Evergreen

和栗

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ずるっと和多流くんのが離れていった。
この瞬間が少し寂しく思う時は、もっとしたい時。
ちらっと和多流くんのペニスを見ると、緩く立ち上がったままだった。
「気持ちよかった?」
「うん・・・」
コンドームを外して、きゅっと口を縛る。和多流くんの精液は量が多い。
いっぱい出た、と目の前に差し出されたので指でつつく。ぷにぷにしていた。
「和多流くんは気持ちよかった?」
「愚問です」
「よかった」
「シャワー浴びようか」
終わりの合図。
もう少ししたかったけど口に出せず、黙って頷く。
なんとなく求めづらいのはやっぱり、過去に何度か断られたからなのだろう。
多分求めたら喜んでくれそうだけど、断られたら寂しい、だから口篭ってしまう。
昔はやった不倫のドラマとか、今放送されているセックスレスの夫婦の話とか、心理描写なんかで少し共感してしまうことがある。
寂しかったり虚しかったり理解してもらえなかったり、突き放されたり突き放したり。
おれも一歩間違えたら他の人としたいと思うんだろうか。
いや、間違えないけど。和多流くんじゃないと満足できないし。
・・・満足してないからこんなふうに思うのか。
あんなに大事にされた後なのに。
「涼くん?」
「え?あ、ごめん」
ぼんやりしていた。
シャワーを浴びながら和多流くんを見ると、じっと見つめられた。
つい目を逸らす。
「なんか嫌なことした?」
「違う」
「じゃあ何?」
「なんでもない」
「・・・わかった」
あれ?なんか、引くの早い・・・。
寂しくなって指を掴むと、そっと解かれた。
寂しくて寂しくて、俯く。
おれ、何がしたいんだろう。
なんでこんな、もやもやして面倒くさいこと考えてんの。
「先に出るね」
「あ、やだ、」
「・・・分かんないよ。なんでそんな顔するの?ちゃんと言葉で教えて」
「・・・だって、」
「うん」
「・・・断るじゃん、」
「え?」
それ以上何も言えなかった。和多流くんが蛇口を捻りシャワーが止まる。
そっとタオルがかけられて髪を、体を、優しく拭かれた。
手を引かれてお風呂から出て、ベッドへ腰掛ける。ぎゅーっと強く、抱きしめられた。
「・・・ごめんね」
「・・・」
「何度謝られたって、もう断らないからって言われたって、それが重荷になるよね」
「重荷っていうか、」
「本心なのかなって疑っちゃうよね。義務になってないかって、無理してるのかなって、色々考えちゃうよね」
「・・・うん、」
1人ですればいいって思ったこともある。でもやっぱり和多流くんとしたい。人肌が恋しい時も、めちゃくちゃに抱かれたい時もあるんだ。
そっちの方が多いかもしれない。
今だってそうだったんだ。もっと触れていたかったし、触れて欲しかった。
「考えないでほしい」
「・・・無理だよ」
「考える前に、求めて」
「んむっ、」
押し付けるようにキスをされ、押し倒された。
うつ伏せにされ、背中に唇を落とす。ピリピリとパウチの破れる音がしたかと思うと、後ろからゆっくりと挿入された。
背中が痺れる。
「あ、あ、」
「さっきたくさんしたから、柔らかいね」
「んぐっ、う、」
「可愛い・・・好き・・・」
「あ!そこは、」
貫かれ、全身に力が入る。
和多流くんは動かなかった。中で時々跳ねて、緩やかに刺激される。
「ん゛ー・・・!や、ばいぃ・・・!」
「動かしてないよ?おれの、気持ちいい?」
「ん、う、うぅっ、・・・」
「・・・可愛いなあ・・・なんでこんなに可愛い子が誘ってくれたのに、断っちゃったんだろ・・・。自分勝手で、ごめんね・・・」
「和多流くん、」
「和多流って呼んで」
「や、」
「涼」
耳元で囁かれ、体が大きく跳ねる。
ゾクゾクと背筋が震えた。
「ふあ、あぁっ、」
「涼、好き」
「や、や、わたる、」
「うん、もっと」
「わたぅ、く、いく!や!」
じわじわと大きな快感が迫ってくる。
呼吸が荒く、短くなってくる。
和多流くんのペニスの形がはっきり分かるようになった。きっと、強く締め付けているからだ。
「おれの、気持ちいい?」
「気持ちいいっ、動いて、」
「おれのだけで、いって」
「や、や、!もぉ無理!」
「いっていいんだよ。ほら、こっち向いてごらん」
ぐるんっと体が回転した。中が刺激され、大きく喘ぐ。
仰向けになり、和多流くんが見下ろしてきた。
ポタポタと汗が落ちてくる。
可愛い、と小さく呟いて微笑まれた。
優しくて、可愛くて、心臓が苦しくなって、ぐわっと、快感が広がった。
「あ!だめ、いく!あ゛ぁ~!」
「可愛い・・・!ほら、おもらししてる」
「や!やだ!あゔぅ!もーやだぁ!」
「動くね?」
「ひん!あ!意地悪、あー!」
パンパンと肉のぶつかる音。
突かれるたびに絶頂が体を駆け巡る。
シーツも枕もぐしゃぐしゃで、もちろんおれの顔もぐしゃぐしゃ。
ぐったりと力尽きた時、和多流くんが離れていった。
「ごめん、つい夢中になっちゃった」
「う、うん・・・」
「あのさ、おれ考えたんだけどね?」
「ごめん、明日・・・もう力尽きた・・・」
瞼が重い。シャワーは朝でいいや。
和多流くんが少し残念そうにおれの背中を撫で、おやすみ、と小さく言った。
目を閉じる。すぐに眠りについた。


