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9 許せない
しおりを挟む「この性悪っ……! 手加減してくれるって言ったじゃない、嘘つき! もうアレクサンドなんて大嫌い!」
「ユーフェミア、ごめん……」
アレクサンドに一晩中朝まで溺れるほど愛されて、抱き潰されたユーフェミアは怒りで震えていた。
だってユーフェミアは腰が完全に抜けてしまって起き上がることすら一人で出来ず、その原因をつくった相手に世話をされる始末。
それに加えて快楽によがり狂って泣き叫ぶなんて醜態を、アレクサンドの前で晒してしまい。
死ぬ程恥ずかしいのである。
だからユーフェミアが怒るのも無理はない。
そして一晩中ユーフェミアを愛し抱き潰してしまったアレクサンド自身も、ちょっとやり過ぎたかなと朝になってようやく自覚した。
なので現在、アレクサンドはユーフェミアに怒られている最中であった。
「私……初めてだって貴方に言いましたよね!? それに『もう止めて』って言ったのに! あんないっぱいするなんて酷い! アレクサンドには血も涙もないの? 人の身体好き勝手しやがって……」
「……ですが、魅力的すぎるユーフェミアも悪いんですよ? それに『止めて』と言いながらユーフェミアも善さそうな顔していたじゃないですか?」
「なっ……!? もうアレクサンドとなんて、絶対に結婚してやんない! 婚約破棄してやるっ……!」
「……え?」
ユーフェミアの怒りが落ち着くまで、大人しく怒られていればいいものを。
つい昔の癖で言い返してしまったアレクサンド。
「もう出てって! アレクサンドなんて嫌い……!」
寝台の上からアレクサンドを排除しようと、怒ったユーフェミアはぐいぐいとその背中を押す。
「いや、待って下さい! あ、ユーフェミア!? もう絶対にしませんから……そんな事、言わないで?」
「信用出来ません! もう帰って!」
ユーフェミアの性格上、本当に婚約破棄を叩きつけてきそうなのでアレクサンドはとても焦った。
嫋やかでおっとりとした性格のユーフェミアは、基本的に温厚であまり怒ったり声を荒げたりしない。
だけど本気で怒らせるとユーフェミアは怖い、それに吹っ切れさせると何をするかわからない。
前回アレクサンドがユーフェミアを本気で怒らせてしまった時は、王宮から抜け出して平民として生きようとしていた。
しかもユーフェミアは何の問題もなく平民に溶け込んでいたし、なんならそれを楽しんでもいた。
それにもしこの話がシュバリエ公爵の耳に入れば、これ幸いと率先して婚約破棄させて来そうで。
アレクサンドは焦燥感に苛まれた。
「……帰りません、それに私は誰が何と言おうともう絶対に貴女と婚約破棄なんてしません!」
「アレクサンド?」
「ユーフェミアは私の妻になるんです。他の男になんて誰がくれてやるか……!」
「……アレクサンド、なにかありましたか? 昨夜から貴方、様子がとてもおかしいですよ」
その焦りをユーフェミアは感じ取った。
10年間王妃として生きてきた。
そのくらいは簡単にわかってしまう。
「えっ……」
「もしかして……私の婚姻に関する事、ですか?」
そしてアレクサンドの昨夜からのおかしな行動と、いま話した短い文章からユーフェミアは推測した。
「あ、いえそれは……!」
「国絡みですか、それともお父様? 貴方が悩まれるなんてたぶんその辺でしょう? もう私に隠し事は無しですよ、アレクサンド」
『早く話せ』
そうユーフェミアの顔には書いていて。
本当は話すつもりなんかなくて、全部自分一人で解決しようと思っていた。
けど今なにも話さなかったら、本当にユーフェミアに婚約破棄されそうな予感がした。
だからアレクサンドは全て話す事にした。
そしてその予感は当たっていて。
ここでもしアレクサンドが話さず勝手に動いていたら、ユーフェミアは婚約破棄を叩きつけていた。
もう自分の人生を勝手に他人に決められて、それを生きるのは絶対に嫌だったから。
いくら愛する相手でもそれだけは許せないから。
「実は、昨日……シュバリエ公爵に貴女と婚約を破棄しろと伝えられまして……」
「え、どうして……?」
「隣国カロストと友好を結ぶために、ユーフェミアをカロストの王太子と結婚させると……」
「え、カロストって敵国じゃない! あんの狸親父っ……! また私を利用するつもり!? うわ最低……」
シュバリエ公爵の事をあまりいい親じゃないとユーフェミア思っていたが、ここまで酷いとは。
だがもうだいぶ昔から期待もしていないし、ユーフェミアはシュバリエ公爵の事を親だとすら思ってはいない。
血の繋がった他人、そんな認識。
「なので、その……昨夜はすいません」
「だからアレクサンドは既成事実を作りにきたの?」
「はい……」
「そんな事しなくても、私は隣国になんて行かないわよ? 私の人生は私が決めるわ」
「ですが、シュバリエ公爵は……!」
「ふふ、大丈夫よアレクサンド? 私達はもう何も出来ない子どもなんかじゃない、立派な大人。さぁ、あの狸親父に現実をわからせてあげましょう?」
「ユーフェミア……?」
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