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第二章 教会編
第四話 妹よ、俺は今冒険者ギルドに来ています。
しおりを挟む「ギルド長!トキオさんは襲い掛かって来たジャッジ兄弟を返り討ちにしただけです」
キアさん、始めに俺の無罪を主張してくれるなんて本当にいい人だなぁ。
「大丈夫だよ。一部始終見ていたから」
それに比べてこのギルド長、何だか胡散臭い。見ていたのなら戦闘前に止めることも出来た筈なのに。深入りは禁物だな。
「俺は帰りますので、後のことはよろしくお願いします」
他にも今日中に行きたい場所があるし、これ以上面倒事に関わりたくない。
「待ちたまえ。君に話がある」
「何でしょうか。手短にお願いします」
「そんなに慌てて帰らなくてもいいだろ。私はギルド長だよ」
嫌な言い方だ。これから冒険者としてやっていけるのか不安になってくる。
「俺は今日冒険者になったばかりなのでわからないのですが、ギルド長は冒険者の時間を拘束できるのですか?」
「いいや、そんな権限はないよ。ただ、冒険者資格を剥奪することは出来る」
あーあ、言っちゃったよこの人、残念だがここまでだな。すまん、妹よ。兄ちゃん冒険者としてやっていけそうもない。
ギルド長の目の前で冒険者カードを握り潰す。
「ライター」
握り潰したカードを火魔法で灰に変えた。
「すみません、キアさん。折角冒険者カードを作っていただいたのですが、こことは水が合いそうもない」
悲しそうな顔で俺を見るキアさんだが止めはしなかった。ホント若いのに人間が出来ている。一緒に仕事が出来なくて残念だが権力をかさに懸けたギルド長の下で冒険者活動をして充実した人生が送れるとは到底思えないので仕方がない。
ここに用はなくなった。とっとと帰ろ。
「待ってくれ。私が悪かった。少しだけ時間をくれないか」
「いい加減にしてください。あなたは俺達の戦闘をいつでも止められたのに止めなかった。それ以前にギルド長であれば彼らのやっていることや部下が加担していることに気付いていた筈だ。俺はあなたを信用していない」
「君の言う通りだ、申し訳なかった。その言い訳も含めて君にどうしても話しておきたいことがある。頼む、この通りだ」
そう言って頭を下げるギルド長の姿に、ギルド内は騒然とする。
ギルド長のやり方は気に入らないが素直に反省して謝罪できる人格は持っているようだ。失敗は誰にでもあるが改善しようとする意志があるなら話くらいは聞いてやるか。
「わかりました。少しだけですよ」
「ありがたい。では、私の部屋まで来てもらえるか」
「ここでは駄目なのですか」
「君にとって、ここでない方がよいと考えている」
含みのある言い方だがまあいい。
「わかりました。ちょっと待っていてください」
ギルド長を待たせてテーブルに座っている四人組の所へ向かう。俺に敵意を向けていたもう一つのグループだ。
突然自分達に向かって歩いてくる俺に四人は身を固くする。彼らのテーブルに着き「交渉」がレベル5になって覚えた「恫喝」を発動させ小声で話す。
「お前ら、何も知らない新人冒険者を囮役にしようとしているな」
四人の表情から血の気が引くのがわかる。
「そんなことをしたら地の果てまで追ってでも俺が制裁を加える。わかったか?」
四人組は黙ったまま何度も首を縦に振った。こいつらはこれで大丈夫だろう。
「お待たせしました」
「あ、ああ・・・それじゃあ行こうか。キア、君も来てくれ」
「は、はい」
♢ ♢ ♢
キアさんが淹れてくれた珈琲の香りが鼻腔を擽る。
この世界にも珈琲あるんだ。やったね!
「改めて、冒険者組合トロン支部のギルド長をしているマノアだ。今回の件は申し訳なかった」
「トキオです。それで、言い訳があると言っていましたが」
ここへ来るまでにコタローの「最上位鑑定」でギルド長の情報は得ている。
現役時代は凄腕の斥候として名を馳せた元A級冒険者トレバー マノア。レベル42、得意とするのは素早い動きからの風魔法とスキルレベル8の「鑑定」。最も特筆すべきは、この男レベルは1だが持っているのだ・・・「忍者」スキルを。
「ああ。情報は掴んでいたので張っていたところに君が現れた。証拠を押さえてから動くつもりだったのだが、結果君を危険な目に合わせてしまった」
「そんなところでしょうね。まあ、あの程度は危険のうちに入りませんが」
「だろうね」
聞きたい。どうすれば「忍者」スキルを習得できるのか。でも聞けない・・・ここで聞いてしまえば俺がレベル8以上の「鑑定」を持っているのがバレてしまう。
「ところで、俺に聞いておきたいことがあるのでは?」
「単刀直入に聞く。君は何者だ?」
「質問の意味がわかりかねます」
簡単に聞きやがって。聞きたいのは俺の方だよ!
