Evergreen

和栗

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「涼くん、射精管理してもいい?」
至って真面目に聞いてくるので、からかったり冗談で返したりすることができなかった。
お風呂から上がってベッドでゴロゴロしている最中、背中を撫でられたから合図かと思ってキスをしようとしたら、突然の質問だった。
「・・・え、なんで?」
「おれがしっかり管理して涼くんを快楽に溺れさせたいから」
「・・・いつも溺れて、」
「違う。おれがぜーんぶコントロールして涼くんをべっちゃべちゃにしてセックスしたいの」
「だから、」
「してもいい?」
「わた、」
「しよう。ね?」
この、有無を言わせない感じ。和多流くんの中ではやることが決定しているんだ。
諦めながら聞いてみる。
「理由、他にもあるでしょ?」
「・・・もう。気づかなくていいのに」
「そっちの方知りたい」
「・・・おれの思い通りにしたいから」
「いつものセックス、不満?」
「不満はないんだけど、」
「え?けど?けど何?」
食い気味に尋ねると、体を起こした。
同じように体を持ち上げてじっと見つめると、和多流くんの目の奥がギラギラと尖り、光り始めた。
あ、この目、ダメ。
和多流くんの中で消化できないものがうごめいてる時の、目。
「涼くん、また不安になっちゃった?」
「あ、」
「どうしたら不安にならないで過ごせる?」
「和多流くん、」
「どうしたら信じて、」
慌てて両手で頬を包む。温めるように少し強く包むと、少しだけ眉間に皺が寄った。
「和多流くんっ。おれ和多流くんがおれのこと大好きでいてくれるの、ちゃんと分かってるよ」
「じゃぁ、」
「おれちょっとやそっとじゃ動じないよ?本当の本当のこと、言ってよ」
「・・・はー・・・ほんと勘がいいね」
和多流くんは困ったように笑った。
目の奥が、今度は不安げに揺れる。そっと手を握ると、諦めたように微笑んで言った。
「専門学校の時の同級生・・・って言っても年下だけど。その子に頼まれた仕事があまりにも安くてタイトで、自分勝手で、もう2度と一緒にやりたくないなって。もうこれで最後ですって言っちゃったんだ」
「そっか。うん」
「せっかくもらった仕事だったけど、疲れちゃったんだよね。・・・足元見られてるなーって、思ってたし」
「・・・おれね、フリーランスの仕事って信用第一で、全部自分でやらなきゃならなくて、大変だなって和多流くん見てて思うから、そんな中で人間関係も構築しなきゃならないでしょ?それってさ、こっちだけが頑張っても意味がないよ。疲れちゃうから、最後でよかったんだよ」
「そっかなぁ・・・そっかな。うん」
「最後だよって言ってあげただけ、すごい優しいし思いやってるよ。あと、超個人的なことだけど、そんな人とは仕事してほしくないよ。和多流くんがモヤモヤするのは、おれは嫌だもん」
「・・・ありがと。聞いてくれて」
「ううん。もっともっと話してよ。ちゃんと全部聞きたいよ。・・・あのね、ムカついたりイラついたら、おれで発散していいんだよ。おれ、何でもするよ」
「・・・そーゆーのは、嫌なんだよなぁ・・・」
悲しそうに言って、壁に寄りかかる。隣に移動しようとすると、やんわりと制された。
チクッと胸が痛む。
「そういうのは求めてない」
「・・・そっかぁ」
「・・・ごめんね。面倒臭くて」
「・・・じゃぁ、何もできないかな」
「・・・」
「・・・裸エプロンくらいしようかと思ったんだけど・・・」
「んんっ!?あ、そっち!?」
