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1 プロローグ

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「は? 今……なんて言いました……?」

「アレクサンド様。大変申し上げにくいのですがユーフェミアお嬢様とは……婚約を破棄して頂きます」

 窓からは暖かな日差しが差し込む麗らかな午後。

 婚約者の父が使わした老執事に、申し訳なさそうに『婚約破棄しろ』と告げられて。

 アレクサンドは怒りで顔をひきつらせた。



 ……今から約10年前。

 大国であるガーディン国の国王が病に倒れた。

 懸命な治療が医師達によって行なわれたが闘病の甲斐虚しく、あっけなく国王陛下は崩御。

 そして国王がいなくなったこの国には。

 正妃の子、第二王子。

 側妃の子、第一王子。

 そして公妾の子、第三王子がいた。

 順当にいけば第一王子が王位継承権第一位。

 だがそれに正妃の子である第二王子が否と唱えた。

 まだ後継者に指名されていなかった第一王子と、第二王子の熾烈な王位継承争いが起こり。

 大国ガーディンの国土は荒れに荒れる事になった。

 第一王子派と第二王子派の血で血を洗う争いによる被害は、何の罪もない平民達にまで及んだ。

 ……それはどこの国にでもよくある話で、このまま大国ガーディンは崩壊していくかに見えた。

 だがそこで臣下に下っていた王弟シュバリエ公爵が、大変重い腰を上げて立ち上がり状況は一変。

 王弟シュバリエは私兵を率いて、第一王子と第二王子を瞬く間に捕まえて。

 ……断頭台でサクっと処刑。

 当初、王弟シュバリエは。

 『その程度ならほっといても大丈夫だろう、それにもう自分は臣下に下った身だし出しゃばっていくのもなぁ……?』

 と、その争いを静観していた。

 が、その王位継承争いは大国を揺るがすほどの醜い争いに発展しガーディンは崩壊寸前の危機。

 『あ、流石にこれは不味い』

 と、のんびりと静観していた王弟シュバリエがやっとこさ立ち上がったのである。

 ……そして。
 
 王位継承争いに参加していなかった公妾の子第三王子が本人の意思に関係なく王位に即位して、たった15歳の少年王がこの大国に誕生したのである。

 だが公妾の子である少年王に、王になるための後ろ楯というものは一切無く。

 フェリクスを王へと押し上げた張本人、王弟シュバリエ公爵が自分のまだ幼い娘ユーフェミアを嫁がせて少年王の後ろ楯となったのである。

 だけどこの結婚の裏で苦虫を噛み潰した者がいた、ユーフェミアの婚約者である。

 たった10歳の若さで大国の王妃となったユーフェミア本人にはまだ知らされてはいなかったが、親達が内々に決めた婚約者がいたのである。

 その婚約者の名はアレクサンド。

 この幼い二人はこの王位継承争いが起きなければ、そろそろ婚約者として顔合わせする筈だった。

 なのに、少年王の後ろ楯となるために本人達の預かり知らぬ所で婚約破棄させられて。

 アレクサンドは絶望した。

 遠くから見たユーフェミアの笑顔に、アレクサンドは一目惚れしてしまっていたから。

 そうして密かにユーフェミアに想いを寄せていた少年アレクサンドは、臆する事なくシュバリエ公爵に直談判しに行った。

 そしてシュバリエ相手に約束を取り付けた。

 『もし自分がこの荒れ果てた国を安定させる事が出来たならば、王妃となってしまった彼女を廃妃にして自分の妻に』

 と言う途方もない約束で、それは実現不可能だと直談判されたシュバリエは思っていた。

 だが、この少年は。

 ……天才だった。
 
 アレクサンドはシュバリエとの約束通り難なく宰相にまで上り詰めて、荒れ果てた大国ガーディンを瞬く間に復興し安定してみせた。

 たった10年たらずで大国を復興し安定させた功績により、後ろ楯のなかった少年王は賢王とまで国民から呼ばれるようになった。

 賢王にシュバリエの後ろ楯はもう必要ないと、王妃となったユーフェミアを本人に何の断りもなく勝手に廃妃にして王と離縁させた。

 そうしてアレクサンドは念願叶って、ユーフェミアを自由の身にした。

 だがここで問題が発生する。

 ユーフェミアはアレクサンドが婚約者だった事を知らないし、性悪だとして嫌われていたのだ。

 アレクサンドは王妃だったユーフェミアの姿に拗れてしまい、つい嫌味ばかり言ってしまっていた。

 だから恋い焦がれ、寝ても覚めても想い続けたユーフェミアに嫌みったらしい性悪だと嫌われていた。

 確かに嫌味ばかり言う男なんぞ好きになるほうがオカシイし、ユーフェミアはアレクサンドと婚約していた事なんて全く知らなかったから嫌われて当たり前で。 

 アレクサンドは必死のアピールで、どうにか二人は両想いなる事が出来た。

 そして念願叶って先日やっとユーフェミアとアレクサンドは婚約して、あとは結婚するだけ。

 ……だというのに。

 『ユーフェミアとは婚約破棄してもらう』

 と告げられて。

「……廃妃は再婚出来ないとかいう法律、この国にあったか? 私の記憶にはありませんが?」

「いえ、ですが……ユーフェミア様には隣国カロストより、縁談が来ております」

「はあぁ!? カロストって……敵国だろうが! シュバリエの奴またなに考えてやがる……!」

 あまりの事にアレクサンドは声を荒げる。

「シュバリエ様が考えられる事、私どもにはわかりかねます……ですが、アレクサンド様はユーフェミア様とは結婚出来ぬ事をお知らせしろと、申し使っております」

「ユーフェミアと婚約を破棄しろなんて横暴が、この私相手にまさか……通るとでも?」

「申し訳ございませんアレクサンド様、私共使用人達もユーフェミアお嬢様には今度こそ幸せな結婚をして頂きたいと願っていたのですが」

「っ……すいません、つい取り乱してしまいました、シュバリエ公爵に私からお話があるとお伝えを」

「はい、畏まりました」
  
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