「では、聞き方を変えよう。私は「鑑定」スキルを持っていてね、スキルレベルは8だ。勝手に君を鑑定させてもらったのだが違和感があった」
この辺りが創造神様にいきなりレベル10の「鑑定」を貰った俺と、叩き上げで地道にスキルレベルを上げた人との違いか・・・
とはいえ「ステータス偽装」がバレた訳じゃない。ここは白を切り通そう。
「違和感と言われても・・調子が悪かっただけでは」
「私もそう思いたいのだが、先程そうでないことが確定してしまった」
「確定?」
「だって君、さっきステータスに無い火魔法を使ったじゃないか」
「あっ!」
しまったぁぁぁぁ!なにやってんの俺。カードを握り潰して投げつけるだけでよかったのに、なにかっこつけて燃やしちゃってるの・・・
『殺しますか?』
『馬鹿なことを言うな。彼は悪人じゃない』
『申し訳ありません』
だから、物騒なこと言うんじゃありません。
しかし、まいったぞ・・・証拠を掴まれては言い訳のしようがない。
「それともう一つ。私は現役時代スピードを売りにしてきた冒険者でね」
知っていますよ。凄腕の斥候だったのでしょ。
「その私が、君がジャッジの突進を躱すのを目で追えなかった。あの時確信したよ、君は私より遥かに強者だとね」
はい、二つ目。本日わたくし二つもミスを犯しました。そりゃ目で追えないでしょうね、転移ですから。なにやってんの、俺・・・
『ころ・・・』
『殺しません!』
どうしてうちの聖獣様はとりあえず殺そうとするのよ。後でお説教してやらねば。
それはさておき、どうしよう・・・開き直るしかないか・・・
「勘違いしないでほしい。私は君が強さを隠したていたことを咎めるつもりはない。強者とは概ね強さを隠すものだと知っている。それなりに修羅場は潜ってきたからね」
おっ、光明の兆し。
「ただ、君が冒険者ギルドに来た理由を知っておきたいだけだ」
「ギルド長、私にはトキオさんが悪人には見えません」
ありがとう、キアさん。
「わかっているよ。礼儀正しく強い正義感を持った素晴らしい好青年だ。だがね、底の見えない強さは凡人にとって脅威でしかない」
ギルド長の言っていることは正論であり、立場上知っておきたいのもわかる。
さて・・・どうしたものか。俺がここへ来た理由は充実した人生を送るためにとりあえず職を得ようと思ったからだが、そのまま伝えて納得するだろうか。
「できれば君とは良好な関係を築きたいと思っている。勿論、口外したりはしない」
これは話さない限り埒が明かないな。
素直に話して信じてもらえないのなら仕方がない。そもそも、俺は嘘をつくのが得意じゃないしカミリッカさんにも向いていないと言われている。
「わかりました。俺がここへ来た理由は職を得たい、それだけです。冒険者として名を馳せたいとか大金を得たいとは思っていません。充実した人生を送ることが俺の目的です」
「冒険者として金も名誉も手に入れれば充実した人生が送れるのではないか?」
「そうかもしれませんが、そうでないかもしれません。俺自身なにをすれば充実した人生を送れるのかわかっていないのが現状です。冒険者だけに縛られたくはありません」
「わかった、信じるよ」
「えっ!自分で言うのもなんですが、こんな理由を本当に信じてもらえるのですか?」
自分で話しておいてなんだが充実した人生を送りたいなんて誰もが思っていること、理由が無いのと同じだ。
「私はね、冒険者になって三十五年、ギルド長になって十年経つ。その間沢山の冒険者達を見て来たし、多くの有力者にも会ってきた。人を見る目にはそれなりに自信があってね、その私が君は簡単に嘘をつくような人間ではないと判断した。私は自分を信じている、だから君の言うことも信じるよ」
話を聞かずに帰らなくてよかったー。初めは胡散臭いと思ったがなかなかどうして、俺が本当のことを話していると見抜ける辺りかなりの人物だぞ、この人。
人を第一印象で簡単に判断しちゃいけないな。自分の未熟さを知るいい勉強になった。
「ちょっと失礼」
ギルド長が席を立ち書類が山積みの机、多分自分の仕事机の引き出しからラミネート機の様な物を持って戻ってくる。
「このカードに魔力を流してくれ」
「プ、プラチナですか!」
キアさんが驚いている。何だか拙い展開になっている気がする・・・
「ああ、彼は元A級冒険者の私が到底及ばない力を持っているのだから当然だ」
