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※年末の2人
しおりを挟むかわいい。
すっごくかわいい。
だけど今、今手を出したら絶対に機嫌が悪くなるのが分かる。
めちゃくちゃ集中してるし。
「・・・涼くん、気持ちいい?」
「ん」
「なら、よかった」
しょりしょりと擦る音。
時々頬擦りしては手で撫でてくる。
ぐあぁ・・・!生殺し・・・!
でも、でも、刈り上げてよかったぁーー!!
年末だしと思って美容院行ってきてよかったーー!!!
「へへへ」
「え?」
「坊主頭とかもそうだけど、このしょりしょりした感じなんとも言えないよね。気持ちいい」
「・・・そ、そう?」
へへへ、って、か、わ、い、い・・・!
股間が・・・!苦しい・・・!
でも明日も朝から仕事だし無理はさせられない。
明後日は昼からだけどおれが朝からWEBで打ち合わせだし、夜は涼くんも遅いし・・・いつ抱けばいいんだ・・・!
「ねーねー」
「はい!?」
「おれもまた刈り上げようかな。お揃いにしていい?」
うぐあぁ・・・!
してください!是非!
お揃いにしてください!!
「涼くん、」
「あ、もうこんな時間か。明日も早いから寝ないと・・・」
「はいっ。寝よう。暖かくして」
くるっと毛布で包んであげると、ふにゃりと笑った。
涼くんが寝たらトイレ行こ・・・。
*****************
「さっむいね」
風が強く吹いて顔を、体を突き刺してくる。
「ごめんね、車の調子が悪くて・・・」
エアコンが効かなくて、仕方なく駅まで歩いて涼くんを迎えにきた。
キョロキョロと辺りを見渡して、そっと袖口を掴んでくる。
この、袖っていうのが照れなのか遠慮なのかどちらかわからないけど、すっごいかわいい。
ぎゅっと胸が締まる。少し苦しい。
「ディーラーに連絡したの?」
「したよ。明日見てもらえる。代車何かなぁ」
「前は軽だったよね」
「窮屈だったね。アクセル踏んでもスタートが遅くてイラついたし」
話しながら手を繋ぐ。
目は合わせずとも、嬉しそうに口元が緩むのが見えた。
くぅっ・・・!抱きてぇ・・・!
昨日散々抜いたのに。そろそろ落ち着けよ、おれ。
前から人が歩いてきた。
そっと手が離される。
少しよそよそしく会話を続け、すれ違う。
もう一度手を出そうとしたけど、涼くんはポケットに手を入れてしまった。
あー、せっかくの時間が・・・。
いや、まぁ、仕方ないけどさ・・・。
「涼くん、明日昼からだよね」
「あ、ごめん・・・朝からになって・・・夜も遅いんだ」
「あ、あぁ、そう?大変だね。大丈夫?」
狼狽えてしまった。
やっぱりどうしても触れ合いたくてその気でいたから、シフトが変更になるなんて考えてなかった。
おれが落ちこんだのが分かったのか、涼くんは慌てて顔を上げた。
「でも明後日は早上がりだよ」
しまった。気を遣わせた。
早上がりだけど受験生を受け持っているんだ。早く上がれるわけがない。今までもそうだった。
期待したら無理をするに決まっている。そうすると体を壊してしまう。それは絶対に嫌だ。
「早く上がれたら一緒にお風呂入って早めに寝よう。おれもちょっと仕事詰めてるからさ、体休めよう。ね?」
「・・・ん。そうだね」
「あー、寒かった。早く入りな」
ドアを開けて肩を抱く。部屋に入ると鞄を下ろし、いきなり抱きついてきた。
「わ、どうし、」
「大晦日、さ?いっぱい、くっつきたいなーって・・・」
「・・・えっ。そんなこと言われたらおれ、離さないよ?」
「・・・うん」
ぐりぐりと鼻先を押し付けられる。
誘ってくれてる。
嬉しい・・・!
絶対絶対、押し倒す!仕事、絶対終わらせてやる!
「大晦日は帰りが早いの?」
「・・・ごめん、そんなに早くないかも。でも、日付が変わる前に絶対に帰るよ」
「お蕎麦食べようね。茹でておくね。天ぷらも買っておくから」
「うん。ありがとう」
やっぱり遅いのか。でも、でも、でも!
