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第一章 二度目の国外追放
17 雨の夜 エディside
しおりを挟む魔力の暴走未遂で倒れたカレンが、彼女自身が作成した薬によって回復してきた所で。
アルス国境門から一番近い、王都への転移装置が設置されている街まで。
どうやって彼女を安全に病み上がりの身体に負担をかけないで護送をするか、同僚の騎士達と話し合いを行った結果。
野営等は身体に負担も多く騎士といえど男に囲まれて眠り、長時間行動を共にするのは精神的苦痛だろうと判断し。
最短時間と距離で、野営する必要もない馬で走るという結論に至った。
カレン曰く、錬金術師の正装というこのショートパンツに白いシャツ等は多少の防水性保温性や爆発衝撃耐性が付与されていると言うことで。
あまり着せたくないが仕方ないので、その上に外套を巻き付け脚を全身を隠す。
同行する騎士隊にはまだ少年という、年齢の者も含まれていて。
カレンのその姿は、目の毒だからだ。
そしてしっかりと自分とカレンを縄で繋ぎ、馬から落馬対策をする。
ぴったりと身体が自分と触れあってしまうので、年頃のカレンにはものすごく嫌そうにされたが。
致し方ない。
雨が強く降り出して、身体に打ち付ける。
カレンの身体はすっぽりと俺の外套の中に入れてるから、多少の雨は防げる筈だが。
いくら薬で回復したといっても、病み上がりだ。
この雨の冷たさに、やっと回復したカレンの体力が奪われやしないかと心配になった。
自分達は訓練でこの程度慣れているが。
雨足が強すぎる。
降りしきる雨によってぬかるんだ道とはいえぬ道を、森の間を縫うように馬で駆ける。
激しい雨が叩きつけ、稲光が走る。
そんな中。
山の谷間を通り抜け、あとは広い街道を走るだけだと思っていた所に。
前方に魔獣の姿が現れた。
それは、ライカンスロープ。
別名、狼男と呼ばれるその魔獣は、体躯は2mを軽く超えガッチリした筋肉質で動きも早くかなり厄介。
だが、ここまで来たら迂回はできない。
討伐するしかないが。
俺は今、彼女と馬に同乗している。
何があろうとも。
この命に代えても護らねばならない。
討伐は他の騎士達に任せて、馬に乗ったまま最後尾に魔獣を刺激しないようにさがる。
……そうすると、急に。
ライカンスロープが彼女に向かい目は血走り、それは俺の獲物だといわんばかりに突進してきた。
その突然の行動に。
どうにか騎士達が反応し剣を抜くが。
一歩遅い。
本当は攻撃魔法などカレンを怯えさせるだけなのは分かっていたから、極力使いたくなどなかったが。
そうも言ってもいられない。
「業火」
詠唱し襲いかかってくる魔獣に魔法攻撃を放つ。
燃え上がるライカンスロープを、ただ呆然と見つめるカレンに。
初せて見てしまった魔法が攻撃魔法の中でも殺傷力の強い、そして視覚的に恐怖を覚えてしまうものになってしまい……不安がよぎった。
だが心配をよそに、ライカンスロープの爪が欲しいとカレンは言う
これは錬金術の素材だとか。
燃え残り比較的ましそうなものを集めると、カレンは特に怯えた様子もなくて本当によかった。
そして他の騎士達がその場をさっと片付け、転移装置のある街に向かう。
街についても降りしきる雨は、一向に止まず。
外套で保護していた彼女も、全身びしょ濡れになっていて少し震えていた。
これでは風邪をひかせてしまうので、街にある一番いい宿で一晩休む事にする。
部屋に入り風呂の準備をしてやると。
温まったようで、寝台でうたた寝してしまったらしいカレンの髪をつい撫でてしまう。
手触り良いふわふわと柔らかいカレンの髪質を楽しんでいると、流石に起きてしまったらしく。
今日の事は大丈夫だったかそれとなく聞くと、魔物はびっくりしたらしいが魔法は大丈夫そうで。
ひと安心した。
これからアルスで生きていく為には、ある程度魔法が使えなければ日常生活さえ困難。
恐怖を覚えるとその訓練が出来なくなってしまう。
本当に良かったと胸をなでおろした。
そして隣の寝台で、すやすやと愛らしい寝顔で眠る警戒心の欠片もない年頃の少女に。
少しだけ邪な感情を抱いてしまったのは内緒だ。
流石に同室にしてしまったのは、失敗したなとエディは己の理性と軽く戦いながら静かに眠りについた。
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