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1章 入部
11話 選手入場
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吹奏楽部の演奏が再開され、部室棟のそばに設置されたゲートから選手達が入場してくる。
「まず先頭は前回レースの準優勝、サッカー部! 続いて体育祭での活躍が記憶に残った部長を要するバスケ部! 水中最速を極めた少女達は陸上でどう魅せるのか、水泳部ー!」
ノリノリで綾乃が紹介していく。
上級生達は今までも同様のイベントがあって慣れているのか、ギャラリーへアピールしながらスタート地点に集まっていく。
「そしてそして今日の主役にして特別ゲスト、陸上部に体験入部に来てくれた新入生ズー! 1走から祭田花火、水野伊緒、日向陽子、そしてアンカー4走は『磁器人形』の異名を持つルーキー、関東6強の湖上瑠那ー!!!」
いつの間にかバトン部に取り囲まれていた陽子達。
掲げられたバトンで作られたゲートを通り、スタート地点に合流するよう促される。
「綾乃先輩……楽しそうですね!」
「先輩、ノリノリだなぁ」
「待って、これ私も走る流れになってる!?」
「伊緒、お前は2走のところに名前があったぞ」
「やっぱり聞き間違いじゃないよね、えぇ!? 私走るの!?」
紹介されたチームが全てスタート地点に集まると、戸惑う伊緒を置いてけぼりのまま、改めて吹奏楽部が演奏を止める。
「さてお待ちかね。夏の森陸上部が誇るリレーメンバーの登場だー! 1走から2年、田丸歌! 3年、葉山美咲! 3年、文月麻矢! 最後は我らが会長にして部長……アンカー4走は3年、皆川蒼!!!」
ギャラリーからひときわ大きな歓声と拍手で迎えられる。
ゲートからゆっくりと歩いてくるリレーメンバーの4人は、さながら空港を歩くVIPのようだ。
「このリレーチームは昨年新人戦の四継……つまり4人×100mのリレーで東京ベスト3の実力! 解説のロリ先生、顧問としてはどう評されますか!」
「おい今サラッとロリ先生って言っただろ! だがまぁ、強いよ。うん。しかも冬の練習を超えてさらに成長してる、顧問としての贔屓目抜きにしてもな」
「おぉ! 珍しくベタ褒めモードですね! さて今日は陸上の正式種目である四継の1.5倍、校内トラックの半周である150mを4人それぞれが走る4×150mRということで、いつもとは勝手が違いますが……顧問もこれだけの自信! つまり、専門外の種目ですがハンデの方も……?」
「1人10m、計40m分は最低でもあげないとな!」
「出ました、40m!!!」
おぉー! とギャラリーが沸く。
しかしそれに対して、実況席の下にやってきた麻矢が腕でバツを作り、拒否を表明する。
「おや? 我が校が誇る100mの最高戦力にして昨年新人戦の100mベスト8! つまりファイナリストというわけですが、そんな麻矢先輩が? ハンデ40mにNGを表明しています! これはどういうことなのでしょうか! 放送部ー、マイク回してくださーい!」
「麻矢ー! お前芋引いてんなよー! ビシっとしろー! パリポリ……うま」
「いや先生、ポテチ食べながらそういうこと言うとマジで競馬か格闘技見てるオッサンだから」
やや芝居がかった動きでリアクションを取る二人からマイクを回されると、麻矢はギャラリーに向き直る。
部長の蒼にアイコンタクトをして、蒼がうなずくと麻矢は声を張り上げた。
「誰が芋引いてるってー!? 甘いぜ甘いぜおいおい! このレース、1人あたり15m……つまりハンデ60mじゃなきゃ眠たくて受けてやれねーなぁ!」
さらに芝居がかった動きで麻矢が挑発をする。
おそらく、ここまで含めて取り決めているのだろう。