「え!?どっち!?何が??」
視線をキョロキョロと飛ばし、髭を擦ってからゆっくりおれを見た。
恥ずかしそうに眉を垂らして、少しだけ困った顔になった。
「あ、いや・・・てっきり同情して体を使って慰めようとしてくれてるのかと・・・」
「同情?なんで?元気ないから、ちょっとでも元気が出るようなことしたいなって思って・・・裸エプロンしてって、いつも言うから、しようかなって・・・」
「本当?いいの?」
「体使って慰めようなんて思ったことないよ。和多流くん、そういうの好きじゃないでしょ?」
「うん。あまり、好きじゃない。でも、裸エプロンはすごく嬉しい」
「明日してあげようか?」
「うん。してほしい。あ、お願い。おれが帰ってきたら玄関まで出てきて」
「・・・え、おれが帰ってくるまでどっか外で時間潰すの?」
「うん。涼くんの仕事が終わる頃にどっか出かけるから。それまではちゃんと仕事するし」
「そ、そんな、本気なの?」
「本気!待って、エプロンはね・・・」
「明日の朝聞くよ」
「はぁ。嬉しい。楽しみすぎて寝れないかも」
「・・・今日はしないでおく?」
「え?どうして?」
「射精管理したいんでしょ?」
和多流くんの目が輝く。
何度も頷いた。
「したい。いいの?」
「いーよ。でもさ、一晩でいいもんなの?」
「本当は3週間くらいしたいんだけど」
「そ、そんなにするの?和多流くんはどうするの?」
「え?おれ?」
「え・・・1人でするの?それとも、別の、」
「しまった、自分のこと考えてなかった。そうだよね・・・涼くんの射精管理するんだからおれだって、そうだよねぇ・・・。あ!今、別の人とするのって聞こうとした?」
「・・・だって、和多流くんが3週間も我慢できるわけないもん」
「別の人とするわけないでしょ?もう言わないで。絶対に。あー、どうしよう。したいけどなぁ・・・どうしようどうしよう」
「そんなに悩む?一緒にすればいいんじゃないの?」
「いや、我慢できる気がしない。涼くんが悶々としてるのを見ながら自分が我慢するのは無理すぎる。どうしたらいいかな・・・」
「・・・うーん。寝室分ける?」
「え!?それは嫌だ!」
「おれもやだ。だから、やっぱり我慢するしかないね」
「・・・我慢できる気がしないから、また別の機会にで、いい?」
子供みたいなことを言うので、笑ってしまった。
隣に移動すると、今度は抱き寄せてくれた。
よかった。
抱き締めると、そっとキスをされる。
「あれ?する、の?」
「うん」
「あははっ。もー」
「1回。1回だけ」
1回で終わった試しはないんだけどなぁ。
元気が出たみたい。頭を撫でてそのまま手を滑らせて顎の下をくすぐると、わんっ、と言われた。
笑って足を絡めて引き寄せる。そっと、ライトを消した。


********************


『ダイニングに置いてあるからそれ着てね』
そう連絡が来たのは授業中だった。
授業が終わって席に戻ると、引き出しの中で携帯が震えた。
朝、どれを着ればいいか確認したところ、悩みに悩みすぎて少し待って、と言われた。
出勤の時間になっても決めかねていたので、ちょっと苦笑いしながら家を出て、仕事に来た。
そんなに悩むことだったのかな。
家に帰ると、ダイニングテーブルに黒の至ってシンプルなエプロンが置いてあった。
え、これでいいの?
てっきり、メイド喫茶みたいなエプロンとか置いてあると思った。
広げると、パサリと小さな生地が落ちた。ハンカチかな、と思って拾い上げると、ティーバックのパンツだった。
「・・・え、マジで?」
これ、履けってこと?
