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プロローグ
たそがれ、そのニ♪ ♯01
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時刻は、そろそろ遠く西の山並みに日のかげが掛かる頃だった。
耳を澄ませばどこからかカラスの鳴き声が聞こえてきたかも知れない。
広いグランドの片隅で、歳のワリには大柄なデブたちがぼんやりと立ち尽くして、今は皆がとりあえずでこの場におけるある一点を見つめていた。
それらの視線の中心では、今も激しく息を切らす日に焼けたデブと、こちらは対照的に澄ましたさまの白いデブが相対(あいたい)していた。
背後の大きなコンクリートの建物は、今しも終業を告げる鐘の音(チャイム)を鳴らし始めた。これにより今日の訓練が終わったことを皆に知らしめる。
だがそんなものまるでお構いなしの赤毛のデブチンが、汗だくの暑苦しいツラでおまけ荒げた気合いをやかましく発する…!
「おおらっ、まだまだ! ゆくぞっ、そらあっ、があっ!?」
気合い一発!
雄叫び発して体当たりさながらに突っ込んだ前のめりの上体をさらりとかわして、なりふり構わず両腕を振り乱すことでおろそかだったこの足下をすくわれる。
結果、頭から地面に突っ伏してしまうデブの落ちこぼれくんだ。
これを背後から見下ろす優等生然とした体形だけならおなじくデブの澄まし顔が冷めた言葉を発する。
「意味がないな…! いくらやってもおなじことだろう。まだわからないのか?」
「ぐっ、ふっざけんな! まだ終わってねえだろう! オレはまだ参ったとも言ってなければKOもされちゃいねえぜ!! くそったれ、このすかしたエリート野郎が、すぐに吠え面かかせてやるからな!!」
「ふん、おまえはどうにも口先ばかりだな? 俺はおまえのこと、名前どころかこれまで存在すら意識したことがなかったものだが…! それに授業はもうおしまいだろう、あの鐘の音が聞こえないのか?」
背後で鳴り響く終業のチャイムを指して言ってやるに、目の前でどうかに立ち上がる肩で息をつく泥まみれのデブはまるで聞き分けもなくがなり散らす。
遠巻きに見ていた太った灰色の制服姿の同級生たちは、ひとり、またひとりとその場から離れて行くのだが…。
グラウンドの向こうから教官どのの発する低いがなりが聞こえた。
やはり一対一の組み手による実技訓練の終わり、速やかに校舎に戻れとの旨を秋の空に命じる。これにチャイムが拍車をかけて、皆の意識はもはや完全にこのとうに勝負の決した大一番から離れていった。
元から無理だとはわかっていたことだが、内心の悔しさがかみ殺せないぶうちゃんだ。
目の前で涼しい顔した優等生目掛けて再三の特攻(ドタバタ)をかます!
「まだ終わってねえだろうが! まだまだこっからだっ…うげっ、ぎゃっ!?」
「もうやめておけ、おまえの動きはムダが多い上にスキだらけだぞ…? 勝負がここまで長引いているのは、この俺があえてトドメを差さずにあしらってやっているからだ…今のカウンターは本気ではない。加えておまえがこの俺に触れたことはまだ一度もないのだからな?」
「うっ、うげ! くそっ、なめやがって…エリートだかなんだか知らねえが、ひとりだけ涼しい顔していつも突っ立ってるのが気にいらねえんだよ、おまえは!!」
皆で訓練をはじめた当初から何をするにもひとりだけ成績の突出した黒髪の少年は、それを誇るでもなくごくあたりまえみたいなさまであるのもそうだが、もはや別次元の手の付けられないアンタッチャブルゾーンとしてクラスでもまともに向き合える者がいない異質で特別な存在と化していた。
マンツーマンの実技訓練でも相手になるものがいないままに立ち尽くしていたのは、みずからが望んだわけではなくした仕方がないことであったのだとしてもだ。普段から落ちこぼれとして揶揄されることが多かった、そのくせに負けん気だけは人一倍のデブチンには、まるで汗一つかかずに冷めた視線で見られるのが小馬鹿にされてるみたいでシャクに触った。
それでみずから進んでアンタッチャブルゾーンに足を踏み入れたのだが、現実は非情なもので、思った以上の実力の差をまざまざと見せつけられるばかりである。
悔しさと腹立たしさが殴られた下腹のあたりにむかむかと渦巻いて、ともすれば吐き出してしまいそうだ。周りで見ていた者からしたらただの劣等生のやっかみから来る八つ当たりだとしても、憎しみのこもった顔つきでキバを剥く少年は本気も本気だった。
「だったら本気を出させてやるぜっ、このオレさまが、このシシドさまがなっ! そんでちゃんと名前を覚えろ、コノヤロー!!」
すぐ目前に迫る白けた真顔にあとちょっとでこの手が届くと思った瞬間だ。
それきり不意に意識が遠のいていったのは。
何をされたのかわからないままに…!
