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「アイデンティティー」2
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何一つ関わりたくない状況だが、これはチャンスだと思った。
先輩の家を出た自分は言われたとおりの場所に迎えに行き、其の子に洗いざらい打ち明けた。
そんな事を本当にするかどうか解らない事も付け加えて。
どんな説明をしても最後に選ぶのは彼女なので、初めて会った自分の言った事を信用するかは解らない。
其れでも彼女が選んだのは自宅に帰るだったので、少しは安心出来た。
残る問題は裏切り者となった自分だけ、家に隠れて居る事は出来ないし特にいく宛も無い。
親の助けを借りる気の無い自分に選択肢は無いに等しい、そんな自分が選んだ答えは家出だった。
悪く言えば逃げだが良く言えば旅立ちなのだから、其れでも気分は悪くない。
どんな結果になろうとも自分で選んだのだから。
とにかく先輩達に見つからないように、ひたすら歩いた。
知り尽くした地元から離れ、それこそ駆けるように翔るように。
幾ら当てが無いとは言っても、全く目的地が無い訳ではない。
夜に紛れ向かった先は隣県の同級生宅。
知りあったのは先輩達がらみの悪友繋がりだが、彼とは妙に気があったし隣県だから先輩に遭う確率も低かった。
多少の繋がりが有るので家に帰りたくない理由を説明するのは不安だったが、言ったら彼は誰よりも仲間だった。
同じように帰りたくない理由が有ったのは偶然にしては出来すぎだったが、
そんな事を考えるような余裕は互いに無かった。
泊めてくれる友人宅を巡り二人で居場所を探しさ迷う日々。
汚れきっていたのは云うまでもなく、有りとあらゆる所で眠った。
環状線の座席やマンションの屋上、トラックの荷台で眠った事も有る。
当たり前だが持ち金も少なく一つのカップ麺を二人で啜るような、そんな生活がいつまでも続く訳がなく。
思い付く頼りの殆どを廻り終え。
諦めかけていた俺達は、もう最後になるかもと思いながら向かった先が彼の先輩宅。
相手が先輩という立場関係に多少の不安は有ったが、予想外だったのは受け入れてくれた先輩夫婦の優しさで。
それこそ今まで出会った先輩の誰よりも優しく、其れは自分が目指すべき理想の人間像其の物だった。
数日は働きに出かける先輩を見送り帰りを待っては、タダ飯を貰うような生活を続け。
いつまでも迷惑を掛けられないとは思うが他に行く場所も無い、
そんな善意に甘えるだけの情けない日々を過ごしていた。
状況が変わったのは住んでいたマンションの一室から立ち退かなければいけなくなった事で、
気を使わせまいとしてか理由は詳しく教えてもらえていないが一因として金銭的な問題が有るのは間違いなかった。
これからの生活を模索するような状況になっても俺達に対する二人の態度は変わる事が無く、
見捨てられないまま一緒に新しい地へと旅立つ事になる。
自分の電車賃すら持っていないのに希望なんて有る訳がなく、ただ流されるがまま漂う流木のように先は見えない。
其れでも俺達に止まる事は許されていなかった。
半日近く電車に揺られて向かった先は先輩の親戚女性宅。
母子家庭で子供二人を育ている状況でも、全く関係の無い俺達を迎え入れ泊めてくれた。
関係が無いとは言っても多少の語弊は有る。
前もって言い合わせていた嘘で自分は先輩の弟だと言ったし、学年も中卒だと偽っている。
無駄に苦労していたからか、其の嘘がバレない程に老けていたのは救いだろう。
数日後には紹介で鳶職の面接に行き、受かった俺達は住み処まで準備してもらい働き始める事になる。
現場仕事なだけあって職場の先輩は身体に彫り物の入ったような恐ろしい人ばかりだったし、
まだ成長過程な身体での力仕事は過酷だったが其れでも気分は悪くなかった。
いつまでも人の善意に甘え誰かの世話になって生きていくのは無理だと思っていたし、
変に気を使い悩み続けるのも嫌だった。
晩飯を作ってもらっていたし家賃の支払いも有るので手に入れた給料の殆どを先輩夫婦に預け、
昼食代を貰い生きていくような生活が続く。
一緒に家出した友達は三ヶ月も経つと耐えれなくなったのか先輩に気を使ったのか、
親元に帰って行ったが俺は帰る気なんて更更無かった。
気が利かないといえばそうなのだろうが先輩夫婦は相変わらず優しかったし、
職場でも少しずつは認められてきている。
自分と同世代の若者が学校に行く姿を見掛けたりすると多少は羨ましく感じたりもしたが、
今の自分は嫌いじゃないし自分にとっての青春は誰かと比べるものではなかった。
悪ぶったり大人ぶったりの繰返しの中で成長していく自分を実感し、大人の仲間入りをした気でいる。
とはいえ大人の世界で生きていくには自分が子供なのは間違いなく。
増長していく自意識から後輩として先輩に気を使うのを忘れる程で、
先輩に生活費の文句を言うようなバカさ加減だった。
其れでも先輩夫婦との生活は続き、家出してから六か月が過ぎようとしていた。
「お前もそろそろ保険に入らなアカンな、今度ええとこ紹介したるわ」
意外とバレずに働けるもんだなと安心していたが、
親方からの勧めは事実上クビ勧告と同じでまともな返事なんて出来なかった。
どれだけ自分が馬鹿な子供でも解るだろう。
選択の余地なんて有る訳が無い嘘がバレれば、世話になった全ての人に迷惑が掛かるのだから。