渋々着替えると、非常にスースーして、居心地が悪かった。
前だって、なんとか収まってるけど心許ないし。
しかも、ティーバックに加えて両サイドが紐だし。
なんだよこれ、もう。どこで見つけてきたんだよ。
帰宅したことだけ連絡して、キッチンに立つ。
やっぱ少し、寒いかも。
お尻も出てるし。
ふと、いつも和多流くんが座る椅子にカーディガンがかかっているのが見えて、それを手にとって羽織ってみた。
少し大きいけど、暖かいし和多流くんの匂いがして、気持ちいい。ちょっと照れくさいけど。
買ってきたもやしを出して、ザルにあげる。
昔寮にいた時、よく出てきたもやし炒めが久々に食べたくなった。
今日は簡単に済ませて、次の休みは凝ったものを作ろう。
趣味が全然なくて、前は参考書の問題を解いたりぼんやりテレビを見たりしていたけど、最近は料理が楽しくなってきた。
盛り付けとかもちょっと気にして、和多流くんが喜ぶ姿を見るのが楽しくて嬉しかった。
1人の時は冷凍保存できるものを中心に作り置きをしていたけど、誰かがいると出来立てのものが食べたいなと思う。
仕事で嫌なことがあったみたいだし、奮発してステーキとか焼こうかな。和多流くん、お肉好きだし。
ピンポン、とインターホンが鳴った。
おれが1人で家にいる時は、必ず鍵をかけるように言われていた。
インターホンが鳴ったら、和多流くんだわかっていてもちゃんとカメラを確認すること、とも。
昔、和多流くんだと思ってドアを開けたらストーカーだったことがあって、それ以来かなり強く何度も言われて、習慣になってしまった。
カメラを確認すると、和多流くんが手を振っていた。
鍵を開ける。ドアが開いて、和多流くんが入ってきた。
「おかえり」
「ただいま。これ新しいの出て、た・・・えっ、あ、」
顔を上げておれの姿を捉えると、呆けた顔になった。
持っていたコンビニの袋が落ちる。
「・・・和多流くん?」
「・・・」
「・・・あ!ごめん!上着、着たままだった!ごめん、台無し、わー!」
慌てて上着を脱ごうとしたら、和多流くんの鼻からタラタラと鼻血が垂れた。
エプロンのポケットに入れていたタオルで抑えると、はっと我に返ったのか顔を真っ赤にした。
「だ、大丈夫?」
「ごめ、あの、うわ・・・情けねぇー・・・」
「顔、ぶつけたりした?」
「違う、あー、・・・」
「ごめんね、せっかく楽しみにしててくれたのに、上着着ちゃってて」
「いやいや、まさかのオプションだったから、いろんな妄想しちゃって・・・」
「オプション?」
「だってそれ、おれのじゃん?彼シャツってやつじゃん。カーディガンだけど」
あ、なるほど。
そう言われると恥ずかしくなってくる。
指先をこねると、ため息をつかれた。
「それもダメ。可愛すぎるから」
「恥ずかしいから脱ぐ・・・」
「いや、むしろそのままでいてほしい。ちょ、部屋、入ろ」
恥ずかしいなぁ。
いや、裸エプロンも恥ずかしいんだけど。
背中を向けると、ガタンッと大きな音がした。振り返ると和多流くんはドアに背中をつけて立っていた。ハンカチが血の色になっていく。
「え!?どうしたの!?」
「そ、それ、お尻、」
「え?あぁ、うん。履いたよ?」
「ど、どこにあったの?」
「え?エプロンに挟まってた」
「マジで?無くしたんだと思ってた!うそ、ラッキー!」
ポイッとハンカチを投げ捨てて、滑り込む勢いで膝をつくと、お尻に顔をくっつけた。
驚いて叫ぶと、がっちりと下半身を固定された。
「はー・・・可愛い」
「ちょ、やめてよっ、。ていうか、履いてほしくて置いてあったんじゃないの?」
「こっそり買っといて、いつか履いてもらおうと思ってたんだけど、どこかに行っちゃって・・・まさかエプロンに挟まってたとは。おれってついてるなぁ」
じゃり、と髭が当たり、腰が跳ねる。
たまたま入っていただけなら、履かなきゃよかったなぁ。
ずっと頬擦りしてるし・・・。
ちょっと恥ずかしいから、どうしたら離してくれるか考えて、黙っていようと思っていたことを口にする。
