群青色の約束

和栗

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pinkie9

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「熱下がったのか」
「あ、はい!おかげさまで・・・。多分、知恵熱だと思います・・・」
和知は顔を真っ赤に染めた。
考えすぎて熱出すやつって、本当にいるんだな。
あの日、和知に初めて触って(未遂)拒まれて、翌日熱を出した和知の看病(添い寝)して、まだ体が熱っていたので次の日も休ませた。
んで、今日。ちゃんとエナメルバッグを担いでおれの家まで迎えにきた。
駅まで無言で歩いていると、あの、と声がかかった。
「なに」
「えっと、・・・お弁当、作れなくて・・・」
「あぁ、いい。病み上がりだし」
「・・・あの、晩ご飯、食べに・・・」
「なんか食いたいもんあんの?」
「あ、いえ、うちに、来ませんか・・・」
首元まで赤くして、和知は言った。目線は足元。俯いているの細いでうなじがよく見える。
「行かない」
行きたいけど行ったら飯だけで終わらないし。
まだ早い気がするし。
あんまり怖がらせたくないし。
つーかこいつ、あんだけ怖がってたのにおれを誘うって、ちゃんと理解してんのか?
無意識か?何も考えてないのか?
それとも、期待してんのか?
そういうの込みで誘ってんのか?
いまいち分からない。
「そ、そうですか・・・」
「弁当にして」
「は、はい」
「・・・お前、」
「え?」
「や、いいや」
和知の顔があがる。寂しそうな顔だった。
いや、なんで、そんな顔をするんだ?
おれ変な態度とったか?変なこと言ったか?
わっかんねー・・・。
また無言で歩き続ける。なんか、調子狂う。

*************

数日が過ぎた。
外は土砂降り。
制服の裾はびしょ濡れ。
部活もできないし、他の部との兼ね合いもあって筋トレもできず、今日は帰宅の一択。
カバンを担いで下駄箱に向かうと、和知が立っていた。おれに気づくと、ペコペコと頭を下げる。
「何してんだ?」
「傘が、なくなっちゃって・・・」
「ビニール?」
「はい。持ち手にシール貼ってあったのに・・・取られちゃったのかな・・・」
あはは、と諦めたように笑う。
まぁ、自分の傘が見当たらなくなった奴が適当に持って行ったのだろう。
真っ黒な傘を広げてほら、と傾けてやると、体を縮こませて隣に並んだ。
「す、すみません・・・」
「別に。この傘でかいし」
「先輩のは普通の傘なんですね」
「一番無難だからな。お前、家に他の傘あんの?」
「もう一本ビニールのが・・・。えへへ、新しいの、買おうかなぁ・・・どうせまた取られちゃうだろうし・・・」
「じゃぁ、駅ビル見て行くか」
最寄駅で降りて、駅ビルに入る。和知ははしゃいでいた。
時々我に返っておれの様子を伺うように見てくるが、さっさと決めろと小突くと安心したように笑った。
こういうことの積み重ねが大事なんだろうな。
セックスも大事だけど、意外と面倒だなと思っていたことが、一番重要なのかもしれない。
和知が嬉しそうに笑う姿を見て思った。
ちょっと気持ちが落ち着いた気がした。
駅ビルから出て、和知は新しい傘を差して歩いた。
自宅の前で別れようとすると、何か言いたげにおれを見つめた。
「なんだ?」
「あ、うんと・・・」
目を伏せる。
部屋に来るか、と言いかけて口をつぐんだ。
じっと和知の言葉を待つ。キョロキョロと辺りを見渡すと、お庭入ってもいいですか、とようやく口を開いた。
まぁ、ここ商店街のど真ん中だからな。話しづらいよな。
裏に周り庭(と言っても砂利剥き出しの駐車場)にくると、和知は傘を閉じておれに寄ってきた。
カバンを担いだまま胸に額を押し付けると、遠慮がちに腰に手を当ててきゅっとシャツを掴んだ。
こんなことしてきたの、初めてだった。湿気でだろうか、少しゴワついた髪を指先でといてやる。
「・・・どうした」
「・・・あの、えっと、」
「なんかあったか」
「・・・は、はい」
「・・・なんだ?」
実家も複雑だし、元々いじめられ体質な和知は、入学早々パシリ扱いされていた。
知るきっかけはおれが和知を最初、パシるために声をかけたから。
パシるという名目で一緒にいようとした幼稚な記憶が今も思い出せる。
パシリの板挟みになっていたのに気付いて、相手に忠告して事なきを得てから、そういうことはなかったはずだ。
じゃぁ、部内で何かあったのか?
「和知、」
「せ、せ、先輩!」
「なんだ」
「・・・先輩と、もっとこうしたいです・・・」
「・・・あ?」
「最近、してないから・・・!ぼ、僕が悪いのは分かってるんですけど!だから・・・!その、んと・・・!」
「・・・あー・・・」
そういうことか。
指の動きが止まる。
確かに最近こういうことはしなかった。
なんとなく遠巻きにしていた。
だって、怖がらせたくなかった。
それと、拒まれたくなかった。
したいとは言われたけど、本心か分からないし、場の勢いもあったんじゃないかと思った。
だからなんとなく、一緒にいても手も繋がなかったし、うちに来るかとも聞かなかったし、キスも、こんな風に抱きしめることもなかった。
「先輩、もう、嫌ですか・・・?僕じゃ、だめですか・・・?ごめんなさい、この前は、本当にごめんなさい・・・」
「和知」
「嫌です、」
「・・・なにが」
「・・・わ、わ、・・・別れたく、ないです・・・!」
体が震えていた。
抑えるように肩を抱いてやる。
そうだよな。
いきなり何もしなくなったら、そうやって思うよな。
別れる気なんてさらさらなかったから、驚いてしまったけど。
「・・・別れるわけねぇだろうが。バカが」
「だって、先輩、」
「お前がビビるかと思ってなんもしなかっただけだ」
「もう、ビビリません!僕、全部先輩に捧げます!」
ガバッと顔があがる。
真っ赤。目はうるうる。
つい笑うと、キョトンとした顔になった。
「ぜ、全部捧げるって、おま、あははっ、」
「・・・う、う、・・・僕は、」
「お前、おれを喜ばせる天才だな」
腕で首を固定して、顔を近づける。
小さくて薄い唇に噛み付くと、背中に腕が回った。
「・・・さみーな。雨」
「え・・・あ、すみません、引き止めちゃっ、」
「部屋あがるか?」
「・・・あ、」
「さすがに最後まではしねーけど・・・どーする?」
耳元で呟くと、ビクビクっと体が跳ねた。腕の力が強くなる。
こくんこくんと何度も小さくうなずいた和知は、おれからそっと離れた。
細い腕を引いて家の中に引っ張り込む。和知はか細い声で、死にそうです、と言った。なんか、可愛いと思った。


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