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二十話

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 「アデリナ! ベルラント様がお越しになったわよ」

 私がベルラント様が決めてくださったドレスに着替えていた。ベルラント様がドレスを決めたあとアーレンス邸に送ってくれたのだ。それに加えてアクセサリーなども送られてきていた。私はそれに驚いたが送られてきたものをつけないと失礼に当たるのでそれも付けていた。ドレスはロングフィッシュテールで黒を基調としている。そして私の瞳と同じ緑色である大粒のエメラルドのネックレスを付けていた。

「わかりました。お母様。ただいま参ります」

 私はそう言って玄関へ向かった。玄関には、お父様とお母様そしてベルラント様がいらっしゃった。何やらお母様はキャッキャッといった感じでベルラント様に話しかけている。ベルラント様は困惑気味のような表情を浮かべている。叔母である私のお母様を無下に扱うことはできないといった様子である。

「ご機嫌よう。ドレスとアクセサリーにつきましては誠にありがとうございした。並びに本日はよろしくお願い致します」

「あぁ、よろしく頼む」

 ベルラント様は素っ気なくそう返して手を出してきた。しかし、やっぱり目は合わせてくれない。私はベルラント様の手に取った。お母様はその私たちの姿を見て満面の笑みを浮かべていた。きっと私とベルラント様の恋物語が頭の中で繰り広げられているのだろう。お父様はというと私を心配そうに見ていた。

「ノートン卿。くれぐれもアデリナのことをよろしくお願い致します」

「はい、無事にお返し致しますのご安心下さい」

 ベルラント様はお父様そのように返した。するとお母様が私達を急かすように言った。

「さぁ、そろそろ向かわないといけないわ。ベルラント様、うちの娘をよろしくお願いしますね。アデリナしっかりやるのよ」

「はい、お任せ下さい」

「わかっていますわ、お母様。十分気を付けて行って参ります」

 そう私達は返事を返し一緒に馬車に乗り込んだ。ついに私はケモノ達がひしめく魔界に足を踏み込むのだ。どのようなことが起きるか全く予測できない場所だ。今まで培ってきた淑女としての技量の見せ所だ。私はそう意気込んでいると、ベルラント様は私の手を握ってきた。どうやら私は緊張で手を強く握っていたようだ。きっとそれを見てこうしてくれたのだろう。私はベルラント様の手の温かみを感じてベルラント様の方を見た。しかし、ベルラント様は外を眺めるように私と反対側の窓に顔が向いていた。やっぱり私と顔を合わせる気はないようだ。本当によく分からない方だ。私はどのように思われているのだろうか? 好まれているのだろうか? それとも、何とも思われていないのだろうか? 私の頭の中はハテナだらけだ。私はベルラント様の好意とも呼べる行為をどのように解釈すればいいのかわからない。だから、ベルラント様とどのように接すればいいかわからないのだ。昔のように接すればいいのだろうか? 試してみる価値はある。私は血迷ってそのように考えた。そして、それを声に出して実行してしまったのだ。

「……お兄様」

 私はか細い声でベルラント様の方を向いてそう言った。するとベルラント様はエビが驚いて跳ねたかのように体をビクつかせた。何かしらの効果があったと見ていいだろう。しかし、想像の二倍増しで恥ずかしかった。私の顔はたぶん真っ赤であるだろう。だけど、一度やり始めてしまった以上やり切るしかない。そう考え、私はクレッシェンドを効かせるような感じに声が出た。

「聞いてください。あの、お兄様は私をどう思っていらっしゃるのですか?」

 するとベルラント様はこちらを向いて初めて黒い瞳に私を映したのだ。そしてベルラント様は昔のようにため息を吐いて言った。

「……アデリナ。それは答えられない質問だ」

 それは昔と全く変わらない台詞だった。いつも私がベルラント様に質問をすると幼き日のベルラント様はそのように返してきたのだ。そして、それ以上ベルラント様は言葉を発することなく沈黙の時間が流れた。私もこれ以上話を続けることを躊躇されて口を噤んでしまった。こうして、私とベルラント様は言葉を交わすことなく馬車はリシャール公の屋敷に着いたのであった。
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