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第一章 修行編
第五話 妹よ、俺は今成長しています。
しおりを挟む「ファイアーボール」
カミリッカさん目がけてバスケットボール程の火の玉を放つ。
そう、日本人が異世界に来たら最初に使ってみたい魔法第一位、ファイアーボールだ。
「フン!」
着弾した瞬間ファイアーボールが消えて無くなる。今の魔力ではカミリッカさんにダメージを負わすことは出来ない。
では、なぜやるのか。意識改革の一環だ。折角攻撃魔法が使えるようになっても人に向けては撃てません、では話にならない。長く安全な世界で暮らしてきたため攻撃を躊躇してしまわないよう毎日やらされている。
まあ、その安全な世界で死んじゃったんだけどさ・・・
「なかなか良かったですよ」
全力のファイアーボールをくらっても涼しい顔で言われると、何だか複雑です・・・
♢ ♢ ♢
この世界に来て四ヶ月が経った。
一通り魔法は使えるようになったが、レベルは1のままなのでたいした威力はない。ちなみに今のステータスがこちら。
名前 トキオ セラ(21)
レベル 1
種族 人間
性別 男
基本ステータス
体力 180/180
魔力 25/245
筋力 158
耐久 169
俊敏 185
器用 270
知能 256
幸運 9
魔法
火 D
水 D
風 C
土 B
光 D
闇 E
空間 D
時間 C
スキル
自動翻訳10 鑑定10 隠密9 不動心7 瞑想5 交渉4 料理4 創造4 体術2 剣術1 双剣1 槍術1 弓術1
加護
創造神の加護
この世界に来たばかりの頃に比べ基本ステータスの伸びは悪くなっている。前世と同じく訓練だけでステータスを上げるには限界があり、日に日にそれは近づいてくる。これは仕方がない。
三か月間の戦闘訓練で多くのスキルを獲得することが出来た。カミリッカさん曰く「トキオ様は基本ステータスの中でも器用が一番高く、そういった人は武器の扱いが上手い」とのこと。
前世で武器など持ったことも無かったが思いのほか扱えて自分でも驚いた。特に「双剣」は簡単に得られるスキルではないらしいので大切に育てていきたい。
それと、戦闘系以外で新たに得たスキルが一つ、例の件の影響だろう・・・多分。
「瞑想」
瞑想することによりレベルに応じて心身のダメージを回復する。ノーダメージ時でもリフレッシュ効果がある。回数制限なし。
それにしても成長速度早くないですか?
この生活が数年も続ければ俺は仙人になれる気がする。
さて、余談はこれくらいにして俺の最大の武器「創造」だがレベルが1上がった。魔力も体力系の基本ステータスよりは伸びが良く、先日割り箸よりも難易度の高そうな人形を作ってみた。
カミリッカさんをモデルに作ったのだが思いのほか出来が良く、折角ならとカミリッカさんにプレゼントしたのだが・・・
「・・・あ、ありがとうございます・・・大切にしますね」
若干引かれた・・・
きっとこの時「不動心」がレベルアップしたに違いない。
ここへ来て二カ月たった頃、講義の全過程が終了し午前中は魔法の時間になった。わからないことはその都度質問している。
カミリッカさんの講義は俺が生活していく為に必要最低限の情報のみ。それ以上の情報はネタバレになってしまう可能性があり、人生を楽しむには自分で経験した方がいいとのこと。
その中でも大切な話といえば、周辺国家と国際情勢。
今居る魔獣の大森林から一番近い街、俺が最初に目指すのが人間の国では最大国家となるブルジエ王国第三の都市トロン。周辺には10を超える国があるが勢力図は度々変わる。
人間の他、獣人と魔族の国もある。獣人国の王が獣王、魔族国の王が魔王という訳ではない。「獣王」「魔王」そして人間から現れる「勇者」はスキルなのだ。
この三つのスキルは唯一無二のスキルで、持っているのは世界でただ一人。スキル大全集にも載っていたが使用不可だった。
「魔王」や「獣王」のスキル持ちが国の王も歴任するのがほとんどだが、中には国の王にならなかった人もいる。魔族国の王が「魔王」だった場合は魔王○○と名乗るが、そうでない場合は魔族国の王○○と名乗る。獣人国も同じ。
ちなみに、ブルジエ王国は初代国王を除いて「勇者」のスキル持ちが王になったことはない。
次に、魔法の大切な話。
この世界で魔法を習得する方法は三つ。一つ目は師匠に弟子入り、二つ目は学校、三つ目が独学だ。
一つ目は主に平民がとる手段。一つの属性のスペシャリストが師となり弟子に明確なイメージが持てる方法を教える。例えば火属性なら、火は熱い、火は明るい、火は燃え広がる、火は水に弱い、火は風に強い、といったように火の特徴を知ることから始まる。多ければ多いだけより明確なイメージが持てるようになる。その上で出来るだけ短く纏めたものが詠唱。特徴は多い方がいいが詠唱は短い方がいい、正反対のことを可能にするため知能が高くないと難しい。火を連想しただけで出来るだけたくさんの特徴を無意識に頭に浮かべ、出来るだけ簡潔な言葉でイメージを固定する。その究極が無詠唱だ。
魔法は使うことで熟練度が上がる。知能が高く多くを学んだとしても魔力が低ければ熟練度は上がらない。知能と魔力量、二つの才能が必要になる。
二つ目は主に貴族がとる手段。師匠の役割を果たす教師が複数所属しているので、属性を複数持つ者には良い環境だ。学校以外で複数の属性を成熟させるには一つの属性を修めてから別の師の元でまた一から学び直さなければならないので時間が掛かる。
並の才能で平民が学校に通うことは出来ない。逆に言えば、学校に通うことが許された平民は極めて優秀な人材だ。
三つ目は天才の類。どんな世界にもダヴィンチやアインシュタインのような天才は現れる。天才の出現は一人で世界を変えられる可能性を秘めているが弱点もある。
一つは後継されにくいこと。天才の考えは天才にしか理解できない。だが、その天才はポンポンと現れない。複数の秀才が束になっても一人の天才には敵わないのだ。あれだけ物理や化学、文明が発達した前世でさえ、フェルマーの最終定理を解くのに三百年以上の歳月を費やした。
さらにもう一つの弱点、天才には変人が多い。変人というと語弊があるが一般人からすると何の価値もない研究に情熱を傾けているように見えてならない。また、天才と呼ばれる人種はそういった世間の目を一切気にしないため説明を疎かにする。理解できない人達に嚙み砕いて手取り足取り理解できるまで説明する時間があるなら、その時間を研究に充てたいのだ。
この世界の魔法は停滞している。
カミリッカさんが言うには、俺が使う魔法はすべてオリジナル魔法らしい。同じファイアーボールでもアプローチがこの世界の魔法使いとは全くの別物。事実、俺はファイアーボールを出すのに「火の玉」と言おうが「火球」と言おうが無言だろうが同じものが出せる。この世界の魔法使いにはそれが出来ない。固定したイメージが壊れるからだ。
俺が世に出て魔法を使えば、この世界の魔法に影響を及ぼすだろう。悪い方へ向かないよう残りの期間充分に考慮して使うものと隠すものを選別する必要がある。
♢ ♢ ♢
「落ち着いて攻撃してください。今のトキオ様ならば何の問題もありません」
目の前の檻に入れられているのは、カミリッカさんが結界の外で捕獲してきた魔獣。
今日、ついにレベルを上げる。
カミリッカさんを相手にしてきた訓練とは違う。人生初めての命のやり取り。
「ホーンラビットから。準備が出来たら合図御お願いします」
手には真新しい剣。最初は魔法を使わない。命を刈り取る重みを、責任を受け止める。
「お願いします」
檻を開けた瞬間に飛び出したホーンラビットが、いっきに俺との間合いを詰める。鋭い角を突き刺そうと飛び跳ねたところに剣を振り下ろした。
ザシュ!