しかしお約束なやり取りだとしても、そのハンデの大きさは強烈なインパクトだ。
ギャラリーは拍手喝采で盛り上がる。
「これはとんでもないことになったぞー! さぁチャレンジャーズはこのハンデを了承するのかー!?」
他の運動部は腕でマルを作って了承の意思表示をする。
「双方の合意が取れたようです! さぁそれでは簡単にルールのおさらいをしていきましょう! 1走から半周ずつ走り、計2週分を4人で走り切ってもらいます。バトンパスは20mのテイクオーバーゾーン内で済ますこと、ここら辺は体育の授業を受けていたなら分かってますよねー??」
「ルール違反した奴は体育のテストも赤点扱いにするからなー!」
「おっとこれは恐ろしいこと言われてますよ! さておき、とにかく先頭でゴールすればいいのだ! そして陸上部上級生チームはチャレンジャーズの1走の先頭選手が60m地点を通過したタイミングでスタートとなります。そして皆さん一番気になるのは豪華景品の方ですがー? 生徒会さーん! 豪華景品お願いします! ほらみんな、一緒に! はい豪華景品お願いします!」
綾乃がマイクを運営テントに向ける仕草をすると、ギャラリーも一緒に「ごうかけいひーん!」と叫ぶ。
こちらも台本があるのだろう、待っていましたとばかりに生徒会役員が立ち上がる。
「もちろんございますとも! 3着は学食チケットを部員数分! 2着はさらに倍にしちゃいます! そして会長の意向にて優勝賞品は最大の栄誉! ……ですが、万が一に陸上部上級生チームが優勝できなかった場合には、生徒会予算より優勝チームへ学食1か月分、所属の部員全員へ2着と同等のチケットを提供いたします!」
おぉぉぉー! と全生徒から歓声が上がる。
走る選手だけではない、応援している他の部員にも恩恵があるのだ。
なんとも太っ腹である。
とはいえ、これらの予算は屋台の収益から『運営協力費』という名目で一部天引きされている分から出ているので生徒会の懐は痛くない。
なんともやり手である。
「優勝で学食1か月分!? 皆さん、これは勝つしかないですよ!」
「確かに、ハンデも大きいしかなり美味しいチャンスかも!」
「走るだけで学食チケットは助かる。しかしあの余裕ぶり……先輩方の実力は本物、油断はできないな」
「ねぇ待って皆、私めちゃくちゃ遅いんだけど!? 150mとか走ったことないしそんな当然のように優勝の話されても!」
早速皮算用を始める3人に伊緒が慌てて言うが、3人ともあまり気にしてないようだ。
「伊緒さん、私も150mは走ったことないです! というか100mもさっき初めて『流し』? で走りましたし」
「そういや花火は100mでもバテてたみたいだけど大丈夫? ちなみに私は200mもレース出たことあるし、練習でも経験あるよ」
「私も150mは練習で何度か。大丈夫だ、本番の経験はないがペースは掴めている」
「私は大丈夫じゃないよぅ……」
「私も大丈夫じゃなさそうですが大丈夫です!」
「いや待って、花火はそれどういう意味???」
実力的に自信がある瑠那と陽子が後半に構え、根拠はないが自信だけはありそうな花火が先発。
そして全く実力も自信もない伊緒が繋ぐというチームのようだ。
「それではそれぞれの担当位置についてください!」
1走と3走はスタート位置に、2走と4走は対岸の150m地点へ移動する。
これから一緒に走るライバル達が横一線に並び、自分の倒すべき相手の顔が明確になる。
走る前の独特な雰囲気。
直接殴り合う訳ではないが「今からこいつと戦うんだ」と戦闘態勢になる。
「なんというか……これがレースの緊張感というやつなんですね。ちょっとドキドキしてきました」
「大丈夫、後ろに3人もいるんだ。瑠那と……私がなんとかするから、とにかくバトンを運んでくればなんとかする!」
少し緊張気味の花火を陽子が励ます。