年越しエッチを成し遂げる!
頑張れ、おれ!
******************
「・・・和多流くん、あの、あのっ、」
「んぁ?あ、おはよ・・・」
くっちゃくちゃの髪のまま、涼くんがおれの体を揺らした。
あれ?朝からって言ってなかったっけ?
今、時間・・・。
「ね、ね、寝坊、した、どーしよ、」
「・・・ん゛!!!??」
「電車、間に合わな、」
「とりあえず身支度整えて!車のエンジンかけてくるから!エアコン効かないけど走るには走るから!」
「おれ、こんな、初めてで・・・!遅刻したらどーしよ・・・!」
「いいから着替えなさい!」
寝巻きを放り投げて適当に服を着る。車のエンジンをかけて玄関の前に移動させ、涼くんの準備を手伝う。
「年末だし朝早いし、そんなに混んでないから間に合うよ。ほら、リュック!ネクタイ!」
「ん、あの、ごめん、」
「何が?ほら、よかった、パン買っておいて。車の中で食べて。行くよっ」
車に押し込んでアクセルを踏む。車内は寒いけど普通に走るな。よかった!
飛ばして飛ばして、職場の前に停まる。
涼くんは申し訳なさそうにおれを見て小さくお礼を言って、走っていった。
あー、これ、引きずるやつかも・・・。
確かに寝坊したのは初めてかもしれない。
どんなにセックスをしても寝坊はしなかったのに、今日はどうしたんだろう。
やっぱり疲れてるのかな。そうだよなぁ。
涼くん、無理してただろうしな・・・。
結構、頑張ってくれたからな。早く帰れる日はご飯を作ってくれたし、洗濯も掃除もちょこちょこやってくれてたし。
おれが頑張らなきゃならないのに。
・・・頼りねぇんだな、おれ。
落ち込んでる場合じゃないのに、つられて落ち込んでしまった。
******************
「見て。軽は困るって言ったらコンパクトカーにされちゃったよ。結局小さいの」
明るく、いつも通りに話しかける。
仕事が終わった涼くんを迎えにくるとやっぱり落ち込んでいるようで、少し顔を伏せて小さく言った。
「今朝、ごめん・・・」
「寝坊なんて誰でもするよ。おれもするもん。疲れてるんだよ。お風呂できてるから早く入って寝よう。ね?」
「・・・もう少し、和多流くんといる」
きゅっと指先を握られた。
あまりの可愛さに叫びたいのを堪えた時、んぐっ、と喉が鳴ってしまった。
涼くんは驚いた顔をするとくすくす笑い、顔を押さえた。
「だ、大丈夫?変な音、してた、」
「げほっ、もう、おっさんだから仕方ない・・・」
「おっさんじゃないよ。ふふっ。ふははっ、あははは!」
「ん゛んっ、元気が出たならよかった」
「ねぇ、お風呂一緒に入ろうよ」
「・・・うん、」
「・・・おっさんはこんな一言でこんなふうにならないよ」
手が離され、そっと前を撫でられた。
おれよりも細い指。チョークを持ち少しカサついているその指がおれに触れる時、少し優越感に浸る。
涼くんに想いを寄せる生徒も、同じ講師もたくさんいるだろう。
その中で自分が選ばれていると思うと気持ちが高揚する。
「大晦日まで我慢するって決めたから・・・あまりいじめないで」
「・・・おれも、我慢してる。なんか、ポリネシアンセックスの時に似てるね」
「思い出させないでよ。ムラムラしてるのに」
「おれも。ね、また刈り上げ触っていい?そしたら少し収まるかも」
「えぇ?えー・・・」
「お願い」
いくらでも、触ってください・・・・。
上目遣いでお願いされたら断る術なんてなくなってしまう(最初からないんだけどさ・・・)。
家に着くと、早々に刈り上げに触れてきた。
我慢、我慢。とにかく、我慢。
******************
やっと。
やっと来たよこの日が。
「じゃぁ、今日は早く帰れるから・・おせちはできないけどちょっと豪華なもの買ってこようね」
やっと来たよ大晦日!!
