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ほたるの記憶 ~中学生編~

ずっとこうしていたいから

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「荷物乗せる?」と、ヘルメットをかぶった篤が自転車のカゴを指差す。
「いいの?」

「妹だし」
「違いますけど」
 ハハッと笑いながら、ほたるの通学リュックをカゴに入れた篤は自転車を押し始めた。

 170cmまで背が伸びた篤は、肩幅も背中も全部がごつごつ硬そうで、やっぱり異性なんだと意識した途端、ドキドキが止まらなくなってしまう。

「なんで無言?」
「べ、別にぃ~」
 真っ赤になって俯き加減のほたるの頭を篤がポンポン叩いた。

「ほたる縮んだ? 給食の牛乳ちゃんと飲めよ」
「ちゃんと飲んでます! てゆーか余計なお世話だし」

 ドキドキドキドキ、心臓の音がうるさい。

 話したいのに話せない。
 顔を見たいのに、恥ずかしくて見れない。
 いつからあたしは、こんな風になってしまったんだろう。

「おっ、たんぽぽ」と、篤が道路の端を指差す。
 アスファルトの割れ目からにょきっと茎を伸ばして、たんぽぽが咲いている。
 でも、寒さのせいか土壌のせいか、花は小さくて、色もあまり綺麗じゃない。

「すげぇよな」
「何が?」

「土の上じゃなくても、こんなに風が冷たくても、そんなの関係ねー。咲きたいから咲く、みたいな? 他の花とか、花の常識とか関係なくて、自分は自分みたいな。オレもそんな風になりたいなー」
「篤は十分そんな感じするけど。有言実行で、修学旅行の班編変えちゃうし」

「でもオレさー。オレはオレだって、堂々とできない」
「どうして?」
 篤は困ったように笑って肩をすぼませた。

「言ったら絶対引くから言わない」
「何それ。気になるじゃん」

「まあなんていうか、枠に囚われないで生きたいってことかな。死んだじいちゃんはそういう生き方してたんだ。頭おかしいとか、非常識とか、普通じゃないとか言われても平気だった。オレもそういう風に生きたいけど、いろんなしがらみとか、世間体とか、親の気持ちとか、友達とか、そういうの考えると、なかなかしんどいよな」

「……それって、世にいう、中二病ってやつじゃ」

「おい」
 こつんとほたるのおでこを小突いて篤が怒ったフリをした。

 嬉しくてくすぐったくて、ドキドキして……好き。
 ずっとこうしてじゃれ合っていたい。
 二人だけで。
 それには。

「篤」
「うん?」

「あたし、ね」
「うん」

 息が、止まる。
 喉が、詰まる。

 頑張れ。
 言わなきゃ進まない。
 紗良にとられたくないんでしょ。

「……部活、クッキング部に入ろうと思ってるの。篤は決めた?」
 やっぱり、ムリ。告白してフラれたら、気まずくなって、こんなふうに話すことすらできなくなる。
 それならこのまま……

「オレ部活入らないかも」
「へ? だって必須だよ」

「そーなんだよなぁ。ほたるさー、部活入らないでいい方法知らない?」
「知るわけないでしょ」

(やっぱり、あたしはこのままでいい)と、ほたるは自分に言い聞かせた。
 今のままで、十分幸せだから。
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