「ねぇ、くすぐったいよ」
「もう少し」
「もう・・・。あのさ、もしかしてなんだけど」
「んー?」
「昨日話してた年下の同級生と付き合ってなかった?」
動きが止まる。スッと立ち上がると、じーっと顔を覗き込まれた。
諦めたように息をついて、うん、と小さく頷く。
「やっぱ、バレた?」
「なんか、話聞いてると相手が強気だなーって思って」
「付き合うというか、遊び?かな?向こうも結構遊んでたしね・・・。なんか恨まれてんのかな」
「逆じゃない?和多流くんがまだ好意を持ってると思ってたんだよ」
そういうと、一拍おいてゲラゲラと笑い始めた。ムッとすると、ないない、と大袈裟に手を振る。
「もう何年も前の話だよ?」
「だから?」
「ないって。だってそういうことしなくなってからも普通に話してたし、仕事もしてたよ?」
「で?」
「おれは恋人がいるし、むこうもいるでしょ」
「それで?」
「え、あ、・・・怒ってる?」
「怒ってないけど呆れてる」
「えっ!?」
「分かんないじゃん。人って自分の都合のいいように解釈するじゃん」
「いや、でも、」
「おれ、そうやって向こうが勘違いして和多流くんのこと都合よく使おうとしてたら、すごくムカつく。和多流くんのこと何だと思ってるのって思うし。自意識過剰になれって言ってるんじゃなくて、そういう可能性もあるよって、分かってよ」
「・・・あ、うーん・・・あー、これってまさか、そうなのかな?」
困ったように笑って、和多流くんはタブレットを出した。
パソコンと同期されていて、メールも確認できる。
画面を見せられたので見てみると、鬼のようなメールが来ていた。
ギョッとして中身を見る。
次はこんな仕事があるとか、そういうつもりじゃなかったとか、見捨てるのかとか、そんなような内容がたくさん来ている。
「で、ね?あの、ほんっとにほんとの仕事用の携帯があるんだけどね?黙っててごめんね」
「なんとなく分かってたし、やましいことしてないの分かるから怒らないし嫌な気持ちにもならないよ。で、そっちにも鬼のように着信があるんだね」
こく、と頷く。手を出すと、素直にガラケーを手渡された。
着信履歴が埋まるほど名前が並んでいる。
「・・・この人といい別れ方した?」
「・・・ど、どうしてさ、分かるかなぁー・・・涼くん怖いよ」
「なんとなく」
「・・・冷めない?」
「冷めるようなことしたの?」
「・・・あ、いや、」
「はい、話して」
「・・・バイでタチでモテるって言うから、話聞いたらつまんねーセックスしてんなーって思って・・・ネコに、しちゃったんだよねー・・・。しばらくまぁ、その、ね。付き合うっていうか、遊んでて。向こうが他でも遊ぶようになったから、おれとは自然となくなって・・・」
「過去のことだし結構どうでもいいんだけど、向こうとしてはあわよくばまた遊びたいなーって思ってんじゃないの?和多流くんのちんこでっかいしね」
「ちょ、ちょ、それは今あまり嬉しくないかなぁ・・・」
「・・・のらくらとかわしてきたツケが、今全部返って来てるんだよ。分かってる?本当はおれに知られたくなかったでしょ?」
「・・・うん、結構、キツイかも」
しゅん、と俯く。ついつい頭を撫でてしまうと、さらにしゅんとした。
「ごめんね。おれ、こんなんで・・・」
「・・・ちゃんと、おれと同じ人間なんだなーって思えてるから別に、大丈夫だよ」
「え?」
「前はおればっかだらしなくて最低でどうしようもないと思ってて、何でこんな優しい人がおれと付き合ってくれるんだろって思ってたけど、和多流くんも中々に最低で人に対して不真面目な時期があったんだなって、ちょっと安心してる」
「・・・そ、だよ?おれって最低なんだよ。ごめんね」
「いいよ。だって、こんな話聞いたって嫌いになれないんだもん。ちゃんと反省してるんだよね?」
「・・・後悔してる」
「そう思ってくれて、よかった。何とも思わない人だったらとてもじゃないけど、一緒にいられなかった」
