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しおりを挟む「涼くん、買い物がしたいんだけど」
キラキラした目で言うから、服とか雑貨が欲しいのかと思って頷くとカタログを持ってきた。
「・・・食洗機?」
「買おうかなーって・・・いい?」
「・・・なんで?」
え、2人分だし手で洗う方が早くない?
和多流くんはしょぼんとすると別のカタログを出した。
今度はコードレスの掃除機。
「便利だと思うんだけど・・・」
「でも、普通のがあるし・・・」
「・・・じゃぁ!乾燥機!」
「浴室乾燥があるのに!?」
一体どうしたんだ。
何か大きい買い物がしたいんだろうか。
家電にハマったとか?なぜ?
「・・・オーブンレンジは?」
「・・・オーブン使わないし・・・」
「・・・じゃぁ・・・ん、じゃぁ、いいかなー・・・」
「何か買いたいの?」
「へ?」
「何か買いたいんだよね?和多流くんの好きなもの買ったら?」
「・・・いや、違くってさ・・・」
「ん?」
「・・・んー・・・いや、そのー・・・電気調理器が便利だったからさ・・・」
「うん」
「涼くんが喜ぶもの買いたくて」
「へ!?あ、そうなの!?」
「うーん・・・」
しょんぼりしながら笑うと、和多流くんはカタログをしまってソファに戻ってきた。
ころんと寝転がって膝に頭を乗せ和多流くんを見上げると、くしゃりと頭を撫でられた。
「電気調理器でテンション上がってたからさ・・・他のものもどうかなーって」
「あー・・・うーん・・・電気調理器は単純に、手間がかからなくていいなって思ったんだよね。おれがほしいものだったし」
「そっか」
「だからさ、和多流くんが欲しくて、それでたまにおれが使ってもいいやつ、買おうよ」
「・・・じゃぁ」
「うん」
「家電見に行こ」
あ、やっぱり家電がいいんだ。
うん、と頷くとぎゅーっと抱きしめられた。
車に乗って大きな家電量販店にいくと、和多流くんはさくさく歩きながらこれが欲しいと指をさした。
「・・・空気清浄機付き加湿器?」
「うん。大きめのやつ。寝室に置きたいなーって」
「・・・本当にこれがほしいの?」
「大きいから邪魔かなって思ってたんだけど、必要だなって思ってて。前から調べてたんだよね」
「そうなの?」
「うん。風邪ひきたくないし。空気が綺麗な方が風邪も引きづらいでしょ」
「そ、だね」
う、わぁ・・・!ずっとずっと気になってたやつーー!
今使ってるのは取り外して水を入れなきゃならないし小さいしこまめに給水しなきゃならないやつだし、空気清浄機機能なんてついてない。
これは大きくて上から給水できて尚且つ空気清浄機も兼ねていて、おれにとってはとても憧れの家電だった。
でも値段が値段だし大きいから諦めていたけど、まさか和多流くんも気になってただなんて。
「邪魔じゃないかな。いい?」
「うんっ。もちろん」
「なんか、涼くんみたいに便利な家電とか選べなくてごめんね」
「え!?なんで?これ、いいじゃん」
「いやー・・・あははっ」
「・・・正直掃除機とかより嬉しい」
「え?そうなの?」
「だって、これ上から給水できるし、大きいって言ってもかなりコンパクトな方だもん。加湿の量も調整できるしタイマーもついてるし、ほら、音も静かだもん」
和多流くんはキョトンとしながらおれのプレゼンを聞いていた。
少し考えてから小さく頷いて店員を呼び、これくださいと言った。
静かに買い物を済ませて車に乗せる。
和多流くんの提案をことごとく突っぱねて結局おれが力説したものを買わせてしまった。
気分悪いだろうなぁ・・・。怒ってないかな・・・。
「やっぱり、これかなと思ったんだよね」
「え?」
「いや、涼くん、テレビの特集でやってた時しっかり観てたし、いつも必ず加湿器セットするし。上から水が入れられたら楽だなーって思ってたんだよね。大きい方が加湿量も多いし1日つけておけるよね」
あ、なんか、すごく得意げな顔してる・・・!
