34 / 41
都市伝説【白椿の墓守】肆
しおりを挟む
冬の青空も眩しい次の日。本当に朝一番の電車に乗ることになったアイルは不機嫌だったが、電車の中で食べるスクナの作ったおにぎり弁当は美味しかった。
アイルは特にじゃこ山椒がお気に入りらしい。スクナ調べだが、好みが渋いなと思った。
電車を乗りついで、元長者原の屋敷へとたどり着き、白椿が植わっている、昨日男が居たところへとまだ残る雪を踏みつけながら行く。やはり、男は昨日と同じようにそこに居た。
鞘は流石に人目につくため、竹刀をいれる袋に入れて持ってきた。選択授業で剣道を取ったアイルの大勝利である。
「昨日はごめんなさい。でも、これできっとお姫さまに会えるから」
「まだ居たか、小僧」
躊躇ったアイルとは反対に、躊躇せずにスクナは男に近づき鞘を差し出す。
だが、目の見えない男はそうと知らず、スクナの話を聞かずにまた刀を抜こうとした時。鞘から凛とした女性の声が聞こえた。
『翠樹』
「……姫様!?」
『わたくしが死んだら、貴方がわたくしにくれた鞘とともに各地を巡って頂戴、と言ったのを忘れたの?』
「いいえ、いいえ。……鞘が見つからなかったのです。姫様の骸は見つけれど、姫様に捧げた鞘だけが見つからなかった。だから、某は」
『そう……。なら、これから色んな場所を一緒に巡ってくれる? わたくし、翠樹が居ないと何処へも行けないわ』
「もちろんです、姫様!」
『また、翠樹に会わせてくれてありがとう、御縁の」
「感謝致し申す。……それでは、参りましょうか」
『ええ』
ひどく幸せそうな二人の声に呼応するように、ゆらゆらゆらりと空間が陽炎のごとく滲んで歪む。
スクナたちから見える歪んだ世界は異界だ。瓜二つのようで、全く違う場所。
その向こうに行った途端、鞘は婀娜っぽい美しい姫君へと変わり、それに寄り添うように翠樹と呼ばれた男が立っていた。
二人の笑顔と感謝の声を最後に、空間は閉じ元のがらんどうとした寂しい屋敷へと戻ったのだった。
アイルは特にじゃこ山椒がお気に入りらしい。スクナ調べだが、好みが渋いなと思った。
電車を乗りついで、元長者原の屋敷へとたどり着き、白椿が植わっている、昨日男が居たところへとまだ残る雪を踏みつけながら行く。やはり、男は昨日と同じようにそこに居た。
鞘は流石に人目につくため、竹刀をいれる袋に入れて持ってきた。選択授業で剣道を取ったアイルの大勝利である。
「昨日はごめんなさい。でも、これできっとお姫さまに会えるから」
「まだ居たか、小僧」
躊躇ったアイルとは反対に、躊躇せずにスクナは男に近づき鞘を差し出す。
だが、目の見えない男はそうと知らず、スクナの話を聞かずにまた刀を抜こうとした時。鞘から凛とした女性の声が聞こえた。
『翠樹』
「……姫様!?」
『わたくしが死んだら、貴方がわたくしにくれた鞘とともに各地を巡って頂戴、と言ったのを忘れたの?』
「いいえ、いいえ。……鞘が見つからなかったのです。姫様の骸は見つけれど、姫様に捧げた鞘だけが見つからなかった。だから、某は」
『そう……。なら、これから色んな場所を一緒に巡ってくれる? わたくし、翠樹が居ないと何処へも行けないわ』
「もちろんです、姫様!」
『また、翠樹に会わせてくれてありがとう、御縁の」
「感謝致し申す。……それでは、参りましょうか」
『ええ』
ひどく幸せそうな二人の声に呼応するように、ゆらゆらゆらりと空間が陽炎のごとく滲んで歪む。
スクナたちから見える歪んだ世界は異界だ。瓜二つのようで、全く違う場所。
その向こうに行った途端、鞘は婀娜っぽい美しい姫君へと変わり、それに寄り添うように翠樹と呼ばれた男が立っていた。
二人の笑顔と感謝の声を最後に、空間は閉じ元のがらんどうとした寂しい屋敷へと戻ったのだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
恋した貴方はαなロミオ
須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。
Ω性に引け目を感じている凛太。
凛太を運命の番だと信じているα性の結城。
すれ違う二人を引き寄せたヒート。
ほんわか現代BLオメガバース♡
※二人それぞれの視点が交互に展開します
※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m
※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
Endless Summer Night ~終わらない夏~
樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった”
長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、
ひと夏の契約でリゾートにやってきた。
最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、
気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。
そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。
***前作品とは完全に切り離したお話ですが、
世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***
【BL】記憶のカケラ
樺純
BL
あらすじ
とある事故により記憶の一部を失ってしまったキイチ。キイチはその事故以来、海辺である男性の後ろ姿を追いかける夢を毎日見るようになり、その男性の顔が見えそうになるといつもその夢から覚めるため、その相手が誰なのか気になりはじめる。
そんなキイチはいつからか惹かれている幼なじみのタカラの家に転がり込み、居候生活を送っているがタカラと幼なじみという関係を壊すのが怖くて告白出来ずにいた。そんな時、毎日見る夢に出てくるあの後ろ姿を街中で見つける。キイチはその人と会えば何故、あの夢を毎日見るのかその理由が分かるかもしれないとその後ろ姿に夢中になるが、結果としてそのキイチのその行動がタカラの心を締め付け過去の傷痕を抉る事となる。
キイチが忘れてしまった記憶とは?
タカラの抱える過去の傷痕とは?
散らばった記憶のカケラが1つになった時…真実が明かされる。
キイチ(男)
中二の時に事故に遭い記憶の一部を失う。幼なじみであり片想いの相手であるタカラの家に居候している。同じ男であることや幼なじみという関係を壊すのが怖く、タカラに告白出来ずにいるがタカラには過保護で尽くしている。
タカラ(男)
過去の出来事が忘れられないままキイチを自分の家に居候させている。タカラの心には過去の出来事により出来てしまった傷痕があり、その傷痕を癒すことができないまま自分の想いに蓋をしキイチと暮らしている。
ノイル(男)
キイチとタカラの幼なじみ。幼なじみ、男女7人組の年長者として2人を落ち着いた目で見守っている。キイチの働くカフェのオーナーでもあり、良き助言者でもあり、ノイルの行動により2人に大きな変化が訪れるキッカケとなる。
ミズキ(男)
幼なじみ7人組の1人でもありタカラの親友でもある。タカラと同じ職場に勤めていて会社ではタカラの執事くんと呼ばれるほどタカラに甘いが、恋人であるヒノハが1番大切なのでここぞと言う時は恋人を優先する。
ユウリ(女)
幼なじみ7人組の1人。ノイルの経営するカフェで一緒に働いていてノイルの彼女。
ヒノハ(女)
幼なじみ7人組の1人。ミズキの彼女。ミズキのことが大好きで冗談半分でタカラにライバル心を抱いてるというネタで場を和ませる。
リヒト(男)
幼なじみ7人組の1人。冷静な目で幼なじみ達が恋人になっていく様子を見守ってきた。
謎の男性
街でキイチが見かけた毎日夢に出てくる後ろ姿にそっくりな男。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる