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第5話 マークシート(1)

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 朝になって、私は看護師の人に起こされた。


「佐々木さん、おはようございます」


 体を起こし、ぐーんと伸びをする。
 昨日の夜は1人、この部屋でうまく寝つけずに寝返りを打っていたのに、いつもよりぐっすり眠っていたようだ。


「朝ごはんここに置いておきますね。9時までに食器を返却しないといけないので8時45分ごろまた来ます。
 それではごゆっくり」



 看護師さんの言葉に私は頷きながら、ご飯に手を伸ばす。
 サラダとパンとコーンスープ、そしてヨーグルトが並んでいた。
 初めて見る病院食は健康に良さそうだが、いまだ困惑状態である私はコーンスープだけ体に流し込んだ。


「失礼します。
 佐々木さんもう食べれないかしら?」

「はい……」

「じゃあ、ヨーグルトだけ冷蔵庫に入れておくからおやつにでも食べて。
 今先生呼んでくるわね」


 食器の乗ったトレーを回収する看護師さんに「ありがとうございます」というと、彼女はフフッと笑った。



 ガチャ。
 次にドアが開いたとき、そこには大夢ひろむ先生の姿があった。


「おはようございます。調子はどうですか? 佐々木 麗桜うららさん」

「えっと……どうって言われてもまだ状況を飲めていません」

「そうですか。安藤看護師、今朝から佐々木さんを担当している看護師に聞きましたよ。朝ごはんが食べられなかったって」


 ご飯を残したことを怒られると思った私は舌を向いて黙り込む。


「いいんです。いや、よくはないんですけど、本当は食べたいって思っているかもしれないのに僕は責められません。だから今の現状では、佐々木さんを肯定することしかできません」

「そう、ですか」

「でも、これでは僕と佐々木さんの間に空白がありますよね。医師と患者はより近く、意思の疎通をしなければ治る病気も治りません。
 なので、このマークシートを受けてくださいますか?」


 大夢先生から渡されるバインダーと鉛筆を私は受け取った。
 バインダーに挟まれている紙は、1~5にかけて『とてもそう思う』『ややそう思う』『どちらともいえない』『ややそう思わない』『全くそう思わない』で回答するよく見る形態のマークシートだった。
 私が鉛筆を指に挟むと、大夢先生はこう付け加える。


「焦らなくていいので、自分と向き合って回答してみてください。
 見られていると正直になりづらいかと思いますので、僕は部屋に戻ります。
 記入し終わったらそこのナースコールを押してくださいね」


 そう言い残して私は1人になった。


『1.今の生活は楽しいと思う』


 私は5の『全くそう思わない』を選択した。
 それまでの人生は私にとって笑う時間のない人生だったから――。


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