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第79話 追跡の果て
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サキと子供たちはエミリアに追いつかれる。
「あなたとは戦いたくない。お願い。退いて!」
「退くことはできない。お前はジェンゴを殺した!」
クワトロが驚いてサキの顔をみる。エミリアが剣を抜く。やむを得ずサキも抜く。斬り合う。ずいぶん腕を上げたものだ。エミリアの鍛錬が並みのものではなかったことを物語っている。私を殺そうという執念がそれほど強いということか。そう考えると悲しみが胸に広がる。
しかし技量はまだサキのほうが上だった。エミリアの執拗な連撃をすべて受けきっている。もうすぐスタミナが尽きるはずだ。案の定、攻撃が雑になってきた。
サキはエミリアの隙をついて反撃し、利き腕を斬りつけた。それなりに深く斬った。実質的にこれで勝負はついたようなものだ。エミリアはもはや利き腕で剣を振ることはできない。この場でこれ以上戦ったところで、エミリアがサキに勝てる見込みはないということだ。
「お前はもう戦えない。退け」
サキはこれでエミリアが退くことを期待した。合理的に考えればこの状況ではいったん退くことが最善策だ。しかしその期待は裏切られた。
エミリアは剣を利き腕から反対の手に握り変えた。そして無謀にも再び連撃を仕掛けてきた。先ほどより明らかに一撃一撃に重さがなくなっている。剣の軌道も単調で、サキは楽々と受けることができた。先ほどはヒヤリとする一撃もあったが、今度はすべての攻撃が余裕を持って対応できる。
攻撃の隙をみてエミリアの左手も斬る。エミリアが剣を取り落とす。右手で剣を拾い、また攻撃を仕掛けてくる。しかし傷ついた手では満足に剣を握ることもできないようで、サキがはじくと、剣は手から抜けて飛び、地面に落ちた。サキはエミリアが剣を拾いにいこうとするところに回り込んで妨害する。剣を喉元に突きつける。
「お前は絶対に私には勝てない! 退け!」
エミリアは隠していた短剣を出して突き出してきた。サキは咄嗟のことに手加減ができず、エミリアの腹を貫く。エミリアは短剣を取り落とし、ひざまずく。
「馬鹿なことを」
エミリアは涙をためた目でサキを睨んでいたが、やがてその体から力が抜け、膝から崩れ落ちた。サキはエミリアの体を仰向けに寝かせた。エミリアは涙が零れ落ちる目を開いていたが、視界は暗闇に包まれもう何も見えていない。やがて呼吸が止んだ。サキは手を伸ばし人差し指と親指でエミリアの瞼を閉じさせる。サキはジェンゴの短剣を外し、エミリアの手にそっと握らせた。
***
フレドは捜索の指揮にあたっていたが、すでにサキを取り逃がしてしまったことをわかっていた。これだけ時間が経ってしまったのだ。もう遠くへ逃げてしまっているだろう。
騎士長が黒い髪の修道女を連行している。修道女の頬が青くなっている。殴られたらしい。
「違う。その女ではない」
「なぜわかる?」
「俺は女の顔を知っている。それは別人だ。解放してやれ」
「ああ?お前の指図など受けん。さては解放した途端、お前がこの女を捕らえ、自分の手柄にするつもりだな?お前が何と言おうがこれは罪人の女だ。ちゃんと自白したぞ。例えそうでなくとも自分が罪人の女だとみっちり自覚させてやるさ。この女は連行していく」
瞬間、フレドが瞬く間に剣を抜き、騎士長に突きつけた。
「女を捕らえる絶好の機会だったのに、お前たちが台無しにした」
フレドは騎士長を睨む。騎士長は縮みあがった。
フレドのところに“谷”の者が報告にやってきた。
「サキには逃げられたようです。あっちにエミリアの遺体がみつかりました」
フレドがエミリアの遺体を確認しに行く。
「サキに逃げられそうになり、一人で挑んだようですね」
「こいつはかつてあの女に憧れていました。あの女、どんな気持ちなんでしょうね。かつての仲間に追われ、返り討ちにして殺すなんて」
フレドはかつてヴァンを殺した手の感触を思い出した。
「恐ろしく冷徹ですよ。人間の心があったらできないでしょう」
男はしばらく一人で頷いていたが、自分が失言をしたことに気付いたようでばつが悪そうに去っていった。フレドはかがんでエミリアが握っている短剣をみる。どこかで見たことがあるような気がする。エミリアの手をずらし、鞘から抜いてみる。
思い出した。これは、ジェンゴが自慢していた短剣ではないか?サキがジェンゴから奪って、エミリアが取り返そうとしたのか?いや、これは明らかにエミリアが死んだ後に誰かが握らせたものだ。