車のドアが閉まる。名残惜しむように手を振って、職場に入っていく涼くんを見つめた。
大急ぎで家に帰り、寝室を綺麗に掃除し、ついでにパソコンの周りも綺麗にして、さらにキッチンも掃除する。
大掃除ができなくて不完全燃焼を起こしている涼くんに代わって、おれが本気で掃除をするのだ。
まぁ・・・あまり上手ではないんだけど・・・。
でも、休み中くらいは二人で過ごしていたい。やっとイチャイチャできるんだから。
今年最後の特売日なので、商店街に向かう。
お米と、お餅と、お正月っぽい料理を買って、日用品も買い込んで、ついでにドラッグストアでコンドームとローションを買い足す。
いや、まだあるんだけどね。やっぱりたしなみとしてね。
「あ、エロスマンがいる」
聞きなれた声がして振り返ると、クマが立っていた。
「あれ?店は?」
「今日はランチだけだからそんなに仕込みも忙しくないの。足りないもの買いに来たんだよ」
言いながら、おれと同じサイズのコンドームを手に取ってレジへ持っていった。
がっつりとエコバックを担いだおれと一緒に店を出る。
「あのさ、疑問だったんだけど」
「ん?」
「あんなに手足の長い人、どうやって抱くの?お前、手足短いのに」
渾身の力で頭を叩かれた。
ハンバーグのような分厚い手で叩かれると脳みそが揺れる気がする。
「いってぇな」
「下世話なこと聞くんじゃないの。おれが春日部くんのこと想像したら嫌でしょ?」
「ぶん殴るかな」
「だったら聞かないの。あ、店は3日まで休みだからね」
「ん。分かった」
「今年はいい年だった?」
初めて聞かれたので驚いてしまった。
改めて考えると、いい年だった。
だって涼くんと付き合えたし。
がっかりさせたし、困惑させたし、痛い思いもさせたし、つらい思いもさせてしまったけど・・・。
でも、今までよりもたくさん笑った年だった。涼くんの笑顔を見た年だった。手をつないで、抱き合って、愛して、愛されて、幸せだった。
ずっと続けばいいのに。
「いい年だったよ」
「だろうね」
「は?じゃぁ聞くなよ」
「あんた変わったよ。丸くなった。よかったよかった。春日部くんのおかげだね」
「・・・・思えば、お前が一番長く一緒にいるんだよなー。変なの。まさか高校も一緒だと思わなかったし」
「んははっ。試験会場で隣の席でびっくりしたよね」
「ていうか、ずっとつるんでたのにお互いにどこに進学するか話もしないって、おかしな話だよな」
「確かに。でも家が近いからさ、高校違ってもつるんでたと思うよ」
「・・・物好きな奴。迷惑家族とつるむとかさ」
クマはにまっと笑うと、背中をたたいてきた。
エコバッグが肩からずり落ちる。危ない。涼くんの好きなデザートが潰れるところだった。
クマと別れて家に帰る。
お昼を適当に食べて、今度は車で出かける。
いわゆる男のお店ってやつに向かうためだ。
ネットだと種類は豊富だしカラーバリエーションも豊富だけど、サイズが微妙なんだよなー。
前に買ったやつはすっけすけで何にも隠せてなくて最高にエロかったけど、大きすぎたんだよね・・・。
脱がすとき少しがっかりした。
どっちかっていうとぴったぴたの少し脱がしづらいもののほうが好きなんだよね。
やっぱり実店舗に限る。
サイズは把握済みだしね。
下着を物色して、何度も脳内でシミュレーションをする。
うーん、レースガーターのTバック・・・。すっげーいいじゃん。やっぱ、白だな。
このジョックストラップもなかなか・・・。あ、それもガーターのあるじゃん。
妄想が捗って仕方がない。
何着か購入してみたはいいものの、さて、どうやって履いてもらおうか。
正面からお願いしても履いてくれないんだよな・・・。
気分が盛り上がってると履いてくれるんだけど、素面のまま履いてるのが見たい。
さてさてどうやってお願いしようかな・・・。
ぼんやりしながら車を運転して、ディーラーに向かう。
車のエアコンも直っていた。
ようやくいつものゆったりとした運転席に座ることができてほっとする。
少しドライブでもしようかと運転していると、携帯が震えた。
見てみると涼くんで、慌てて通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『あ、和多流くん?今平気?』
「うん、どうしたの?休憩?」
『うん。・・・えーっと・・・。ちょっと、まだ、分からないんだけど・・・15時には終わりそう』
「・・え?!授業は?」
『この間朝に出勤したときあったでしょ。あれね、代替だったんだ。体調が悪くて休んだ先生の。その先生が代わってくれるかもしれない』
「えぇえ!?涼くんの担当のクラスじゃないの?大丈夫?」
『あ、個別の方を代わってもらえるんだ。だから・・・』
「お迎え!!行くから!!15時だね?遅くなってもいいから!待ってるから!!」
『・・あははっ!声、大きい!ありがとう。じゃぁ、またね』
う、嘘だろ。
嘘だろー!やったー!!