******************


和多流くんとの話をすっかり忘れて仕事に行き、思い出したのは仕事が終わる頃だった。
あの時何を言いかけていたんだろう。考えたって、何を考えたのかな・・・。
何か無理させちゃったかな。重荷かな・・・。
嫌な想像ばかりしてしまう。モヤモヤする。
待ち合わせの公園へ足を向けると、和多流くんがタバコを吸って外に立っていた。
小走りで近づくと、携帯灰皿に押し込んで疲れた表情で微笑む。
「ただいま・・・」
「おかえりー。ごめんね、一本吸っちゃった」
「ううん、あの、おれが昨日、」
「前に話したアンティークショップのおばさん社長、覚えてる?」
「え?あ、うん。どうしたの?」
「その人にホームページの変更を頼まれて、打ち合わせしてから買い物に付き合わされたの。もー、疲れちゃってさー。そのまま来たから、香水くさいかも・・・」
ほら、と袖口を差し出された。顔を近づけると、いきなり抱き寄せられた。突然のことだったので変な声が出る。
香水臭くはなかった。和多流くんの匂いと、消臭スプレーの匂いがする。
「あははっ。騙された。可愛い」
「びっ、くりしたなぁ!もお!」
「香水臭かったから必死にスプレーしたよ。車には乗せてないから安心してね。レンタカー借りたから」
「そ、なの?大変だったね」
「さっき、おれのせい?って聞こうとした?」
「え、・・・うん、そう」
「そんなわけないじゃん。むしろ色々考えて楽しかった。帰ろうか」
楽しい?なんで?おれ、面倒臭いのに。
不思議に思いながら家に帰る。
食事をして食器を片すと、こっちこっちと手招きされた。寝室に入ると、大きな枕がベッドに置いてあった。なぜかピンクのゴシック体で「YES」と書いてある。
「・・・なにあれ」
「YES枕」
「・・・はぁ、そう」
「あ!ひど!これ便利だよ?おれが使うといつでもYESだから声かけやすくない?」
「・・・NOはどこ?裏?」
「ううん。ないよ。裏もYESだし。でも裏は文字色が黒だよ」
「・・・」
「したいけど誘われたい時ってあるでしょ?そういう時に使おうよ。すごくいい考えじゃない?」
本当に、名案です!という感じで言ってくるから呆れを通り越して笑えてきてしまう。
和多流くんはポジティブで、時々予想の斜め上に行って、おれとは違う考えで解決したり、人の心をほぐしたり、笑わせてくれる。
おれとは正反対の人。
「これ、いつ頼んだの?」
「昨日涼くんが寝た後すぐだよ。すぐ来たの。すごいよね。ちょっと前から気になってカートに入れてたんだけどさ。これすごいよ。フカフカだよ」
「へぇ・・・ふぅん」
もちもちしてる。
頭をのせてみると、包み込まれるような柔らかさだった。
「わぁー・・・よく眠れそうだ」
「・・・いかん、犯罪だ。可愛すぎる」
「はあ!?・・・なんで勃ってるのかなぁ・・・」
「だってYES枕使ってるからさぁ!あ、いいのね!?ってなるじゃん!」
「・・・これはどうだっ」
枕を抱きしめ、上目遣いをしてみる。
和多流くんは顔を真っ赤にすると、慌てて顔を隠した。
「だからー!可愛すぎるって!いきなりはやめて!心の準備できてない!」
「・・・和多流くん、付き合い始めた頃はかっこよかったのに最近は面白いよね」
「ちょっと、聞き捨てならないよそれ。かっこいいと思われたい」
「ちょっと難しいかも」
「じゃあかっこいい!って思ってもらえるようなことしなきゃな」
がしっと肩を掴まれ、そのまま押し倒された。
ベッドが大きく軋む。
驚きすぎてキョトンとしていると、和多流くんが馬乗りになりシャツを脱いだ。
「ちょ、何してるの、」
「ん?誘ってくれたの涼くんでしょ?」
「ち、ちがうよ!これはただ持ってただけで、」
「そんなこと言って、照れ屋さんなんだから」
和多流くんはニコニコしながらおれを押さえつけて、あれよあれよと服を脱がした。
あっという間に全裸にされ、全身を甘く噛まれたり舐められたり。
まだシャワーも浴びてないのにと思いながら翻弄される。
さすがに繋がることは必死に食い止めた。
だけどここで諦めないのが和多流くん。
おれを抱えてお風呂に向かい、入念に準備をしてしっかり繋がった。
ちゃっかりゴムまで持ってきていたし。
これから毎晩楽しみだね、とツヤツヤした笑顔で言われたので、その日の夜は枕にバスタオルを巻いた。でも関係ないみたいで、しっかりいたずらをしかけてからぐっすりと眠りに落ちていた。
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