フレドは短剣を鞘に戻し、再びエミリアの手に握らせた。
「あなたとは戦いたくない。お願い。退いて!」
「退くことはできない。お前はジェンゴを殺した!」
クワトロが驚いてサキの顔をみる。エミリアが剣を抜く。やむを得ずサキも抜く。斬り合う。ずいぶん腕を上げたものだ。エミリアの鍛錬が並みのものではなかったことを物語っている。私を殺そうという執念がそれほど強いということか。そう考えると悲しみが胸に広がる。
しかし技量はまだサキのほうが上だった。エミリアの執拗な連撃をすべて受けきっている。もうすぐスタミナが尽きるはずだ。案の定、攻撃が雑になってきた。
サキはエミリアの隙をついて反撃し、利き腕を斬りつけた。それなりに深く斬った。実質的にこれで勝負はついたようなものだ。エミリアはもはや利き腕で剣を振ることはできない。この場でこれ以上戦ったところで、エミリアがサキに勝てる見込みはないということだ。
「お前はもう戦えない。退け」
サキはこれでエミリアが退くことを期待した。合理的に考えればこの状況ではいったん退くことが最善策だ。しかしその期待は裏切られた。
エミリアは剣を利き腕から反対の手に握り変えた。そして無謀にも再び連撃を仕掛けてきた。先ほどより明らかに一撃一撃に重さがなくなっている。剣の軌道も単調で、サキは楽々と受けることができた。先ほどはヒヤリとする一撃もあったが、今度はすべての攻撃が余裕を持って対応できる。
攻撃の隙をみてエミリアの左手も斬る。エミリアが剣を取り落とす。右手で剣を拾い、また攻撃を仕掛けてくる。しかし傷ついた手では満足に剣を握ることもできないようで、サキがはじくと、剣は手から抜けて飛び、地面に落ちた。サキはエミリアが剣を拾いにいこうとするところに回り込んで妨害する。剣を喉元に突きつける。
「お前は絶対に私には勝てない! 退け!」
エミリアは隠していた短剣を出して突き出してきた。サキは咄嗟のことに手加減ができず、エミリアの腹を貫く。エミリアは短剣を取り落とし、ひざまずく。
「馬鹿なことを」
エミリアは涙をためた目でサキを睨んでいたが、やがてその体から力が抜け、膝から崩れ落ちた。サキはエミリアの体を仰向けに寝かせた。エミリアは涙が零れ落ちる目を開いていたが、視界は暗闇に包まれもう何も見えていない。やがて呼吸が止んだ。サキは手を伸ばし人差し指と親指でエミリアの瞼を閉じさせる。サキはジェンゴの短剣を外し、エミリアの手にそっと握らせた。
***
フレドは捜索の指揮にあたっていたが、すでにサキを取り逃がしてしまったことをわかっていた。これだけ時間が経ってしまったのだ。もう遠くへ逃げてしまっているだろう。
騎士長が黒い髪の修道女を連行している。修道女の頬が青くなっている。殴られたらしい。
「違う。その女ではない」
「なぜわかる?」
「俺は女の顔を知っている。それは別人だ。解放してやれ」
「ああ?お前の指図など受けん。さては解放した途端、お前がこの女を捕らえ、自分の手柄にするつもりだな?お前が何と言おうがこれは罪人の女だ。ちゃんと自白したぞ。例えそうでなくとも自分が罪人の女だとみっちり自覚させてやるさ。この女は連行していく」
瞬間、フレドが瞬く間に剣を抜き、騎士長に突きつけた。
「女を捕らえる絶好の機会だったのに、お前たちが台無しにした」
フレドは騎士長を睨む。騎士長は縮みあがった。
フレドのところに“谷”の者が報告にやってきた。
「サキには逃げられたようです。あっちにエミリアの遺体がみつかりました」
フレドがエミリアの遺体を確認しに行く。
「サキに逃げられそうになり、一人で挑んだようですね」
「こいつはかつてあの女に憧れていました。あの女、どんな気持ちなんでしょうね。かつての仲間に追われ、返り討ちにして殺すなんて」
フレドはかつてヴァンを殺した手の感触を思い出した。
「恐ろしく冷徹ですよ。人間の心があったらできないでしょう」
男はしばらく一人で頷いていたが、自分が失言をしたことに気付いたようでばつが悪そうに去っていった。フレドはかがんでエミリアが握っている短剣をみる。どこかで見たことがあるような気がする。エミリアの手をずらし、鞘から抜いてみる。
思い出した。これは、ジェンゴが自慢していた短剣ではないか?サキがジェンゴから奪って、エミリアが取り返そうとしたのか?いや、これは明らかにエミリアが死んだ後に誰かが握らせたものだ。
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