「あっ…!?」
結果、白目を剥いて足下にくたりきる日焼けした赤毛のデブに、汗一つかくことなく拳を収める優等生はやがて静かにこの踵を返す。
「フッ…おまえも、この俺の名前を知らないのではないか? だがおかしなヤツだ…! それだけは認めてやれるぞ、その名前、覚えてやれないこともない…」
最後にこのデブの手当てをしてやってくれと誰にともなしに言い捨てるのに、回りのデブたちがかすかに動揺するが、結果としてその場にひとりきりにされてしまう悲しきデブチンだ。
無様に仰向けに倒れた肥満体に、チャイムの音が虚しく降り積もる。
するとこれを憮然としたさまで見下ろすカゲがひとつ――。
そしてまた困ったさまでやや遠くから見つめる、ひとつのカゲがあった…!
次回に続く♪
※こちらの作品は、次回からよそのサイトにお引っ越しして、そちらで連載していく予定です♪ エブリスタって、筆者はまるで知らなかったのですが、かなり有名なサイトなものらしく…! そちらではモノを有料でも公開できることと、あと何よりへたっぴな挿し絵を挿入できるのが…!!
ちなみにこの姉妹版のマンガ版もそちらに引っ越ししておりますので、興味がありましたらどうぞ♪ タイトルで検索かければ引っかかるはずですので!
あともちろん、このスピンオフの本編たるクロフクも公開中であります!!
耳を澄ませばどこからかカラスの鳴き声が聞こえてきたかも知れない。
広いグランドの片隅で、歳のワリには大柄なデブたちがぼんやりと立ち尽くして、今は皆がとりあえずでこの場におけるある一点を見つめていた。
それらの視線の中心では、今も激しく息を切らす日に焼けたデブと、こちらは対照的に澄ましたさまの白いデブが相対(あいたい)していた。
背後の大きなコンクリートの建物は、今しも終業を告げる鐘の音(チャイム)を鳴らし始めた。これにより今日の訓練が終わったことを皆に知らしめる。
だがそんなものまるでお構いなしの赤毛のデブチンが、汗だくの暑苦しいツラでおまけ荒げた気合いをやかましく発する…!
「おおらっ、まだまだ! ゆくぞっ、そらあっ、があっ!?」
気合い一発!
雄叫び発して体当たりさながらに突っ込んだ前のめりの上体をさらりとかわして、なりふり構わず両腕を振り乱すことでおろそかだったこの足下をすくわれる。
結果、頭から地面に突っ伏してしまうデブの落ちこぼれくんだ。
これを背後から見下ろす優等生然とした体形だけならおなじくデブの澄まし顔が冷めた言葉を発する。
「意味がないな…! いくらやってもおなじことだろう。まだわからないのか?」
「ぐっ、ふっざけんな! まだ終わってねえだろう! オレはまだ参ったとも言ってなければKOもされちゃいねえぜ!! くそったれ、このすかしたエリート野郎が、すぐに吠え面かかせてやるからな!!」
「ふん、おまえはどうにも口先ばかりだな? 俺はおまえのこと、名前どころかこれまで存在すら意識したことがなかったものだが…! それに授業はもうおしまいだろう、あの鐘の音が聞こえないのか?」
背後で鳴り響く終業のチャイムを指して言ってやるに、目の前でどうかに立ち上がる肩で息をつく泥まみれのデブはまるで聞き分けもなくがなり散らす。
遠巻きに見ていた太った灰色の制服姿の同級生たちは、ひとり、またひとりとその場から離れて行くのだが…。
グラウンドの向こうから教官どのの発する低いがなりが聞こえた。
やはり一対一の組み手による実技訓練の終わり、速やかに校舎に戻れとの旨を秋の空に命じる。これにチャイムが拍車をかけて、皆の意識はもはや完全にこのとうに勝負の決した大一番から離れていった。
元から無理だとはわかっていたことだが、内心の悔しさがかみ殺せないぶうちゃんだ。
目の前で涼しい顔した優等生目掛けて再三の特攻(ドタバタ)をかます!