今から行っちゃおうかな!いやいやそれは迷惑だし・・!
あーどうしよう、幸せ!!
******************
「で、なんで僕を呼ぶのよ」
「まぁまぁ」
結局我慢できずに職場の最寄り駅に来てしまい、シロくんに電話をかけて呼び出した。
むすーっとしたまま現れて、乱暴に椅子に腰かけた。
「なんで苛ついてんの?」
「だって美喜ちゃん、あんまり帰ってこないんだもん」
「え?そんなに忙しいの?」
「がくんと成績が落ちちゃった子がいて、つきっきりなんだって。美喜ちゃんも意地とプライドで疲れ切ってるはずなのに付き合っちゃってさー。日付が変わる前には帰ってくるけど、結局朝早いし・・・」
「うわー。労基法って何なんだろうって思うね」
「さすがに働きすぎって主任とか塾長に怒られたらしいんだけど、それで改善するなら毎日無茶しないわよね」
「じゃぁ今日も遅いの?」
「遅いわよ。明日はお休みだけど、どうせ寝ちゃうんだろうし。あーあ!せっかく一緒に住んでてもすれ違いじゃ・・意味ないよ」
落ち込んだ顔に、珍しい表情をするもんだと思った。
いつも気丈にふるまうけど、一緒に暮らしているからと言ってずっと一緒にいられるわけではないこと、一緒に住んだからこそ見えなかったものが見えてきてしまってくるしいことを知ってしまったんだ。
シロくんのつらさが理解できるから下手な慰めができない。
「言わないの?成瀬さんに」
「・・・嫌われたくないもん」
わ、可愛いこと言ってる。
それを言ったら成瀬さんだって甘やかしてくれそうな気がするけどな。
「ママのとこ行こうかなぁ」
「どっちのママ?」
「自分のママ。飲み屋なんて行ったら帰れなくなっちゃうもん」
「なんで?」
「誰もいない家に帰るのは嫌。お迎えに来てもらえるわけでもないし。あーあ。一緒に暮らす前は一緒に暮らしたいって気持ちだけで済んだけど、一緒に暮らすと欲がどんどん湧いてくるんだね。人間って面倒くさいな」
「そうかな?いいことだと思うよ。だってさ、好きだから欲が深くなるんだよ。好きじゃなかったら欲は出てこないでしょ」
「えー・・。美喜ちゃんに嫌われたら嫌だから、出てきてほしくない。わたくんも欲が出てきてる?」
「そりゃーね・・・。おれなんて欲まみれだよ」
「春日部くんは包み込んでくれそうだね」
「成瀬さんも包み込んでくれそうだけど」
「・・・包み込んでくれないからこーなってんの」
こーなってる?