「いきなりS級なんて、危険過ぎます」
待て、待て、待て。
「待ってください。俺はS級冒険者になるつもりなんてありません」
「わかっているよ、ちゃんと抜け道があるから。そもそもギルド長にはB級までしか上げる権限がないし、S級冒険者になるには試験があるからね。とりあえずこのカードに魔力を流して」
言われるがまま渡されたカードに魔力を流すとあら不思議、カードに名前が浮かび上がる。(本日二回目)
「ちょっとそれ貸して」
ギルド長にカードを渡すとラミネート機もどきに通して魔力を流し始めた。
「ほい、出来た」
出てきたのはシルバーの冒険者カード。
「今日冒険者ギルドに来たばかりの君は知らないかもしれないけど、冒険者カードの色と材質は階級によって変わるんだ。E級からC級は銅で右上に階級が浮き出ているだけ、B級がシルバー、A級がゴールド、S級がプラチナだ」
「ということは、俺はB級ですか?」
「そう、だけどただのB級じゃないよ。キアはこのカード知っているよね」
「はい、見るのは初めてですがB+級カードです」
「このカードがどういった意味を持つかは?」
「知りません。ただ、B+級のカードを提示した冒険者がギルド長に面会を求めた場合は即座に対応するように言われています」
本当に大丈夫なのか、S級冒険者になんてならないぞ。
「キアも知ってのとおりA級とS級冒険者には領主、王族の依頼に対して強制招集が掛かる場合があるだろ、それを嫌ってトキオ君のように力はあってもB級までしかランクを上げない冒険者がごくごく少数だが居る。冒険者は国同士の戦いに関わる義務はないが、魔獣や盗賊など有事の際は力を借りることもあるので各支部のギルド長としては力を知っておきたい。その為にあるのがこのカード、S級相当の力を持つB級冒険者専用のB+級カードさ」
「知りませんでした、そのカードにはそんな意味があったのですか。でも、どうしてそんな重要な話を私に?」
「キアにはトキオ君の担当をお願いしたい。このカードのことは当然口外しちゃダメだからね」
「わかりました」
おい、おい、俺抜きでどんどん話が進んじゃっているぞ。B+級カードはちょっとかっこいいと思っちゃったけど・・・
「トキオ君、ギルド長としてお願いする。有事の際は君の力を貸してほしい」
もとより力を持った以上、街の人達に危険が及ぶなら正体がバレようと使うつもりだ。ここで断るようでは、俺の物語を楽しみにしている妹をがっかりさせてしまう。
「わかりました。これからよろしくお願いします」
「ありがとう!」
俺の手を取り嬉しそうに肩をバンバン叩くギルド長。間違ってコタロー叩かないよう気をつけてくださいね・・・
そして、今なら聞ける。否、今しかない。
「ギルド長。その代わりと言っては何ですが、俺もギルド長に聞きたい・・・と言うか、教えていただきたいことがあるのですが」
「何だい、私に出来ることがあるなら何でも言ってくれ」
チャーンス!
「実は、俺も「鑑定」スキルを持っていまして・・・」
「やはりそうか。だとすると、私の「鑑定」レベル8でもステータスを隠蔽は出来ても偽装なんてできないから、トキオ君が持つ「鑑定」はそれ以上」
「はい、レベル10を少々・・・」
「レ、レベル10!私が知る限り「鑑定」レベル10を持っているのはこの国の宰相と王都のS級冒険者の二人だけだぞ。凄いじゃないか」
やっぱり居るよね。宰相と王都のS級冒険者ね、注意しないといけないな。それは後で考えるとして、今はもっと重要なことを聞かねば。
「それでですね、先程俺もギルド長を鑑定させていただきまして・・・」
「どうした、急によそよそしい話し方になって。私だって勝手に鑑定したのだ、トキオ君のことを責めたりはしないよ」
「いえ、そうではなくてですね・・・その時に見たギルド長がお持ちのスキルの取得方法をご教授願えないかと・・・」
「私が持つスキル?「鑑定」以外で君ほどの力を持つ人物が欲しがるスキルなどあったか?」
「はい。「忍者」スキルの取得方法を教えてください」
後頭部が見える勢いで頭を下げる。肩に乗ったコタローと共に。
「えっ、あんなスキルが欲しいの?」
「是非」
『是非』
我らの悲願を是非。
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