タチバナ

箕面四季

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モルモットマッチングサイト

バンドマンのタクミ

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 というわけで、僕らはペット可のファミレスで、タクミとそのペットと待ち合わせることになったのだけれども。

「マジで春ちゃんがプロフ写真のまんまで安心したわー。先週会った子さー、飼い主プロフの写真マジで激カワだったわけー。でも実際はマジブスのデブでさー。マジ詐欺かよってオレ秒で帰ったから。これ、マジ話」

 開いた口がふさがらない春ちゃんの隣で、僕も同じように口をあんぐり。
 咀嚼中の牧草がポトリと落ちる。

 こほん、と、春ちゃんが咳払いして、はずれかけた顎を戻す。

「確認ですけど。……タクミさん、で、合ってます?」
「合ってる、合ってる。マジタクミ。あ、もしや写真と髪色違って混乱した? 来週大学でバンドライブやるんだよね。それでゴールドに染めたんだわ、マジで」

「確か、職業の欄にバンドマンって」
「それな! マジオレの夢バンドマンだから。大学卒業したらそっち方面進むから、そこんとこヨロ! マジでマジで」

(マジ、いろいろ詐欺なんですけど)
 という、春ちゃんの心の声が聞こえる気がした。

 わかるよ、春ちゃん。僕は目の前のお嫁さん候補を見つめ、春ちゃんに深く同意する。

「マジでさー」を連発するタクミは、春ちゃんが想像したオスと顔も性格もまるっきし違うことは、僕にでもわかる。

 そんでもって、僕のお見合い相手のメスなんだけれども。

「あのう、確認ですけど」と、僕も春ちゃんのように目の前のメスに尋ねた。
「なに?」

 でっぷりした肉をブルンブルン揺らして一心不乱にひまわりの種を齧っているタクミのペットが、不機嫌に僕を睨む。
 怖っ! いや、そうじゃなくて。

「君……モルモットじゃ、ないよね」
「見ればわかるでしょ」
 ですよねー。

「あ、春ちゃんもマジでオレらの初ライブ来なよ。大学の講堂でやるんだけどさ、知り合い枠で席取ってあげるからさー。マジでマジで」
「それよりタクミさんのペット、モルじゃないですよね」

「いやマジモルだって」
 いやいや、マジモルじゃないって。と、僕もツッコむ。

 するとタクミは、むっちりしたお肉を重力に垂らしながら不機嫌にひまわりの種を齧り続けるメスを指でびよんとつまみあげ、にぃっと黄色い歯を見せて笑った。

「ゴールデンハムスターのモルちゃんでーす。ヨロー」
「……」
「……」
 僕と春ちゃん絶句。

「つか実際、ペットがモルモットかどうかって問題じゃなくね? マジで」
「……」
「……」

「オレ、マッチングサイトの春ちゃんの写真見て、ビビビッと運命感じたわけ、マジで。ちょい年上感否めないけど、マジオレ的に気にしないしさー、マジでつきあおうよ。マジで。あ、なんか頼む? オレマジ腹減ってんだけど」
 
 タクミがアナログの注文ボタンを押す。ピロンっと、音がした。

 ここは春ちゃんが時々利用するレトロスタイルのファミレスで、旧時代のファミレスシステムを再現しているところがウリ。レトロコンセプトカフェっていう種類のお店屋さんで、春ちゃんみたいな恋愛ドラマフリークを中心に人気が高まっているらしい。

 でっかい本みたいな紙のメニューがテーブルに置いてあって、アナログの注文ボタンを押すと、生身の店員さんがメニューを尋ねにやって来る方式だ。


「昔の高校生カップルはこういうファミレスで勉強デートとかしてたんだよー。なんかよくない? あたしもその時代に生まれたかったなー」と、最初に来た時に僕に教えてくれた。


 程なくして「ご注文はお決まりでしょうか?」と店員さんがやってきた。

 春ちゃんの気持ちを察した僕は、アルファルファとチモシーの牧草がいっぱい敷き詰められたおでかけ用バッグに自ら収まった。


「あたしもう帰るんで大丈夫です」と春ちゃん。
「春ちゃん、その冗談マジウケ」
 春ちゃんはにっこり笑ってキレた。

「マジで帰るから。マジでもうDMしてくんな。マジ死ね」

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