じっと顔を見つめ、つい口を開く。
「喧嘩したの?」
「・・ん」
「どーりでしおらしい」
「しおらしい?」
「うん。かわいい顔してたよ」
「あ、のねぇ、バカにしないでよ」
「してないよ。また写真撮って送ってあげようか?」
「絶対やめて!あの後大変だったんだから!」
「なんで喧嘩したの」
「かまってよってわがまま言っただけ」
「可愛いじゃん」
「可愛くないからほっとかれてんの」
可愛いと思うんだけどな。
恋人に甘えたくて必死なところ、おれだったら撫でまわしたくなるけど。
涼くんがこうやって悩んでたらとりあえずベッドに連れ込んじゃうんだけどな・・。
「おれが取っちゃうよって言ってあげようか?」
「はぁー!?馬鹿じゃないの?あ、・・・」
シロくんが斜め前を見る。
振り返ると、涼くんが立っていた。いつの間にか時間が来ていたんだ。15時はだいぶ過ぎていたけど、気づかなかった。
涼くんはぽかんとしたまま立ちすくみ、少し目を伏せた。
あ、やばい。やばいやばい。
「どうした、春日部」
後ろにいたのは成瀬さんだった。
シロくんは目を泳がせると窓の外を見つめた。
「あれ、成瀬さんまで・・・」
「春日部が、2人がここで時間をつぶしていると言ってたから一緒に来たんだ。おい。帰るぞ」
「・・・」
「嫌ならいい。一人で帰る。藤堂さん、悪かったな」
「え?あぁ、いやぁ、おれが呼んだから・・」
成瀬さんには聞こえてなかったようだ。
成瀬さんは本当に一人で店を出ると、歩いて行った。
シロくんがのろのろ立ち上がって申し訳なさそうに涼くんを見ると、黙って店を出ていった。
「涼くん、お疲れ様・・・」
「・・あ、うん・・」
「・・帰ろうか」
「・・うん」
コインパーキングに向かい車に乗ると、涼くんは黙って後部座席に乗り込んだ。
あぁああ・・・!まさか最後の最後でこんなことに・・・!
「あの、涼くん。さっきのはね?」
「いいよ別に」
「何が?」
「おれ、2番目でいいよ」
ミラー越しに涼くんを見る。窓の外を見ていた。
もう日が落ちかけている。表情が読み取れなかった。
「そんなこと、もう絶対に言わないで」
「言わせたのは和多流くん」
言い返せず、内心慌てながら家に帰る。
車を停めて慌てて後部座席に移ると、驚いた顔でおれを見た。
「あれは、仲裁しようと思って言っただけで・・・!勘違いさせてごめんなさい。おれは涼くんだけだし、涼くん以外なにもいらいんだ」
「・・・仲裁?」
「成瀬さんと喧嘩したっていうから・・・助けようと思って・・」
「仲裁であんなこと言うんだ。じゃぁおれも言おうっと」
「へ?」
「成瀬さんのこともらっちゃいますよって、シロさんに」
「・・・やだ」
冗談でも嘘でも、すっげー嫌。
うわー、おれ、バカすぎる・・・。
「ごめんなさい・・・。もう絶対に言いません・・」
「嫌だ」
「涼くん、ごめんなさい」
「仲裁してもらったら?」
「え?」
「誰かに仲裁してもらったら?おれのこともらっちゃうよって」
「・・・おれのものだよ」
「んぶっ、」
噛みつくようにキスをする。
押し倒して何度も何度も舌を絡める。
少しコーヒーの味がする。
久々の深いキスに夢中になってしまう。
「わたぅ、くんっ、ん、」
「涼くん、好き・・。ごめんなさい、好きだから・・」
「ん、っく、もぉ!分かってるよ!バカ!次言ったら承知しないからな!」
バシッと頭に何かが当たった。
紙袋だった。
驚いて顔を離す。
「え、」
「こ、こんなの買ってきてさぁ・・・馬鹿じゃないの」
さっき買ってきた下着だった。
涼くんは顔を真っ赤にして目をそらす。
紙袋からガーターベルトがはみ出ていた。
「あ、あー・・・しまった。ここに置きっぱなし・・・」
「すぐ、買ってくるんだから・・・」
「だってこの前のはサイズが大きくて台無しだったから・・・」
「和多流くんが履けばいいじゃん」
「じゃぁ、一緒に履いてくれる?」
「気分が向いたらね」
「・・・涼くんだけって、信じてくれる?」
「疑ったことないよ。さっきのは、ちょっとむかついたからやり返しただけ」
「かなりショックでした・・・」
