11 / 84
【ところで、私、しばらくここに住むことにしたからね】
しおりを挟む
「ふうん」
柚葉の難しそうな顔に、ハッと、柚樹は我に返った。
そうだった。今は「死ね」発言の撤回をしなきゃいけないんだった。
「いや、さっきのは本気じゃないくて」
「なるほどねぇ」
ふんふんと頷いて柚葉が呟いた。
「もしかしたら、これがミッションかもしれないわね」
「ミッション?」
「みっし、ミシミシ言うわね、この床~。おほほほ」
「?」
床をガンガン足で踏みつけて柚葉が嘘くさく笑っている。
「……」
よくわかんねーけど、もしかして説教されずに済んだ?
「ところで」
ホッとしたのも束の間、柚葉が柚樹をじっと見つめてくる。
(なんだよ、やっぱ説教かよ)
ところで、先生には相談したの? ところで、ご両親は知ってるの?
(面倒くせーな)
だから、テキトーに話合わせときゃ良かったのに。いつもそうしてるのに。ああ、失敗した。
「ところで、私、しばらくここに住むことにしたからね」
「……はい?」
あまりに想像とかけ離れた言葉に、柚樹の口から素っ頓狂な声が出た。
「だから、私、しばらくここに住むわね」
柚葉がにっこり繰り返す。
「え? は? な、なんで?」
なんで、あの話からそうなった?
困惑する柚樹を真似るみたいに、柚葉も困った顔をして腕を組む。
「実はねぇ、私もいろいろ家庭の事情が複雑で、親と喧嘩して家出してきたのよ。本当は君のママにお願いして、しばらく泊めてもらうつもりだったの」
「は? え? それって、つまり」
つまり、柚葉は家出少女だったってこと? なんか隠してるっぽいとは思ってたけど。
なるほど、と柚樹は改めて柚葉を見た。
それなら、これまでの柚葉の不審な言動も納得がいく気がした。なんで制服着てるのかは謎だけど。
「というわけで、今日からお世話になりま~す! 両親と上手くいかない者同士、仲よくしようね」
「え、ちょっと」
柚葉はさっそく、リビングのソファに寝転んで、思いっきりくつろぎ始めている。本気で居座るつもりだ。
いや、マズいだろ。と、柚樹は慌てて頭をぶんぶん振る。
「そんなのダメに決まってるだろ」
「なんで?」
「なんでって」
「もし君のママが生きていたら、絶対にいいよって言ってくれるわよ」
「で、でも」
「あ、そっかぁ~。今のお母さんはダメって言うのね」
「え?」
柚葉が嫌味っぽく笑った。
「そっかぁ。それなら仕方ないかしら。ママは懐の広い優しい人だったけど、きっと今のお母さんは違うのねぇ。お母さんがダメって言うなら仕方ないわよねぇ」
「ちが」
「そっかそっかぁ。君のお母さんは、寝る場所に困っている可哀想な少女を平気で追い払っちゃう冷たい人なのねぇ。そっかぁ、それなら」
「だから違うって言ってるだろ! 母さんはそんなことしない!」
「……そう」と柚葉は柚樹を見た。
怒っているような、泣いているような、複雑な顔。が、すぐににやりと悪そうに笑う。
「なら、問題ないわね。決まり! これからよろしくね、柚樹」
「あ!」
やられた! と思った時には、柚葉はパっと起き上がり、勝手に部屋の中をうろちょろし始めていた。
「ちょ、待って。今のは」
「さ~て、どの部屋を使わせてもらおっかなぁ」
うーん。と指で口元を押さえながら「そういえば、ママの部屋ってどうなってるのかしら?」と奥の洋室へ目をつける。
「そのままになってるけどさぁ」
「そうなの? ママの仏壇は?」
仏壇の代わりに、柚樹が中学生になるまでは、自分の部屋と荷物をそのまま残してほしいというのがママの遺言だった、と、柚樹は簡潔に説明しながら柚葉の後を追いかける。
「なるほどね~」
柚葉は頷いて、がちゃっと躊躇なく洋室のドアを開けた。
まるで自分の部屋みたいにクローゼットやタンスも次々と開けて「洋服もあるのね。ナイス」と顔をほころばせている。
「ちょ、勝手に」
「ここ使わせてもらうわね。ママならこの部屋のものを自由に使っていいわよって言うはずだから。それとも」
キランと大きな瞳を光らせる柚葉に、柚樹は慌てて頷く。
「わかった、わかった。それでいい」
「じゃ、出てってくれる?」
「はい?」
「はい? じゃないでしょ。着替えるの。それとも、見ていく?」
うわっと柚樹は真っ赤になってドアをばたんと閉める。
「ばっかじゃねーの!!」
ドアに向かって叫んだあと、大きなため息が出た。
すっかり柚葉のペースに巻き込まれている。見知らぬ女子高生と二人きりの生活……
(えらいことになってしまった)
柚樹は扉の前で頭を抱えたのだった。
一方、ドアの内側では、柚葉がタンスの引き出しに手を突っ込み、ごそごそと何かを探しているところだった。
