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第二章 教会編

第三話 妹よ、俺は今街に来ています。

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 太陽の眩い日差しで目を覚ます。
 良い天気だ。街へデビューする今日という日を歓迎してくれているようで気分がいい。

「って、お前一晩中それを読んでいたのか?」

「お目覚めでしたか。おはようございます、トキオ様。面白過ぎてページをめくることを止められませんでした。それにしてもトキオ様が過ごされた前世の文化は素晴らしいですね」

「素晴らしいですねじゃないよ、まったく。休める時にはしっかり休めと言っているだろ」

「そうは仰いますが、聖獣は休息も睡眠も必要としません」

「そういう問題じゃないの。規則正しい生活を送りなさい」

「はぁ・・・」

「言うこと聞かないと、その本取り上げるぞ」

 慌ててマジックボックスに本を投げ入れるコタロー。子供か!

「さあ、今日はいよいよ街ですね」

 話を逸らしやがって、サンセラと変わらないぞ。


 朝食を済ませていよいよ出発。
 俺が目指すトロンの街は人類最大国家ブルジエ王国第三の都市。隣接する魔獣の大森林は人類未開の地と言われているがそれはあくまで奥地のこと。大森林の資源や希少な魔獣の素材を求めて冒険者が集い、それを買い付けるため商人が集まる。
 王都からは離れた僻地でも物が集まれば人は集まる。人が集まれば物が必要となりさらに人は増え物も集まる。当然大森林から魔獣が出てくることもあり常に危険が伴う場所だが、それ以上に夢と希望と欲望が詰まった街だ。

「コタロー、昨日話した通り頼むな」

『はい。心得ております』

 これは従魔契約をしていると出来る念話。燕が人語を話せばコタローの正体がバレてしまうので街中では念話で話す。

 コタローの高速飛行で三時間程飛ぶと遂に魔獣の大森林が景色を変え始めた。木々が低くなり、まばらに草原が見え始めたところで地上に降りる。そこからは燕姿のコタローを肩に乗せ全力疾走。「隠密」で気配を消し「索敵」で人の気配を探りながらの移動すること一時間。遂に魔獣の大森林を完全に抜けた。

「見ろ、コタロー。道だ」

『ようやくですね』

 そこからしばらく徒歩で進むと反対側からいかにも冒険者といった四人組が現れた。

 第一異世界人発見。すれ違いざま「鑑定」でステータスを確認する。

「おい、コタロー。あの人たち大丈夫か?」

『大丈夫とは?』

「あんなに低いステータスじゃ魔獣にやられちゃうだろ」

『この辺りにはたいした魔獣もおりませんし大丈夫でしょう』

「それならいいんだが・・・」

 それからも冒険者らしき人達とすれ違ったが、概ねステータスは始めに遭った冒険者達と大差ない。この世界の冒険者の平均ステータスがあの程度なら俺のステータス偽装を見直す必要がある。たまたますれ違った冒険者が弱い人ばかりだったかもしれないから街に入ってから考えるか。