和多流くんが不安そうな顔をした。抱きしめようとした時、携帯が震えた。また、この名前。
過去に和多流くんと関係があっただろうけど、それとこれとは別。仕事にまで私情を挟むのは、違うだろ。そっちが挟むならこっちだって同じようにしてやる。
「はい、藤堂ですが」
「えっ・・・、」
「はい、藤堂の携帯です。今席を外しているので私が承ります」
和多流くんが慌てたように目を泳がせる。
相手も驚いたようだったけど、途中で仕事を放り投げるのは間違っている、とタメ口で捲し立ててきた。
和多流くんにもこんな感じなのだろうか。
いや、もしこんな態度を取ったら和多流くんのことだから友達としての付き合いも早々に絶っていただろう。
強気で断ると、ぎゃーぎゃー叫び始めた。
うるさいな。
黙って聞いていると、だんだん落ち着いてきて、最終的に、新しい彼氏か、と聞かれた。
やっぱり。
やっぱりね。
なんのことかわからない、もう今後仕事はしない、と再度伝えると、今度は泣き始めた。
黙って通話を終えて、携帯を差し出す。
「もうかかってこないと思うよ」
「・・・な、なんか、涼くん強いね」
「そりゃ、強くなるでしょ。和多流くんと暮らしてるんだもん。和多流くんが強いから、おれも強くなるの。でね、彼氏かって聞かれた。やっぱりそういうつもりだったんじゃない?」
「・・・ごめんね。やなこと、させて・・・。なんか、最近ダメダメだなぁ」
「ママも言ってたけど、感覚が鈍ったんじゃない?」
「まぁ、それは、そうかも。・・・だってさ、涼くんだけ、見れればいいから・・・あ、いや、他を蔑ろにしてるわけではないんだけど、」
こういう、ポロッとこぼす本音にドキドキする。
ちょっと叱ろうと思ったけど、溜飲が下がってしまった。
頭を撫でると、気持ちよさそうに目を伏せる。
「危機感持とうね」
「ん・・・」
「・・・でも、嫌な思いしたよね。もう大丈夫だからね」
「涼くんがかっこよすぎてツラい」
「えっ。嫌?」
「おれもかっこいいとこ見せたいのに」
「ずっと、かっこいいよ。・・・なんていうか、その、ほんとに、かっこいいから、まだ時々緊張する」
「えー・・・どこが?だらしないのに・・・」
おれが疲れて帰ってくると、温かくて甘いレモンティーを淹れてくれる。
足がパンパンに浮腫んでるとマッサージしてくれて、そのまま寝ていいよって優しく声をかけてくれる。
落ち込んでいれば無理に励ましたりしないで、黙ってそばにいてくれる。
それだけで十分かっこよくて、すごく、心地よくて、安心する。
「あとね、かっこいいとかカッコ悪いとか、どうでもいいんだ。和多流くんが困ってたら助けたいし、守ってあげたいって思うから」
「・・・守る、か・・・。そんなふうに言われたの、初めてだ」
「え、」
「守りたいって、思うことはたくさんあるんだけど、守ってもらおうって思ったこともなかったし、他の人にも守ってあげるって言われたこともなかったなーって。・・・嬉しいね。好きな人に守ってもらうの」
「嫌なことあったら、いくらでも頼ってよ。おれのこと使っていいんだよ。ほら、お得意様から接待されて帰りたいのに帰れない時とかおれから電話かけてもいいし、断りたい飲み会がある時におれのこと使って断ったりとか、いくらでもしていいんだから」
「・・・うそー、いいの?本当に?」
安心したように、目尻を下げる。
何かあったのかと思って聞こうとすると、和多流くんはため息をついて話し始めた。
「この前打ち合わせの後飲みに誘われた時、本当は家に帰りたくてたまらなくてさ・・・」
「そうだったの?」
「涼くん、引き留めてくんないかなーって思って、まぁ、さ?でも普通に、するわけないじゃん」
「だって仕事先の人だしね・・・」
「うん、逆の立場だったらそりゃ快く送り出すよ。状況も分かんないしさ。仕事先の人と良好な関係保たなきゃって大人の分別もあるし。分かってたんだけどね、ついつい・・・。それでね、こない人もいたわけ。子供がぐずってるからとか、嫁に怒られるとか・・・。おれもぐずられてぇなーとか、怒られてぇなーって思っちゃった・・・」