「た、し、か、ここにっと」
洋服の中からお目当ての封筒を取り出す。
「あった!」
色あせた茶封筒を見てほくそ笑む。
『ママへそくり♪』
柚葉は「ナイス」とにんまり笑ったのだった。
柚葉の難しそうな顔に、ハッと、柚樹は我に返った。
そうだった。今は「死ね」発言の撤回をしなきゃいけないんだった。
「いや、さっきのは本気じゃないくて」
「なるほどねぇ」
ふんふんと頷いて柚葉が呟いた。
「もしかしたら、これがミッションかもしれないわね」
「ミッション?」
「みっし、ミシミシ言うわね、この床~。おほほほ」
「?」
床をガンガン足で踏みつけて柚葉が嘘くさく笑っている。
「……」
よくわかんねーけど、もしかして説教されずに済んだ?
「ところで」
ホッとしたのも束の間、柚葉が柚樹をじっと見つめてくる。
(なんだよ、やっぱ説教かよ)
ところで、先生には相談したの? ところで、ご両親は知ってるの?
(面倒くせーな)
だから、テキトーに話合わせときゃ良かったのに。いつもそうしてるのに。ああ、失敗した。
「ところで、私、しばらくここに住むことにしたからね」
「……はい?」
あまりに想像とかけ離れた言葉に、柚樹の口から素っ頓狂な声が出た。
「だから、私、しばらくここに住むわね」
柚葉がにっこり繰り返す。
「え? は? な、なんで?」
なんで、あの話からそうなった?
困惑する柚樹を真似るみたいに、柚葉も困った顔をして腕を組む。
「実はねぇ、私もいろいろ家庭の事情が複雑で、親と喧嘩して家出してきたのよ。本当は君のママにお願いして、しばらく泊めてもらうつもりだったの」
「は? え? それって、つまり」
つまり、柚葉は家出少女だったってこと? なんか隠してるっぽいとは思ってたけど。
なるほど、と柚樹は改めて柚葉を見た。
それなら、これまでの柚葉の不審な言動も納得がいく気がした。なんで制服着てるのかは謎だけど。
「というわけで、今日からお世話になりま~す! 両親と上手くいかない者同士、仲よくしようね」
「え、ちょっと」
柚葉はさっそく、リビングのソファに寝転んで、思いっきりくつろぎ始めている。本気で居座るつもりだ。
いや、マズいだろ。と、柚樹は慌てて頭をぶんぶん振る。
「そんなのダメに決まってるだろ」
「なんで?」
「なんでって」
「もし君のママが生きていたら、絶対にいいよって言ってくれるわよ」
「で、でも」
「あ、そっかぁ~。今のお母さんはダメって言うのね」
「え?」
柚葉が嫌味っぽく笑った。
「そっかぁ。それなら仕方ないかしら。ママは懐の広い優しい人だったけど、きっと今のお母さんは違うのねぇ。お母さんがダメって言うなら仕方ないわよねぇ」
「ちが」
「そっかそっかぁ。君のお母さんは、寝る場所に困っている可哀想な少女を平気で追い払っちゃう冷たい人なのねぇ。そっかぁ、それなら」
「だから違うって言ってるだろ! 母さんはそんなことしない!」
「……そう」と柚葉は柚樹を見た。
怒っているような、泣いているような、複雑な顔。が、すぐににやりと悪そうに笑う。
「なら、問題ないわね。決まり! これからよろしくね、柚樹」
「あ!」
やられた! と思った時には、柚葉はパっと起き上がり、勝手に部屋の中をうろちょろし始めていた。
「ちょ、待って。今のは」
「さ~て、どの部屋を使わせてもらおっかなぁ」
うーん。と指で口元を押さえながら「そういえば、ママの部屋ってどうなってるのかしら?」と奥の洋室へ目をつける。
「そのままになってるけどさぁ」
「そうなの? ママの仏壇は?」
仏壇の代わりに、柚樹が中学生になるまでは、自分の部屋と荷物をそのまま残してほしいというのがママの遺言だった、と、柚樹は簡潔に説明しながら柚葉の後を追いかける。
「なるほどね~」
柚葉は頷いて、がちゃっと躊躇なく洋室のドアを開けた。
まるで自分の部屋みたいにクローゼットやタンスも次々と開けて「洋服もあるのね。ナイス」と顔をほころばせている。
「ちょ、勝手に」
「ここ使わせてもらうわね。ママならこの部屋のものを自由に使っていいわよって言うはずだから。それとも」
キランと大きな瞳を光らせる柚葉に、柚樹は慌てて頷く。
「わかった、わかった。それでいい」
「じゃ、出てってくれる?」
「はい?」
「はい? じゃないでしょ。着替えるの。それとも、見ていく?」
うわっと柚樹は真っ赤になってドアをばたんと閉める。
「ばっかじゃねーの!!」
ドアに向かって叫んだあと、大きなため息が出た。
すっかり柚葉のペースに巻き込まれている。見知らぬ女子高生と二人きりの生活……
(えらいことになってしまった)