「あ、ありがとうございます。あっ待って鼻血出そうかも」
「ちょ、えっ!?」
「多分大丈夫……です! 多分!」
またしても根拠もなく鼻をつまみながら笑う花火を見ながら、陽子は少し不安になった。
「まず先頭は前回レースの準優勝、サッカー部! 続いて体育祭での活躍が記憶に残った部長を要するバスケ部! 水中最速を極めた少女達は陸上でどう魅せるのか、水泳部ー!」
ノリノリで綾乃が紹介していく。
上級生達は今までも同様のイベントがあって慣れているのか、ギャラリーへアピールしながらスタート地点に集まっていく。
「そしてそして今日の主役にして特別ゲスト、陸上部に体験入部に来てくれた新入生ズー! 1走から祭田花火、水野伊緒、日向陽子、そしてアンカー4走は『磁器人形』の異名を持つルーキー、関東6強の湖上瑠那ー!!!」
いつの間にかバトン部に取り囲まれていた陽子達。
掲げられたバトンで作られたゲートを通り、スタート地点に合流するよう促される。
「綾乃先輩……楽しそうですね!」
「先輩、ノリノリだなぁ」
「待って、これ私も走る流れになってる!?」
「伊緒、お前は2走のところに名前があったぞ」
「やっぱり聞き間違いじゃないよね、えぇ!? 私走るの!?」
紹介されたチームが全てスタート地点に集まると、戸惑う伊緒を置いてけぼりのまま、改めて吹奏楽部が演奏を止める。
「さてお待ちかね。夏の森陸上部が誇るリレーメンバーの登場だー! 1走から2年、田丸歌! 3年、葉山美咲! 3年、文月麻矢! 最後は我らが会長にして部長……アンカー4走は3年、皆川蒼!!!」
ギャラリーからひときわ大きな歓声と拍手で迎えられる。
ゲートからゆっくりと歩いてくるリレーメンバーの4人は、さながら空港を歩くVIPのようだ。
「このリレーチームは昨年新人戦の四継……つまり4人×100mのリレーで東京ベスト3の実力! 解説のロリ先生、顧問としてはどう評されますか!」
「おい今サラッとロリ先生って言っただろ! だがまぁ、強いよ。うん。しかも冬の練習を超えてさらに成長してる、顧問としての贔屓目抜きにしてもな」
「おぉ! 珍しくベタ褒めモードですね! さて今日は陸上の正式種目である四継の1.5倍、校内トラックの半周である150mを4人それぞれが走る4×150mRということで、いつもとは勝手が違いますが……顧問もこれだけの自信! つまり、専門外の種目ですがハンデの方も……?」
「1人10m、計40m分は最低でもあげないとな!」
「出ました、40m!!!」
おぉー! とギャラリーが沸く。
しかしそれに対して、実況席の下にやってきた麻矢が腕でバツを作り、拒否を表明する。
「おや? 我が校が誇る100mの最高戦力にして昨年新人戦の100mベスト8! つまりファイナリストというわけですが、そんな麻矢先輩が? ハンデ40mにNGを表明しています! これはどういうことなのでしょうか! 放送部ー、マイク回してくださーい!」
「麻矢ー! お前芋引いてんなよー! ビシっとしろー! パリポリ……うま」
「いや先生、ポテチ食べながらそういうこと言うとマジで競馬か格闘技見てるオッサンだから」
やや芝居がかった動きでリアクションを取る二人からマイクを回されると、麻矢はギャラリーに向き直る。
部長の蒼にアイコンタクトをして、蒼がうなずくと麻矢は声を張り上げた。
「誰が芋引いてるってー!? 甘いぜ甘いぜおいおい! このレース、1人あたり15m……つまりハンデ60mじゃなきゃ眠たくて受けてやれねーなぁ!」
さらに芝居がかった動きで麻矢が挑発をする。
おそらく、ここまで含めて取り決めているのだろう。
しかしお約束なやり取りだとしても、そのハンデの大きさは強烈なインパクトだ。
ギャラリーは拍手喝采で盛り上がる。
「これはとんでもないことになったぞー! さぁチャレンジャーズはこのハンデを了承するのかー!?」