 さらに歩き続けると遂に見えた巨大な城壁。

「コタロー、街だ」

『はい』

「行くぞ!」

 遂に触れられるこの世界の文明に興奮が抑えられず、気付かぬうちに走っていた。



「止まれ、止まれ!」

 門番らしき人の声で足を止める。

「ここはトロンで間違いないですか?」

「ああそうだ。お前とんでもなく足が速いな、冒険者か?」

「いえ、冒険者になろうと思って田舎から出てきました」

「だったら通行税、銀貨三枚だ。持っているか?」

「はい。大丈夫です」

 通行税銀貨三枚は思ったより良心的だ。マジックボックスから金貨を一枚出して渡す。

「おっ、マジックボックス持ちか、将来有望だな。ほれ、釣りの銀貨七枚。冒険者ギルドに登録すれば次から通行税は免除されるからな」

「教えていただきありがとうございます」

「なかなか礼儀正しくて気持ちのいい若造だな。俺は門番のマイヤー、この街でわからないことや困ったことがあればいつでも聞きにこい」

「俺はトキオといいます。これからよろしくお願いします」

「おう、頑張れよ。ようこそ、トロンの街へ」

 初めて会話を交わした異世界人マイヤーさん、顔は少し強面だがいい人だ。さあ、記念すべき第一歩。

「おおー、人がいっぱい居る」

「ははっ、そうだろう。この国第三の都市だからな。冒険者ギルドは大通りをこのまま真っ直ぐ行って噴水のある中央広場の左側だ」

「色々教えていただいてありがとうございました」

「いいてことよ。さあ、行ってこい」

「はい。行ってきます」

 城壁の外からは想像もつかない程、人や馬車が行き交う大通りには隙間なく商店が立ち並び活気にあふれている。しばらく歩くとマイヤーさんが教えてくれた噴水がある中央広場、そして冒険者ギルド。一旦噴水の脇にあるベンチに腰を下ろす。

『行かないのですか』

「しばらく様子見だ」

 ギルドに出入りする冒険者を手当たり次第に鑑定していく。一般的な冒険者とあまりにもステータスがかけ離れているせいで余計な面倒ごとに巻き込まれるのを避けるためだ。
 受けた依頼はきっちりこなすつもりだが、今のところ自由を束縛されてまで冒険者として栄達したいとは思っていない。あくまでも目的は充実した人生を送ることであり冒険者という職業にこだわる必要はない。

 一時間ほど鑑定したが平均レベルは20くらい、一番高かった人でも32。基本ステータスはたまに四桁の人が居る程度で思ったより低い。魔法属性は複数持つ者もいるが、ほとんどがレベルは一属性しか上げていない。やはりこの世界では複数の魔法属性を平均的に上げるよりも一属性のスペシャリストになる方が好まれているようだ。
 これらの情報を参考にステータスを偽装していく。


 名前 トキオ セラ(22)
 レベル 25(53)
 種族 人間
 性別 男

 基本ステータス
 体力 671/671 ( 95925/95930)
 魔力 912/912 (130380/130380)
 筋力 589     ( 84270)
 耐久 630     ( 90100)
 俊敏 690     ( 98580)
 器用 1005    (143630)
 知能 953     (136210)
 幸運 477     (  4770)

 魔法
 火    (B)
 水    (B)
 風  C (A)
 土  C (A)
 光  D (B)
 闇    (E)
 空間 C (A)
 時間 C (A)

 スキル
 鑑定5 料理5 体術5 剣術5 槍術3 弓術3 発掘2
 (自動翻訳10 鑑定10 隠密10 不動心9 創造8 双剣8 瞑想7 体術7 剣術7 交渉5 料理5 槍術5 弓術5 発掘4 手加減3)

 加護
 (創造神の加護)


 とりあえずこんなところかな。
 ()内が本当のステータス。幸運以外の基本ステータスは一律0.7%にした。本当は使える魔法属性をもっと減らしたいのだが、マジックボックスや回復魔法は人目に触れる可能性が高いので後から偽装がバレるリスクを考えると仕方がない。

 こうして見ると本当にこれ程の強さが必要だったのかと思うところはあるが、この世界には必ず強者が居ると考えておいた方がいい。実際、魔獣の大森林には強い魔獣が居るし、このステータスが無ければ創造神様の結界を出ることすらできなかった。

「さて、行くか。コタローも力を隠しておけよ」

『はい』

 開けっ放しの出入り口付近にたむろする冒険者には目もくれず中に入る。「索敵」を使うと敵意を持っている者が八人。出入り口に一人、テーブルに四人、併設された酒場に二人、受付カウンターに一人。
 これが通過儀礼的なものを仕掛けてくる程度なら甘んじて受けなくもないが、質の悪い新人潰しや恐喝まがいのことをしてくるのであれば容赦なく叩き潰す。これから頑張ろうとしている若者の足を引っ張るような大人は許せない。

『コタロー、俺が受付をしている間に敵意を持っている奴らの目的を「最上位鑑定」で調べてくれ。最後の方だけ読めばいいからな』

『かしこまりました』

 カウンターに向かってゆっくり歩くと八人は目で合図を送る。出入り口と酒場の二人にカウンターの受付が同じグループ。テーブルの四人もグループだがこの二組は仲間ではなく別々の思惑がありそうだ。どちらのグループも簡単に敵意を見抜かれている時点で大した奴らではない。
 受付に向かっていくと敵意を持った受付嬢が笑顔で待ち受ける。当然スルーして隣の受付嬢に声を掛けた。