感覚はほとんど無い。ぽとりとホーンラビットの胴体が地面に落下し、後を追うように首が落ちる。
「どうですか」
「まだです」
「次、ヘルハウンド行きます」
「お願いします」
目の前で起きた惨劇など構うことなく、ヘルハウンドが唸りを上げ向かってくる。今度は迎え撃たず、俺もヘルハウンドへ向かって駆ける。間合いを測り、剣を下段から首めがけて一閃する。
ドサッ!
一振りの斬撃で首と胴体の別れたヘルハウンドは生命活動を停止した。
「どうですか」
「・・・上がりました」
出来るだけ小さな声で返事をする。
「ゆっくり、ゆっくりその場に腰を下ろしてください」
持っていた剣を手放し、ゆっくりと腰を下ろす。
「私が行くまで絶対に動かないでください」
返事はしない。
これは前もって予定された行動。レベル上げに際してカミリッカさんと念入りに立てた作戦。
カミリッカさんがゆっくりと俺を抱きかかえ、ログハウスの前に用意しておいた椅子に座らせる。
「ご気分は?」
「高揚しています。これがレベルアップのせいか、初めての戦闘のせいかはわかりません」
ゆっくりと息を整える。小さく、ゆっくりと呼吸を繰り返し「瞑想」で心身をリフレッシュしながら、ゆっくり、ゆっくり呼吸を繰り返す。
この世界の理は基本ステータス×レベル。レベル1からレベル2に上がるときが最も成長率が高い。1から2で成長率100%、2から3で50%、3から4で33%、4から5で25%。俺の場合、そこに創造神様の加護が加算される。
創造神様の加護、レベルアップ時の基本ステータス10倍は、今迄は何の影響も及ぼさなかった。レベルアップして初めて効果を発揮する加護だ。
普通でも成長率100%のところを、俺の場合は1900%。レベルに換算するとレベル1からいっきにレベル20になったのと同じだ。これまで最高速度100㎞だった自動車がいきなり最高速度2000㎞に変る。とても扱いきれない。
「落ち着きました。大丈夫そうです」
「それでは立ち上がって、ゆっくりログハウスを一周してください」
「はい」
歩き始める。ゆっくり、ローギアのまま時間をかけてログハウスの周りを歩き、椅子に戻る。
「ヒール」
「大丈夫です。次は普通に歩いてみます」
今度は普通に立ち上がって歩き始める。横を歩くカミリッカさんが心配そうな顔で俺の様子を窺う。
「ヒール」
「もう問題ありません。ヒールは必要ありませんよ。フフッ」
普段ログハウスの外では鬼教官と化すカミリッカさんの過保護っぷりに思わず笑みが零れてしまった。
「少し結界内を走ってみます」
「今日はあまり無理をなさらない方が・・・」
「大丈夫です。後回しにすればその分成長が遅れます。その日に出来ることはその日の内に、です」
「わかりました。くれぐれも無茶はなさらぬようお願いします」
軽くランニングから。驚くほど体が軽い。
徐々にスピードを上げる。息が上がらず全く疲れを感じない。
「トキオ様、そこまでです。戻ってください」
「大丈夫です。もう少しやらせてください」
さらにスピードを上げる。レベル1だったときの全力を超えるスピードだが限界は遥か先だ。
「これ以上は駄目です。戻ってください」
「大丈夫ですよ。まだ全然力を入れて走っていませんから」
「すぐに戻りなさい!」
「大丈夫ですって」
「いうことを聞かないと、また今晩も強襲しますよ」
バタン!
「ほら、言わんこっちゃない。ヒール」
嘘だろ・・・嘘だと言ってください。
「大丈夫ですか?」
「・・・・・・・」
「トキオ様、立てますか?」
「・・・・・・・」
「トキオ様、トキオ様!」
「・・・・・・・」
「トキオ様!ヒール、ヒール、ヒール、トキオ様、トキオ様!」
「・・・・・・・」
カミリッカさん、心の傷はヒールでは治りませんよ・・・
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