「言わせたのは和多流くんです」
「すみません。もうしません」
もう一度頭を下げると、耳を撫でられた。
くすぐったくて体が跳ねる。
涼くんは笑うと、車から降りた。
ほっとして追いかけて、玄関を開けて思い切り抱きしめる。
うー、幸せ。
*******************
「うーん、自分でつけると、萎える」
以前涼くんに買ったすっけすけの下着をつけてみたけど、自分の下半身がすっけすけでも全く興奮はしない。
涼くんが履いていたパンツ、と思えばちょっと興奮したけどすぐに現実に戻される。
「・・おれは結構、好き」
お風呂から出てきた涼くんは髪を拭きながらちらりと見て笑った。
「涼くんもガーターつけて」
「・・・ティーバックも嫌だけど、ジョックストラップっていうのも嫌だな・・これ、何を隠すパンツなの?お尻丸出しだよ?」
「何も隠さないんだよ?見えてるのがいいんじゃない」
「・・・大晦日なのに」
「だからじゃん。おれずーっと我慢してたし楽しみにしてたんだもん。ね、早くしようよ」
腰を抱き寄せて、正面から抱きしめる。
押し付けると、顔が真っ赤になった。
ホカホカの体がさらに熱くなった気がする。
「ボディクリーム、塗ろうね」
「ん・・・。自分で塗るから、先にベッド行ってて」
ぐいぐいと押され、バタンとドアが閉まる。
うーん、履いてくれないかも。
ボディクリームも塗りたかったんだけどなぁ。
ガンガンに暖房を効かせた部屋で年越し番組を観ていると、しばらくして部屋のドアが開いた。
ベッドから飛び起きると、普通にスウェットを着た涼くんがいた。
「えぇえ?スウェット・・・」
「いや、何で和多流くん、まだスケスケのパンツのままなの」
「好きって言うから」
「寒くないの?」
「部屋暖かくしておいたから。涼くん、ほら、ぎゅーってして」
両手を広げると、少し考えてからそっと抱きついてきた。
この初々しさったら、もう・・・。
ぎゅーっと抱きしめ、目一杯匂いを嗅ぐ。
シャンプーと石鹸と、涼くんの匂い。
首筋に唇を押し付けると、肩が揺れた。
「・・・あの、もう少し見ていい?」
「え?何を?」
「・・・パンツ」
あれ、本当に気に入ってくれたのかな。
もちろん、と答えると体を離してじーっと下半身を見つめた。
何をしているわけでもないのに、反応してしまう。
「やっぱりキツそうだね、このサイズ」
「うん。結構窮屈」
「脱がして欲しい?」
「・・・」
「・・・どうしたの?」
「・・・可愛すぎて思考が止まりかけた・・・」
呼吸も止まりそうだったけど・・・。
是非脱がしてくれ。ていうか、もう好きにして。いや、おれが好きにしたい。可愛い。
「涼くんを先に脱がしてもいい?」
「おれは、後でで・・・」
「じゃぁ、匂い嗅いでいい?」
「へ!?」
「つーかもうすげーくっつきたくて仕方ないんだよ。キスしよ」
「わぁっ、」
押し倒して好き勝手に貪った。
キスをして、頬を撫でて、首に甘く噛みついて、服の中に手を入れる。
背中は熱くて汗ばんでいた。
しばらく顔を寄せてキスをしたり、頬を撫でたり、匂いを嗅いでいたけど、やっぱりもう早く繋がりたくて仕方がなかった。
早く挿れてぐちゃぐちゃに喘がせたい。腰砕けにさせて立ち上がれないようにして部屋に閉じこもってたい。
好きすぎて思考がぶっ飛びそうだ。
「わ、和多流くん・・・」
「ん・・・?」
「・・・その、おれ、」
「え?何?」
げ、ちょっと、急ぎすぎたかな?
久々だしね・・・。もっとゆっくりの方がいいのかな。
必死に堪えて様子を伺っていると、意を決したように上着を脱いだ。
「あぁ!脱がせたかったのに!」
「え!?そうだったの!?」
「後でって言うから!我慢してたのに!」
「あ、ごめん。でもいつもなら我慢しないですぐ脱がすから、」
「久々だから嫌なことをしたくなかったんだよ!脱がしていいなら教えてよ!」
余裕がなくてついつい口調がキツくなってしまう。
涼くんは目を見開くと困ったように目を伏せた。
あぁあ・・・!やってしまった・・・!どうしよう、気まずい雰囲気になっちゃいそう・・・!
