上 下
7 / 25

七話 必然から偶然をつくるために

しおりを挟む
 カミラがエンツェンスベルガー城にて、婚約破棄される数日前。

 アデリナはお父様の部下であるアインスを連れ、公国とエンツェンスベルガー領の国境に来ていた。真夏日のような暑い中、私たちは鬱蒼とした森の中を歩いていた。

「お嬢がわざわざこんなところに来なくても、他の者に任せるばいいじゃないですか」

 アインスは汗を拭う動作をしながら気怠げにそう言った。

「それじゃあ、ダメよ。今回の件は私の大切なカミラの人生がかかっているのよ。だから、抜かりがないように私がやらなくちゃ」

「いや、そうは言ってもお嬢に何か有ったらどうするんですか?」

「私にそんな心配はいらないわ。それに何か有ってもアインスが優秀だから大丈夫よ」

 私は自信満々に言った。私は幼少期より続けている武術と魔法に自信が有った。魔法はそこまでだが、武術に至っては我が国でも精強さを誇る帝都騎士にも負けない自信があった。
 アインスはため息を吐いた。

「そりゃあ、お嬢に勝てる奴が少ないのは分かりますが態々危険に飛び込む必要はないでしょ。それにお褒め頂き光栄ですが、小心者の俺にそんなに期待をかけんでください。」

 そして、アインスはあーだこーだ言い始めた。私は段々相手をするのが面倒臭くなり話しを逸らした。

「ほら、もう目的地に着くわよ。今更引き返せないわ。諦めなさい」

 そう言って私は前方に指を差した。次第に木々が減り、視界も明るくなってきた。そして、前にはエンツェンスベルガー家の家紋がついた馬車が見えてきた。すると馬車の御者が私たちの方を見て礼をした。

「アデリナお嬢様、お待ちしておりました。私はエンデルス家の御者を務めておりますカールと申します」

 その御者はそう言った。どういうことかというと、この馬車はエンデルス家が今回のお向かいのために用意したもので、私はこの馬車に乗りエンツェンスベルガー家のメイドでアインスが執事としてこれから来るゴーティエ家一家をお迎えしにいくのだ。そして、私がゴーティエ家をうまみがあるように見えるよう手を加えるのだ。さらにアレクサンドラをバルトロメウス好みの見た目にして彼が恋に落ちるように仕向けるのだ。そして、エンツェンスベルガー家がゴーティエ家との縁を求めたがるようにする。

 さらに、カミラはエンツェンスベルガー家があたかも隆盛を極めているかのように演出し、ゴーティエ家が縁を結びたがるように見せかけるのだ。それで、両家に縁を結ばさせるというのが私の作戦だ。そして、誰もが損をしない素晴らしい婚約破棄が起きるという寸法だ。

「さぁ、アデリナお嬢様。こちらにお着替えくださいませ。もうそろそろ御一行がいらっしゃるとのことですので、急ぎくださいませ」

「わかったわ」

 私は馬車の中に入りメイド服に着替えた。それに加えて私は幻視魔法で記憶に残らないような地味顔に見えるようにした。そして私が着替え終わると、エインスが馬車に入ってきて馬車は動きだした。

 馬車は国境にある関門を目指して進んで行くのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】夫もメイドも嘘ばかり

横居花琉
恋愛
真夜中に使用人の部屋から男女の睦み合うような声が聞こえていた。 サブリナはそのことを気に留めないようにしたが、ふと夫が浮気していたのではないかという疑念に駆られる。 そしてメイドから衝撃的なことを打ち明けられた。 夫のアランが無理矢理関係を迫ったというものだった。

愛する婚約者の君へ。

水垣するめ
恋愛
 私エレナ・スコット男爵令嬢には婚約者がいる。  名前はレイ・ライランス。この国の騎士団長の息子で、次期騎士団長だ。  金髪を後ろで一束にまとめていて、表情と物腰は柔らかく、とても武人には見えないような端正な顔立ちをしている。  彼は今、戦場にいる。  国の最北端で、恐ろしい魔物と戦っているのだ。  魔物との戦いは長い年月に及び、この国の兵士は二年、最北端で魔物と戦う義務がある。  レイは今、その義務を果たしているところだ。  婚約者としては心配なことこの上ないが、次期騎士団長ということもあり、比較的安全な後方に置かれているらしい。  そんな私の愛する婚約者からは、毎日手紙が届く。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

殿下が真実の愛に目覚めたと一方的に婚約破棄を告げらて2年後、「なぜ謝りに来ない!?」と怒鳴られました

冬月光輝
恋愛
「なぜ2年もの間、僕のもとに謝りに来なかった!?」 傷心から立ち直り、新たな人生をスタートしようと立ち上がった私に彼はそう告げました。 2年前に一方的に好きな人が出来たと婚約破棄をしてきたのは殿下の方ではないですか。 それをやんわり伝えても彼は引きません。 婚約破棄しても、心が繋がっていたら婚約者同士のはずだとか、本当は愛していたとか、君に構って欲しかったから浮気したとか、今さら面倒なことを仰せになられても困ります。 私は既に新しい縁談を前向きに考えているのですから。

私のことが大嫌いらしい婚約者に婚約破棄を告げてみた結果。

夢風 月
恋愛
 カルディア王国公爵家令嬢シャルロットには7歳の時から婚約者がいたが、何故かその相手である第二王子から酷く嫌われていた。  顔を合わせれば睨まれ、嫌味を言われ、周囲の貴族達からは哀れみの目を向けられる日々。  我慢の限界を迎えたシャルロットは、両親と国王を脅……説得して、自分たちの婚約を解消させた。  そしてパーティーにて、いつものように冷たい態度をとる婚約者にこう言い放つ。 「私と殿下の婚約は解消されました。今までありがとうございました!」  そうして笑顔でパーティー会場を後にしたシャルロットだったが……次の日から何故か婚約を解消したはずのキースが家に押しかけてくるようになった。 「なんで今更元婚約者の私に会いに来るんですか!?」 「……好きだからだ」 「……はい?」  いろんな意味でたくましい公爵令嬢と、不器用すぎる王子との恋物語──。 ※タグをよくご確認ください※

【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!

はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。 伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。 しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。 当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。 ……本当に好きな人を、諦めてまで。 幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。 そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。 このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。 夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。 愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。

絶対に近づきません!逃げる令嬢と追う王子

さこの
恋愛
我が国の王子殿下は十五歳になると婚約者を選定される。 伯爵以上の爵位を持つ年頃の子供を持つ親は娘が選ばれる可能性がある限り、婚約者を作ることが出来ない… 令嬢に婚約者がいないという事は年頃の令息も然り… 早く誰でも良いから選んでくれ… よく食べる子は嫌い ウェーブヘアーが嫌い 王子殿下がポツリと言う。 良い事を聞きましたっ ゆるーい設定です

処理中です...