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しおりを挟む「サンドイッチ作ってテーブルに置いてあるから、食べてね。あとね、コーヒー豆も挽いてあるから。洗濯物はかごに入れとくだけでいいからね。帰ってきたらおれのと一緒に洗うね」
「うん。ありがとう」
涼くんは、面倒見がいいと思う。
自分も忙しいのにおれが立て込んでいると家事はもちろん細々した支払いや買い物、おれの世話なんかもしてくれる。サンドイッチだって地味に時間がかかるのにおれが食べやすいって言ったらいつも作ってくれるようになった。こういう気遣いがおれにとってとても幸福で心地いい。
だが、対しておれは食事はもちろん微妙なものしか作れず家事も中途半端だし支払いは忘れるわ・・・。しっかりできることなんて時間通りにお迎えに行くことくらいだ。
情けない。
料理くらいもっとちゃんとしなくちゃと思うけど、自信が持てない・・・。
サンドイッチを食べながらキーボードを叩き、ペンとマウスを使ってデザインを仕上げていく。今日こそお迎えに行きたいところだ。
*******************
インターホンが鳴って我に返る。
慌てて玄関に行くと宅配便が届いた。
中々に大きな荷物。受け取って伝票を見ると、涼くん宛だった。
発送元はどこか地方の会社。実在するか調べたらちゃんと実在する会社だった。家具や家電を扱っている。
何が届いたんだろう。
時計を見るともう涼くんの上がる時間だった。
慌てて車の鍵を持って玄関を飛び出す。
やばい。すれ違いになってしまう。
多少残業するかもしれないけど微妙な時間だ。
慌ててメッセージを送り車を飛ばす。
いつもの公園に着いて辺りを見渡すと、ちょうど大荷物を持った涼くんがやってきた。
走り寄ると、ぎっちりと食材が詰まったエコバッグを抱えていた。
「ど、どうしたの?」
「ただいま。ねぇ、荷物届いた?」
「え?うん。大きいの・・・あ、持つ持つ」
ずっしりと重たい荷物を受け取り車に乗る。
涼くんは興奮したように喋り出した。
「電気調理器、買ったんだ!」
「え?何それ」
「具材を入れておくだけで料理ができるやつ!ずっと欲しかったんだ!えへへっ」
「・・・え、あ、よくテレビでやってるやつ?」
肉じゃがとかシチューとか、簡単にできるやつだよね・・・?
ほしいなんて話を聞いたことがなかったから驚いた。
「そう。あったら絶対便利だから」
「・・・そ?」
え、おれの料理、まずいのかな・・・?!
遠回しに言われてる!?
いや確かに、胸を張って美味しいよって言えるもの、作れないけど!
なんか、ショック!!いつも我慢してくれてたのか!?
「寝る前にセットしたら朝にできてるんだよ。そしたらさ、それ、お弁当に詰めていけるし和多流くんのお昼ご飯にもなるじゃん。ちゃんとしたもの食べてほしいからさ、買っちゃった。成瀬さんも使い始めてすごく便利って言ってたから」
「へ?!え?お、おれのため・・・?」
「え?そうだよ?だって忙しいとお互いに食べるの忘れるし適当になるじゃん。共倒れしたら笑えないからね。文明に頼ろうかなって」
「・・・そ、そうなの?」
「うん。それに、勝手にやってくれるから手間もかからないでしょ?和多流くんも忙しいのに頼りっぱなしになっちゃってたからさ」
「・・・涼くん・・・好き・・・」
「え!?えへへ、お、おれも・・・。洗い物だけ頼みたいんだけど、いい?」
「もちろん!それくらいやらせて!あ、そうか。おれが具材切って夕方くらいにセットしたら晩御飯で出せたりする?レシピ本とかついてるでしょ?」
「うん。それも頼もうと思ってた。他のおかずは休みの日に作り置きしたり、買ってくればいいよね」
「うん」
「楽しみだね。あ、休みの日はいつも通りおれが作るから、食べたいのあったら言ってね」
「2人で作ろうよ」
「え、いいの?おれさ、和多流くんの作る料理、好きなんだ。性格でるよね、料理って」
「へ!?」
「優しい味がするもん」
にこーっと子供みたいに笑って言ってくれる。
あぁ、もう、本当にこの子って、可愛い・・・。すごく、嬉しい。
早く家に帰りたい。思いっきり抱きしめたい。
必死に堪えて運転を続ける。
家に帰ると大興奮で箱を開け、一生懸命セットして嬉しそうにしていた。
結論から言うと電気調理器は正解だった。
だって中に材料を放り込んでスイッチを押せば完成するし、家に帰ってくればすぐに食べられる。
まぁ、涼くんの料理と比べたら足元にも及ばないんだけどね。
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