柚樹は扉の前で頭を抱えたのだった。
一方、ドアの内側では、柚葉がタンスの引き出しに手を突っ込み、ごそごそと何かを探しているところだった。
「た、し、か、ここにっと」
洋服の中からお目当ての封筒を取り出す。
「あった!」
色あせた茶封筒を見てほくそ笑む。
『ママへそくり♪』
柚葉は「ナイス」とにんまり笑ったのだった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
姉らぶるっ!!
藍染惣右介兵衛
青春
俺には二人の容姿端麗な姉がいる。
自慢そうに聞こえただろうか?
それは少しばかり誤解だ。
この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ……
次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。
外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん……
「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」
「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」
▼物語概要
【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】
47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在)
【※不健全ラブコメの注意事項】
この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。
それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。
全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。
また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。
【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】
【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】
【2017年4月、本幕が完結しました】
序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。
【2018年1月、真幕を開始しました】
ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)
ゆずちゃんと博多人形
とかげのしっぽ
ライト文芸
駅をきっかけに始まった、魔法みたいな伝統人形の物語。
ゆずちゃんと博多人形職人のおじいさんが何気ない出会いをしたり、おしゃべりをしたりします。
昔書いた、短めの連載作品。
幼なじみはギャルになったけど、僕らは何も変わらない(はず)
菜っぱ
ライト文芸
ガリ勉チビメガネの、夕日(ゆうちゃん)
見た目元気系、中身ちょっぴりセンチメンタルギャル、咲(さきちゃん)
二人はどう見ても正反対なのに、高校生になってもなぜか仲の良い幼なじみを続けられている。
夕日はずっと子供みたいに仲良く親友でいたいと思っているけど、咲はそうは思っていないみたいでーーーー?
恋愛知能指数が低いチビメガネを、ギャルがどうにかこうにかしようと奮闘するお話。
基本ほのぼのですが、シリアス入ったりギャグ入ったりします。
R 15は保険です。痛い表現が入ることがあります。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
〜幸運の愛ガチャ〜
古波蔵くう
ライト文芸
「幸運の愛ガチャ」は、運命に導かれた主人公・運賀良が、偶然発見したガチャポンから彼女を手に入れる物語です。彼の運命は全てが大吉な中、ただひとつ恋愛運だけが大凶でした。しかし、彼の両親が連れて行ったガチャポンコーナーで、500円ガチャを回したことで彼女が現れます。彼女との新しい日々を楽しむ良ですが、彼女を手に入れたことで嫉妬や反対が巻き起こります。そして、彼女の突然の消失と彼女の不在による深い悲しみを乗り越え、彼は新たな決意を持って未来へ進むのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる