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第一章 二度目の国外追放
8 不条理
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8
「え、なに……? これ?」
研究室に風が吹き荒れ、机上資料達が舞う。
何か得たいの知れないモノが私から、私の意思なんて関係なく溢れ出していく。
立っていられない程の、今まで感じたことのない全身に駆け巡る痛み。
いつも通りの朝だった。
昨日も深夜まで錬金術書の古代語を翻訳し、次はどんな楽しい錬成を行ってやろうかと考えながら風呂にゆったりと浸かって。
最近ちょっと運動不足なのか肉付きがよくなった気がする足に、ぷにぷにと念入りにマッサージを行い、風呂上がりはキンキンに冷えたエールだよね!
って知り合いの錬金術師が最近発売した冷庫と呼ばれるモノを入れたら冷たくなるという面白い発明品からエールを取り出して。
「こくこく……、んー! ぷっはぁー!」
素っ裸に首からタオルだけかけて。
腰に手をあてつつ、一気に飲むという背徳的で素晴らしい日常。
そんな素晴らしい日を謳歌していた、くらいしかなにも思い浮かばない。
今じゃ全身の血管が煮えたぎるように熱く、その痛みに震える。
「っ……か……ふぅ……」
胸が熱くて、息苦しくて。
タイル張りの研究室の床に座り込んでしまう。
どのくらいそうしてただろうか?
少しその熱に慣れて痛みが痺れに変わった頃、誰かが扉を激しく叩く音がした。
「誰かここに、いますか!? 大丈夫ですか!」
再び激しく叩かれる扉。
「っぁ痛っ……だ、れ?」
「管理局です! 大丈夫ですか?!」
(管理局がこんな朝から何の用だよ。私は今……ちょっとそれどころじゃないんだけど?)
「すいません! 開けていただけませんか? 先ほど都市の魔力計がこちらの建物で莫大な魔力を感知いたしました!」
「っは? 魔力?」
(この建物で魔力? そんなもん生み出す研究なんてしてねぇぞ?)
と、思った所で先ほどから自分に起きている事象に思い当たる。
「うそ、これ……まさか?」
身体から淡く仄かに溢れだしている光。
(でも、いやまさか? 私に魔力なんて……絶対にないはずなのに)
「合鍵届きました!」
「大丈夫ですか? 失礼とは思いますが緊急事項発生の為、合鍵で入室させて頂きます!」
カチャカチャと鍵が開けられる音がする。
「開きました!」
「申し訳ございません、室内入らせて頂きます! 魔力感知緊急事項調査による特例事項行使致します!」
管理局の制服を着用し、ガッチリとした若い短髪の男性と年の頃は私の母と同じくらいの女性が部屋に入ってきた。
そして研究室で床に座り込みぐったりしている私を見つけ、魔力感知計が私に反応し盛大鳴り響いているのを確認し。
職員二人が絶句するまで数秒間。
「うそ……でしょ……?」
「これはとても……不味い」
女性は私に駆け寄り優しく抱き起こしてくれる。
「貴女はもしかして、カレンブラックバーン様……?」
「んー? もしかしなくてもそうだね?」
やる気なく適当に答える。
「ああ……、そんな! 最悪だ……!」
(この人達、何が最悪なんだろう)
そして意識を失ってる間に運ばれて痛みが薄れてやっと状況判断出来た頃には。
私が住む国イクスの中央にある、国の重要機関が多数入る巨大建造物の中にある部屋で。
今の現在状況並びにこれから起こるであろう事の、事前説明並びに簡単な事情聴取をされていた。
応接セットが置かれた広々とした一室で。
そこにはゆったりとした黒い高級感のある大きめの革張りソファがあって。
私は温かいお茶を淹れてもらい、可愛らしい色とりどりの菓子も並べられながら事情を説明された。
「……我が国イクスは貴女も知っての通り魔力を持たない人間だけの国です……隣国アルスとは真逆ですが魔力があるものはこの国には基本的に住んだり入国できません」
「知ってる」
「ですので、これから簡易裁判所が開かれます。そこでほぼ貴女様は国外追放になってしまわれます。将来的に住むことも可能になる場合もございますが今、カレン・ブラックバーン様に装着させて頂いております魔力封印具の着用が義務付けされておりまして。ですが未成年に長期間の封印具着用は法律で認められておりません、ですので、成人されるまでは一時入国等さえも一切できかねます」
「今つけてるのはいいんだ?」
「はい、緊急的短時間着用でとの特例事項です、申し訳ございません」
「そっか、私はまた国外追放……か」
「っ……申し訳ございません!」
なんか深刻そうに謝られた。
(ああ、でもそれはすごく……深刻だったね? 貴方のせいなんかじゃないのにね?)
第一印象からして、優しいんだろうなってわかるこの初老の男性は、この業務向いてないんじゃなかろうか?
「貴方に謝られるような事でもないし、とりあえず裁判ね、色々すっ飛ばされてる気もするけれど……?」
「緊急事態の特例事項ですので、それは、本当になにもできず、申し訳ありません」
(何かしてほしいなんて、思ってないんだけどなぁ)
とても丁寧に対応して貰えるのは私が、特別な錬金術師だから。
それに元々錬金術師はこの国にとって金のなる木だからね、その中でも特別な私を国外に出すのは苦渋の決断らしいけど。
それがこの国の法律。
そこで利をとり、曲げてしまえばもう法治国家ではいられなくなる。
そして粛々と私の魔力事項なんたらの簡易裁判をなぜか最高裁判所で開かれて、翌日までの二十四時間以内に国外追放が採択された。
(はは! やったね! 二度目だよ? 世界記録なんじゃなかろうか?)
そして家に研究室に時間制限付きの一時帰宅が許され、この世の不幸をひんやり冷たいタイル張りの床で訴えるだけの簡単なストレス発散。
「どうしてこうなった! くーそーがー!」
そこに、軽やかに我が家の鍵を勝手に開けて。
スラリとした体躯にブラウンの髪、エメラルドグリーンの瞳を長い睫で縁取ったオネェ言葉を軽やかに喋るイケメンが我が家に不法侵入してくるまでの間。
私は、この世界の不条理を噛み締めた。
「え、なに……? これ?」
研究室に風が吹き荒れ、机上資料達が舞う。
何か得たいの知れないモノが私から、私の意思なんて関係なく溢れ出していく。
立っていられない程の、今まで感じたことのない全身に駆け巡る痛み。
いつも通りの朝だった。
昨日も深夜まで錬金術書の古代語を翻訳し、次はどんな楽しい錬成を行ってやろうかと考えながら風呂にゆったりと浸かって。
最近ちょっと運動不足なのか肉付きがよくなった気がする足に、ぷにぷにと念入りにマッサージを行い、風呂上がりはキンキンに冷えたエールだよね!
って知り合いの錬金術師が最近発売した冷庫と呼ばれるモノを入れたら冷たくなるという面白い発明品からエールを取り出して。
「こくこく……、んー! ぷっはぁー!」
素っ裸に首からタオルだけかけて。
腰に手をあてつつ、一気に飲むという背徳的で素晴らしい日常。
そんな素晴らしい日を謳歌していた、くらいしかなにも思い浮かばない。
今じゃ全身の血管が煮えたぎるように熱く、その痛みに震える。
「っ……か……ふぅ……」
胸が熱くて、息苦しくて。
タイル張りの研究室の床に座り込んでしまう。
どのくらいそうしてただろうか?
少しその熱に慣れて痛みが痺れに変わった頃、誰かが扉を激しく叩く音がした。
「誰かここに、いますか!? 大丈夫ですか!」
再び激しく叩かれる扉。
「っぁ痛っ……だ、れ?」
「管理局です! 大丈夫ですか?!」
(管理局がこんな朝から何の用だよ。私は今……ちょっとそれどころじゃないんだけど?)
「すいません! 開けていただけませんか? 先ほど都市の魔力計がこちらの建物で莫大な魔力を感知いたしました!」
「っは? 魔力?」
(この建物で魔力? そんなもん生み出す研究なんてしてねぇぞ?)
と、思った所で先ほどから自分に起きている事象に思い当たる。
「うそ、これ……まさか?」
身体から淡く仄かに溢れだしている光。
(でも、いやまさか? 私に魔力なんて……絶対にないはずなのに)
「合鍵届きました!」
「大丈夫ですか? 失礼とは思いますが緊急事項発生の為、合鍵で入室させて頂きます!」
カチャカチャと鍵が開けられる音がする。
「開きました!」
「申し訳ございません、室内入らせて頂きます! 魔力感知緊急事項調査による特例事項行使致します!」
管理局の制服を着用し、ガッチリとした若い短髪の男性と年の頃は私の母と同じくらいの女性が部屋に入ってきた。
そして研究室で床に座り込みぐったりしている私を見つけ、魔力感知計が私に反応し盛大鳴り響いているのを確認し。
職員二人が絶句するまで数秒間。
「うそ……でしょ……?」
「これはとても……不味い」
女性は私に駆け寄り優しく抱き起こしてくれる。
「貴女はもしかして、カレンブラックバーン様……?」
「んー? もしかしなくてもそうだね?」
やる気なく適当に答える。
「ああ……、そんな! 最悪だ……!」
(この人達、何が最悪なんだろう)
そして意識を失ってる間に運ばれて痛みが薄れてやっと状況判断出来た頃には。
私が住む国イクスの中央にある、国の重要機関が多数入る巨大建造物の中にある部屋で。
今の現在状況並びにこれから起こるであろう事の、事前説明並びに簡単な事情聴取をされていた。
応接セットが置かれた広々とした一室で。
そこにはゆったりとした黒い高級感のある大きめの革張りソファがあって。
私は温かいお茶を淹れてもらい、可愛らしい色とりどりの菓子も並べられながら事情を説明された。
「……我が国イクスは貴女も知っての通り魔力を持たない人間だけの国です……隣国アルスとは真逆ですが魔力があるものはこの国には基本的に住んだり入国できません」
「知ってる」
「ですので、これから簡易裁判所が開かれます。そこでほぼ貴女様は国外追放になってしまわれます。将来的に住むことも可能になる場合もございますが今、カレン・ブラックバーン様に装着させて頂いております魔力封印具の着用が義務付けされておりまして。ですが未成年に長期間の封印具着用は法律で認められておりません、ですので、成人されるまでは一時入国等さえも一切できかねます」
「今つけてるのはいいんだ?」
「はい、緊急的短時間着用でとの特例事項です、申し訳ございません」
「そっか、私はまた国外追放……か」
「っ……申し訳ございません!」
なんか深刻そうに謝られた。
(ああ、でもそれはすごく……深刻だったね? 貴方のせいなんかじゃないのにね?)
第一印象からして、優しいんだろうなってわかるこの初老の男性は、この業務向いてないんじゃなかろうか?
「貴方に謝られるような事でもないし、とりあえず裁判ね、色々すっ飛ばされてる気もするけれど……?」
「緊急事態の特例事項ですので、それは、本当になにもできず、申し訳ありません」
(何かしてほしいなんて、思ってないんだけどなぁ)
とても丁寧に対応して貰えるのは私が、特別な錬金術師だから。
それに元々錬金術師はこの国にとって金のなる木だからね、その中でも特別な私を国外に出すのは苦渋の決断らしいけど。
それがこの国の法律。
そこで利をとり、曲げてしまえばもう法治国家ではいられなくなる。
そして粛々と私の魔力事項なんたらの簡易裁判をなぜか最高裁判所で開かれて、翌日までの二十四時間以内に国外追放が採択された。
(はは! やったね! 二度目だよ? 世界記録なんじゃなかろうか?)
そして家に研究室に時間制限付きの一時帰宅が許され、この世の不幸をひんやり冷たいタイル張りの床で訴えるだけの簡単なストレス発散。
「どうしてこうなった! くーそーがー!」
そこに、軽やかに我が家の鍵を勝手に開けて。
スラリとした体躯にブラウンの髪、エメラルドグリーンの瞳を長い睫で縁取ったオネェ言葉を軽やかに喋るイケメンが我が家に不法侵入してくるまでの間。
私は、この世界の不条理を噛み締めた。
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