「え、えぇー・・・ウザくないの?」
「・・・飲み会つまんないんだもん。涼くんのご飯食べたいし、あの日、かに玉の日だったもん・・・すげー悔しかった・・・」
「そ、そっかぁ・・・。そゆ時もさ、おれのこと使って断ったらいいよ。恋人がうるせーからとかさ、悪口いっぱい言って。そしたら引き留めてこないでしょ?」
「悪口とか言えるわけないでしょっ。・・・でも、そうやって断って、いい?」
「いいよ。だっておれ、その人たちと会うことないもん」
「・・・ありがと。涼くんもそうやって断って、いいからね。あ、恋人だと都合が悪かったら、飼い犬がうるせーから早く帰んなきゃいけないとか言ってさ」
「・・・それ、成瀬さんがよく言ってる」
「へ?」
「ほら、たまに誘われるじゃん?成瀬さん、飼ってるバカ犬がうるさいから早く帰らないといけないって、断ってるから・・・。シロさんのことだと思うけど」
和多流くんは弾かれたように笑うと、しゃがみ込んでむせ込むまで笑い続けた。
成瀬さんが初めてそう断り始めた時、本当に犬を飼い始めたんだと思った。
どんな犬なのか気になって聞いてみたけどしれっとかわされて、もしかしてシロさんのこたかも、と納得した。
確かにシロさん、うるさそうだもんなぁ。
「あー、おかしい。でも成瀬さん、ちゃんと断ってあげるんだね」
「飲み会あんまり好きじゃなさそうだし、やっぱり好きな人が待ってる家に早く帰りたいんじゃないかな」
「ま、分かるよ。おれも飲み会断ろ。ありがとうね」
「ううん。変にストレス溜めるよりいいもん。かに玉作るよ。ま、カニの缶詰はないから、カニカマだけどさ」
「え!いいの?やったぁ」
嬉しそうに顔を綻ばせると、おれの手を引いてキッチンに入った。手を洗って卵を取り出し、はい、と渡される。
「4つは多いよ」
「明日のお昼の分」
「とか言って、今日食べ切っちゃうくせに」
「お願い」
う・・・。
お願いされると、断れないんだよな・・・。
これも一種のおねだりだって気づいたのは最近。
されると嬉しいものなんだな。
卵4つでかに玉を作ると、和多流くんはニコニコしながらありがとう、と言った。
「ね、服着ていい?」
「え!?そのままで1回したかったんだけど・・・」
「お尻冷たいよ」
「はい、クッション。あと膝掛け。・・・だめかな。本当は今すぐ、押し倒したいんだけど」
「・・・もう。食べてからね」
「やった。じーっくり見つめて食べよっと」
和多流くんは本当におれをじっと見つめて食事をすすめた。
おれは裸に近い状態なのでソワソワしっぱなし。だんだん勃ち上がってきてしまって、頼りないパンツを押し上げた。
気を逸らそうと食器をシンクに置くと、後ろから抱きつかれる。
「わぁっ、」
「涼くん、勃ってるでしょ」
「あ、やっ!」
エプロンに手を入れ、パンツの上からそっと包み込まれる。
温めるように転がされ、鳥肌が立った。
ぐっと抱き上げられ、寝室へ入る。
軽く噛み付くようにパンツごと口に招き入れられた。
「ふ、う、」
「もうシミができてたよ。可愛いね」
「ん、」
紐を唇で挟み、そっと引っ張る。
頼りない布を外すと、ズル、と口に入れられた。
まだ、この感触に慣れない。
「んくっ、!うぅっ、」
「美味しい」
「ひ!ゔ、んっ!」
「おれが咥えると、口の中で跳ねるんだよ。気持ちいい?」
「き、もちい、・・・和多流くん、」
「ん?」
「元気、出た?」
聞いてみると、和多流くんは目を大きくしてすぐにくしゃくしゃに笑った。
顔を寄せて、額を合わせる。
「嫌なことあったの忘れてた。それくらい、元気」
「よかった」
「守られるって、安心するね」
大きな手が体を撫でる。
安心するね、と返して、和多流くんの背中を優しく撫でた。
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