他の運動部は腕でマルを作って了承の意思表示をする。
「双方の合意が取れたようです! さぁそれでは簡単にルールのおさらいをしていきましょう! 1走から半周ずつ走り、計2週分を4人で走り切ってもらいます。バトンパスは20mのテイクオーバーゾーン内で済ますこと、ここら辺は体育の授業を受けていたなら分かってますよねー??」
「ルール違反した奴は体育のテストも赤点扱いにするからなー!」
「おっとこれは恐ろしいこと言われてますよ! さておき、とにかく先頭でゴールすればいいのだ! そして陸上部上級生チームはチャレンジャーズの1走の先頭選手が60m地点を通過したタイミングでスタートとなります。そして皆さん一番気になるのは豪華景品の方ですがー? 生徒会さーん! 豪華景品お願いします! ほらみんな、一緒に! はい豪華景品お願いします!」
綾乃がマイクを運営テントに向ける仕草をすると、ギャラリーも一緒に「ごうかけいひーん!」と叫ぶ。
こちらも台本があるのだろう、待っていましたとばかりに生徒会役員が立ち上がる。
「もちろんございますとも! 3着は学食チケットを部員数分! 2着はさらに倍にしちゃいます! そして会長の意向にて優勝賞品は最大の栄誉! ……ですが、万が一に陸上部上級生チームが優勝できなかった場合には、生徒会予算より優勝チームへ学食1か月分、所属の部員全員へ2着と同等のチケットを提供いたします!」
おぉぉぉー! と全生徒から歓声が上がる。
走る選手だけではない、応援している他の部員にも恩恵があるのだ。
なんとも太っ腹である。
とはいえ、これらの予算は屋台の収益から『運営協力費』という名目で一部天引きされている分から出ているので生徒会の懐は痛くない。
なんともやり手である。
「優勝で学食1か月分!? 皆さん、これは勝つしかないですよ!」
「確かに、ハンデも大きいしかなり美味しいチャンスかも!」
「走るだけで学食チケットは助かる。しかしあの余裕ぶり……先輩方の実力は本物、油断はできないな」
「ねぇ待って皆、私めちゃくちゃ遅いんだけど!? 150mとか走ったことないしそんな当然のように優勝の話されても!」
早速皮算用を始める3人に伊緒が慌てて言うが、3人ともあまり気にしてないようだ。
「伊緒さん、私も150mは走ったことないです! というか100mもさっき初めて『流し』? で走りましたし」
「そういや花火は100mでもバテてたみたいだけど大丈夫? ちなみに私は200mもレース出たことあるし、練習でも経験あるよ」
「私も150mは練習で何度か。大丈夫だ、本番の経験はないがペースは掴めている」
「私は大丈夫じゃないよぅ……」
「私も大丈夫じゃなさそうですが大丈夫です!」
「いや待って、花火はそれどういう意味???」
実力的に自信がある瑠那と陽子が後半に構え、根拠はないが自信だけはありそうな花火が先発。
そして全く実力も自信もない伊緒が繋ぐというチームのようだ。
「それではそれぞれの担当位置についてください!」
1走と3走はスタート位置に、2走と4走は対岸の150m地点へ移動する。
これから一緒に走るライバル達が横一線に並び、自分の倒すべき相手の顔が明確になる。
走る前の独特な雰囲気。
直接殴り合う訳ではないが「今からこいつと戦うんだ」と戦闘態勢になる。
「なんというか……これがレースの緊張感というやつなんですね。ちょっとドキドキしてきました」
「大丈夫、後ろに3人もいるんだ。瑠那と……私がなんとかするから、とにかくバトンを運んでくればなんとかする!」
少し緊張気味の花火を陽子が励ます。
「あ、ありがとうございます。あっ待って鼻血出そうかも」
「ちょ、えっ!?」
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