桜山線ツバメ列車

箕面四季

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【復路】桜山線ツバメ列車

また、いつか

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 この子は、ママの心がほぐれる瞬間を敏感に察知しているんだ。

 小さな子供を連れての移動は、ストレスが積み重なって結構疲れる。
 上手くいかないことも多くて、イライラする。

 そんな時、電車の中で見知らぬ優しい乗客が話しかけてくれると、張りつめていた気持ちがちょっと緩む。

 それを、子供は隣でちゃんと見ている。


(だから優は電車が好きだったのかも)


 また、優への気持ちが込み上げて、泣きそうになる。
 それを心にぐっと押しとどめ、愛美は男の子に手を振り返した。


 ガタタン、ゴトトン。

 蝉鳴駅、菜の花駅。
 
 爽やかな風を伴って、桜山線ツバメ列車は初夏の景色を進んで行く。


 そろそろ、ツバメ列車は終点の子燕駅へ到着する。

 元々そんなに速くない電車の速度が、更にゆったりとしたものになって。


 この先、くねくねカーブが待ち受けていることを男の子に教えてあげたいけれど……。

 愛美は目の前の親子に目を向けた。

 お兄ちゃんと呼ばれたその子は、お兄ちゃんらしく、ママの隣で今もピシッと座って頑張っている。

(またいつかにしよー)
 愛美は決めた。

 また、いつか、違う親子連れに出会った時、話すことがあるかもしれない。
 その時まで取っておこう。

 
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