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しおりを挟む国の為を思って。
シュバリエとしてはただそれだけで、悪いことをしているつもりなんて全く無かった。
娘には苦労をさせてしまうし、アレクサンドには可哀想な事をしてしまうなとは思った。
けどこの男に悪気はなかった。
ただそこに悪気が無いからといって。
やって良い事と悪い事があると、シュバリエに人生を狂わされた三人は思うわけで。
「シュバリエ、お前もう引退しろ」
「は?」
そこに華々しい断罪の舞台はない。
呼び出されて王城にやってきたシュバリエに、国王フェリクスが引退しろと言っただけ。
そしてその場にいるのは。
国王フェリクスと娘のユーフェミア、そして宰相に復帰したアレクサンドだけで他には誰もいない。
下手に周りに人がいれば、シュバリエの事だから周囲の者を味方につけてあの手この手で籠絡するだろう。
それに好き勝手やってきたシュバリエを華々しく引退なんてさせてやるかと、思っているわけで。
「息子に爵位を譲り、お前は領地にでも引きこもってのんびりと余生を過ごせ」
「何を突然」
「シュバリエ? お前流石にやり過ぎだ、ユーフェミアが可哀想だとお前は思わないのか? それにアレクサンドと約束したんだろ?」
「ですが陛下! ユーフェミアをカロストの王太子にやれば友好が結べるかもしれません」
「あとシュバリエ、私はカロストとなんて友好条約を結ぶつもりは毛頭ない。勝手に動くな。それに前にあの国、友好条約結ぶと見せかけて攻めこんで来たの覚えていないのか? あの時アレクサンドが警戒して国境に兵を配備していなかったら今頃どうなっていたか……」
「それは……まあ、そうですが友好を結べればガーディンの国益に繋がります、試みてみる価値は十分にあります」
「……お前さ、何の為に国があると思うの? そこに住む国民の為なの、国の為に国民がいるわけじゃないのわかる? 前にお前も言ってただろ、王族の為に国民がいるわけじゃないって……」
「それは……」
「ユーフェミアは貴族だけど国民で、犠牲にしていい人間じゃない。もう止めろよ、こういうの」
うんざりしたようにフェリクスは溜め息を溢す、フェリクス自身国王になんてなりたくなかった。
10歳の幼い少女を王宮に閉じ込めるのも嫌だった、友人から婚約者を奪いたくなんてなかった。
でもそうするしか生き残る道はなかった。
もう自分は国王という重責からは逃げられない。
だけど自分が生きる為に閉じ込めてしまった少女は、これから幸せになろうとしている。
なのにまた国の為に犠牲になんてしたくないし、友人の苦しむ姿も見たくない。
「……まあそういう事ですのでお父様! 貴方はお払い箱です! 国の事はご心配なさらないでくださいまし? アレクサンドが宰相に戻りフェリクスを支えますので! ふふ、ざまぁ……ふふっ……あはは!」
きらきらとした満面の笑顔で。
そう告げたユーフェミアはとても嬉しそうにシュバリエ公爵を嘲笑い、その場の雰囲気をぶち壊した。
ユーフェミアにとってシュバリエは、もはや血の繋がった他人であり父親ではない。
というかもう自分を敵国にやってその人生を犠牲にしようとした、敵なわけで。
そこに同情の余地すら一片も残されてはいない。
正直な所、引退させるだけなんて手緩すぎるとユーフェミアは感じている。
ユーフェミア的にはシュバリエを塔にでも幽閉して、最終的に毒殺が好ましいとすら思っている。
だからフェリクスとアレクサンドが怯えてしまう程に、ユーフェミアがシュバリエを見る目はとても冷たい。
その視線は、殺気すら感じさせるもので。
ユーフェミアを本気で怒らせたら怖い。
ユーフェミアを本気で怒らせてはいけないと、この日アレクサンドとフェリクスは強く心に刻んだ。
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