「・・・久々だもんね」
「あ、う、うん。焦らないようにしなきゃって、」
いやもう、今めちゃくちゃ焦ってるんだけどね?
ようやくこの日を迎えたのにお預けなんてされたらつらすぎる。
「ガツガツ来ないから、ちょっと寂しかった」
「え!?」
「・・・放っておきすぎて、怒ってるかなって、ずっと不安だった」
「怒らないよ!仕事なんだもん、それくらい分別ついて、」
「じゃぁっ、」
強い口調に怯むと、手を握られた。熱い。汗ばんでいた。
「・・・和多流くんの、好きにして・・・」
「・・・いいの?丁寧に前戯できなくても、嫌いにならない?」
「・・・そ、そうしてほしかったか・・・だって、おれ、もう・・・」
「え?」
「脱がせて・・・暑いから、」
膝立ちになり、ゆっくりと頭を抱き抱えられた。
汗の匂いと石鹸の匂い、それから、涼くんの匂いが混ざって頭が痺れた。
スウェットに手をかけてするりと下ろす。
お尻を撫でた時だった。
直に肌に触れた。
慌てて体を離すと、なんと、ジョックストラップを身につけていた。
慌てて涼くんをベッドに倒してスウェットを全て脱がせる。ガーターベルトもつけていた。
うわぁ・・・!うわぁあ・・・!
「つ、付け方合ってる?わぁ!鼻血!」
「え!?」
「も、部屋が暑いんだよ!あー、もう・・・」
ティッシュを押し当てられた。
素早くエアコンの温度を下げてパタパタと手で仰いでくれる。
「ご、ごめん、興奮して・・・」
「もぉー・・・あははっ、前も出してたもんね」
「すっごく似合う・・・早く挿れたい・・・」
「・・・寝転がって欲しいな」
「え?」
「・・・お、おれも早くしたくて・・・その、もう、平気だから・・・」
ゆっくり抱き寄せられ、優しく寝かされる。え、嘘、嘘。
涼くんはおれのパンツに手をかけるとゆっくりとずらした。
飛び出したペニスを見て驚いた顔をする。すぐに口に咥えると、唾液でベタベタにした。
「ちょ、待って待って。すぐいっちゃうって・・・」
「え・・・ダメ。ゴムつけるね」
「ん・・・え?でもまだ、」
「も、したから・・・」
「した?」
そっと手を取って後ろに持っていかれる。
涼くんのふわふわのお尻に手を当てると、するりとすぼみに指が触れた。トロッと、溢れていた。
「あ・・・」
「さっき、したから・・・もう、しよ?」
とろりととろけた瞳がおれに向いて、そっと閉じた。
呼吸を乱しながら腰を下ろし、体を震わせ熱いため息を吐く。
「う、んっ・・・!おっきぃ、」
「ん゛っ・・・きっちぃ・・・!涼くん・・・1人で、しなかった・・・?」
「痛い・・・?」
「違う・・・良すぎて、全部持っていかれそう・・・あっ、」
グッと腰が落ちた。
根元まで咥え込まれ、腰が震える。涼くんは小刻みに震えながら薄く目を開けた。あぁ、もう、エロいなぁ・・・。気持ちいいんだろうなぁ・・・。
「ひあ゛ぁっ!んぁあっ!」
下から腰を打ちつける。
細い腰を掴んで逃げ場をなくすと、大きく喘いだ。
「あ、あっ!あぁっ、」
「涼くん・・・気持ちいい・・・」
「おれもぉ!あ、あ!が、がまん、我慢してた、ずっと、ずっと・・・!」
「もうしなくていいからね・・・?たくさんエッチしようね。ごめん、やっぱりこっち」
腰を支えたまま涼くんを押し倒す。
すぐに腰に足が絡み、引き寄せられた。
ポタポタと汗が落ちて、涼くんを濡らす。
「今年、すごく、幸せだったなぁ・・・。来年も幸せなんだろうな、おれ・・・」
「おれもっ、幸せ・・・!」
「へへっ。可愛い」
抱きついて腰を押し付ける。
奥までキツく締まり、腰が震えた。
ずっとこのままでいたい。2人で溶け合うまでずっと、ずっと。
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