「まだ終わってねえだろうが! まだまだこっからだっ…うげっ、ぎゃっ!?」
「もうやめておけ、おまえの動きはムダが多い上にスキだらけだぞ…? 勝負がここまで長引いているのは、この俺があえてトドメを差さずにあしらってやっているからだ…今のカウンターは本気ではない。加えておまえがこの俺に触れたことはまだ一度もないのだからな?」
「うっ、うげ! くそっ、なめやがって…エリートだかなんだか知らねえが、ひとりだけ涼しい顔していつも突っ立ってるのが気にいらねえんだよ、おまえは!!」
皆で訓練をはじめた当初から何をするにもひとりだけ成績の突出した黒髪の少年は、それを誇るでもなくごくあたりまえみたいなさまであるのもそうだが、もはや別次元の手の付けられないアンタッチャブルゾーンとしてクラスでもまともに向き合える者がいない異質で特別な存在と化していた。
マンツーマンの実技訓練でも相手になるものがいないままに立ち尽くしていたのは、みずからが望んだわけではなくした仕方がないことであったのだとしてもだ。普段から落ちこぼれとして揶揄されることが多かった、そのくせに負けん気だけは人一倍のデブチンには、まるで汗一つかかずに冷めた視線で見られるのが小馬鹿にされてるみたいでシャクに触った。
それでみずから進んでアンタッチャブルゾーンに足を踏み入れたのだが、現実は非情なもので、思った以上の実力の差をまざまざと見せつけられるばかりである。
悔しさと腹立たしさが殴られた下腹のあたりにむかむかと渦巻いて、ともすれば吐き出してしまいそうだ。周りで見ていた者からしたらただの劣等生のやっかみから来る八つ当たりだとしても、憎しみのこもった顔つきでキバを剥く少年は本気も本気だった。
「だったら本気を出させてやるぜっ、このオレさまが、このシシドさまがなっ! そんでちゃんと名前を覚えろ、コノヤロー!!」
すぐ目前に迫る白けた真顔にあとちょっとでこの手が届くと思った瞬間だ。
それきり不意に意識が遠のいていったのは。
何をされたのかわからないままに…!
「あっ…!?」
結果、白目を剥いて足下にくたりきる日焼けした赤毛のデブに、汗一つかくことなく拳を収める優等生はやがて静かにこの踵を返す。
「フッ…おまえも、この俺の名前を知らないのではないか? だがおかしなヤツだ…! それだけは認めてやれるぞ、その名前、覚えてやれないこともない…」
最後にこのデブの手当てをしてやってくれと誰にともなしに言い捨てるのに、回りのデブたちがかすかに動揺するが、結果としてその場にひとりきりにされてしまう悲しきデブチンだ。
無様に仰向けに倒れた肥満体に、チャイムの音が虚しく降り積もる。
するとこれを憮然としたさまで見下ろすカゲがひとつ――。
そしてまた困ったさまでやや遠くから見つめる、ひとつのカゲがあった…!
次回に続く♪
※こちらの作品は、次回からよそのサイトにお引っ越しして、そちらで連載していく予定です♪ エブリスタって、筆者はまるで知らなかったのですが、かなり有名なサイトなものらしく…! そちらではモノを有料でも公開できることと、あと何よりへたっぴな挿し絵を挿入できるのが…!!
ちなみにこの姉妹版のマンガ版もそちらに引っ越ししておりますので、興味がありましたらどうぞ♪ タイトルで検索かければ引っかかるはずですので!
あともちろん、このスピンオフの本編たるクロフクも公開中であります!!
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