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イエロー・ハッピー10
しおりを挟む「佑、もうだめだ。蕁麻疹が出る」
「・・教えてって言ったの、蓮ちゃんなのに」
図書館で勉強していると、蓮ちゃんがテーブルに突っ伏して小声で訴えてきた。まだここへきて30分ほどしかたっていない。
「成績がまずいことになるって言ったの、蓮ちゃんだよ?」
「分かってる。分かってるんだけど」
「自分の部屋だと集中できないって・・・」
「言った。言いました。言ったけどさ!」
「じゃぁ頑張ろうよ」
「・・・ちょっと休憩・・」
もー、しょうがないな。黙ってうなずくと、蓮ちゃんはそそくさとトイレに走って行った。出てきたかと思ったら、そのままふらふらーっと館内を歩き回り、雑誌コーナーで足を止めて野球雑誌をめくり始めた。
もういいや、戻ってくるまで進めよう。1人で参考書をめくって進めていると、しばらくして蓮ちゃんが戻って来た。隣に腰を下ろすとすぐに顔を覗き込んでくる。
「わ、」
「怒った?」
「え?どうして?」
「・・いや、なんか、ほら」
「怒ってないよ。やろうよ。赤点なんか取ったら、試合出られないんでしょ?」
「・・ん」
唇を突き出して、蓮ちゃんはペンを持った。頬杖をつきながら教科書をめくっていく。時折小声で、ここが分からないと言われて教えると、ふんふん頷いたり首を傾げたり。
ようやく集中できたようで、ふらふらと立ち上がったり弱音を吐いたりすることはなかった。
つまづいていたところが理解できたのか、黙々と進めていた。閉館のチャイムが鳴って、勉強道具を片して図書館を出る。
「佑ー」
「何?」
「本当に怒ってない?」
「えー?怒ってないよ。何でそう思うの?」
「・・だっておれが戻らなくても1人でやってたし・・・」
「呼んでも嫌がるかなって。それに、自分からやろうって思わないと集中できないもん」
「そうだけどさ・・・。本当に怒ってないんだよな?」
「うん。・・なんか蓮ちゃん、最近僕に対して弱腰だね。らしくないな。どうしたの?」
「・・嫌われたくないだけ!言わせんなよ、バカチン」
ぐりぐりと肩を小突かれる。へぇー!そんなこと、思うんだ!嫌いになんかなるはずないのに。なんか意外だな。
「蓮ちゃん、少し前の僕みたいなこと言ってるね」
「あー、そうかも。してからちょっと不安かもな。嫌がることしてなかったよなとか、怖くなかったかなとか」
「僕は逆に、したからもうこれ以上恥ずかしいことも怖いこともないかなって思ったよ。あの、嫌じゃなかったよ。本当だよ」
「・・良くもないってこと?」
え??
見上げると、しまったと言わんばかりに口を押える蓮ちゃん。つい歩みを止めると、困った顔で僕を見た。
蓮ちゃんがネガティブだ。こんなこともあるんだ。いつもニコニコ笑ってて、楽し気で、暗い表情なんか見せない蓮ちゃんが、僕にはさらけ出すんだ。
「は、は、恥ずかしいけど・・・とっても、良いよ・・。うん、なんか、照れちゃうね」
「・・気、遣わないでいいからな」
「本当に思ってるよ。なんか・・神秘的だったし」
「神秘的?」
「うん。2人の秘密だもん。誰にも言えないし言わないことをしてるって考えたら・・・すごく特別な感じ。それを蓮ちゃんとしてるって考えたら、もっともっと特別だなって思って。・・・もっとしたいなって、思う・・・よ・・・」
恥ずかしくて視線を逸らすと、おれも、と聞こえた。ちらっと顔を見る。照れくさそうな笑顔が見えた。
「佑のスケベ―」
「蓮ちゃんには適わないよ」
「おれは普通」
「・・僕知ってるよ。本棚の上にAV隠してるの」
「はぁ!?いつ見たんだよ!?」
「ちょっと前に。なんか不自然に積んであるなって思って、何だろうと思って杖で小突いたら見えたんだ。大人の人が好きなんだね」
「そういうことに杖を使うなよ!つーか見るなよ!てか大人が好きとかじゃなくて!じゃ、な、く、て!プライバシーの侵害だ!」
「蓮ちゃんだって僕のカバン、いきなり漁ったりするじゃないか。なんか食べるものないー?って」
「ぐ・・!」
「・・内容、結構過激だったよね。恥ずかしくなっちゃった」
「佑のバカ野郎!」
顔を真っ赤に染めた蓮ちゃんは、ふんっとそっぽを向くと先に帰ろうとした。立ち止まったまま名前を呼ぶと、恨めしそうに振り返り、ぶすっとしたまま戻って来た。
「・・・ずりーぞ」
「うん。僕ずるいんだ。蓮ちゃんにだけは」
「・・なんか手の中で転がされてる気がする・・」
「そんなことないと思うんだけどな・・。多分甘えてるだけだよ。ほかの人にはしないし、したことないもん」
「そういうのがずるい!」
「嫌かな」
「・・ぜってー言ってやんねー」
つい笑うと、笑ってんじゃねえと頭をわしづかみにされた。
カバンを取られて、そっと壁際に寄せられる。並んで歩きだすと、僕のカバンを開けてごそごそと漁り始めた。
「あ、チョコみっけ」
「うん。疲れるだろうと思って買っておいたんだ」
「ラッキー」
「でも勝手にカバンあけたから、あげない」
「な、ケ、ケチ!!」
「アハハ!嘘だよ!食べていいよ」
「んだよ、もー。あー、もー!いいや!ずーっと佑の手の中で転がされてよっと。嫌じゃないし」
「良くもない?」
「・・・いい、かも」
少し間があって、首元まで真っ赤にして、蓮ちゃんはぽつりと言った。さっきよりも大きな声で笑うと、笑ってんじゃねーと頬をつねられた。ちっとも痛くないけど。
チョコの箱を開けて差し出すと、少し唇を突き出したまま口に入れた。もぐもぐと動かして、すぐに笑顔になった。
食えよ、と口に押し込まれる。甘くておいしかった。
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