「冒険者登録をお願いします」

「はい。ではこちらの必要事項を記入してください。代筆は銅貨二枚ですが利用されますか?」

「いえ、大丈夫です」

 出された紙には名前と職業欄。職業か・・・どういったものがあるかわからん。

「職業はどういったものがあるのですか?」

「剣士や魔法使いなどですが、まだ決めていないのであれば前衛や後衛などでも構いませんよ」

 その程度の情報を書く必要があるのか?まあいいか、とりあえず名前はトキオ セラっと。職業はオールラウンダーにしておくか、パーティーに勧誘されても面倒だし。

『トキオ様、奴らの目的がわかりました』

『説明してくれ』

『まずテーブルの四人組ですが、何も知らない新人を仲間に引き入れ危険な場面に遭遇した場合の囮役にするつもりです』

『どうしようもない連中だな』

『残りの四人はさらにどうしようもない連中ですよ。トキオ様が避けた受付嬢に冒険者登録を頼むと本来登録には必要ないステータス鑑定までされます。大した実力でなければ酒場のリーダー格二人に合図を送り難癖をつけ金を巻き上げる算段です。出入り口の見張り役は衛兵などが近くにいないかを見張っています』

『本当にどうしようもない奴らだな。少し懲らしめてやるか』

『殺しますか?』

『い、いや、そこまでしなくてもいい』

 物騒だな、うちの聖獣様は・・・


「これでお願いします」

「はい。オールラウンダーですか、凄いですね」

「いえ、剣も魔法も使えるというだけで大した実力ではありません。これから精進します」

「登録料は金貨一枚です。依頼をこなしてからの後払いも出来ますが、その場合は金貨一枚と銀貨二枚になります。どうされますか?」

「手持ちがありますので、先払いでお願いします」

 ポケットからジャラリと音を立て金貨一枚払うと隣の受付嬢が酒場に目で合図を送った。大した実力ではないという言葉を鵜吞みにしたな。

「それではこのカードに魔力を流してください」

 言われたとおり魔力を流すとあら不思議、カードに名前が浮かび上がる。

「はい、トキオ セラさんで間違いありませんね。これで晴れてトキオ セラさんはE級冒険者として登録されました。受けられる依頼は冒険者ランクの一つ上、トキオ セラさんの場合はD級までです。ただし、D級以上の依頼は失敗した場合に違約金が発生しますので初めは無理せずE級の依頼を受けることをお勧めします」

 なるほど、先に名前と職業を書かせたのは身分を偽っていないか確認する為だったのか。このカードには他にもセキュリティーがありそうだな。後で調べよう。

「丁寧に説明していただいてありがとうございます。俺のことはトキオと呼んでください」

「では、トキオさん。依頼が完了したら冒険者カードを受付までお持ちください。報酬とランクアップポイントが追加されていきます」

「わかりました」

「私はキアと申します。冒険者の死亡率は新人が一番高いので決して無理はしないよう、命を第一に行動してくださいね」

「心配していただいてありがとうございます。無理せず頑張ります」

 キアさんに礼を言って依頼が張り出されている掲示板に向かおうとすると、酒場の男が早歩きでこちらに向かってくる。

 世界が変わっても人間の本質は変わらない。新人冒険者の身を案じてくれる人もいれば、僅かな金でさえ奪い取ろうとする輩もいる。欲を持つことが必ずしも悪いことだとは思わない。向上心や夢を叶えるための頑張りも繋がる。だが、その為なら何をしてもいい訳ではない。コミュニティーの中で生活している以上最低限他人に迷惑を掛けないのは当然、物を奪ったり命を危険に晒すなど論外。
 この世界の法がどの程度整備されているかはわからないが、世界が変わっても悪は悪。ルールが守れないのであればコミュニティーから排除か隔離されるべきだ。