先輩に相談した結果、給料日まで働いてから辞める事にした。
保険の話しがあって直ぐに辞めるでは疑わしすぎるし、
何より助けて貰った先輩に少しでも恩返しがしたかったから。
先輩の家を出た自分は言われたとおりの場所に迎えに行き、其の子に洗いざらい打ち明けた。
そんな事を本当にするかどうか解らない事も付け加えて。
どんな説明をしても最後に選ぶのは彼女なので、初めて会った自分の言った事を信用するかは解らない。
其れでも彼女が選んだのは自宅に帰るだったので、少しは安心出来た。
残る問題は裏切り者となった自分だけ、家に隠れて居る事は出来ないし特にいく宛も無い。
親の助けを借りる気の無い自分に選択肢は無いに等しい、そんな自分が選んだ答えは家出だった。
悪く言えば逃げだが良く言えば旅立ちなのだから、其れでも気分は悪くない。
どんな結果になろうとも自分で選んだのだから。
とにかく先輩達に見つからないように、ひたすら歩いた。
知り尽くした地元から離れ、それこそ駆けるように翔るように。
幾ら当てが無いとは言っても、全く目的地が無い訳ではない。
夜に紛れ向かった先は隣県の同級生宅。
知りあったのは先輩達がらみの悪友繋がりだが、彼とは妙に気があったし隣県だから先輩に遭う確率も低かった。
多少の繋がりが有るので家に帰りたくない理由を説明するのは不安だったが、言ったら彼は誰よりも仲間だった。
同じように帰りたくない理由が有ったのは偶然にしては出来すぎだったが、
そんな事を考えるような余裕は互いに無かった。
泊めてくれる友人宅を巡り二人で居場所を探しさ迷う日々。
汚れきっていたのは云うまでもなく、有りとあらゆる所で眠った。
環状線の座席やマンションの屋上、トラックの荷台で眠った事も有る。
当たり前だが持ち金も少なく一つのカップ麺を二人で啜るような、そんな生活がいつまでも続く訳がなく。
思い付く頼りの殆どを廻り終え。
諦めかけていた俺達は、もう最後になるかもと思いながら向かった先が彼の先輩宅。
相手が先輩という立場関係に多少の不安は有ったが、予想外だったのは受け入れてくれた先輩夫婦の優しさで。
それこそ今まで出会った先輩の誰よりも優しく、其れは自分が目指すべき理想の人間像其の物だった。
数日は働きに出かける先輩を見送り帰りを待っては、タダ飯を貰うような生活を続け。
いつまでも迷惑を掛けられないとは思うが他に行く場所も無い、
そんな善意に甘えるだけの情けない日々を過ごしていた。
状況が変わったのは住んでいたマンションの一室から立ち退かなければいけなくなった事で、
気を使わせまいとしてか理由は詳しく教えてもらえていないが一因として金銭的な問題が有るのは間違いなかった。
これからの生活を模索するような状況になっても俺達に対する二人の態度は変わる事が無く、
見捨てられないまま一緒に新しい地へと旅立つ事になる。
自分の電車賃すら持っていないのに希望なんて有る訳がなく、ただ流されるがまま漂う流木のように先は見えない。
其れでも俺達に止まる事は許されていなかった。
半日近く電車に揺られて向かった先は先輩の親戚女性宅。
母子家庭で子供二人を育ている状況でも、全く関係の無い俺達を迎え入れ泊めてくれた。
関係が無いとは言っても多少の語弊は有る。
前もって言い合わせていた嘘で自分は先輩の弟だと言ったし、学年も中卒だと偽っている。
無駄に苦労していたからか、其の嘘がバレない程に老けていたのは救いだろう。
数日後には紹介で鳶職の面接に行き、受かった俺達は住み処まで準備してもらい働き始める事になる。
現場仕事なだけあって職場の先輩は身体に彫り物の入ったような恐ろしい人ばかりだったし、
まだ成長過程な身体での力仕事は過酷だったが其れでも気分は悪くなかった。
いつまでも人の善意に甘え誰かの世話になって生きていくのは無理だと思っていたし、
変に気を使い悩み続けるのも嫌だった。
晩飯を作ってもらっていたし家賃の支払いも有るので手に入れた給料の殆どを先輩夫婦に預け、
昼食代を貰い生きていくような生活が続く。
一緒に家出した友達は三ヶ月も経つと耐えれなくなったのか先輩に気を使ったのか、
親元に帰って行ったが俺は帰る気なんて更更無かった。
気が利かないといえばそうなのだろうが先輩夫婦は相変わらず優しかったし、
職場でも少しずつは認められてきている。
自分と同世代の若者が学校に行く姿を見掛けたりすると多少は羨ましく感じたりもしたが、
今の自分は嫌いじゃないし自分にとっての青春は誰かと比べるものではなかった。
悪ぶったり大人ぶったりの繰返しの中で成長していく自分を実感し、大人の仲間入りをした気でいる。
とはいえ大人の世界で生きていくには自分が子供なのは間違いなく。
増長していく自意識から後輩として先輩に気を使うのを忘れる程で、
先輩に生活費の文句を言うようなバカさ加減だった。
其れでも先輩夫婦との生活は続き、家出してから六か月が過ぎようとしていた。
「お前もそろそろ保険に入らなアカンな、今度ええとこ紹介したるわ」
意外とバレずに働けるもんだなと安心していたが、
親方からの勧めは事実上クビ勧告と同じでまともな返事なんて出来なかった。
どれだけ自分が馬鹿な子供でも解るだろう。
選択の余地なんて有る訳が無い嘘がバレれば、世話になった全ての人に迷惑が掛かるのだから。
先輩に相談した結果、給料日まで働いてから辞める事にした。
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