ここは、乗っておくべきだ。
「うん、実は前からいいなーって思ってて・・・和多流くんも欲しかったなんて知らなかったよ」
「涼くんだけケアしてても、おれが風邪ひいて移したら元も子もないしね。マナーだよね」
「おれのことまで考えてくれてありがとう」
和多流くんは満足げな顔で首を横に振った。
こういうところ、可愛いんだよね。
単純っていうか、なんていうか。
おれだけしか知らない姿だったらいいのにな。
きっとこういう可愛い一面があるから余計にモテるんだろうな、この人は。
「このままお昼どこかで食べない?」
「え?あ、うん」
「昔ここら辺で美味しいオムライス屋さんに入ったことがあるんだけど、まだあるのかなー。行ってみていい?」
昔、誰かと行ったのかな。
元カレとか、セフレとか、かな。
どうしよう、嫌だな・・・。でも、誰と行ったのなんて聞けないし・・・。
曖昧に頷くと、和多流くんはニコニコしながら美味しかった思い出を話してくれた。あまり頭に入ってこなかったけど。
和多流くん、オムライス食べる時必ず口の端にソース、つけるんだよな。
気づかないまま食べるんだよな。誰かに、取ってもらったことあるのかな。おれ以外の誰かに。
「あっ!」
「え?」
「・・・ないや。居抜きで違うお店になってる。外観はそのままだ」
そこにあったのは喫茶店ではなくカレー屋さんだった。
駐車場に停め、車から降りてお店を見上げる。
和多流くんは寂しそうに笑うと、おれを見て言った。
「ここにあった喫茶店、おれが前の仕事で最後に契約したところなんだよね」
「え!?」
「契約終わって、店が出来て、何度か食べにきたんだ。オムライスが本当においしくて。2号店を出す時はよろしくねって言ってくれてたんだけど、おれその後すぐ逃げるように辞めちゃったから、挨拶もしてなくて・・・」
「そうだったんだ・・・」
「まぁ、おれのことなんて覚えてないだろうから来てもいいなって思って来てみたけど、違う店になってるとは思わなかったな。寂しいけど、仕方ないね」
知らなかったとはいえ、変にヤキモチを妬いてしまって恥ずかしくなった。
かき消すように和多流くんの袖を引っ張る。
「あの、せっかくだし入ろうよ」
「え?あぁ、うん・・・そうだね」
「カレー、美味しいといいね」
「うん」
ドアを開けるといい香りがした。
窓際に座るとメニューが出される。
和多流くんは受け取ると少しだけ驚いた顔をした。
店員がお店の奥に入ると慌てておれを見る。
「どうしたの?」
「あ、いや・・・」
「なんか変だった?」
「・・・喫茶店の時もメニューが全部手書きだったんだけど、すごく特徴的な字を書くマスターだったから印象に残ってて、このメニューも同じ字だから驚いた。どういうことだろ」
「・・・友達が居抜きで使ってる、とか?メニュー書いてあげたとかなのかな」
「そうなのかな。今の店員さんもバイトとかかな。あぁ、びっくりした」
ランチのカレーを頼んで、店内を見渡す。
少し気になってネットで口コミを見てみると、とても評判の良いお店だというのがわかった。
過去を遡っていると、長文の口コミが目に入った。
「あっ」
「何?」
「和多流くん、ここ、居抜きじゃないよ」
「え?」
「ほら。ここのお店はもともと喫茶店でしたが、カレーが大人気でカレー屋さんに転身。マスターも奥様も変わらずとてもいい人たちなので形態が変わっても通い続けるお店です。個人的にはオムライスの復活を望んでます。って書いてある」
「・・・うそ、うわ、マジか!」
和多流くんは驚いたように笑い、キョロキョロと見渡した。
カレーが運ばれてきてスプーンを手に取ると、頬を緩ませた。
「なんか、嬉しいな。あの頃のおれ、最低だったけどこうやって残ってるものがたくさんあるから、悪いことばかりじゃなかったのかな」
「そりゃ、そうだよ。ずーっと誰に対しても最低な人なんていないもん」
「そっか」
和多流くんの口元にカレーがついていた。
つい笑うと慌ててナプキンに手を伸ばして口元を拭いた。
「おれ、食べるの下手になったのかな。こんなこと前はなかったんだけど」
「ソース系とかクリーム系、よくつけてるよね」
「恥ずかしいなぁ」
前はこんなこと、なかったんだ。
知らなかった。
じゃぁ、もしかしておれの前だけなのかな?
そうだったら嬉しいな。
「ねぇ、アップルパイがあるよ」
「あー、おれダイエットしてるのに」
「それ毎日言ってるよ」
2人で笑い、結局アップルパイを二つ頼んでじっくりと堪能した。
家に帰って空気清浄機をセットすると和多流くんは満足そうに頷いて、やっぱりこれだよね、と笑った。
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