 酒場から向かってくる男に気付かない振りをして掲示板に歩き始めると、それに合わせて男も歩くスピードを上げる。どうせぶつかったときに武器が傷付いたとでも難癖をつけてくる心算だろう。
 歩きながら男の気配を探知してぶつかる寸前で足を止めると男は勢いよくカウンターに激突した。その瞬間風魔法で武器をへし折る。

「大丈夫ですか?」

「あ、ああ・・・」

「あらら、立派な剣が折れ曲がっちゃいましたねぇ」

「えっ、あぁ・・・俺の剣が」

 仲間の受付嬢が大口を開けて固まっている。それじゃあ「私は仲間ですよ」と言っているようなものですよ。お馬鹿さんは放っておいて掲示板へ向かうと酒場からもう一人の男が速足で俺の背後に迫る。仲間の失敗になりふり構わず突進してくる男とぶつかる寸前に横へ1m程「転移」すると男は勢いよく掲示板に激突した。一人目の男と同じように風魔法で武器をへし折る。

「大丈夫ですか?」

「あ、ああ・・・」

「あらら、立派な剣が折れ曲がっちゃいましたねぇ」

「えっ、あぁ・・・俺の剣が」

 折れた剣を見て嘆いているお馬鹿さんは相手にせず、何事も無かったかのように掲示板を確認してカウンターのキアさんのもとへ。

「良さそうな依頼が無かったので日を改めます」

「そ、そうですか。賢明な判断だと思いますよ、無理をする必要はありません」

 そのままギルドを後にしようと振り返ったところで、掲示板の方から怒号が響いた。

「ふざけんな!てめー、やりやがったな」

 さすがにお馬鹿さんでも二人続けて一言一句変わらぬやり取りには気付いたらしい。

「カルロ、挟み撃ちだ。そいつを逃がすんじゃねぇ」

「おうよ、兄者」

 本当に実在したのか・・・お兄ちゃんを兄者って呼ぶ人。

「やめなさい!ギルド内での私闘は冒険者免許剥奪ですよ」

「うるせー!」

 屈強な男たちにもちゃんと注意できるなんて、立派だなぁキアさん。

「トキオさん、逃げてください。ジャッジ兄弟はC級冒険者です」

「大丈夫ですよ。危ないので下がってください」

 キアさんに迷惑がかからないよう少しカウンターから離れると、俺を挟む位置取りから折れた剣を握り雄叫びを上げて突進してくるジャッジ兄弟。
 コンビ技が得意なのだろうが折れた剣で襲い掛かってくるようではたかが知れている。

「くたばれ、小僧!」

 二人が俺に近付いたところで魔法を放つ。

「テイザーガン」

 ジャッジ兄弟は俺のもとにたどり着くことなく膝から崩れ落ちた。テイザーガンとは電気を飛ばす俺のオリジナル魔法。離れた相手にも使えるスタンガンだ。
 水を打ったように静かなギルド内をゆっくりと歩き仲間の見張り役に声を掛ける。

「出入り口で見張りをしている長髪のお兄さん」

 ジャッジ兄弟の仲間が目を見開く。

「逃げられませんよ」

 忠告した途端、走って逃げだした仲間にテイザーガンを食らわせるとジャッジ兄弟と同じく膝から崩れ落ちた。

「よいしょっと」

 気絶した見張り役を担ぎ上げ、ジャッジ兄弟のところまで運ぶ。事態を把握できていないギルド内は未だ水を打ったかのように静だ。

「受付の悪いお姉さん。あなたも仲間ですよね」

「し、知らない。私は仲間じゃない」

「あらら、名指しした訳でもないのに。悪いお姉さんの自覚はあるようですね」

「あっ、ち、違うの・・」

「女性に手荒な真似はしたくないのでそこで大人しくしていてください」

「あ、ああ・・・」

 悪い受付嬢は頭を抱えてその場にしゃがみ込む。悪者退治完了。

「キアさん、この人達を引き渡したいので衛兵まで使いの人を出してもらえますか?」

「わかりました。すぐに走らせます」

 キアさんが使いを出すためカウンターを出ようとしたところで声がかかる。

「その必要はないよ。使いは私が出しておいたから」

「ギルド長!」
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