか旅行に行きたいところだ。
「あとクマさんたちも来たし」
「あぁ、あれは予想外だった」
「そうなんだ?」
「だってずっとゲイバーで働くんだと思ってし、いずれは店引き継ぐのかなって思ってたから」
「和多流くんのそばで働きたかったんじゃない?言ってたよ。和多流くんは寂しがりやだからって」
「えー?おれが寂しがりや?」
「うん。おれもそう思う。和多流くんは寂しがりやだよ。だからね、おれが一緒にいるから、安心してね」
「一緒にいてくれるの?」
「うん。だから、和多流くんも一緒にいてね」
ぐっ・・・!!
がわいい・・・!!
ギューっと胸が苦しくなって、思い切り抱きしめる。
涼くんがこんなことを言ってくれるなんて思わなかった。
もうそれだけで感無量。
「涼くん、」
「あ、ダメ。これからご飯作るんだから」
「えぇっ!」
「チキンステーキ、食べたいんでしょ」
「・・・食べたいんだけど、先に涼くん、」
「後でね」
うぅっ・・・。
落ち込みかけていると、くしゃくしゃと頭を撫でられた。これだけで気分が良くなる。ちょろいおれ。
涼くんの細い手は気持ちがいい。繊細で、優しくて、暖かい。
「スパイスも新しいスーパーの方が安かったから得したね」
「そうだね」
「また行こうね」
「うん。・・・ねぇ、キスだけ」
「あははは!もー、可愛いな」
絶対に涼くんの方が可愛い。この子、気づいてないんだよな。自分の可愛さにも色気にも魅力にも。気づいたらおれが大変なことになるけどさ。涼くんがそれを武器にしてきたら太刀打ちできる気がしない。おれ、絶対に奴隷になっちゃいそう。むしろそれでもいいんだけども、心臓がもたない気もする。
悩ましい。
キスをして、ギューっと抱きしめる。抱き返してくれるその腕が心地いい。
あとで、たっぷり素肌に触れよう。それで、もっとたくさんキスをしよう。
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