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35 楽しみに
しおりを挟むまるで顔色でも伺うように、じっと私を見つめるアレクサンドの焦げ茶色の瞳は不安そうに揺れていた。
『どう思ってる?』
その答えはもう私の中で既に出ていた、ただそれをどうしても認めたくなかっただけ。
だって相手は性悪、その感情を認めてしまえば負けた気がしてなんとなく嫌だった。
でもそんな不安そうな顔をされてしまったら、もう私はそれを認めざるをえない。
……その表情が堪らなく愛おしいと思えるから。
「私は、アレクサンドのこと……」
「あ、やっぱり何も言わなくていい!」
「え……?」
「ユーフェミアに嫌いって言われたら……立ち直れそうにないし? だから……うん、今のままでも……いい」
やっぱり答えは聞きたくないと、伏せ目がちになって私の言葉に怯える姿がいつもの尊大な態度と真逆で可愛らしい。
……けれど。
「……アレクサンド? 人の気持ちを勝手に決めつけるのいい加減やめましょ、それね自己中って言うんですよ」
アレクサンドのそんな所も可愛いと思えるなんて、少し前の私が聞いたら驚きすぎて卒倒すると思う。
実際、今も自分自身驚いている。
「え……いや、だって……嫌われるような事しか私はユーフェミアに今までしてきてないし……嫌い、でしょ?」
「まあ……確かに大嫌いでしたね! 貴方が私に向ける言葉は全て嫌みったらしくてネチネチしてて、私の事を馬鹿にでもするように笑う貴方の顔面に何度拳を叩き込んでやろうかと思ったか数知れず……! 私はよく我慢しました、王妃教育の賜物ですね?」
「っ……本当にごめんなさい」
ちょっと嫌味っぽく過去を指摘すれば。
しゅん……とアレクサンドは頭を垂れて。
飼い主に怒られた子犬みたい。
「でも……それがどんな感情や目的であれ私の事を気に掛けてくれるのはアレクサンド、貴方だけでした。雨の日も風の日も一日も空ける事なく毎日毎日頼んでもないのに朝っぱらからやってきて、言いたい事だけ言って帰っていく……それに私は少しだけ救われていたんです」
「ユーフェミア……」
握られた手が熱い。
トロンと潤んだ瞳でじっと見つめてくるアレクサンドはどこか色っぽくて、胸が高鳴ってしまう。
「だから、その……アレです!」
「……え、アレってなに!?」
「……楽しみにしていますね? アレクサンドが私の為だけに用意してくれる素敵なお屋敷を」
「え、あ……それ……」
「幽閉は嫌ですし、監視も勿論嫌ですが……アレクサンドの腕になら閉じ込められてもいいですし、ずっと私の事を見ていてもいいですよ?」
「……ユーフェミア愛してる」
「はい、私もお慕いしています」
王都の夜空に煌めく星達に見守られながら。
私は夢にまでみた温かい愛情を手に入れた。
「じゃあ……ユーフェミアを私の屋敷に連れて帰っていい? 君の侍女には連絡しておくよ」
「いや、それはちょっと困りますね? 婚約者でもない男性のお屋敷には行けません」
「え……?」
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退会済ユーザのコメントです
はい、本編はここまで。
ですが、番外編はまだ続きます!
作者が書きたいから!
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感想ありがとうございました。
また感想おまちしております!
ありがとうございます!
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感想ありがとうございました。
また感想おまちしております!
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番外編、少々お待ち下さい!
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感想ありがとうございました。
また感想おまちしております!